民法論点カード

 

民法総則

 
   胎児が例外的に生まれたとみなされる場合の法律上の地位をどう構成するか

 胎児は人でないから本来権利能力はない。しかし、それでは不都合が生じるので、法は例外的に既に生まれたとみなすことができるとする規定(721・886・965)をおいている。

 この点、胎児は生きて生まれるのが通常であるから、胎児でも例外的な範囲では権利能力があり、死産のとき遡及的に権利能力が消滅するとする説もある(法定解除条件説)。

 しかし、法が胎児の法定代理人に関する規定をあえて置かなかったことからみて(826条1項)、胎児中は権利能力がなく生きて生まれたときに問題の時点まで生まれた時期が遡及すると解する説(法定停止条件説)が妥当と考える。

*721条:損害賠償

 886条:相続能力

 965条:受遺者適格

 意思能力という概念は必要か

 行為無能力者の意思能力を欠く行為の効力(無効と取消の二重効)

 行為無能力者が法律行為をした際に、同時に意思無能力者でもあった場合、無能力者は行為無能力による取消と意思無能力による無効といずれも主張し得るのか。意思無能力による無効の性質とからんで問題となる。

 どちらも主張できると考える。

 なぜなら、無効も取消も無能力者を保護するための制度であり、表意者が自己の利益にてらして有利な方を選択し得ると解するのが妥当だからである。

 かように解しないと、例えば禁治産宣告を受けていない精神病者の方が、宣告を受けている精神病者より有利に扱われることになってしまい、不当である。

保佐人に追認権・取消権は認められるか

 準禁治産者が保佐人の同意を得ずして行った法律行為を追認しあるいは取消ししうるであろうか。

 19条 120条 122条等の文理から争われている。

 しかし、保佐人は準禁治産者が自己の同意権を無視して行為した場合に、これを取消し得るのでなければ、その職能を全うすることを得ない。

 したがって、同意権の効果として追認権と取消権とを認めるべきである。

 しかし、判例は、追認権は認めるも、取消権は認めない。

 32条1項の「善意」は誰について決するか

 32条1項は、失踪宣告の取消を規定すると共に、宣告後その取消前に善意をもってなした行為は影響を受けない旨を定めている。

 この善意とは、失踪宣告によって権利を取得した者についていうのか、それとも彼からその権利を取得した受益者をも含めて決するのか争いがある。

 処分行為の両当事者について善意を要するものと考える。

 条文上「行為」と規定されているし、失踪者保護の必要性があるからである。

 32条1項の善意の権利取得者から転得した者が悪意であった場合

 この場合、悪意の転得者に対する関係では無効とする説もある(相対的構成)。 しかし、それでは善意の受益者が追奪担保責任を追及されることになるし、法律関係が複雑になり、画一的処理の要請に反する。

 したがって、悪意の転得者でも有効に権利を取得すると解する(絶対的構成)。

 32条2項の適用上、受益者の善意・悪意を区別するか

 32条2項は、失踪宣告によって財産を得た者は、その取消によって権利を失うが、「現に利益を受くる限度」でその財産を返還すればよいと規定する。

 ここに財産を得た者とは、失踪宣告の直接の結果として財産を得た者をいう。

 この返還義務は、性質上、不当利得の返還義務であると解される。よって、取得者が悪意の場合には、具体的公平を図るため、704条の悪意の受益者と同じく、前文返還義務を負うと解される。

準禁治産者が自己が無能力者であることを黙秘していた場合

 無能力者は、自己の無能力を理由に自己の行為を取消すことができるが、彼が詐術を用いた場合までこのような保護を与える必要はない。

 そこで、かような場合、法は無能力者から取消権を剥奪して、取引の安全を図ることにした( 20条)。

 そして、今日無能力者制度が取引の安全を害し、その合理性に疑問がもたれていることを考慮すると、同条の「詐術」概念は拡大して解釈する必要がある。

 したがって、無能力者であることを黙秘しただけでは詐術とならないが、無能力者の他の言動などとあいまって相手方を誤信させまたは誤信を強めた場合は詐術となると解するのが妥当である(判例同旨)。

 43条の「定款又は寄付行為によりて定まりたる目的の範囲」は何を意味するものか

 この点、法人はその目的のために法律によって初めて法人格を与えられたものであるから、目的の範囲内でしか権利・義務を有し得ないとする説もある。

 しかし、それでは法人の不法行為(44条)までも目的の範囲内とされてしまうので、妥当とはいえない。

 44条の目的の範囲とは、法人の権利能力そのものの制限ではなく、理事のいかなる行為が法人に帰属するか、つまり法人の代表(代理)権の制限であると解される。

 かように解することによって、たとえ目的の範囲外の事項であっても、追認(113条以下)や表見代理(代表)(109・110・112条)によって、法人につき甲かを生ぜしめる余地ができ、法人と取引した第三者の保護に資することになる。

 したがって、「目的の範囲」は、目的たる事業を遂行するに必要な事項を広く包含すると、広く解すべきである。

 「其職務ヲ行フニ付キ」の意義

 法人は、一定の目的のために存在するものであって、その目的は違法のものであることを得ないから、法人の不法行為能力を認めるべきか否かが問題となる。

 法人の行為能力を否定する擬制説は、不法行為能力を否定するが、実在説はこれを肯定する。

 なぜなら、法人が独立の取引主体として、機関の行為を通じて社会的活動をなすものである以上、機関の行為によって他人に不法に損害を加えたときは、また不法行為の責に任ずるのが当然だからである。

 そして、44条1項が、法人の不法行為責任を規定するのは、法人が機関の行為を通じてその活動範囲を拡張して利益を得ているのであるから、その活動範囲から生じる損害についても責任を負うべきとする報償責任の趣旨によるものである。 よって、「職務ヲ行フニ付キ」とは、行為の外形上機関の職務に属する行為は、機関の内心の意思に関係なくすべてこれに含まれると考える(外形標準説)。

 民法 54条の善意の第三者の「善意」の内容

 民法 54条は理事の代表権に加えられた制限は、善意の第三者には対抗できない旨を定める。

 では、この「善意」とは定款に代表権制限の定めがあることを知らないことをいうのか、それとも代表者が代表権の制限に違反していることを知らないことをいうのであろうか。

 そもそも 54条が規定されたのは理事が原則として包括的な代表権を有することから( 53条)、これに制限が加えられた場合には、法人の内部問題であるため、法人外部の者は容易に知り得ず、法人外部の者が不測の損害を被ること虞れがあることによる。

 とすると、54条の「善意」とは、理事の代表権に制限を加えたことを知らないという意味と解するのが妥当である。

 定款によって代表権の制限を受けていた理事と、その制限規定の存在を知りながら取引関係に入った者の保護

 定款規定による制限を知りながら取引関係に入った者は 54条の保護は受けられない。

 しかし、代表権があるかどうかは、法人の内部問題であり、法人外部の者は容易に知り得ないことから、これがあったと信頼して取引関係に入ったものを保護することが出来なければ著しく取引の安全を害することになる。

 そこで、代表権があったと信頼するに正当な理由がある場合には、110条を類推適用して取引の安全を図るべきである。

 理事がその名義を利用して私利を営む意図でその代表権を濫用した場合、その法律行為の効力は

 理事がその名義を冒用して私利を営む場合にも、その行為が形式上は法人の目的の範囲内で有る限り、法人の行為として成立する。

 なぜなら、この場合、本人に対しては委任類似の契約上の義務違反となるが、代理意思としては本人に効果を帰属させる意思で足りるはずであるから、これに欠けることはなく、代理行為そのものは相手方に対して原則として有効であるからである。

 ただ、相手方が理事の右のような意図を知り、または知り得た場合には、法人の犠牲の下に相手方を保護するのは妥当でない。

 かような場合は、93条但書を類推適用して法人の行為として成立しないと解するのが正当である。

 なお、この場合信義則を使用して解決を図る説もあるが、安易に一般条項に頼るのは妥当でないと考える。

 代表権が法令によって制限せられた場合においてこれに違反した理事の行為

 代表権が法令によって制限せられた場合、この相手方の保護について 54条の適用があるかが問題になるが、否定すべきである。

 なぜなら、もともと 54条は自治規範による内部的制限の場合の規定であり、法令違反を予定したものではなく、また相手方の法の不知を保護する必要はないからである。

 では、いかなる方法があるか。要件が整えば法人の不法行為責任( 44条)の適用も考えられるが、これは実質的には法律行為における代表権の不存在における相手方保護に関する問題であるから、まず表見代理の類推( 110条)によって相手方の保護を考慮すべきである。

 なぜなら、取引行為はできるだけその効力を維持するように解釈すべきだからである。

 権利能力なき社団の財産の帰属

 法人が権利能力を認められているのは、法人が社会的実体として実在しており、かつ社会の構成要素として重要な役割を演じているからである。

 とすれば、ある団体が社会的実体として実在しており、社会の構成要素として重要な役割を演じているなら、これが権利能力を有しなくても法人に準じた扱いを認める必要があると考える。これが権利能力なき社団である。

 権利能力がないのであるから、権利能力なき社団は社団財産の帰属主体とはなりえない。

 したがって、社団に準じた取り扱いをするなら、社団財産は構成員の共同所有として取り扱うのが妥当である。

 そして、共同所有の形態としては、総有と考えるのが妥当である。

 これなら、持分権もなく、譲渡する自由もないので、構成員の個性が最も少なく、社団法人の財産と同様の取り扱いができるからである。

権利能力なき社団の不動産の公示方法

 権利能力なき社団は、権利能力がないので社団名義で登記することは許されない。

 また、実務上構成員の総有登記とすることも現実的ではない。

 結局、現状では理事個人の名義で登記せざるを得ないと考える。

 この場合、この理事名義の登記は実態と異なった登記であり、この登記を信頼して取引関係に入った第三者は保護されるであろうか。94条2項の類推適用が許されるかが問題となる。

 確かに登記に公信力はないが、登記を信じた第三者の保護の要請も無視できない。

 しかし、社団財産は理事名義で登記せざるを得ない現状では、虚偽の外観を作出したことに対する帰責性を認めることは難しい。

 よって、94条2項の類推適用は許されず、社団は右登記の抹消を請求できる。

 権利能力なき社団の債権者は、社団の構成員や代表者に対して責任を追及できるか。

 債権者は社団財産に対して責任を追及できる。

 しかし、この財産は構成員の共同所有であるが、総有という形でしか構成員と関係していないので、構成員の個人財産には責任追及はできないと解する。

 もっとも、このように解することについて、財産関係が公示されていないために、債権者が不測の損害を被るおそれがあるとして、権利能力なき社団の理事に対して責任追及し得ると解する見解もある。

 しかし、相手方は、事前に権利能力なき社団に対しては、その社団財産に対してのみ追及し得るだけであることを覚悟しているはずであり、かように解しても酷ではない。

 代理人が相手方と通謀して虚偽の意思表示を行った場合、相手方は本人に対してこの意思表示を虚偽表示( 94条)として無効を主張し得るであろうか。

 かような場合は、本人が相手方の真意を知りまたは知り得べかりし場合でない限り、無効は主張出来ない。

 なぜなら、代理人には相手方(表意者)と通謀して本人をだます権限はないから、この場合の代理人は相手方の意思を伝達する機関にすぎず、全体としてみれば相手方の本人に対する心裡留保を構成するからである。

 これに対して、代理行為の意思の瑕疵は代理人について定めるべきだから(101条)、代理人が本人を欺く目的で相手方と通謀して虚偽の行為をしても効力を生ぜず、善意の本人も第三者の地位を取得しないとする説がある。

 しかし、同条は代理人と法律行為をする相手方を保護する規定であって、本問のケースには適用すべきではないから、本人との間には虚偽表示は成立しないと解する。

 虚偽表示における「第三者」の意義

  94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者及びその一般承継人以外の者で、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至ったものをいう。

