しびれ
A 脳の異常が原因
脳梗塞
脳出血
脳腫瘍
B 脊髄の異常が原因
頸椎ヘルニア、脊柱管狭窄症
C 末梢神経疾患
三叉神経障害
ギランバレー症候群
D その他の原因のばあい
甲状腺の機能低下
ビタミン欠乏症
突然起きるしびれに注意 しびれは脳や神経の病気の危険信号
顔面の感覚は3本の枝を持つ三叉(さんさ)神経が司っています。この三叉神経の3番目の枝である第3枝、下顎神経の経路のどこかに障害が起こりますと、頤部(おとがい、アゴ)および下口唇あるいはその外側に限局したしびれなどの感覚異常(頤しびれ症候群numb chin syndrome)が起こります。高齢者で顎がしびれる悪性腫瘍、とくに血液・リンパ系悪性腫瘍の下顎骨転移で起こる場合があり、注意が必要です。
三叉神経の2番目の枝である第2枝上顎神経の先にある眼窩下神経に障害が起こりますと頬部(ほっぺた)にしびれなどの感覚鈍麻を生じます。稀に癌などの「できもの」によって神経が圧迫されて起こることがありますので、やはり注意が必要です。
脳幹部(橋)にある三叉神経核の血流が悪くなると片側の口唇の外側が短時間、しびれたりすることがあって、これは脳梗塞の前触れのことがありますので注意しましょう。
心臓の病気、例えば狭心症では、稀にアゴが痛くなったり、ノドが締め付けられるような感覚が起こることもあります。三叉神経の障害には、それ以外に稀な原因として、トロザ・ハント症候群(Toloza-Hunt 頭の中の海綿静脈洞というところの病気 )、グラデニゴー症候群(Gradenigo 頭の中の錐体骨というところの病気)などで起こることがあります。
「しびれ」の原因には、大きく分けて二つあります。ひとつは@全身の病気によるもの、もうひとつはA手から始まり、手首、肘、肩を通って首のところで脊髄(頸髄)に入り、さらに上行して反対側の脳の感覚中枢に至る感覚神経の経路のどこかで障害を受けて起こるものとがあります。
全身の病気によるものの代表は糖尿病などによる「しびれ」ですが、このような場合、必ず「しびれ」は両側性であり、片側だけが「しびれる」ことはありません。また通常、長い神経の先から障害を受けますので最初は、両側の足先の「しびれ」から始まるのが常であり、先に手から「しびれ」始めると言うことはありません。
したがって、片側もしくは両側の手だけの「しびれ」で、足のしびれがない場合は、@の全身の病気による「しびれ」は考えにくいので、Aの経路のどこかの部位での神経の障害を考える必要があります。
脳が原因で「しびれ」が起こる場合は、多くの場合半身すなわち上肢に強い、あるいは下肢に強いというような程度の差はあっても、通常片側半身の上下肢の「しびれ」が起こります。そこで、半身が「しびれ」た場合は、最初に脳の病気を考えるべきです。
なお脳の病気では、手だけ、あるいは足だけということは少ないのですが、手だけが「しびれる」ということは、稀ではありますが、小さな脳梗塞の場合(pure sensory stroke)などで起こることがあります。
また脳が原因の場合、同時に同じ側の顔面半分の「しびれ」を伴うことも多く、「顔面のしびれ」を伴った場合、脳が原因である可能性は高くなります。
脳が原因で起こるしびれのうち、典型的な症状を示す病気があります。ひとつは延髄外側症候群(Wallenberg症候群 ワレンベルグしょうこうぐん)で脳幹部というところの脳梗塞により、顔面半分と、その反対側の上下肢、体幹の温痛覚障害が起こります。もうひとつは手掌・口症候群(cheiro-oral syndrome)で、突然口の周り、特に片側だけのしびれと、同じ側の手のひらもしびれた場合、視床というところの脳梗塞が疑われます。
手の「しびれ」の主な原因には 脳の病気、頸髄(首の部分の脊髄)の障害、頸部神経根(首の部分の脊髄から出て手に行く枝)の障害、胸郭出口症候群、すなわち首から出た神経の束(腕神経叢)が首から肩の部分を通るあたりの通り道での障害、あるいはそれより先の末梢神経部分での障害などがあります。多い順に手根管症候群(正中神経障害)、肘部管症候群(尺骨神経障害)、胸郭出口症候群、頸部神経根症、脳の病気をあげることができます。
なお、たとえば手根管症候群と、同時に他の病気を合併(ダブルクラッシュシンドローム)していて、症状が重なりあい病態が分りにくくなっている場合があります。手根管症候群と頚部神経根症の合併はよく見られますが、一方だけ治療しても、なかなか良くならないというような場合があります。
しかし、むしろ問題になるのは、本当は手根管症候群なのに、間違って頚椎症による症状であると診断され、頚椎牽引など頸椎の治療を受けていても、症状は一向に良くならないというような場合です。
ある程度の年齢になってくると、脊椎は誰しも老化現象により変形してきます。そこでレントゲンやMRIを撮影すると、多くの方では異常所見、例えば頚椎症性変化による骨棘(骨の飛び出し)や椎間板ヘルニアなどがみつかります。しかし、たとえこのような所見が見付かっても無症状の場合の方が多く、それが症状を引き起こしている病変であると考えるにあたっては、十分な検討が必要です。
