忘れた頃にやって来る

気付かぬうちに忍び込む

愛情の種も

悲しみの種も

知らず知らず蒔かれている

そんな感じにも似た出来事

いつの間にか住み着いてしまったこの猫を

私はネルルと名付けました


名前なんて本当は

どうでも良かったのですが









ネルルの部屋



ハート"








愛情に飢えながら

五感も働かない私の胸に

小さな体温が乗る

息苦しい幸せに咳込みながら

ネルルの目の緑色に見とれてた

懐かしい恋の匂い

愛情が生み出す憎悪

誰かを自分以上に愛した記憶








初恋の人は 今日もどこかで生きている

初めての人も

二番目の人も

通りがかりの人も

最後の人には

もう出逢えただろうか








別段努力する訳でもなく

私はあなたに出逢ってしまった

いつもと違う匂いから逃れる様に

ネルルが壁際から動かない

私が私でなくなる事を 忠告しているのか

新しい不安と 新しい幸福

私という罪悪感 あなたという希望

理由も持たず生まれてしまったこの想いは

自分にも内緒にしておこうと誓うのに

恋する事においては

誰もが諦めの悪い挑戦者になる








初めての事をあなたとしたい

二度目以降を期待しながら








あなたにはできるの

誰にも不可能な事じゃないの

愛しい振りだけして 面白がって

触れられたらすりぬける

二人のカタチ

連絡が途絶えても

うろたえたりしない

それが最後のやり方じゃないの

私は恐くて仕方ないのに

陰りのない愛情をこれ見よがしに引っさげて

あなたは今日も胸を張り

街中を闊歩する








知ってもらった次は

認めてもらいたい

そう願いながら

またいつもの様に

軽い冗談を交わして笑ってしまう





虹"





彼女は見かけだおし

最初はそう言って

笑ってたくせに

今ならまだ間に合う

全て消して逃げ出そうか ネルル

あの人と彼女の恋に打ちのめされる程

私の想いは育っていた訳じゃないし








ネルルの爪は容赦なく伸びる

満たされても満たされても 満足出来ない底なしの心が

何かを訴えようとしてるのか

切っても切っても 気味が悪いほど伸びるんだ

その痛みは忘れた頃にやって来て

容赦なく心の皮を剥ごうとする

刺さる様な締めつける様なあの もどかしい痛み

今夜のネルルの目蓋は

けだるい眠気をまとってるというのに

私の体は少しづつ刻まれる

テレビを見ている間

歯を磨いている間

電話しようかと悩んでいる間

私の知らない間に

傷口を舐めてくれるかと思えば

急に噛みついたりするから

その気紛れについていけず

私はいつも苦笑いをしてしまう

どうやら恋を真似てるらしい





向日葵"





この場面も その場面も

本当は誰かのデジャブの中で

予知されていた事

私がスプーンを落として

あなたがウエイトレスに声をかけた

なかなか溶けてくれないアイスクリームから

目もそらせず

あなたの存在を噛み締める

ネルル

お前はもう気付いていたの

この出逢いこの会話この空気この温度








後戻り出来ないくせに

認めるのが恐いなんて









ティーカップの中身がなくならないうちは

あなたとこうして向かい合っていられる

渋滞の道を抜け出せないうちは

助手席に座っていられる

次の電車が遅れているうちは

ケイタイを繋げていられる

あともう少し

もう少しだけ








あなたの人間像が 夜ごと浮かび上がる

想像だけでなく 現実に

あなたという人間が

どれだけ複雑で どれだけ単純か

そして私との出逢いに 運命を感じてくれない事も

その人間臭い 子供じみたわがままと

罪を知らない てのひらの温かさ

温かければ 温かいほど

私には罪に思えて

気がついているのか

無視しているのか

知れば知るほど 陥るのが怖い

抜け出せる訳でもなく

底のない穴

この恋もいつかは枯れる

この恋の見当もつかない

なのに どうしてこんなに

あなたが恋しい?