 そして、虚偽表示の相手方との間で右表示の目的につき直接取引関係に立った者のみならず、その者からの転得者もまた右条項にいう第三者にあたると解するのが妥当である。

 なお、善意の第三者としての保護を受けるためには、その取得した権利について対抗要件を具備することを要しない。なぜなら、善意の第三者と真正権利者との関係は対抗問題ではないからである。

 虚偽表示の善意の第三者から権利を譲り受けた者が悪意であった場合

 善意の第三者から権利を転得した者は、たとえ悪意であっても、善意の第三者の権利を承継するから、虚偽表示の無効をもってこれに対抗することは出来ない。

(絶対的構成)

 これを許せば、悪意の転得者は善意の第三者へ追奪担保責任( 561条)を追求することになり、法律関係が複雑になって、法律関係の画一的処理の要請に反するからである。

 虚偽表示の善意の第三者としての保護を受けるためには、その取得した権利について対抗要件の具備を要するか

 善意の第三者としての保護を受けるためには、その取得した権利について対抗要件を具備することを要しない。

 なぜなら、善意の第三者と真正権利者との関係は対抗問題ではないからである。 しかし、真正権利者が、さらに同一不動産を別個の第三者に譲渡した場合、この第三者に対して所有権取得を主張するには対抗要件を必要とする。

 なぜなら善意の第三者と真正権利者から別に権利を取得したものとの関係は、典型的な対抗要件であるからである。

94条2項の「善意」は無過失を要するか

 94条2項は、いわゆる表見法理に基づくものなので、これには無過失を要するとする説もある。

 しかし、無過失までは要しないと解するのが妥当である。

 確かに、表見法理の制度は、無過失を要件とするのが通常であるが、虚偽表示の当事者は自ら故意に第三者を誤信させるような外部的表象を作り出したのであるから、外部的表象どおりの責任を負わせるのが妥当である。

 要素の錯誤について

 民法95条は「法律行為の要素」に錯誤がある場合、これを無効とする。

 しかし、これを無制限に許せば、取引の安全を害することになるため、法は無効としうる錯誤は要素の錯誤に限る旨、規定した。これによって表意者の保護と取引の安全との調和を図ったのである。

 よって、要素の錯誤とは、本人のみならず一般人においても、その錯誤がなければ、法律行為をしなかったであろう重要な錯誤を意味する。

 動機の錯誤について

 錯誤とは、意思表示の成立過程における事実に対する認識ないし判断の齟齬によって、真に意図したところ(真意)と表示との間に不一致を生じ、表意者がそれを知らない意思表示をいう。

 したがって、動機の錯誤も他の一般の錯誤と区別して取り扱うべき根拠はないと解する。

 取引の安全は、相手方の善意・無過失の存否、「法律行為の要素」の解釈によってはかるべきである。

 これに対して、判例は、錯誤を、内心的効果意思と表示との不一致と解し、動機が保護されるためには、表示されることが必要とするが、何故に動機についてのみ表示を要求し、表示に関する錯誤においてはこれを要求しないのか明らかでなく妥当でない。

 96条3項の「第三者」は善意のほかに無過失まで要求されるか

 詐欺による意思表示の取消は善意の第三者に対抗することはできない(96条3項)。これは、取引の安全を考慮した規定である。

 そこで、96条3項は「善意」とのみ規定するが、これには無過失まで要すると解する。

 なぜなら、詐欺による意思表示は、虚偽表示に意思表示(94条2項)よりも本人の帰責性が少ないため、第三者が過失ある場合には、本人を犠牲にしてまで、第三者を保護する必要はないからである。

 93条3項の「第三者」は対抗要件を備えなければならないか。

 詐欺による意思表示の取消は善意の第三者に対抗することはできない(96条3項)。これは、取引の安全を考慮した規定である。

 この第三者は対抗要件を有することを要するとする説もあるが、否定すべきである。

 なぜなら、ここにいう第三者とは、詐欺による意思表示によって生じた法律関係を信頼して、新たに利害関係を取得した者をいうと解されるので、対抗関係に立つものではないからである。

 96条3項の「第三者」の範囲(「第三者」はいつまでに利害関係に入ることを要するか)

 96条3項の「第三者」とは、詐欺による意思表示によって生じた法律関係を信頼して、新たに利害関係を取得した者をいう。

 したがって、第三者は取消前までに利害関係を有するに至らなくてはならないと解する。

 本人と代理人との間の授権行為が、代理人の無能力のために取消し得るか

 任意代理権は、本人が代理人にこれを授与することによって発生する。これを授権行為という。

 授権行為は、本人の単独行為と見る説もあるが、代理と委任とを必ずしも判然と区別しないわが民法の体系からすれば、委任に類似した一種の無名契約であると解すべきである。

 授権行為は、本人と代理人との基礎的関係とは別個に存在するものであるが(授権行為の独自性)、基礎的関係が授権行為を含む場合においては、その無効または取消は、原則として授権行為に影響を及ぼす。

 しかし、この場合に、代理権が遡及的に消滅することになると、既になされた代理行為は無権代理行為となり、相手方が不測の損害を被る恐れがあるばかりでなく、102条の趣旨にも反する。

 したがって、かかる場合は、代理権は単に将来にむかって消滅するにすぎないと解される。

 代理人が、代理権を濫用し、背信的行為をした場合

 代理人が自己の利益を図るために代理権を濫用した場合、その代理権の効力はどうなるであろうか。「本人ノ為メニスルコト」の意味が問題となる。

 この点、代理権の濫用はその濫用の範囲において無権代理となり、相手方は表見代理によって保護されるにすぎないとする説もある。

 しかし、代理人が示す「本人の為にすること」とは、法律行為の効果を本人に帰属せしめようとする意思を表示することを意味し、本人の利益を図る意思があるか否かは問わないと解される。

 なぜなら、代理行為の相手方にすれば、代理人が代理権の範囲内で行為をすれば、本人のために行われたと信じるのが通常であり、代理人の主観的意図によって代理行為の効力を左右させては取引の安全を害することになるからである。

 したがって、かかる行為があっても代理行為自体の効力には関係はない。

 代理人の権限濫用における本人の保護

 これを有権代理と解したとしても、相手方が代理人の意図を知っていた場合まで、本人に責任を負わせるのは酷である。そこで、かような場合、右代理行為を無効とできないか問題となる。

 この場合は、相手方が、かかる背信的意思の存在することを知り、または知りうべかりし場合には、93条但書の趣旨を類推して、その代理行為を無効とすべきである。

 代理権の濫用においては、代理人の内心と外観との間に不一致があり、心裡留保類似の構造が認められるからである。

 この点、信義則(1条2項)違反を理由に、(任意代理の)相手方が悪意・重過失のときはその有効を本人に主張できないとする説もあるが、信義則という不明確な基準を使うことは妥当でない。

 さらに、転得者の保護については、自己の代理人により虚偽の外観を作出されたのだから、通謀虚偽表示の94条2項を類推適用して、善意の転得者を保護するべきである。

 法定代理人の権限濫用行為

 法定代理人が権限濫用行為をした場合にも、任意代理人の場合と同様に処理すべきであろうか。

 確かに、任意代理の場合と異なり、法定代理の場合は、代理人の選任は本人の意思とはかかわりなく行われる(818条、840条等)ことや、本人による代理人の監督も期待できないといった特殊性が存する。

 しかし、代理人と取引関係に入る相手方にすれば、その取引が客観的に代理権の範囲内のものであれば、代理行為は有効と信じるのが通常であり、このことは代理人が任意代理か法定代理かによって、異なることはないと解される。

 したがって、法定代理人の権限濫用においても特に取り扱いを異にする必要はないと解される。

 代理と詐欺について

(1) 相手方から代理人に対して

 101条1項により、意思表示の効力は代理人について決せられるから、96条1項により、本人は代理人のなした意思表示を取消せる。

(2) 代理人から相手方に対して

 判例は、101条1項を適用して本人に詐欺の効力を認める。しかし、本人は代理人の意思表示によって利益を受ける者であるから、代理人の詐欺は、第三者の詐欺と解すべきでない。相手方は、本人の知・不知を問わず、96条1項によって取消すことができる、と解する。

(3) 本人から相手方に対して

 本人はその意思表示の効果の帰属する主体であるから、96条2項の「第三者」でなく、96条1項によって、相手方はその意思表示を取消すことができる。

(4) 相手方から本人に対して

 本人が詐欺を受けても、法律行為をするのはあくまで代理人であり(代理人行為説)、本人は代理行為を取消し得ないのが原則である。

 117条の規定は、表見代理が成立する場合にも適用があるか

 この点、相手方は表見代理としての効果と無権代理としての効果を選択的に主張できるとする説もある。

 表見代理は相手方保護の制度であるから、これを主張するかしないかは、相手方の選択に任せるべきだとするものである。

 しかし、表見代理が成立する場合は、もはや117条は主張できないと考える。

 法律行為は、当事者の当初の意思にできるだけ沿うように解釈するのが適当であるし、表見代理が成立すれば相手方の保護は十分だからである。

 無権代理人が本人を相続した場合

 無権代理人が本人を相続した場合のように、無権代理人と本人との地位が同一人に帰したときは、本人は自ら法律行為をなしたと同様に取り扱うべく、本人の資格において追認を拒絶することは、許されないとする説もある。

 しかし、無権代理人と本人との地位が同一に帰したとき、直ちに無権代理行為を当然に有効とすることは不正確であって、無権代理関係より生じた(追認拒絶権等の)法律上の地位の承継があると考えたほうがよい。

 したがって、無権代理人が本人を相続した場合には、相手方が善意無過失であれば、本人としては無権代理行為の追認を拒絶することができても、無権代理人として責任を負わなければならない(117条2項)。

 ただ、相手方が悪意の場合には、その責任を免れることができる。この場合にまで無権代理行為を当然に有効とする必要はないと考える。

 本人が無権代理人を相続した場合

 本人が無権代理人を相続した場合、本人にその効果が当然帰属するものではなく、追認拒絶権を行使し得る。

 問題は、本人が追認拒絶権を行使した場合に、本人は無権代理人の責任(117条)を相続するか否かである。

 この場合、相手方が善意無過失であれば、本人も、原則として無権代理人としての責任は負わなければならないと考える。

 117条の責任も相続の対象であり、このことは無権代理人を相続した場合にも異ならないからである。

 ただ、特定物債権については、相手方は損害賠償請求しかできないと考える。 本人の追認拒絶権を実効あらしめるためである。

 表見代理の相手方の主観的保護要件

 109条は「第三者」の主観的保護要件についてはなんら規定していない。

 しかし、(1) 表見代理制度の趣旨、及び (2) 110条、112条とのバランスを考え、善意・無過失を要すると解すべきである。

 白紙委任状と109条の表見代理の成否

 白紙委任状が、非転々予定型の場合に109条の授権表示の表見代理が成立するかが問題となる。

 109条の授権表示は授権行為があった旨の観念の通知であるが、それから生じる効果からして意思表示の規定を類推すべきである。

 そして、白紙委任状を交付したときは、特段の事情がない限り、非交付者を代理人とする旨の表示がある、と解し得る。よって、非交付者が空白を濫用する(直接型)場合は、109条の授権表示をみとめうる。

 白紙委任状の転得者がそれを流用する場合(間接型)には、委任事項濫用型では 109条の適用を否定するが、非委任事項(代理人部分・相手方部分の空白)濫用型では 109条の適用を肯定するのが判例である。

 