頸椎症性脊髄症
頸部神経根症
手のしびれの原因のうち一番多いのは、神経絞扼(こうやく)障害、すなわち神経が、その通り道で締め付けられることによって起こる末梢神経の障害です。なかでも手根管症候群(正中神経障害)が多く、この病気は正中神経が手首(手関節)にある手根管という狭いトンネル内で圧迫された状態です。
症状が進むと、親指の付け根の筋肉(母指球筋)がやせてきます(筋肉の委縮)。その頃になると手指の筋力低下も出現し、母指と示指できれいな丸(OKサイン)を作ることができなくなります。そしてボタンをかける、つまむなどの指先の細かい動作が困難になってきます。
手首(手関節)の部分を打腱器(ハンマー)などでたたくと、普段はどうもないような刺激でも神経が反応し、しびれや痛みが指先に走ります。これをティネルサイン陽性と言います。
また両手の手首(手関節)を直角に曲げて手の甲をあわせて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかを見ます(手根管症候群かどうかをみる誘発テスト)。症状が悪化する場合はフーァレンテスト陽性と言います。検査として手根管をはさんだ正中神経の神経伝導速度を測定します。
つまようじテスト
つまようじの先端で指先をちくちくする方法です。まず、親指や人差し指、中指の先をちくちくしたときの感覚と、小指の先をちくちくした時の感覚を比較します。明らかに差があれば(つまり、小指の感覚が正常だな、と思えれば、手根管症候群の可能性あります。つぎに、くすり指を調べます。くすり指の小指側と中指側をちくちくしてみて下さい。明らかに、中指側の方をちくちくする時にジーンとしたしびれがあったり、鈍い感じがすれば、手根管症候群の可能が高くなります。
次に多いのが尺骨神経の障害です。たいていの方では、机の角などで肘(ひじ)をぶつけたときに、指先に「しびれ」が走った経験があるでしょう。この肘の内側の部分には尺骨神経が通る狭いトンネルがあり、これを肘部管と言います。そこを通る尺骨神経が、このトンネルが狭くなったせいで長く圧迫されると、手の小指(第5手指)と薬指(第4手指)の小指側(尺側)半分がしびれるようになります。これを「肘部管症候群」といいます。また、この神経は、親指を使って物をはさむ動作を行う筋肉の支配も行っています
肘部管症候群では、肘関節の内側を叩くと、尺骨神経が刺激され、手の小指側にしびれや痛みが走ります(ティネルサイン陽性)。
診断には知覚神経伝達速度を測定します。尺骨神経の神経伝導速度が低下していた場合、肘部管症候群と診断します。
ギオン管症候群
一番少ないのが橈骨神経の障害です。この神経はほとんど運動神経なので 手が動かない(ドロップハンド、下垂手、幽霊の手、手を背屈できない)というのが主な症状となり、「手がしびれる」と言っておいでになる方はあまりありません。しびれも多少起こりますが、親指と第2手指の付け根の間(水かき部分)と言います)がさわってみると感覚がないと言った程度です。
なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ労働者の方に、肩や首・肩甲骨などのこりやだるさ、上肢のしびれや痛みなどの症状があれば、胸郭出口症候群の可能性があります。
首から出て上肢へ伸びる神経は、首から鎖骨のあたりを通って腕へ向かいます。この病気は、なで肩で事務仕事などの多い方に多く、長時間パソコンを使うなど、手を下ろしていたり、あるいは重い荷物を持ったりすることで、この神経の通り道が狭くなり症状が出るのです。一方、長時間、腕を上に上げて黒板に字を書く、つり革につかまる、物干しの際など、腕を挙げる動作でしびれが起こるといった場合も胸郭出口症候群が疑われます。
胸郭出口症候群の診断
手首の部分で橈骨動脈の脈を見ながら、顔をしびれのある腕の方向に向けて上を見ます(首を反らせる)。大きく息を吸って(深呼吸)、吸った状態で息を止めます。しびれが強くなり、動脈の脈が弱くなるか止まってしまうようでしたら、この病気です(アドソンテスト陽性)。
座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位をとらせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなります(ライト テスト陽性)。
また、同じ肢位で両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を降ろしてしまいます(ルース テスト陽性)。
3分間上肢拳上負荷テスト
両方の上肢を外転外旋した状態で拳上し、その姿勢で指の屈伸を3分間ほど繰り返す。しびれが生じた場合は陽性と判断します。
指神経麻痺(ししんけいまひ)
グロームス腫瘍
上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)
肩甲背神経絞扼障害
肩甲背神経は主にC5神経根に由来し、中斜角筋を貫通して下降し、肩甲挙筋、小、大菱形筋に筋枝を送ります。
