**** 新譜もしくは最近CD化されたもののレビューです。****
★★★★★
PCD-23238 P-VINE RECORDS ニコ・ゴメス/ボサノヴァ
CDの解説に「・・・生み出された擬似音楽が、フェイクであるが故に
本物を凌駕した奇跡的な瞬間。」とある。
まさにそのとおり、これは奇跡である。70年代にヨーロッパで発売
され、これが世界初CD化。ヨーロッパで、ボサノバとはこんな感じ
かな?と演奏されたものはとかく陳腐になりがちだがこれは凄い。
往年の名曲カヴァーが7曲、オリジナルが5曲で、特筆すべきは
オリジナルが怪しく光っていること。そして音楽的センスはセルジオ・
メンデスを超えている。つい、何度も聴いてしまう・・・あの感覚だ。
B級恐るべし!
★★
TOCJ-5595 somethine’else イリアーヌ/海風とジョビンの午後
なぜだろう?マイケル・ブレッカーをはじめ豪華なメンバーがそろっ
ているのに聴き終えるとやりきれない気持ちになってしまう。
日をあらためて聴いてみても、やはり同で満足感が得られない。
たぶん、彼女の声のせいであろう。
嬉しさも、悲しさも、何も伝わってこない。無機質である。
かつてのアストラッド・ジルベルトは同じようでも初々しさがあった。
イリアーヌは言葉尻も雑である。これが彼女の持ち味であるならば
私とは感性が合わない。
いっそインストルメンタルの方が良かった。
★★★★
BVCR−1422 BMGビクター HEIRS TO JOBIM
アントニオ・カルロス・ジョビンへのトリビュート・アルバムである。
参加メンバーはアストラッド・ジルベルト、レオン・ラッセル、ランディ・
ブレッカー、マイケル・ブレッカー、フローラ・プリム、小野リサ、ニュー
ヨーク・ヴォイセス、ジョアン・ドナート、アイアート・モレイラ、フィリッ
プ・ハミルトンほか超豪華である。
すべての曲がこのアルバムの代表曲になり得るべく、素晴らしい内
容である。
フローラ・プリムはさすが!
小野リサは天晴れ!
★★★★★
POCP-7127 i . e .music a twist of jobim
このCDを聴く時は無意識にボリュームを上げてしまう。
1曲目「おいしい水」のベースの音が心地よい。
リー・リトナーのプロデュースによるジョビンのトリビュート・アルバ
ムである。彼らしくいかにもフュージョン系であるが、斬新かつ大
胆なアレンジにより曲の一つ一つは新しい生命が吹き込まれ、ニ
ュー・スタンダードのように輝いている。
「3月の雨」でのアル・ジャロウとオリータ・アダムスのデュエットが
素晴らしい。また、ハービー・ハンコック、ディヴ・グルーシンの演
奏も秀逸である。
ジョビンも微笑んでいるに違いない。
★★★★★
VJCP-68326 東芝EM I アンリ・サルバドール/サルバドール
からの手紙
アンリは1917年生まれ。16歳でギターを手にキャバレーのギグ
に出る。パリの人気者になり1935年ジャンゴ・ラインハルトに出
会う。1936年エディ・サウスが彼を選びアフロ・アメリカン音楽に
触れる。1946年自らのバンドを結成、フランス中が賞賛。1956
年渡米。アカデミー・シャルルクロスを3度受賞。
このアルバムはフランスの音楽賞「アルバム・オブ・ザ・イヤー」
「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。
積み重ねた人生を振り返り、暖かくそしてセクシーに歌い上げて
いる。 御年84歳での吹き込み。
私もかく在りたい。
★★★★
UCCV-1020 VERVE ダイアナ・クラール/ザ・ルック・オブ・ラヴ
ジャズ・シーンではスーパー・スターのダイアナ・クラールがバラー