 権限踰越による表見代理について、公法上の行為は基本代理権たりえるか

 110条が成立するためには、代理人が、当該行為については代理権を有しなくとも、他に何らかの範囲における代理権(基本代理権)を有することを要する。

 これは、本人の静的安全を保護するための最低限度の要件と解される。

 判例は、110条の基本代理権について「表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は、私法上の行為についての代理権であることを要し、公法上の行為についての代理権はこれにあたらないと解するのが妥当である」とする。

 しかし、判例は、移転登記のために印鑑証明書を交付した場合については、登記申請行為は公法上の行為であるが、私法上の契約に基づいてなされるものであり、私法上の効果を生ずるものであるから、その行為は同時に私法上の作用を有すると認められるとする。

 110条の相手方は直接の相手方に限られるか

 直接の相手方に限定されると解する。

 なぜなら、転得者は代理権の有効な存在を信頼する立場にはないからである。

 761条と 110条

 日常家事債務(761条)について 110条の基本代理権と解すべきか。

 761条は、夫婦の各自が日常の家事に関して管理権、したがって、法律行為の代理権を有することを前提としていると解される。

 しかし、761条の代理権を、110条の基本代理権と解し、一般的に 110条の適用を肯定すれば、夫婦の財産的独立が、取引の安全のために損なわれることになる。 そこで、相手方においてその行為が日常家事の範囲内に属すると信じるについて正当な理由があるときに限り、110条を類推適用すべき、と解するのが、夫婦の財産的独立と取引の安全との調和を図る上で妥当である。

 時効の存在理由

 時効の存在理由は

(1) 永続した事実状態の尊重という社会 秩序の維持

(2) 権利のうえに眠っていた者は、法律 の保護に値しないという権利の不行使

(3) 争訟の生じた場合の採証の困難の救 済

である。

 不動産賃借権の時効取得の可否

 取得時効は、本来物に対する権利に関するものである。賃借権は債権なので問題となる。

 不動産賃借権においては、対抗要件を備えれば第三者に対抗でき(605条)、実質的に地上権と異ならない内容を有している。

 また、賃借権は占有を伴う権利である。 それゆえ、賃借権の時効取得は肯定されるべきであると解する。

 そして、その要件は (1) 土地の継続的な用役が行われており、(2) 継続的用役が賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていること、が必要であると考える。

 (1) は永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨から、(2) は、他の権利との区別が客観的に明らかにするための要件である。

 自己の物を時効取得しうるか

 例えば、二重譲渡された物権について登記がない場合、161条が「他人の物」と規定していることから、これを時効取得しうるかが問題となる。

 これについては、

(1) 161条が「他人の物」と規定するのは通常の場合を定めたものにすぎないし、(2) 肯定した方が、永続した事実状態の尊重という取得時効の本来の制度趣旨に合致することから、

 肯定するべきであると考える。

 割賦払債務に期限喪失約款のある場合、消滅時効の起算点はいつか

 判例は、債権の利益をも考慮して、債権者の請求をまって時効が進行すると解する。

 期限の利益喪失約款がついている場合は本来期限の定めがあるものであるから、期限の定めのない債務と同様に扱えないというものである。

 しかし、債権者がいつでも請求をなしうるのであるから、期限の定めのない債務と同様である。

 したがって、不履行と同時に時効期間が進行すると解するのが妥当である。

 時効中断の根拠

 時効中断事由の根拠も、時効制度の根拠に関する学説の差異に応じて、いろいろ説かれている。

 真実の権利の主張や承認など強い証拠力をもつ事実によって権利の存在が確定されると、真実を反映する蓋然性の基礎が崩れ、事実状態の継続性が破れ、かつ、権利の主張によって、権利の上に眠るものとはいえなくなるから、時効制度の基礎が失われると解することができる。

 時効完成後の時効利益の放棄

 時効完成後に、その利益を放棄するのは、146条の反対解釈から有効である。

 なぜなら、時効制度の公益的立場と個人の意思との調和を図ることになるばかりでなく、完成前の放棄のような弊害を伴わないからである。

 では、放棄は、当事者が時効の完成を知ってなされることを要するであろうか。 この点、かって判例は、時効が完成したことは、一般人において知っているべきであるから、当事者は時効完成を知っているものと推定し、特に知らずにしたことを立証しない限り、放棄があったものと解していた。

 しかし、その後、判例は態度を改め、債務者が時効完成後に債権者に対し、債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らないのが通常であるから、上述のような推定は許されないとしたうえ、債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、爾後その債務について時効の援用をすることは信義則に照らして、許されないと解している。

 時効援用の法的性格

 162条や167条等は時効の完成によって権利が取得され消滅すると定めている。 他方で145条は時効の他の要件が充たされていても当事者が援用しないと「裁判所これに依りて裁判を為すことを得ず」と規定している。

 この点、時効による権利の得喪は、実体法上絶対的に生じ、援用は訴訟法上裁判所がなす要件であると解する説がある。援用は訴訟上の防御方法ということになる。しかし、この説では、実体関係と裁判との間に矛盾が生じることになり妥当でない。

 そこで、時効完成によって権利の得喪は確定的に生じるのではなく、援用によって初めて確定的にその効果が生じ、時効利益の放棄によって効果が発生していないことに確定するという説(停止条件付不確定効力説)が妥当である。

 したがって、援用は永続した事実関係の尊重と当事者の意思とを調整する制度と解される。

 請負契約の実現を妨害した注文主

 請負契約の報酬請求権は仕事の完成を条件とする条件付権利である。

 このような条件付権利とはいえ、権利者は条件が成就することによって、権利行使が可能となるという期待を持つことになることから、民法上なお信義則上保護される必要がある。そこで法は128条の規定を設けた。

 さらに、130条は「条件の成就によりて不利益を受くべき当事者」と128条より用件をしぼった形で「故意にその条件を妨げたるときは、相手方はその条件を成就したるものと」みなすと規定している。

 よって、請負人の仕事を自らなしてしまった注文者は報酬を支払わなければならないことになる。

 しかし、128条も130条も信義則を理由とするものであるから、請負人が仕事を怠ったという事情がある場合は、128条、130条の適用の前提を欠くので、注文主は不法行為(709条)、あるいは期限の利益の喪失の責任を免れる。

 
 

物権法

 
 

慣習法によって新しい物権の成立を認めることができるか

 物権的請求権の法的性格

 物権は物に対する直接排他的支配を内容とする権利であり、もしこの支配が妨害された場合は、これを排除することが認められている。これを物上請求権という。

 この権利は明文上の規定はないが、物権の排他的支配から当然に認められるものである。

 物権的請求権と費用負担

 物権は物に対する直接排他的支配を内容とする権利であり、もしこの支配が妨害された場合は、これを排除することが認められている。これを物上請求権という。

 したがって、その性質は原則として行為請求権であると解される。

 しかし、現在の占有者が自らの意思によらずに占有を取得した場合等には相手方の忍容を請求しうるにとどまるものと解される。

 なぜなら、かような場合にまで、占有者に行為を請求しうるとするなら、具体的公平を欠くことになるからである。

 不動産登記に公信力が認められるか

 公示の原則とは物権の変動は、常に外界から認識しうる何らかの表象を伴うことを必要とする、とする原則である。

 これに対し、公信の原則とは、物権の存在を推測される表象を信頼した者は、たとえその表象が実質的な権利を伴わない空虚なものであった場合にも、なおその信頼を保護されなければならない、という原則である。

 確かに、登記に公信力を認めれば、取引の安全を図れるが、真実権利をもたない者から権利を譲り受けることができるというのは法律理論として異例のことだから、それを認めるためには特に公信力を定めた規定があるべきところ、かかる規定は存在しない。

 よって、登記には公信力はないものと解するのが妥当である。

 物権行為の独自性を認めるべきか

 物権行為の無因性を認めるべきか

 所有権はいつ移転するか

 176条は、物権変動について意思主義を採ることを規定しており、契約に当事者の特約がある場合は、そのときに物権が移転すると解させる。しかし、かような特約がないとき、いつ移転するか問題となる。

 この点、契約が成立したときに物権が移転すると解するのが妥当である。

 有償性の原理から、登記・引渡・代金支払のいずれかがなされたときに移転するとする説もあるが、533条の抗弁権等により不当な結果は生じないし、また、かように解する方が法律関係が明確になるからである。

 「対抗することを得ず」の意味

 (二重譲渡の法律構成)

 177条に定める「対抗することを得ず」とは、物権変動は当事者間の内部関係では意思表示だけで、その効力を生ずるけれども、登記がなければ第三者に対する対外関係では、これを主張できないこと、を意味すると解する。

 すなわち、第三者の利益を保護するために物権変動の効力が、それと相抵触する範囲で制限せられるということである。 したがって、176条の意思主義の原則は、177条(及び178条)によって制限され、対抗要件を具備しない限り、物権変動は相対的な効力しか生じないと解するのが妥当である。

「不動産に関する物権の得喪及び変更」 の意味(意味する物権変動の範囲)

 これについては、意思表示による変動に限るとする説もあるが、すべての変動を含むと解すべきである。

 なぜなら、177条及び不動産登記法1条には、制限する文字がないばかりでなく、取引の安全を保護するために公示方法を必要とすることは、物権変動が意思表示に基づくか否かによってこれを区別すべき理由がないからである。

 「第三者」の範囲

 一般に第三者とは、当事者及びその包括承継人以外の者をいうのであるが、物権変動について当事者というのは、物権変動により直接法律上の効果を受ける者を指すのであって、物権変動の当事者だけをいうのではないと解する。

 なぜなら、177条の立法趣旨は、不動産取引の安全を保護するための者であるので、保護に値しないものまでも第三者に含めることは、妥当でないからである。

 177条の「第三者」は善意であることを要するか

 不動産物権取引の安全を図るためには、不動産物権の所在を公示しなければならない。そこで、177条は登記をもって不動産物権を公示させるものとし、これを実効あらしめるべく登記なくして物権を第三者に対抗できないとした。

 とするなら、登記なくして対抗できない第三者とは、不動産物権取引の安全を図らなければならないものを言う。

 単に悪意であっただけならば、これはなお自由取引競争の範囲内にあり、取引の安全を図る必要があるといえるから、第三者に含まれると考える。

 これに対して、いわゆる背信的悪意者は、もはや自由取引競争の範囲内にあるとはいえず、取引の安全を図る必要のあるものとはいえない。したがって、177条の第三者には当たらないと考える。

 具体的には、譲渡人の代理人・仲介人等や、「害意者」、又は譲渡人と第二譲受人とが同一人に準ずる場合などがそれにあたると解される。

 背信的悪意者からの転得者の地位

 背信的悪意者の登記は無効な登記であり、登記に公信力のない以上、物権的には保護されないと解する。

取消による物権変動に登記を要するか

(取消後の第三者)

 取消しうべき法律行為も、取消されるまでは有効である。この法律関係を信頼して取引に入ったのに、取消の遡及効によって第三者の権利取得が否定されるのは取引の安全を害することになる。

 そこで、法は96条3項を規定し、第三者の保護を図った。

 ゆえに、取消後の取引関係に入った者は、96条3項の第三者ではない。

 しかし、登記に公信力がないとはいえ、登記を信頼して物権を譲り受けたものを保護し、物権取引の安全を図る必要はある。

 したがって、法律行為は取消によって遡及的に消滅するが、取消後登記が放置されていたという事情がある場合は、これに取消権者の帰責性を認めて、取引関係に入った者を94条2項を類推適用して保護すべきである。

解除による物権変動に登記を要するか

 契約は法定解除権の行使によって、遡及的に消滅し、契約は当初から存在しなかったことになると解する。

 620条が賃貸借契約の解除の不遡及をわざわざ規定しているのは、契約は本来遡及的に消滅するものであることを民法が認めていると解される。

 また、545条1項は原状回復義務を解除の効果として規定しているが、これは契約の効力が当初に溯って失われると解することによって、最も端的に理解しうる。

 契約は解除されるまでは有効なのだから、この契約を信頼して新たに取引関係に入った者を保護する必要がある。そこで民法は 545条1項但書により、解除権者を犠牲にしても第三者を保護するよう規定したのである。