首を傾けたままの姿勢を長時間続けると中斜角筋が過緊張し肩甲背神経は絞扼されるのです。症状としては側頸部の痛みがあり、この痛みは手にも放散します。頸を患側へ傾け患側の手を後頭部へ挙げるという特異な姿勢をとることが多く、これは中斜角筋の緊張を和らげ手の痛みを軽くするためと考えられています。
腕が上がりにくくなる原因には、肩腱板損傷が多いのですが、なかには神経が麻痺して起こるものもあります。その一つに「肩甲上神経麻痺」という病気があります。
多発神経炎は左右対称に四肢遠位部ほど程度が強くなる手袋靴下型「glove-stocking type」の感覚障害を特徴とする末梢神経が障害される病気です。
最初は足から、すなわちつま先や足底がまず障害され、徐々に症状が上行し、進むと手のしびれも出現し「手袋、靴下型」すなわち手袋や靴下を履いた部分の知覚障害となります。原因には糖尿病によるものが多く、それ以外にビタミン不足、薬剤(抗がん剤など)など様々なものがあります。
糖尿病性神経障害
糖尿病神経障害の大半は知らないうちに発症している足の先がしびれですが、そのたために、わずかな傷があっても、あるいは炬燵などで火傷をしても患者さんが気付くのが遅れ、傷から細菌が入って壊疸(えそ)を起こすこともあります。壊疽を起こし下肢の切断が必要になったりすることもありますので、注意が必要です。
糖尿病性神経障害では下肢の腱反射、特にアキレス腱反射が低下もしくは消失していることが多く、早期診断に有効です。
また糖尿病では、初期の段階から「振動覚」の低下が現れるので、両側足関節内顆部での振動覚を測定し低下の有無をチェックすることが役に立ちます。
脚気(かっけ、ビタミンB1欠乏症beriberi)
その他の「しびれ」の原因
胸部や腕から手にかけてのしびれや痛みに加え、咳やくしゃみをした時、あるいは用を足す際にいきんだ時に後頭部の痛みが起こる場合、稀な病気ですがキアリ奇形の可能性があります。
多発性硬化症とは、脳や脊髄、視神経のあちらこちらに病巣ができ、様々な症状が現れ、その症状が出たり(再発)、良くなったり(寛解)することを繰り返すのが特徴の病気です。
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
多発単神経炎(Mononeuropathy multiplex、多発性単神経障害)
ギランバレー症候群(Guillain Barre sundrom)
筋肉を動かす運動神経の障害のため、急に手や足に力が入らなくなる病気です。手足のしびれ感をしばしば伴います。多くの場合(約7割程度)風邪をひいたり下痢をしたりなどの感染の後1〜2週してから症状が始まります。
この病気の原因は、自分を守るための免疫のシステムが異常となって、間違って自分の神経を攻撃してしまうためと考えられています。この病気にかかった約60%の患者さんの血液中に、神経に存在する「糖脂質」という物質に対する抗体がみとめられます。それ以外にリンパ球などの細胞成分やサイトカインなどの液性成分も加わって、これが自分の神経を攻撃する「自己抗体」として働いてしまっているのではないかと考えられています。
症状は、かかってからだいたい2〜4週以内にピークとなり、その後は、次第に良くなってゆきます。症状の程度はさまざまですが、もっとも症状のひどい場合には寝たきりになったり、呼吸ができなくなることもあります。
中心性頸髄損傷
感覚過敏(アロディニアallodynia)
片頭痛発作時によくみられます。その際に痛み調節・抑制系に障害が起こり、痛みが増幅され、本来は痛くない刺激を痛みと感じるような症状が出現します。これを皮膚過敏(アロディニア異痛症)と言います。
皮膚では熱い冷たい、機械的刺激に対する感受性が亢進します。その際に頭髪をとかすのも嫌がる人もいますし、手指のピリピリ感などが起こることもあります。すなわち感覚過敏としては、頭髪・頭皮膚の過敏(50%)、額・顔の皮膚過敏(37%)、手指の過敏(28%)が証明されます。更に、光過敏(87%)音過敏(83%)、嗅覚過敏(50%)もよく見られます。
顔に風が当たると痛い、メガネやイヤリングが不快、髪を結んでいるのがつらい、くしやブラシが痛くて使えないといったものを頭部アロディニアと呼び、さらに脳が過敏になると、頭部だけではなく、手足のしびれや腕時計、ベルトが不快になることもありこれらは頭蓋外アロディニアと呼びます。
骨折、捻挫、打撲などの外傷をきっかけとして、その後四肢に起こる慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発汗異常などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群。すべての例が萎縮性であるとは限らないという意見がとり上げられ、最近ではCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ばれます。
焼けるような痛みと機械的な刺激による痛覚過敏、局所的な交感神経の活動により、四肢の冷感、過度の発汗、爪の肥厚などを呈する場合もあります。