ドとボサ・ノヴァで登場。彼女の実力はいまさら言うまでもない。
注目すべきは久々にペンを取ったクラウス・オーガーマンのアレン
ジにある。彼はかつて、クリード・テーラーと組んでVARVEに数々
の名盤を残している。このアルバムも期待を裏切らない素晴らし
い出来映えである。ハスキーな声と絶妙のバランスは聴き手を魅
了する。バカラックの名曲「ザ・ルック・オブ・ラヴ」をはじめ厳選さ
れた名曲が続く。アルバムを通して耳障りな音が全く無いので、
つい何度もかけっぱなしになってしまう。
癒しのアルバムである。
★★★★
RCIP-0049 RIP CURL RECORDINGS キャシー・クラーレ
/エスペランザ
甘ったるい声に思わず引いてしまったが、聴いているうちにハマっ
てしまった。ジプシー・フラメンコ・ボッサとも言えるバックグラウンド
を従え、独自の世界を作り出している。個性は才能である。
彼女はフランス生まれでスペイン育ち。以前はオーケストラでフル
ートとギターを演奏していた。これは10年ぶりの全曲オリジナルの
アルバムである。
スパニッシュ・ギターが効果的にスパイスされているにも関わらず、
フランスの香りがする。うまく説明できないが、ボサノバには違い
ない。不思議だ。
★★★
RCIP-0027 RIP CURL RECORDINGS Schema Livello
Uno/V.A.
イタリアのミラノから発信されるスケマ・レーベルのコンピレーシ
ョン・アルバムである。
人気のあるバランソ、ネオス、ニコラ・コンテなどオール・スター
の最新録音だ。
単調なリズムをバックに、センス溢れる音作りがとても面白い。
バランソの「INTRIGO A FRANCOFORTE」で幼い子供の声を
うまく使っているのが印象的である。
お洒落なアルバムだ。
★★★★★
PHCE-45 マーキュリー ローラ・フィジィ/コルコヴァード
ローラ・フィジィはエジプトとベネズエラの両親を持ち、国籍はオラ
ンダである。「ベルベット・ボイス」と呼ばれる彼女の声はハスキー
でしなやかで、一度聴いたら忘れられないほど個性的である。
ボサノバには最適だ。聴き所はマイケル・フランクスの名曲「THE
LADY WANTS TO KNOW」。インテリジェンスと深いエモーション
が感じられる。マイケルとのデュエットも一曲だけ「TELL ME ALL
ABOUT IT」が収められているが、これもまた素晴らしい出来だ。
クラーク・テリーやトゥーツ・シールマンスの円熟した演奏をはじめ、
控えめなオーケストラなども細部まで気配りされており、申し分の
無い上質なアルバムに仕上がっている。
★★★
01934-11372-2 Windham hill ラニ・ホール/BRASIL NATIVO
セルジオ・メンデス&ブラジル’66の「マシュケ・ナダ」から34年後
の録音である。このアルバムにも同曲が収録されおり、是非聴いて
頂きたい。かつての様な声の張りは無くなったが、ゆったりとメロデ
ィーの美しさを楽しむように、また歌うことの出来る喜びを噛み締め
ている様な姿には胸迫るものがある。時の流れは自らの人生を振
り返り、哲学者にすることもある。このようなCDもたまには良いの
ではないか。
ジョビンの名曲「三月の水」も味わい深い。
ブラジル’66時代のプロデューサー「ハーブ・アルパート」が今回は
彼女と共同でプロデユースしている。見事なサポートである。
★★★
CAPITOL JAZZ 22667 キャノンボール・アダレイ/
キャノンボールズ・ボサノバ
若かりし頃のキャノンボールがボサ・リオ・セクステットと共演した
アルバムである。淡々と刻まれるボサノバのリズムをバックにまだ