 しかし、この規定は本来の権利者を犠牲にするものだから、保護される第三者は対抗要件を具備するまでに密接な利害関係を有する必要があると考える。

 解除後の第三者と対抗要件

 契約は、解除によって遡及的に消滅し、契約は当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である。

 620条がわざわざ解除の不遡及を規定しているのは、この趣旨によるものと考えられるし、545条1項の原状回復義務もこの趣旨から最もよく理解される。

 この説によると、契約は解除されるまでは有効に成立しているのであるから、これを信頼して利害関係を有するに至った第三者を保護する必要がある。そこで法は545条1項但書を規定したのである。 したがって、解除後に取引関係に入った第三者は、もはや 545条1項但書の適用はない。

 解除後の物権は、復帰的物権変動を生じると解されるので、解除権者と第三者との関係は対抗問題となり、対抗要件の有無により優劣を決せられるべきであると考える。

買主は売主の相続人に対して、売買による物権変動を登記なくして相続人に対抗しうるか

 被相続人と相続人とは法律上同一の地位にあるものとして取り扱われるから、その権利取得者は、相続人との関係では物権変動の当事者として取り扱われることになって、第三者を生じる余地はない。 よって、買主は登記なくして売主の相続人に物権取得を対抗できる。

共同相続の一人Aが単独所有の登記をしてそれを第三者に売り払った場合、他の共同相続人Bは登記なしで第三者に持分の所有を主張できるか

 分割前の相続財産は、合有と解する説もあるが、共有と考える(898条)。

 したがって、分割前の持分の譲渡も可能である。Aの持分の譲渡は問題ない。問題となるのはBの持分である。

 Aの単独登記はその持分を越える部分については無権利の登記であり、登記に公信力がない以上、第三者がBの持分を権利取得することはないと考える。

 共同相続人Aが相続を放棄し、Bの単独所有となった不動産を、Aが単独登記し第三者に譲渡した。Bは右不動産の所有を登記なくして第三者に主張できるか。

 Bの持分権の増加をAの相続放棄による物権変動によって生じたものと考えると、Bにも登記が必要と考えることもできる。

 しかし、共同相続人の一人が相続を放棄した場合には、その者は「初めから相続人とならなかった者とみな」されるので(939条)、他の共同相続人は放棄者からその持分を承継するのではなく、直接被相続人から相続するのであるから、放棄による不動産持分の取得を登記なくして第三者に対抗することができる。

 ABが共同相続した不動産が、遺産分割の結果Bの単独所有となったにもかかわらず、Aはこれを単独登記し第三者に譲渡した。Bは右不動産の所有を登記なくしてこの第三者に主張できるか。

 遺産分割は遡及効を有すると規定されているが(909条)、実質的にはBの有していた法定相続分が分割時にAに譲渡されたのと同じである。

 とすると、そのような持分の譲渡を登記なくして対抗できることになると、取引の安全が害される。

 よって、この場合は、177条の適用があり、登記なくして自己の権利を主張できないと解すべきである。

 この点、相続放棄と取り扱いを異にするが、これは、相続放棄は相続開始後短期間にのみ可能で(915条)、かつ相続財産に対する処分行為があれば放棄は許されなくなる(921条)ので、第三者の出現を考慮する余地は比較的乏しいからである。

 所有権の取得時効を第三者に主張するには登記が必要か

 時効取得者は、時効完成当時の所有者及びその包括承継人に対しては登記がなくても、時効による物権取得を対抗することができる。

 けだし、後者は前者に対する関係においては、あたかも承継的取得における当事者足る地位にある者とみるべきだからである。

 したがって、取得時効の進行中に、当該不動産を譲渡を受け、登記を得た者に対しても、これは第三者ではなく、当事者であるから、登記なくして時効取得を対抗できる。

 しかし、時効が完成した後、時効によって所有権を取得した者がまだ登記をしない間に、原所有者から所有権を譲り受け登記を得た者に対しては、時効取得者は時効取得を対抗することができない。

 ちょうど、原所有者が時効取得者と第三者とに同一不動産を二重に譲渡した場合と同一にみられるからである。

 所有者が賃借人に対し、賃料請求、解約、期間満了による明渡請求などの賃貸借契約上の権利を主張する場合に登記が必要か

 賃貸借契約上の権利義務の関係は、不動産上の物権的支配を相争うという関係は存在せず、対抗問題も生じないから、賃借人は登記を要する第三者ではないとする説もある。

 確かに、この場合の法律関係は対抗関係ではないが、賃貸不動産が二重譲渡された後に、第二の譲受人が所有権取得の登記をすることもあるから、賃借人は二重払いの危険を負うことになる。

 そこで、賃借人の立場を確実にするため、賃借人は登記を要する第三者とすべきであるとする説が妥当である。

 仮登記後、本登記がなされたとき、いつから所有者として扱われるか

 登記請求権の発生原因と法的性格

 実体法上の権利者は、実体法上の法律関係に基づいて登記申請に協力すべき義務のある者に対して、登記手続き上の一定の行動をとるべきことを請求することができる。この権利を登記請求権という。 この登記請求権は、(1) 現実の権利関係と登記とが一致しないときに、この不一致を除去するため、物権そのものの効力として発生する。

 また、(2) 物権変動の過程・態様と登記とが一致しないときは、その不一致を除去するために、当然その当事者間に生じる。

 さらに、(3) 当事者の特約によっても生じる。債権的登記請求権である。

 中間者の承諾を得ずに中間省略登記が為されてしまった場合、その登記は有効か

 登記は物件変動の過程を如実に反映すべきことが、登記制度本来の趣旨として要求される。

 しかし、現実には中間省略登記は広く行われており、これを無効とするのは登記の信用を害し、取引の安全を脅かすので、妥当でない。

 よって、中間者が無効を主張する正当な利益がない限り、現在の真実なる権利状態を公示するなら、右登記は有効であると解する。

 これに対し、現在の真実なる権利状態を公示しているなら、中間者の同意の有無にかかわりなく常に有効であるとする説もあるが、これでは中間者の利益を不当に害することになるので妥当でないと考える。

(中間省略登記の効力を、第三者が中間者の同意がないことを理由に否定することは許されないとする判例がある)

 中間省略登記請求権

 登記請求権を純粋な物権的請求権と見る立場からは、これを肯定することになるが、登記請求権は実体的な権利変動に即応して生ずべきものであるから、これは否定させるべきである。

 したがって、ABC三者間に直接に登記を移転すべき旨の契約がなされた場合に限り、中間省略の登記はこれをなしうべく、Aの同意がない場合はもちろん、Bの同意を得ないでなしたAC間の特約もまた無効であると解すべきである。

 そして、Cから直接Aに対して移転登記を請求することは、A及びBの同意がない限り許されないとする。また、中間者Bは、当然にAに対する移転登記請求権を失うものではない。

土地とともに譲渡された立木の明認方法の公示力

 立木は土地の定着物であって、土地の一部分であるのが通常であるが、当事者が特にこれを土地から分離して取引しようとするときは、独立の物権の客体とせられ、独立の不動産となると解される。

 そして、物権変動を第三者に対抗するためには、明認方法を必要とする。

 この明認方法の公示力につき、判例は、立木の生立する土地の所有権を取得したる者は、たとえ立木につき明認方法を施したといえど、土地の所有権取得登記をなさない限り、右立木の所有権を第三者に対抗することはできないと解する。

 しかし、その場合にも当事者が立木を独立の物として取引している限り、土地についての登記がないという理由で、立木についてその明認方法の効力まで否定することは妥当でないと考える。

 立木所有権留保と明認方法の要否

 立木の譲受人がその所有権取得について明認方法を施したときは、その後、土地及び立木の二重譲渡を受け登記を得た者に対しても、所有権を主張できる。明認方法は登記と同等の効力を有し、その間に優劣はないからである。

 しかし、Aが立木を留保して土地をBに売却したが、Aが明認方法を施さないでいたところ、CがBから立木も含めた土地を譲受け登記を得たとき、Cは立木も含めて所有権を取得する。

 この点、Bは立木について無権利者であり、登記に公信力が認められない以上、Aは明認方法なくして転得者Cに対抗できるとする説もある。

 しかし、留保もまた物権変動の一場合であり、第三者は公示手段がなければ留保の事実を知ることができない。よって、取引の安全のために、それを公示する明認方法を必要とすべきである。

 AがBに土地を譲渡したところ、Bは未登記のまま立木を植栽した。その後CはAから立木を含めた土地を譲り受け登記を備えた。Cは立木の所有権を取得できるか。

 まず、Bに 242条但書の「権原」があるかが問題となる。

 附合制度は不動産に付着したものを分離する社会経済上の不利益を防止するための制度である。

 物の所有者に物を不動産に付着させる権原があるなら、これを分離する必要はないということになる。したがって、ここに言う権原とは物を不動産に付着させる権原をいう。

 Bは植栽時には所有者として植栽しているから、242条但書を類推して立木所有権を取得できるが、その場合は権原につき対抗要件が必要である。

 Bは、未登記であり、立木に明認方法も施していないため、Cに所有権を主張し得ないと解する。

 明認方法の消滅と対抗力

 178条の「引渡」の意義。

 178条の引渡については、現実の引渡の他に、(1) 簡易の引渡、(2) 占有改定、(3) 指図による占有改定、といった、観念的引渡も認められている。

 ことに、192条においては、占有改定の取り扱いに争いがあるものの、178条においては占有改定も「引渡」に含まれると解される。

「動産に関する物権の譲渡」の意味

 蜜柑・桑葉・稲立毛などの未分離果実が、元物から切り離して取引せられる場合には、独立の動産として取り扱われる。 しかし、法が規定する公示方法である引渡(178条)を用いるには問題が多い。 なぜなら、未だ未分離果実は不動産の一部であって、引渡をもって公示方法(対抗要件)とするのは不適当だからである。

 そこで、この場合は明認方法を公示方法と解するしかない(判例)。

 次に、立木が動産たる伐木・倒木となった場合において、判例は、これらの物の所有権は、いわば立木所有権の変形ないし延長にすぎないから、立木の所有者が生立当時明認方法を施していれば、伐木などの所有権を取得するが、これを施していなかった場合は、第三者に対する関係では、伐木などの所有権をもって対抗できないとする。

 しかし、立木は動産に変ずるのであるから、伐木などの引渡をもって対抗要件と解すべきである。

賃借人は 178条の「第三者」にあたるか

 Aが動産をBに譲渡した後、これをCに賃貸した。この場合、賃借人Cも「第三者」にあたるのであろうか。

 判例は、賃借人も第三者に該当し、Bは引渡を受けないと、Cに対して所有権を対抗できないと解する。

受寄者は 178条の「第三者」にあたるか

 Aが動産をBに譲渡した後、これをCに寄託した。この場合、受託者Cは「第三者」に該当するのであろうか。

 判例は、賃借人の場合と異なり、受託者は第三者に該当しないとする。

 理由は、受託者は動産を返還の請求のありしだい、何時にても返還する義務を負担しているから、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないというものである。

 しかし、受寄者が何時でも返還の請求に応じなければならないこと(662条)と、受寄者が何人に返還しなければならないかということは別問題であって、受寄者といえども果たして返還請求者が所有権譲受人であるか否かを知るについて正当な利益を有する。

 したがって、譲受人は指図による占有移転を受けなければ所有権取得をもって受寄者に対抗できないと解すべきである。

 自動車を即時取得しうるか

 本来自動車は即時取得の対象とならない。

 なぜなら、192条は動産物権の公示手段である占有を信頼して取引関係に入った者を保護し、取引の安全を図るために規定されたのだから、192条で保護されるものは占有をもって公示されるものでなければならない。

