戻る
【Bagong Buwan】 邦題 光新たに

★第1章
舞台は、ミンダナオ島。鳥のさえずりが聞こえる。
 朝、鳥のさえずりの中、ゴンゴンと言う、木で鐘を突いたような音が鳴っている。
 続いて漆黒の夜のきれいな空に、三日月が見えている場面が映し出される。
資源が豊富だと言われている、フィリピン第2の島ミンダナオ島。ここでは、600年以上に渡って、キリストとイスラムの対立、紛争が断続的に続いているのだ。

 ある朝だと思われる時間帯。小さなムスクから、コーランを高らかに声の通る声で詠じている司祭の声が聞こえる。とても小さなムスクである。
 それが合図なのか、村の人たちが集まってくる。足を洗う者、手を洗う者…。彼らはお参りの前に、身を清めているのだろうか。
 コーランをめくっている手が見える。右から左に読む文字のようである。
 司祭は老人である。「ジハード」と言う言葉を口にしている。彼のお説教を、みんな真剣なまなざしで聴いている。いや、そうでもなかった。ひとりの少年は、手に青い色のヨーヨーを持っていて、ひもをしっかりと巻いていた。少年は、8歳から9歳くらいだろう。横に座っていた彼の母親は、座って説教を聴きながら黙って、左に座っていた少年を肩で小突くようにした。彼は黙って、大事そうにヨーヨーをポケットにしまった。【つづく】

【補足説明】
 『ジハード』は、「聖戦」と訳されています。「ジハード」の考えの元に、イスラム教の人々は、命を投げうってでも敵と戦うのだと私達の多くは思っているのではないでしょうか。
しかし、これは、違うのだそうです。
 そもそも、「聖戦」と言うのは、十字軍遠征の時に使われた言葉であって、キリスト教に関わる言葉です。
 そして、「ジハード」の訳語にも、「聖戦」と言う言葉をあててしまったのは、キリスト教文化圏の人たちなのです。
 僕も、イスラム教については、詳しくないのですけど、この映画の監督の、マリルー・ディアズ・アバヤ監督の講演などから、そのことがわかりました。
 じゃあ、どういう意味なのでしょうか。【つづく】

★第2章 主人公アフマッドについて★

 この作品の主人公の名前は、アフマッドです。彼は、30歳から35歳くらいです。マッチョだが、繊細な演技ができる、セサール=モンタノが演じています。アバヤ監督の作品では、『ムロアミ』、『ホセ・リサール』に続いて、3作連続の主演です。
 アフマッドは、マニラで医師をしています。宗教に関係なく、人の命を助けることが大事だと言うことを、職業を通して実感しています。彼は、ミンダナオ島のモロ民族出身です。
 ミンダナオ島は、フィリピン第二の島で、鉱物資源が豊富な島です。ところが、資源は、キリスト教系の企業がおさえているので、イスラム教のモロ民族は、貧しい生活を強いられているのです。
 過去600年以上にわたって、この島では、イスラムとキリストの紛争が続いてきました。平和を願いながらも、それが達成されないのです。家族が異なる宗教の人達に殺されてしまったり、戦争で殺されてしまった場合、憎しみの連鎖を絶ち切ることはとても困難なことだと思います。もし、個人レベルで、それでも平和を望んだとしても、戦争に巻き込まれてしまう…。平和を願おうとする祈りは、無駄なのでしょうか。

★第3章 アフマッドが医者を志した理由★
 アフマッドの両親は、憎しみだけでは、問題の解決にならないんだと言いながら、アフマッドを育てたようです。貧しい家計を切り詰めました。アフマッドは、マニラの大学の医学部に入るため、多額のお金が必要だったからです。【続く】