初々しいキャノンボールのアルトが響き渡る。元来豪快な音を出す
彼だが、ここでは意識して押さえているのが感じられる。大容量の
出力トランスを搭載したパワー・アンプで聴くような安定感はそのせ
いだろう。キレもある。
「ジョイス・サンバ」では一瞬、例の馬のいななきのようなフレーズが
飛び出すのには驚いた。すでに彼のスタイルは出来あがっている。
アルバムのほとんどがキャノンボールのソロで占められているが、
時々聴かせるセルジオ・メンデスのピアノ・ソロも渋くて良い。
★★★★★
DHP−1003 Dear Heart Tamba Trio/Tamba Trio
74年のアルバム「タンバ」、通称「ブラック・タンバ」をCD化したもの
である。カバー、オリジナル、それぞれ7曲ずつの構成でいずれも
素晴らしい内容だ。ドナート、ヴァリー、デオダートの共作「イエスと
ノーの間に」では今は亡きルイス・エサのキーボードをベースにユニ
ークなメロディが展開される。また、ジョアン・ボスコの名曲「MORAD
A」ではベベートがほとんどボーカルだけで淡々と、「この曲はこんな
に美しい曲であったか」と思わせるほどの名演で聴かせる。そして
オリジナル曲はもっと凄い。パーカッションを主体にしたシンプルな
演奏でスピリチュアルな世界に誘い込まれる。稀有の異色作だ。
音質はものすごく良い! 定位も良いので各パートの輪郭がしっか
りとしている。オーディオ・チェック用に最適だ。限定生産、即、買い。
★★★
DHP−1004 Dear Heart Tamba Trio/BLUE
75年の「タンバ・トリオ」、「タンバ・トリオ’75」をCD化したものであ
る。通称「ブルー・タンバ」と呼ばれている。全体にサラリと流した演
奏だが、曲の一つ一つはしっかりと構成されている。イバン・リンス
やジョアン・ボスコらが自らの曲にゲスト出演しているのも面白い。
「ブラック・タンバ」と比較して明るい雰囲気ながら、他の真似のでき
ない独自の世界を作り出している。数曲のボーカルも味わい深い。
ジョビン作「OLHA MARIA」ではベベートがフルート一本でしみじ
みと聴かせる。音のつながりが曲のイメージを創造し、つかの間の
余韻に夢を見る。
★★★★
DHP−2002−2 Dear Heart MOACIR SANTOS
/OURO NEGRO(2枚組)
ボサノバの持つ本来の軽さとは異なり、胸にズシリと響くものがあ
る。その重たくも純粋なサウンドは未だかつて経験したことが無く、
潜在意識の奥深くに刻まれるような感覚がある。モアシール・サント
スの創り上げる宇宙は懐かしく、力強く、暖かい。そして聴き終わる
と、良い映画を観たあとのような余韻が残る。60年代から70年代
にかけてアフロ・ブラジルの伝統を継承し、ブラジルの若きミュージ
シャン達の精神的支えとなった彼の功績は、このアルバムの演奏
から感じられる敬愛の念が物語っている。
タイトルの「オウロ・ネグロ」を直訳すると「漆黒の黄金」。この軽薄
な時代での意味は大きい。
演奏に参加できるという彼らの喜びが、ひしひしと伝わってくる素晴
らしいトリビュート・アルバムである。
★★★
BVCJ−34019 BMGファンハウス ハリー・アレン
/アイ・キャン・シー・フォーエヴァー
98年より毎年1枚のペースでボサノバ・アルバムを発表しているハ
リー・アレンの4作目である。彼のテナー・サックスはスタン・ゲッツを
彷彿とさせるものの、トーンはポール・デスモントにも似ている。スタ
ン・ゲッツの「クール」に対して、アレンはどことなくノスタルジックな心
安らぐトーンである。ボサノバの持つ都会的で物悲しさと気だるさが
同居した雰囲気にはぴったりだ。「黒いオルフェ」でのアドリブはこの