 そして、自動車については登録によって物権が公示されているので、192条の適用は受けないのである。

 ただし、未登録自動車については、占有を公示手段と解さざるを得ないので、192条の適用を受ける。

 占有改定の方法で占有を取得したときにも即時取得が認められるか

 192条は、動産物権の公示手段である占有を信頼して取引関係に入った者を保護し、取引の安全を図る制度である。

 しかし、取得者の利益を図るため、本来の権利者を犠牲にするのであるから、それには本来の権利者の信頼が裏切られたといえることが必要である。

 占有改定の場合、占有形態に変わりはないので、未だ権利者の信頼は裏切られたということはできないので、占有改定を 192条にいう「占有を取得」したということはできない。

 しかし、後に現実の引き渡しを受けることによって、権利者の信頼が裏切られれば、もはや取得者は権利者を犠牲にしても保護される価値があるので、確定的に所有権を取得すると解する。

 立木の即時取得は認められるか

 192条は動産取引の安全を図るための規定である。

 土地に植栽された樹木はなお土地の一部であって、動産ではない。

 よって、即時取得の適用はない。

 これに対して、伐木の場合との均衡を欠くという批判もある。

 しかし、土地に植栽された樹木は土地の一部であるから、その公示手段は登記又は明認方法であり、これらによって公示されているから、均衡を失することはない。

 193条、194条によって被害者・遺失主が回復を請求しうる期間、その動産の所有権はだれに属するか

 判例は、原所有者に帰属していると解している。

 しかし、192条が原則であって、193条は被害者又は遺失主を保護するために例外として特に回復請求権を認めたものであるから、善意取得者は占有とともに即時に所有権を取得するけれども、被害者又は遺失主は 193条によって二年間はその物の回復請求権を認められると解するのが妥当である。

 194条の代価弁償の性質

 相続によって被相続人の占有権も相続人に移転するか

 事実的支配関係としての占有の承継が認められるとすれば、占有権の相続もまた認められるべきである。

 なぜなら、相続人は法律上はもちろん社会観念上もまた被相続人と同一の地位にたつものであって、被相続人の有した占有は、相続人に移転するとみられるからである。

相続人は 187条1項の承継人にあたるか

 187条は特定承継にだけ適用があり、包括承継には適用すべきでないから、相続人は自己の占有だけを切り離して主張することができないとする説もある。

 しかし、相続にも187条の適用はあり、相続人はその選択に従い、自己の占有のみを主張しまたは被相続人の占有に自己の占有を併せて主張できると解する。

 なぜなら、占有は物に対する事実的支配を基礎とするものであるから、一般承継人であっても、新たに事実的支配を取得するに至った以上、新しい占有の開始を認めるべきだからである。

 間接占有が直接占有(自己占有)に移行した場合、187条を適用してよいか

 代理占有から自己占有に移った場合には、187条の適用はないと考える。

 なぜなら、間接占有者は直接占有者の占有を通じてであるが自分自身の占有を継続しているのであり、代理占有が自己占有に移行しても占有の承継はないからである。

 相続は 185条の「新権原」にあたるか

 相続人が相続によって開始した自らの占有をもって取得時効を主張することはできないであろうか。相続が 185条にいう「新権原」にあたるか否かが問題になる。

 相続とは被相続人の権利を包括的に承継することであり、単に相続があったということのみをもって新権原ありとすることはできない。

 しかし、相続人が相続を契機に公租公課を支払うなど客観的権利関係に変更が生じたときは、これによって新権原と認めることができると解する。

 なぜなら、これを認めなければ、自己の物と信じて占有している者がいつまでたっても救済されないことになり、永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨を没却してしまうことになるからである。

 かように解しても、真の権利者もなお時効中断の措置を講ずることができるので、不合理ではない。

 特定承継された2個以上の占有が併せて主張される場合、その占有の善意無過失はどのように決定されるか

 たとえ承継人が悪意・有過失であっても、前占有者の善意・無過失の占有を承継できると考える。

 なぜなら、162条は文言上「占有の始」だけ善意・無過失を要求するのみであるし、187条2項は瑕疵のないことはもちろん、瑕疵のあることも「亦これを承継す」るという趣旨だからである。

 占有訴権の存在理由

 占有権は、物に対する事実的支配そのものを、本権の有無に関係なく、保護するものであるから、事実的支配が侵害された場合には、その事実的支配の事実そのものを理由として、その侵害を排除する権利が認められる。これを占有訴権という。

 いいかえれば、この占有訴権は、正当な権利者といえども私力をもってその権利を防衛実現すること、すなわち、自力救済を禁止して物に対する事実的支配状態を一応保護することによって社会の秩序を維持しようとするものである。

 占有の訴えに対し本件に基づく反訴を提起しうるか

 添付制度趣旨と規定の性質

 添付制度の目的は、複数の物が結合した場合に社会経済的利益を維持するため、一方の所有者よりの分離請求を否定して、一つの物として存続させることにある。

 附合の生じる範囲

 不動産の附合と動産の附合を統一的に把握し、「従としてこれに附合したる」の意義は分離復旧が社会経済価値を損なう場合を指す。

 附合には、強い附合と弱い附合とがあり、強い附合の場合には、分離することの社会経済的不利益が著しく、また物権の目的物は独立性をもつことが要請されるから、242条但書は適用されないと解する。

 賃借人の増改築と附合

 賃借人が賃借建物に増改築を施した場合、増改築部分の所有権はだれに帰属するか。建物賃借人が賃貸人の承諾を得て増改築した場合に、賃借人に増改築について242条但書の「権原」があるかという形で争われる。

 賃借人に権原を認めるのが妥当であると考える。

 増改築部分が全く独立性を失い、建物の構成部分となった場合(強い附合)は242条但書は排除され、賃貸人の所有に帰する。

 増改築部分が独立性を失わない場合(弱い附合)は 242条但書によって、賃借人の所有となる。

 建前の土地への附合

 屋根をふかず粗壁をぬらない状態なら、社会通念上建物といえない。これを建前という。

 確かに建前を土地から分離することの社会経済的不利益を考えれば、建前は土地に附合すると解すべきかもしれない。

 しかし、土地と建物を別個の不動産とする我が法制の下で(370条)、基礎工事から順々に土地に附合してゆき、建物として完成したとたんに独立の不動産となると解するのは、実態に適せず不合理である。

 したがって、建前は建物の前身として土地には附合せず動産の集合体として存在するものと解すべきである。

 建前と加工

 建前が工事途中で中断されたため、別の業者によって工事が続行された場合、その建物の所有権の帰属はどうなるか。

 業者の間に契約関係がないので、物権法の附合(243)か加工(246)で決することになる。

 単に物が付着したというのであれば、それは附合の規定によるが、建前部分について工事を完成させるということは、工作を加えるという点に重要な意味があるのだから、加工の規定によるべきである(246条)。

 共有と訴訟

 通行地役権の取得時効

 
 

担保物権

 
   同時履行の抗弁権と留置権との競合

 この点、当事者が契約関係にあるときは、同時履行の抗弁権のみ認め得るとする説もある。

 しかし、両者は権利の内容が異なるから、競合を認めても不当ではない。

 建物買取請求権と敷地の留置

 建物買取請求権が行使された場合、建物に対しては留置権を行使できる。したがって、その反射的効力として、当然に敷地の引き渡し拒絶が認められると解される。

 しかし、敷地自体に対しては、建物買取請求権は敷地に関して生じた債権ではないので、留置権の成立は認められないと考える。

 費用償還請求権と家屋の留置

 例えば、賃借人が賃借家屋に加えた必要費、有益費など、物に加えた費用の償還請求権は、家屋全体に対して留置権を生じる。

 なぜなら、費用が加えられた部分と他の部分を区別し難く、独立性がないからである。

 造作買取請求権と家屋の留置

 造作とは、建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与える物をいう。

 判例は、建物と造作は別個の存在であり、造作買取請求権は造作に関して生じた債権であり、家屋に関して生じたものでないとして、家屋に対する留置権の成立を否定する。

 しかし、これは造作によって増加した建物の価値を維持しようとする立法趣旨に反し、妥当でない。

 造作と建物とは完全に別個の物とすることはできず、建物に対しても留置権を肯定すべきである。

 敷金返還請求権と家屋の留置

 敷金とは、賃貸借契約ことに建物の賃貸借契約を締結するにあたり、賃借人が借賃その他の債務を担保するために賃貸人に交付する金銭をいう。

 敷金返還請求権の発生時期については争いがあるが、賃貸借終了後であっても明け渡し前においては、敷金返還請求権は、その発生及び金額の不確定な権利であって、明渡時において初めて確定するのであるから、明渡時に発生すると解する説が妥当である。

 したがって、賃借人は賃貸借契約終了後であっても敷金返還請求権はなく、留置権も主張し得ないと考える。

 不動産の引渡しをうけた第一の買主は、二重譲渡を受け登記を得た第二の買主からの引渡し請求に対し、留置権を主張できるか

 売主は、第二の買主に登記を移転したことにより、第一の買主への履行が不能となった。したがって、第一の買主は売主に対して損害賠償請求権を主張し得る。 この損害賠償請求権を被担保債権として第二の買主に対して留置権を主張できるか。「物に関して」生じた債権といえるかが問題となる。

 留置権は、その物を留置することによって債務者に間接的に弁済を促すのが公平であるとの趣旨によって認められた制度である。

 とするなら、留置権が生ずるためには、債務者が債権者に対して物の返還請求権を有していることが前提となる。

 第一の買主は、売主に対して返還請求権を有していない。

 よって、この場合、留置権の成立を否定すべきである。

 権原喪失・有過失占有者と 295条2項の類推適用の可否

 295条2項は、占有が不法行為によって始まった場合、留置権の成立を否定する。

 ところが、判例は、占有権原が喪失した後、物に関して費用を支出した場合、この占有者が権原喪失につき悪意・有過失ならば、295条2項を類推適用して留置権の成立を否定する。

 しかし、それでは196条が悪意占有者にも費用償還請求権を認めており、裁判所の期限の許与のない限り、留置権は失われないとされていることに矛盾する。

 本条は、不法占拠者に留置権を認めることは公平に反するとの趣旨から規定されたものである。

 したがって、悪意で占有を開始した場合のみ本条の適用があり、占有開始後悪意になった場合には196条2項但書を適用し、さらに善意・有過失の場合には留置権の成立を認めるとするのが公平の原理にかなうと考える。

「建物ニ備付ケタル動産」(313条1・2項)の意味

 不動産賃貸の先取特権は、その不動産の賃借料その他賃貸借関係から生じた賃貸人の債権について、賃借人の動産の上に存在する(312条)当事者の意志の推測を主たる理由とする。

 この先取特権の目的物の範囲について312条は「建物に備付けたる動産」まで及ぶとしているが、この範囲について争いがある。

 判例は「賃借人が賃貸借の結果ある時間継続して存置するためその建物内に持ち込んだ動産たるをもって足りる」と広く解する。

 しかし、これでは、動産・建物の使用とは何ら関連性のないものまで含まれることとなり、広すぎる。本条の当事者意思の推測という趣旨を考えると、あくまで建物の利用に関して常置せられる動産に限られるべきである。

 333条の「引渡」に占有改定は含まれるか

 333条は、動産場の先取特権は、債務者が先取特権の目的たる動産を第三取得者に引き渡したときは、その動産についてこれを行うことができないと規定する。 ここにいわゆる引渡は、占有改定をも含むか。譲渡担保との関連で問題となる。 占有改定をも包含すると解すべきである。