羽"





どうしていいのか分からない

痛い痛い

想いのつま先からてっぺんまで








彼女を選んだ理由と

私を選ばない理由 さえも

理解してしまえる

良き友達

宙に浮かんだ私の想いは浮かべたままに

そう言い聞かせるのに

認めたくない独り言が

ネルルの頭をなでるたび

「彼女はいいな あなたと一緒で」

悲しい顔で触れてしまって

ごめんね ネルル








アイダが必要なんだ 保つ為に

愛情を保つ為

純度を保つ為

友情を保つ為

傷つけない距離を計るように

確かにこの部屋にいるのに

ネルルは時折姿を隠す

重たくならない様に

軽く見えない様に

アイダによって保たれる

この切ない想いは

見え隠れするあなただからこそ

よりいっそう 長生きしている








電話してもいいかな

彼女とのデートは もう終わった頃かな

卑怯で安全な部屋から動けない

タイミングのせいだけにしたくないと

考え始めているのに

あなたの知らない場所で

あなたの事を想ってる

そこから何も生まれなくても

責めるような視線で

私を眺めないで ネルル

どんな私でも

変わらない友情で 寄り添っていてよ





たまご"





秒針のない時計の様に

無言で迫り来る時が

いつの間にか

体温のない想い出を作り上げる

あなたは誰のものでもない

でもあなたの体温で

眠れない夜から救われるのは

紛れもなく彼女

空っぽの部屋をノックするのは

あまりにも無謀すぎるよね?

まだ途中なのに

終わってしまいそうで

恐いよ








あなたの気配や残り香だけを唯一の証拠に

深夜のテレビに途方に暮れながら

うつろな視線を弄ぶ

ネルルの瞳に映る私と

あなたの瞳に映る私と

私の瞳に映る私が

それぞれに違う顔をしていて

昨日一緒にいた時間まで巻き戻してみても

その先をどう進めるべきかが分からない

あなたとの友情に

すがりついても満たされないの

始まりだろうか 終わりだろうか








ケイタイから一番遠い場所に座ってみる

そして電源を切らない勇気

本を読もう 花を飾ろう

ネルルの顔が曇らないように

少しだけ強くなれた自分に

エールを送れるように








バニラアイスを食べる私の唇を

無邪気な表情のネルルが舐める

そんな突拍子のない純粋さに

目が覚めたみたいに

明日はあなたを見つめていたい

あなたとは たくさんの話をしたんだ

ジェット機の影に隠れて

傷の在り処 星の在り処

生まれる瞬間 デジャブの中の私

いつか見た風景 二回目のセリフ

友人と 恋人の違い

理由

あなたの事が好きなの

繋がりたくて泣く夜は

フローリングの床を パジャマのまま磨き続ける

磨いても磨いても 拭いきれない涙が

目の前に闇を作る

生きているのに

二度と会えない人間は数えきれなくて

誰もがそんな重荷を背負い

一体どこへ向かってるの?

あなたの前からは まだ消えたくない

愛されたい願いは あなたの足を引っ張る?

愛されない事実は 私をどう育てる?





星"





二人の関係が どんな風に変化しても

二人がお互いに 他の誰かを愛しても

オブラートの壁越しに響く

あなたの声

ずっと抱きしめて眠ってた

でも今は

あなたを抱きしめたい

その壁を破って








内に秘める事が重要なのか

表面に浮かべる事が重要なのか

バランスの問題で

くしゃみをするたび 想像が想像を越え

今この瞬間に

あなたが欲しがっているものと

私が欲しがっているものが

表裏を間違えながら交差する

表の私 裏の私

表のあなた 裏のあなた

二人ではなく四人の存在が

この恋をややこしくさせる

体ごと突っ込むのに

後悔の欠片もなく

傷を受けるネルルのように

彼女があなたに守られたいなら

私は壊されたい

あなたにいっそ

ねえ 全て脱ぎ捨てて裸になるべきだと

あなたはこれっぽちも思わないの

似たもの同士なんて言葉で

片付けるのはもう止めて

ぶつかって壊れて

めちゃくちゃに傷ついても

もういいよ








同じ顔を二度見る事の不思議

行き先ボタンを押さないのに

勝手に動いてしまうエレベーター

先回りしたネルルが いつもと違う笑顔で

中央に乗っている

行き先は決まってしまった

苦笑いしながらも

自由に昇っていく私の心は

あの人の存在をもう認めている

「好きだ」と認める幸福

独り占めできるのは

あなたではなく あなたへの想い








明日

いつもの様に朝を迎えて

私とあなたが当たり前の様に

生きている事が出来たら

おはようの挨拶の代わりに

あなたに好きだと言ってみよう

そう

もう あなたに

遠慮なんかしない








最後の恋の

その先にあるもの

まだ始まりにすぎない