上なく美しい。ベースはロン・カーター、ドラムスはグラディ・テイトでは
悪いはずがない。スイング派テナーの実力を充分に発揮した上質の
ジャズ・ボッサだ。
ノーマン・ロックウェルっぽいジャケットも洒落てて良い。
★★★★
DDCD-008 DARE-DARE LE TRIO CAMARA
60年代のブラジル音楽界ではボサノバ・ピアノ・トリオが数多く誕生
しては消えていった。そんな中でフランスのブラジル・ファンであった
ピエール・バルーが自国でリリースしたのがこのアルバムである。
「レ・マスク」というグループをご存知だろうか?楽器とボーカルのア
ンサンブルを魔法のように操るフレンチ・ブラジリアンの最高峰であ
る。彼らはそのバックも務めていた。数曲のスタンダード・ナンバー
を含む全てに存在感があり聴いていて飽きさせない。各パートのソ
ロがあるのも他のグループと違うところ。緩急織り交ぜた選曲と配
列も心憎いほどである。バランスのとれたチーム・プレイはジャズ・
ファンをも唸らせるに違いない。
私のお宝CDである。
★★★★
DD021CD VIVID SOUND FELICIDAGE A BRASIL
バーデン・パウエルらの巨人達に憧れた少年は、ついにパリで夢を
かなえ、彼らと同じ土俵に上がった。その少年の名は「ファビアン」。
プロとしての領域には今ひとつ及ばなかったものの、その瑞々しい
感性は聴く者の心を捕らえて離さない。オリジナル曲の独創性も素
晴らしい。そしてこのCDは思わず姿勢を正してしまうほど音が良い。
アコースティック・ギターの生々しく弾ける音はこのアルバムをより
魅力的なものにしている。「マリア」という女性とのデュエットはさしづ
め「ヒデとロザンナ」のブラジル版といったところか・・。(古い?)
オリジナルのアナログ盤は中古市場で10万円以上するとか・・・。
このようなCDでの復刻はありがたいことである。
★★★★★
AVR−416 ライス・レコ−ド アルトゥール・ヴェロカイ
/胸いっぱいのサウダージ
鬼才アルトゥール・ベロカイが30年の沈黙を破り発表したボサ最
新作である。現役時はマルコス・ヴァーリ等と同世代ながら、その
後はエリス・レジーナなどに曲を提供したりアレンジャーとして活
躍、演奏からは遠ざかっていた。その間、構想を温めながら準備を
していたらしい。本アルバムでは作曲、アレンジ、プロデュースを
手掛け、更に無名の女性ボーカリストを起用するなど彼の個性を前
面に打ち出している。1曲目「リオの夏」が始まるとあっという間
に30年前にタイムスリップする。このサウンドは今聴くと新鮮で
あり、ヴェロカイの衰えないボサノバへの情熱が伝わってくる。
アコースティックとエレキ・ギターを使い分けたソロは特に素晴らし
い。インストルメンタルの「胸いっぱいのサウダージ」は懐かしくて、
嬉しくて、夢を見ているようである。
★★★
BOM835 BOMBA RECORDS サンバランソ・トリオ
/ナナン
1965年に録音されたサンバランソ・トリオのセカンド・アルバム
である。軽快で良くまとまった聴きやすいピアノ・トリオだ。セザール
・カマルゴ・マリアーノのピアノはリズムが変則的で独特の「間」が
あり面白い。そしてそれについて行くドラムはもっと素晴らしい。
派手さはないものの渋い技が随所に光る。それもそのはず、なんと
20代のアイルト・モレイラである。ベースはウンベルト・クライベー
ル、もう他界したらしい。当時ヒットした11曲が楽しめるがラストの
「サマー・サンバ」が特出して良い。意表を衝かれるリズムに思わず
ニヤリとしてしまう。この曲のカバーはたくさんあるがこの演奏がベ
ストと思う。音質が良くないのが惜しまれる。