 なぜなら、本条は動産取引の安全を図る趣旨であるから、第三取得者が目的動産についてすでに所有権を取得して対抗要件を具備した以上、公示なき動産先取特権の追及力を制限する事が妥当だからである。

 質権設定後、目的物が質権設定者に返還された場合の質権の効力

 判例は、動産質権は対抗力を失うにすぎず、不動産質権においては何らの影響もないとする。

 しかし、質権は優先弁済的効力とともに留置的効力を有している。質権契約が要物契約とされ(344条)、占有改定による引渡を禁じているのもこの趣旨による。

 かかる趣旨からすれば、質権の成立後においても占有改定を認めるべきでなく、質権者が目的物を質権設定者に返還するときは、質権はこれによって消滅すると解すべきである。

 質権者が質物を転質に供するには質権設定者の承諾を要するか

 責任転質の法的性質

 責任転質の要件・効果

 抹消されずに残っている登記のみを、後に設定された抵当権についての登記として流用し得るか

 抵当権そのものを他の債権のために利用する合意(抵当権の流用)は無効である。しかし、他の債権のために新たに抵当権を設定し、前の抵当権の登記を利用する合意(登記の流用)は必ずしも無効ではない。

 この点、登記は現在の真実なる権利状態を公示すればたり、その変動の過程を如実に反映する必要がないという理論によって、右の登記を常に有効とする説もある。

 しかし、第一の債権が消滅して第二の債権が成立するまでの間に、登記上利害の関係を有する第三者が出現したときは、流用された登記の効力を主張できないと解すべきである。

 将来発生する債権を被担保債権として抵当権を設定し得るか

 将来の特定の債権のために抵当権を設定することはさしつかえないと解する。

 抵当権の成立における附従性から、これを否定する説もあるが、現実的ではない。

 諾成的消費貸借契約の理論や条件付き債権のためならば現在の抵当権は有効に成立する等の根拠により、消費貸借の債権が発生する前の抵当権の登記や、保証人の主たる債務者に対する求償権を担保するためにする抵当権の登記も有効に解すべきである。

 被担保債権が無効・取消された場合の抵当権の効力

 抵当権は被担保債権に附従するものであるが、被担保債権が無効・取消された場合、この抵当権は不当利得返還請求権を担保することにならないか。いわゆる員外貸付の件で問題となる。

 この点、抵当権の成立における附従性を理由に、抵当権は消滅するとする説がある。

 しかし、債務者は金員を不当利得として右金庫に返還すべき義務を負っているものというべく、結局債務のあることにおいては変わりはないのであり、抵当権もその設定の趣旨からして、経済的には、債権者たる労働金庫の有する右債権の担保たる意義を有するものとみられるから、債務者としては、右債務を弁済せずして、貸付の無効を理由に、抵当権ないしその実行手続きの無効を主張することは、信義則上許されないと解すべきである。

 附加一体物(370条)は附合物(242条)のほかに従物(87条2項)をも包含するか

 判例は、87条2項を根拠として、抵当権設定当時に存在した従物には抵当権の効力が及ぶも、設定後に附加された従物には、370条の反対解釈として効力が及ばないと解する。

 しかし、370条の附加一体物には設定後の従物も含まれると解すべきである。

 なぜなら、主物・従物の観念は、両者を同一の法律関係に立たしめ、その間に存在する経済的効用を破壊しないことが、社会経済的立場から要請されるわけであるが、主物従物の客観的結合関係が存続するにもかかわらず、これに抵当権の効力が及ばないとするのは、実際上はなはだしく不都合だからである。

 附加一体物(山林)が抵当不動産から分離された場合にも、抵当権の効力が及ぶか

 伐木が抵当地上にあるときは、抵当権者は抵当権の効力として、伐木の搬出禁止を求めることができる。

 抵当権は目的物の交換価値の直接排他的に支配している。目的物の形態は問わない。

 樹木は土地の一部であって、抵当権の効力は樹木にも及んでいる。これが伐木に形態を変えても、なお抵当権の効力は及んでいるのである。

 よって、抵当権の物に対する直接排他的支配権より、これを搬出禁止とすることができる。

 附加一体物(山林)が抵当不動産から分離され、この伐木が搬出された場合にも、これを元に戻すよう請求できるか

 この点、工場抵当法により、工場から搬出されてしまった機械を工場に戻すようにいった判例もある。

 伐木が土地上にある限りは、抵当権設定登記の公示力が及んでいるので、抵当権の効力もまた伐木に及んでいるといえる。

 しかし、これが土地の外に搬出されれば、抵当権の効力を及ぼす公示の手段がないにもかかわらず、抵当権の効力を及ぼすことになり、物件取引の安全を害することになる。

 よって、第三者は即時取得を待つまでもなく、完全な所有権を取得し、抵当権者の取り戻しを認めることはできないと解する。

 附加一体物に法定果実は含まれるか

 304条は「賃貸・・・によりて受くべき金銭」について物上代位すると規定する。

 371条は「抵当権の効力の規定は果実には適用せず」としている。

 この「果実」が法定果実を含むとすれば、両者は矛盾することになる。よってどちらを優先させるか争いがある

 抵当権は物の交換価値について直接排他的な支配権である。

 そこで、交換価値が実現した物については、抵当権の効力が及ぶのは当然である。

 賃料については、目的物の交換価値のなしくずし的実現と解されるので、抵当権の効力が及ぶとするのが妥当である。

 そして、そのように解することが、抵当権の強化の要請を充たすことになる。

 したがって、賃料については 371条の適用はなく、抵当権の実行の前後を問わず、物上代位(304条)しうることになる。

 売却代金に対して物上代位しうるか

 抵当権は物の交換価値について直接排他的な支配権である。

 そこで、交換価値が実現したものについては、抵当権の効力が及ぶのは当然である。

 他方、抵当権には追及効があるので、たとえ抵当物が他人の所有に属するようになっても、その抵当物を追及できる。

 したがって、売却代金に対しては物上代位を認める必要はないとする説もある。 しかし、304条の文言には特にこれを制限する規定はなく。物上代位は、抵当権の効力として当然に生ずるものであるから、抵当権者は両者のどちらも主張できると考える。

 法定果実に対して物上代位しうるか

 304条は「賃貸・・・によりて受くべき金銭」について物上代位すると規定する。

 371条は「抵当権の効力の規定は果実には適用せず」としている。

 この「果実」が法定果実を含むとすれば、両者は矛盾することになる。よってどちらを優先させるか争いがある

 抵当権は物の交換価値について直接排他的な支配権である。

 そこで、交換価値が実現した物については、抵当権の効力が及ぶのは当然である。

 賃料については、目的物の交換価値のなしくずし的実現と解されるので、抵当権の効力が及ぶとするのが妥当である。

 そして、そのように解することが、抵当権の強化の要請を充たすことになる。

 したがって、賃料については 371条の適用はなく、抵当権の実行の前後を問わず、物上代位(304条)しうることになる。

 保険金請求権に物上代位は及ぶか

 保険金請求権が物上代位の対象になるかであるが、この点、保険金請求権は物の滅失・毀損によって生じるものでなく、保険契約を結んで保険料を支払う対価として生じるものであることを理由に否定説もある。

 しかし、抵当権設定者は抵当不動産の担保価値を維持する義務があるから、保険金についても抵当権の効力を及ぼす意思があったものと解するのが、当事者の合理的意思解釈である。

 肯定説が妥当である。

 保険金請求権に物上代位するにおいて、抵当権者が自ら差押なければならないか

 物上代位を行使するには、それを差押さえなくてはならない(304条)。

 判例は、他の債権者に先立ち抵当権者自ら差押をなすことを要するとする。

 しかし、物上代位性は価値権たる担保物権の本質上当然のことであり、差押は目的物を特定し、債務者の一般財産に混入することを防ぐためであるから、抵当不動産に代わる物としての同一性が失われないかぎり、なお、抵当権の効力はその上に及ぶと解するを正当とする。

 したがって、抵当権者は自ら物上代位物たる請求権を差し押さえなければならないが、他の者が差し押さえた後であっても、請求権が実行される前ならばかまわないと解するべきである。

 抵当権が侵害された場合、抵当権者は特約がなくても、増担保の請求ができるか

 債務者の行為によって担保が毀滅・減少したときは期限の利益が喪失し(137条2号)、残存担保物について抵当権を実行し得る。

 しかし、抵当権者にとって増担保をとって法律関係を維持した方が、抵当権実行を強制されるより有利である。

 そこで、当事者の合理的意思の推測により黙示の増担保契約を認め、債務者に増担保請求を認めるのが妥当である。

 法定地上権を排除する特約は有効か

 法定地上権の制度は、(1) 当事者の通常の意思、(2) 社会経済上の不利益の防止、から認められた制度である。

 すなわち、土地及び建物の所有者がその一方のみに抵当権を設定した場合、彼はこの抵当権が実行されたときには地上権を設定する意思があるとするのが通常である。このことは抵当権者もまた同様である。

 また、これを認めない場合は、抵当権の実行によって建物を取り壊さねばならない事態となり、社会経済上不利益である。

 法定地上権に関する規定は、社会経済上の理由に基づくものである以上、強行規定と解すべきであって、抵当権設定当事者の特約であらかじめ法定地上権の成立を排斥することはできないと解すべきである。

 法定地上権と不動産登記

 法定地上権が成立するためには、土地と建物とが同一人の下にあることを要件とするが(388条)、これには、単に所有権があるというだけでなく登記まであることを要するであろうか。

 388条は当事者の通常の意思を推測したものであるので、その登記名義が誰であろうと、真に所有権を有している限り、当事者の意思に何ら支障をきたすものではない。

 この場合も法定地上権を認めるのが当事者の通常の意思に合致するし、そのように解するのが社会経済上の不利益を防止することになる。

 ただ、登記名義と所有権が一致しないことによって、第三者に不測の損害をおよぼすおそれがある。

 しかし、土地につき抵当権を取得しようとする者は、現実に土地をみて地上建物の存在を了知しこれを前提として評価するのが通常であり、競落人は抵当権者と同視すべきものであるから、格別の不利益をもたらさない。

 更地に抵当権設定後に建物が建築された場合の法定地上権の成否

 更地に抵当権を設定し、その後に建物を建てた場合には法定地上権は成立しないと解する。

 なぜなら、抵当権者は更地として評価したのに、後に築造された建物のために地上権の制限を受けるときは、担保価値が下落して、不当の損害を被るからである。

 さらに、抵当権者との間に建物を建築する合意があった場合でも、法定地上権は成立しないと解する。

 なぜなら、競売の買受人は他人の行為によって地上権を負担せしめられる理由はないから、かかる合意は買受人に対して効力がないからである。

 抵当権設定後、建物(非堅固)が滅失し、新建物(堅固)が再築されたときの法定地上権の内容・存続期間

 抵当権設定当時に建物が存在すれば、後にその建物が滅失して再築されても、法定地上権の成立をさまたげない。

 ただし、その地上権の内容は、旧建物その他抵当権設定当時の事情を斟酌して定めるべきである。

 なぜなら、設定当時の建物の存在が担保価値算定の基礎となっているから、その時点で予想もしなかったような内容の法定地上権が成立するのは抵当権者に不測の損害をもたらすことになるからである。

 混同と法定地上権

(1) 借地権者が建物を所有しているときに土地の上の抵当権が設定され、土地所有者が後にその建物を取得した場合

 この場合には 179条1項但書の例外によって借地権は消滅せず、この借地権が抵当権者に対抗し得るかが問題となる。

(2) 借地権者が建物の上に抵当権を設定した後に土地所有権を取得した場合

 反対説もあるが、(1) と同じ理由で不成立。

(3) 土地所有者が、借地上の抵当権の負担のある建物を取得した場合

 やはり反対説もあるが、(1) と同じ理由で不成立

(4) 借地権者が、抵当権の負担のついた敷地所有権を取得した場合

 (1) と同じ理由で不成立

 要するに、法定地上権は「自己借地権」が認められない現行法の下で、潜在化しており、抵当権実行の結果、その利用権が顕在化する必要がある場合に限って認めればよいわけで、約定の利用権があるなら法定地上権は不必要ということ。

