現在、意識とは何かという問いかけに対して明確な解答は得られていない。古くから哲学の分野で様々な研究がなされているが大きな謎のままである。いわゆる精神病といわれる分野を除き、意識障害を起こすメカニズムとしては意識の構成のうち覚醒(清明度)と認知(質的、内容)の障害の2種類に関してはよく研究されている。
覚醒の主座は脳幹網様体調節系にあるとされている。これは脳幹にある上行性網様体賦活系と視床下部調節系からなると考えられている。上行性網様体賦活系にはあらゆる感覚刺激に対しての入力が存在する。即ち、痛み刺激や呼びかけ刺激は上行性網様体賦活系を介して、覚醒度をあげると考えられている。もうひとつ認知に関しては大脳皮質全体に存在すると言われている。基本的に意識障害がある場合はこのどちらか、あるいは両方が障害されていると考えられる。但し、脳自体に器質性の疾患がなくとも全身性疾患ならば両方を障害することは可能である。即ち、基本的に意識障害の人間を見た場合は脳幹、大脳皮質、全身性疾患の3つを考えればよい。
意識障害の患者をみたとき、最も重要なのは診断をすることではなく、救命することである。これはBLSやACLSを参照すればよい。
気をつけるべきことは低血糖の否定を必ず行うことである。低血糖の検査は瞬時に実施でき、治療(意識障害下ではブドウ糖液の経静脈投与)によりすばやい回復が期待でき、また適切に治療しなければ死に至る危険性があるからである。低血糖発作でも眼球偏位や片麻痺を起こすことはあり、誤った治療を行う恐れがある。
またヒステリーによるものも否定した方が良い。ヒステリーによるものは患者の様子から診断するべきだが、迷った時はarm drop testを行う。手を落とすと顔にぶつかるような位置でこのテストを行うとヒステリーの患者は無意識に顔を避けるように落下させることが多い。
また病歴も診断の助けとなる。薬瓶が手元に落ちていたら過量服薬を疑う。
これら基本的な情報収集とBLSといった救命措置ができたのなら、次に考えるのは脳幹障害があるかである。これは脳幹には呼吸中枢があるため、脳幹障害があると呼吸できない即ち、気管挿管の必要があるからである。脳幹障害を判断するには眼球頭反射などを用いるとよい。これは人形の目徴候ともいわれるものである。首を横に振っても眼球が一点を注視せず頭部が振り向いた方向を注視する場合(眼球頭反射陰性)は、脳幹障害と考える、これは脳死の判定基準にも含まれている。注意するべきことは脳幹障害は身体診察で判定するべきであり、CT、MRIといった画像診断で判定してはいけない。CTで脳幹部の圧迫や出血がみられていても、眼球頭反射などがみられ脳幹機能が保たれていれば、その時点では脳幹障害は存在しない。
気管挿管の必要性を判断したら、テント上病変(認知障害)かテント下病変(覚醒障害)か、あるいは全身性病変かの診断となる。外傷の検査も同様に行うことも重要である。バイタルサインでクッシング徴候(高血圧で徐脈)が見られれば、脳圧亢進を疑えるし(逆に低血圧では全身性病変の方が疑わしい)、外傷があり低血圧ならば、神経原性ショックのほかに骨盤骨折による出血や胸腔内、腹腔内出血なども検索する。また薬物による場合も多く、ベンゾジアゼピン、有機リンの中毒は必ず念頭におかなければならない。小児、高齢者は誤薬や過量服薬をしやすいし、麻薬、犯罪目的の薬物投与も少数ながらみられる。血中の薬物濃度や尿中トライエージ[2]も必要ならば行うべきである。
日本においては薬物中毒による意識障害はそこまで多くないが、アメリカなどでは非常に多いため昏睡カクテルというものを用いる場合がある。昏睡カクテルとは塩酸チアミン(ビタミンB1、商品名メタボリンなど、50mg/1ml/A)を2A、即ち100mgと50%ブドウ糖液20mlを2A(40ml)と塩酸ナロキソン(0.2mg/1ml/A)を2A(0.4mg)静注することである。チアミンはウェルニッケ脳症を予防するために投与する。はじめにブドウ糖を投与するとウェルニッケ脳症がある場合には増悪するので注意が必要である。麻薬中毒は縮瞳や注射跡があるときに積極的に疑う。ベンゾジアゼピン系の拮抗薬フルマゼニル(商品名アネキセートなど)は必ずしも投与しない。これはてんかん歴のある患者や、複数の睡眠薬を服薬している患者が痙攣を起こすリスクがあるからである。
グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)が8点以下の場合は原則として気管挿管、あるいは気道確保の適応がある。但し、急性アルコール中毒のように速やかに意識の回復が見込める場合はこの限りではない。挿管困難例では下顎挙上やマスク換気を行う。意識障害と嘔吐がみられるばあいは制吐剤を投与するが、改善が見られなければ気管挿管の適応となる。
救急医学において意識障害の鑑別疾患としてaeioutipsという覚え方が有名である。これはどちらかというと原因不明の意識障害で診断がつかなかったときにしらみつぶしとして一つずつ精査していくためのものである。日本ではアイウエオチップスと覚えている人もいる。
メイヨークリニックの分類や昏睡、昏迷、傾眠という尺度がある。
外傷など意図されない意識障害の尺度としてはJCSやGCSがある。麻酔、人工呼吸器使用中など意図的に意識障害を作り出した場合はRamsay scaleやSASといった尺度がある。
T(刺激しないでも覚醒している状態) | U(刺激すると覚醒している状態) | V(刺激をしても覚醒しない状態) |
---|---|---|
0、清明 | ||
1、意識清明とはいえない | 10、普通の呼びかけで容易に開眼する | 100、痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
2、見当識障害がある | 20、大きな声またはからだを揺さぶることで開眼する | 200、痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる |
3、自分の名前、生年月日が言えない | 30、痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | 300、痛み刺激に全く反応しない |
開眼機能E | 言語機能V | 運動機能M |
---|---|---|
4、自然に開眼 | 5、見当識がある | 6、命令通りにできる |
3、命令すると開眼 | 4、意味のない会話をする | 5、痛み刺激の部位がわかる |
2、痛みに対し開眼 | 3、意味のない単語を発する | 4、手足を引っ込める |
1、開眼しない | 2、意味のならない発声のみ | 3、病的屈曲 |
1、反応なし | 2、伸展反応 | |
1、反応なし |
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意識障害
意識障害(いしきしょうがい、disturbance of consciousness)とは、物事を正しく理解することや、周囲の刺激に対する適切な反応が損なわれている状態である。 意識の構成には「清明度」、「広がり」、「質的」の三つの要素が存在するが、このうち一般的に意識障害というと「清明度」の低下についてを指す。[要出典]「広がり」の低下(意識の狭窄)は催眠、昏睡、半昏睡、昏迷、失神であり、「質的」の変化(意識変容)はせん妄やもうろう等を指す。
意識障害は、意識混濁と意識変容に分けられ、前者は重さの順に、昏睡・嗜眠・傾眠・昏蒙・明識困難状態の事である。この症状の判断を緊急医療の現場では3-3-9度方式(またはJapan Coma Scale、略称:JCS)にて行う。後者は、興奮、徘徊、異常な言動が病的に表れた状態(せん妄状態)の事である[1]。
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