 共有と法定地上権

 602条の期間を超える賃貸借は保護されないか

 借地法2条と短期賃貸借の保護

 期間の定めなき賃貸借の保護

 建物買取請求権と短期賃貸借

 短期賃貸借の公示は仮登記でもよいか

 建物保護法1条や借家法1条の対抗要件が短期賃借権の公示となるか

 抵当権者はいかなる場合に抵当権侵害として、いかなる法的手段を採り得るか。

(1) 物権的請求権

(2) 追及力と対抗力

(3) 物上代位

(4) 損害賠償請求

(5) 増担保請求

(6) 期間の利益の喪失

 損害賠償額算定及び請求権行使の時期

 所有者の損害賠償請求と抵当権者の損害賠償請求との関係

 共同抵当の一部放棄

 共同抵当の目的物の一部が債務者以外の第三者(物上保証人・第三取得者)の所有に属する場合にも 392条2項による代位が認められるか

 譲渡担保の有効性

 かっては、譲渡担保は虚偽表示として無効だとの説もあった。

 しかし、譲渡担保においては所有権の移転は仮装ではなく、ただ債権者が担保の目的にのみこれを処分すべき義務を負うにすぎないから、一種の信託的所有権譲渡として有効である。

 また、占有改定による質権設定、及び流質契約の禁止の脱法行為であり無効とする説もあった。

 しかし、質権の形式をとるならともかく、動産抵当たる性質を有する譲渡担保について占有改定の禁止の規定が適用されるべきでないし、流質契約の禁止も、具体的に流質の実態をもっていた場合に、暴利行為の有無を審査して、債務者の保護を図ればよいのだから、脱法行為とするのは妥当ではない。

 譲渡担保の法的構成

 譲渡担保には、清算型と流質型とに区分される。そのどちらかであるかは当事者の意思に基づく。

 譲渡担保は、法律的形式上は、目的物の所有権は担保権者に帰属し、設定者の許では無となるけれども、譲渡担保が担保の目的である結果として、実質的には、担保権者は、被担保債権額の範囲内で、目的物の価値を支配するだけで、その額を超える目的物の価値は、なお設定者に保留されていると解すべきである。

 判例も、譲渡担保は担保としての実質を有するものであり、特約のない限り、清算型と認定しようとする。

 さらに、不動産の譲渡担保については、債権者の目的物の引き渡しないし明け渡しの請求は、債務者への清算金の支払いと引き換えにのみ認容されるとされるべきものと解される。

 集合物譲渡担保

 譲渡担保の即時取得

 仮登記担保設定後、目的物につき賃借権等の設定を受けた者は 395条の保護を受けるか

 所有権留保の法的構成

 目的物につき代金を完済し、引渡も受けた転得者をいかにして保護するか

 
 

債権総論

 
   種類債権と特定物債権どのように区別するか

 特定物債権とは、具体的取引において、当事者が物の個性に着眼して債権の目的物を決したものである。目的物の客観的性質によるものではなく、当事者の主観的意思に基づいて決せられる。

 種類債権と特定物債権を区別することにどのような意味があるか

 両者を区別する実益は、債権の効力について現れる。具体的には、まず、特定物債権においては、債務者は善良なる管理者の注意義務を負うことになる(400−403条)。債務者がこの保管義務を尽くす限り目的物を「現状」のまま、その物の存在した場所で引き渡せば足りることになる(483・484条)。

 また、危険負担においても異なった効力を生じる。すなわち、種類債権においては、その種類に属する物が消滅しない限り履行不能とはならず、債務者はその債務に拘束され危険を負担し続けなくてはならない(534条)、但し、種類債権が「特定」すれば、以後は債権者が危険を負担する(534条2項)。

 これに対して、特定物債権においては、最初から債権者が危険を負担する(534条1項)。

 最後に、解釈論として、種類債権は、瑕疵担保責任(570条)の規定の適用があるか否かが争われている。

 取立債務において、種類債権の「特定」に必要な行為

 401条2項は種類債権は特定されることによって特定物と扱われ、特定の要件として「債務者が物の給付をなずに必要な行為を完了し」又は「債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したとき」を挙げている。

 では、債務者が物の給付を為すに必要な行為を完了するためには、物の提供のみで足りるであろうか。

 目的物を分離しておかなければ特定の効果は生じないと解する。

 401条2項の「物の給付をなすに必要な行為」とは、種類債権に特定を生じさせ、以後法律関係をその物に集中させるに必要な行為である。

 よって、他の物と識別が可能であることを要することになる。

 したがって、目的物を分離しておくことを要するとするのが妥当である。

 制限種類債権と選択債権はどのようにして区別するか

 制限種類債権とは、引き渡すべき物の種類を一定範囲に制限した債権である。

 他方、選択債権とは、数個の給付中選択によって定まる一個の給付を目的とする債権をいう。

 制限種類債権も、種類債権であるから、一定範囲に属する物であれば、どのような物を引き渡されても利害が生じないのが制限種類債権であり、債権者が給付可能な数個の物の個性に着目したのが選択債権である。

 相手方の所有する土地の中から一定の面積の土地の贈与を受くべき債権について、かって判例はこれを制限種類債権としたが、種類債権が選択権者の選択をまたないでは、目的物を決定し得ないとすることは種類債権の性質に反する。

 この場合は、土地の個性に着目したものであるから、選択債権と解すべきである。

 制限種類債権と選択債権を区別することはいかなる意味を持つか

(1) 目的物の特定方法が異なる。

 制限種類債権は当事者の合意、あるいは401条2項(物の給付を完了し、又は債権者の同意を得て、物を指定したとき)によって特定する。他方、選択債権は選択権行使により特定するが、この選択権は原則的に債務者が有する(406条)。債務者が選択権を行使しないときは、債権者に選択権が移転する(408条)。

(2) 選択債権においては、目的物が滅失した場合には残存する物について特定を生じるが(406条)、制限種類債権は、残存する物について特定を生ずるわけではない。

(3) 410条2項によれば、選択権がない債権者の過失で給付不能になった場合、選択権がある債務者は給付不能となった物を選択して債務を実質上免れることができる(選択権者たる債務者の保護)。

 任意に支払われた利息制限法所定の利息を超える利息の元本充当、あるいは返還請求は認められるか

 利息制限法所定の利息を超過する場合、同条1項は「超過部分につき無効」と定める。他方、同条2項は「任意に支払ったときは・・返還請求できない」と定める。この矛盾した規定をどう理解するか判例の変遷があった。

(1) 制限超過利息の支払い部分は 491条により残存する元本に充当され、その結果元本が減額していく。

(2) 超過利息の元本充当により元本が完済された後も債務者が利息の支払いを継続した場合には、超過利息を不当利得返還請求できる。

(3) 元本と利息を一括払したとき「特段の指定」のない限り元本に充当され、制限超過利息の返還請求は認められる。

 なぜなら、元本完済により債務が存在しなくなれば、これを債権者が保留すべき理由はなく、2項の規定は元本の存在を前提とした規定であると解すべきだからである。

 安全配慮義務の法的性質およびその内容についてどう考えるべきか

 安全配慮義務とは、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上一般的に認められる義務である。

 具体的には、雇用契約等において、「債務の本旨」に右安全配慮義務を認められるかが問題となる。

 債務関係にたった当事者は、そこから給付義務を負うことになるが、さらにこれに付随する義務を負うものと解される。この義務違反をもって債務不履行責任(積極的債権侵害)が生じることになる。 安全配慮義務はこの積極的債権侵害の一形態として「債務の本旨」に含まれると解される。

 履行補助者の行為に対する債務者の責任はいかなる要件のもとに認められるべきか

 使用者の過失も債務者の過失と同視し得るとして債務者に責任を負わせるのが公平である。

 思うに、債務者は履行補助者を使用することにより、自己の活動を補充・拡張することにより利益を得ているので、その反面履行補助者による危険も自ら負うべきであり、そのように解すること公平である。

 そこで債務者自身の帰責事由と同一視すべき立場にある者の過失については、なお債務者の過失と解すべきである。

 承諾ある転借人の過失について賃借人は責任を負うか

 判例は、家屋賃貸借の転借人の過失行為について、たとえ賃貸人の承諾があっても(なくても)賃借人は責任を負うとする。

 しかし、賃貸人が転貸について承諾したならば、転借人は、賃借人から独立して家屋を利用する地位にあるから、転借人の過失について、賃借人は責任を負うべきでない。

 債務不履行責任の効果としての損害賠償の範囲はどのような基準で決定されるか

 債務不履行と因果関係をもつ損害をすべて賠償させるとするなら、その範囲が広範になりすぎて損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨に反する。

 そこで、そのような債務不履行があれば社会の経験則にてらして、一般に生じるであろう損害に限り損害賠償義務を認めたと解するのが公平である。

 416条1項は、損害賠償の範囲を相当因果関係によって画するという一般原則を表明した規定ということになり、通常の事情と相当因果関係にあると認定された損害を賠償することになる。

 次に、同条2項は、特別の事情から生じた損害について当事者がその事情を予見していれば、その事情と相当因果関係にあると認定された損害を賠償することになる。

 損害賠償額を金銭に評価する場合、どの時点が基準になるか

 損害賠償制度は損害の公平な分担を図るため認められたものである。

 したがって、どの時点を基準として計算するかは、公平の観点から決すべきである。

 とすると、責任原因の発生の時、すなわち、損害賠償請求権発生の時を標準とするのが公平であり、その後の損害は特別事情によって生じた損害として、債権者の挙証と債務者の予見可能性を条件として、賠償額に算入されるべきものと考える。

 この基準は、債務不履行や履行不能に限らず、解除や不法行為においても同様である。

 第三者の債権侵害によって不法行為(709条)が成立するのはどのような場合か

 不動産賃借権に基づいて妨害排除請求権が認められるか

 物権は、物に対して有する直接・排他的支配である。

 これに対して、賃借権は賃貸人に対して物を使用収益できるように要求する権利であり、その性格は物権ではなく債権である。したがって、本来は第三者に対して権利を主張し得るものではない。

 しかし、不動産の賃借権に限り、登記をすれば公示の要請が充たされるので、物に対する排他的支配が認められている(605条)。これにより他人の手をかりることなく、誰に対しても権利を主張し得る。

 債権者代位権の存在理由をいかに解すべきか

 近代法においては、債権内容の強制的実現は、結局債務者の財産に対する強制執行に帰するから、債務者の財産は、総債権者の共同担保をなすものである。

 したがって、債務者の財産状態のいかんは、直接債権そのものの価値に影響するところが大きい。

 そこで、民法は、債務者がその財産の減少を防止する処置を講じない場合に、債権者が債務者に代わってこれを講じ、また、債務者が故意に財産を減少する行為をなす場合に、債権者がその行為の効力を否認して財産を取り戻し得るものとして、債務者の一般財産の保全を図った。 前者が債権者代位権であり、後者が債権者取消権である。

 債権者代位権の無資力要件は特定債権の場合にも適用されるか

 423条は「債権を保全するため」との要件を規定する。

 債権者代位権は、総債権者のために、その共同担保である債務者の一般財産を維持することを目的とする制度であるから、「債権を保全するため」とは債務者が無資力であることが必要と解される。

 しかし、債権者の被保全債権が特定債権であった場合は、金銭債権の場合とはことなり、債務者の一般財産から弁済を受けて満足を得るという性質のものではない。

 したがって、この場合は債務者が無資力であることを要しないと解すべきである。

 金銭債権の保全が目的であっても債務者の無資力を要件としない場合はあるか

 判例は、「買主に対する登記移転義務を相続した共同相続人の一人が右義務の履行を拒絶しているため、買主が、相続人全員による登記義務の登記義務の移転があるまで代金全額について同時履行の抗弁権を行使している場合には、他の相続人は、各自の代金債権を保全するため、右買主が無資力でなくても、買主に代位して、登記移転を拒否している相続人に対する登記移転請求権を行使することができる」としている。

 自動車事故の被害者が損害賠償請求権保全のため、加害者の保険金請求権を代位行使できるか

 債権者代位権は、債権者の共同担保たる債務者の一般財産の維持・保全を目的とする制度であると解される。

 したがって、「債権を保全するため」とは、債務者が無資力であることを要すると解される。

 被害者の損害賠償請求権も金銭債権であるため、その実現も債務者の一般財産によって行われるべきものである。

 したがって、被害者の救済という点で、結論には疑問はあるが、加害者の無資力なくしては、保険金請求権への代位権の行使は行えないと解さざるを得ない。

 代位債権が引き渡しを内容とする権利である場合に、債権者は自己へ直接引き渡しを請求し得るか

 債権者代位権は、債権者の共同担保たる債務者の一般財産の維持・保全を目的とする制度であると解される。

 したがって、代位行使された権利は、総債権者のための共同担保たるべきものであり、債務者の一般財産に帰属するものである。

 しかし、債権者は債務者の占有代理人として第三者から直接自分に物を引き渡すよう請求してもよいと解される。

 なぜなら、代位権を行使しても債務者が第三者からの受領を拒絶した場合、その目的を達することができなくなるからである。

 この点、債権者が相殺をすれば、事実上の優先弁済を受けることになるとの批判もあるが、勤勉な債権者は利益を得る、というのは私法の原則であり、やむを得ないと考える。

 詐害行為取消権の存在理由をいかに解すべきか

 近代法においては、債権内容の強制的実現は、結局債務者の財産に対する強制執行に帰するから、債務者の財産は、総債権者の共同担保をなすものである。

 したがって、債務者の財産状態のいかんは、直接債権そのものの価値に影響するところが大きい。

 そこで、民法は、債務者がその財産の減少を防止する処置を講じない場合に、債権者が債務者に代わってこれを講じ、また、債務者が故意に財産を減少する行為をなす場合に、債権者がその行為の効力を否認して財産を取り戻し得るものとして、債務者の一般財産の保全を図った。 前者が債権者代位権であり、後者が債権者取消権である。

 詐害行為取消権の法的性質をいかに解すべきか

 詐害行為取消権は、債務者がその一般財産を減少する法律行為をなした場合に、債権者がその行為の効力を否認して減少した財産を回復することをその内容とする権利である。

 しかし、その本質を詐害行為の否認にありとするか、詐害行為によって逸失した財産の取戻にありとするか、もしくは両者の結合したものにありとするかによって、詐害行為取消権の法的性質への理解がことなる。

 詐害行為を相対的に取り消し、かつ逸失財産の返還請求を目的とする折衷説が妥当である。

 なぜなら、詐害行為は取消すと解することが文理に最も適合するが、これのみでは、制度の目的を達成することができないので、逸失財産の返還もまた詐害行為取消権の内容をなすと解すべきだからである。

 債権の発生と詐害行為との時間的順序

 被保全債権は詐害行為の前に成立していなければならない。

 なぜなら、詐害行為後発生した債権の債権者は、その行為により新たに害されるという関係にないからである。

 債権が履行期にあること及び債権額が確定していることは必要か

 詐害行為取消権の趣旨に照らすと、詐害行為前に発生した債権であれば、履行機が未到来でも、債権額が不確定であったとしても、詐害行為によって債権者が害されることは変わりがなく、また債権保護の必要性もあるから、取消権を行使できると解されている。

 詐害行為後債権譲渡があったとしても、その譲受人が取消権を行使できるのも同様の趣旨である。

 詐害行為取消権の被保全債権は金銭債権であることを要するか

 詐害行為取消権は、詐害行為によって消滅・逸失した債権者の共同担保である一般財産の維持・保全を目的とするものであるから、保全債権は金銭債権であることを要する。債務者の一般財産の維持。保全に意味があるのは金銭債権であると考えられるからである。

 しかし、特定債権といえど、これが履行されないと損害賠償請求権に変ずるのであるから、債務者の処分行為によって、損害賠償請求権をも受けることができなくなる場合には、右債権を保全するため、詐害行為取消権を行使し得ると解される。 この場合、保全されるのはあくまで金銭債権たる損害賠償請求権であるから、処分行為によって譲渡された目的物を自己に引き渡すよう要求することはできない。

 「害意」の意味

 この害意とは、債権者を害することを知っていたことで足りるとする説もあるが、債権者取消権の制度は、債務者が信義誠実義務に違反して、債権者の担保を減少させる行為をした場合に初めて、債権者の干渉を認めるものであるから、単に詐害の認識だけでなく、誠実義務違反の認識を必要とすると解される。

 したがって、債務者が浪費または隠匿する意志で売却する場合は、差が以降意となるが、債務弁済の意志で売却する場合は、詐害行為とならない。

 一部の債権者に対する弁済は詐害行為となるか

 「債権者を害する」とは、債務者の消極財産の総額が積極財産の総額を上回ることを意味する(客観的要件)。

 そして、詐害行為の成否は、債務者・受益者の害意(主観的要件)を併せ考慮して判断する必要があると解される。

 本来、弁済は客観的には「債権者を害する」ことにはならないはずであるが、債務者・受益者の主観のいかんによっては詐害行為となりうると解される。

 債権者への担保供与は詐害行為となるか

 判例は、一部の債権者への抵当権設定等の担保供与は詐害行為になるとしている。

 担保権の設定を受けた債権者に優先弁済権が与えられる結果、ほかの債権者の共同担保となる一般財産が減少するからである。

 しかし、生活費・子供の教育費捻出のための担保供与、営業継続のため仕入れ先へした譲渡担保の詐害性を例外的に否定している。

 財産の譲渡は詐害行為となるか

 債務者が所有する財産を不当に安価な価格で譲渡することは、当然詐害行為となる。

 問題は、相当価格での譲渡である。

 判例は、不動産を譲渡して消費しやすい金銭に変えることは、たとえ相当価格であっても、担保力に違いが生じるから詐害行為になるとしている。

 受益者又は転得者の善意・悪意は詐害行為取消権の成否にいかなる影響を及ぼすか

 詐害行為取消権の目的となる行為は、どのような法律行為か

 詐害行為取消権は、債務者の一般財産の維持・保全を目的とするから、財産権を目的にする法律行為に適用される。

 しかし、身分行為は本人の人格的利益に関するものであるから、これを奪う結果となる取消権の行使は認められない。

 ただし、相続放棄について、詐害性を肯定した判例がある。

 詐害行為取消権を抗弁として行使できるか

 「取消を裁判所に請求すること」を要求されるのは、詐害行為取消権の行使が第三者に与える影響が大きいため、取消権の要件を裁判所に判断させ、かつ他の一般債権者へ公示する必要があるからである。

 したがって、ここでの裁判上の請求とは、訴訟によることを意味し、抗弁をもってなすことを得ないと解すべきである。

 期間の制限はなぜ存在するか。また、その性質は何か

 426条は、詐害行為取消権の行使が第三者に与える影響が大きいため、一定期間の経過とともにもはや取消し得ないとすることによって取引の安全を図る趣旨である。

 2年の短期消滅時効と20年の除斥期間との二重期間規定となっている。

 詐害行為取消権の取消の範囲

 詐害行為取消権は、詐害行為によって生じた債務者の一般財産の減少を防ぎ債権の満足をうることを目的とするものであるから、その取消の範囲もそれに必要な限度に限られる。

 詐害行為の目的物が可分である場合は、債権保全に必要な範囲で、その一部を取消すべきである。

 では、目的物が不可分の場合はどうなるか。全部取消が可能か、価格賠償に限られるか争いがある。

 全部取消が可能とする説もあるが、債権者の損害を救済するに必要な限度にとどめられるべき取消権の趣旨からみて不当である。

 債権者は、一部取消の限度において、財産の回復に代え価格の賠償を請求すべきと解される。

 詐害行為の目的たる不動産上に抵当権が存在し、その被担保債権が取消債権者の債権に優先する場合

(1) 債務者が取消権者以外の債権者のために抵当権を設定している不動産を第三者に譲渡した場合には、抵当権付きのままで現物返還させても、問題ない。

(2) しかし、債務者が不動産の売買と同時に代金の一部で抵当債権を弁済し、抵当権の当期を抹消したうえで、移転登記をした場合には、抵当権のない不動産として回復を請求することは、原状回復の域を超えるから、価格賠償のみを許すべきである。

(3) 抵当債権者自身に代物弁済として譲渡した場合には、抵当権を復活させて、現物返還を認めるべきであるが、その不動産がさらに譲渡されて、転得者を生じたときは、取消の効果の及ばない受益者の抵当権を復活させることはできないし、また抵当権のない不動産をそのまま現物返還させることは原状回復の域を超えるから、価格の賠償を請求するほかないと解される。

 詐害行為取消権の行使によって、債権者への直接引き渡しはみとめられるか

 取消によって得られた物は、債務者の一般財産となり、総債権者はこれから平等の割合をもって弁済を請求することを得べく、取消債権者がその上に優先弁済権を取得するのではない。

 したがって、取消債権者は、自己への直接引き渡しを請求する権利を取得するものではない。

 しかし、判例は、目的物の受領を債務者が拒絶した場合、処置に窮することを理由として、目的物を債権者に直接引き渡すことを認めている。

 これによって、取消債権者が債権の目的物と同一のもの、ことに金銭を自己に直接引き渡せた場合には、債務者に対する引き渡し義務と自己の債権とを相殺することによって、事実上優先弁済をうけることになってしまう。

 なお、受益者は、債務者に対し債権を有する場合でも、詐害行為取消訴訟においてその按分額に付いて支払いを拒絶することはできない。

 425条の意義

 425条の趣旨は、(1) 取消権は、債務者の一般財産の維持・保全を目的とする制度であること。(2) 取消の効果として、債権者が優先弁済権をもたないこと。以上の二点を表明したものと解される。

 しかし、現実にはこの趣旨は生かされているとはいいがたい。

 これについて、さまざまな試みがなされているが、現行法上、勤勉な債権者が利益を得るのは仕方のないことといえる。

 連帯債務者の一人が死亡し、連帯債務が共同相続された場合、その債務は各相続人にどのように帰属するか

 不真正連帯債務者相互間の求償関係はどうなるか

 連帯債務の場合、各債務者は主観的に共同の目的によって連結せられている。したがって、債務者相互間には負担部分が存在し、その結果弁済をなした債務者と他の債務者との間に求償の問題が生じる。

 他方、不真正連帯債務の場合、各債務者に主観的共同がなく、負担部分が存在しないため求償の問題も生じないとなるのが建前である。

 しかし、公平の見地から、不真正連帯債務であっても求償権を認める必要がある場合もある。

 715条3項の求償権は法が明文で認めた不真正連帯債務の求償権であり、判例も共同不法行為者間で求償権を認めたものもある。

 保証人の責任の範囲は、契約解除による原状回復義務(545条1項)にも及ぶか

 契約の解除による原状回復義務及び損害賠償義務が保証債務の担保する範囲に含まれるかについては争いがある。

 この点、損害賠償義務はともかく、原状回復義務は、主たる債務が契約解除によって消滅した結果生じる別個独立の法律上の義務であって、主たる債務に従たるものではないから、保証人の責任はないとする説もある。

 しかし、保証契約は、普通には債務者の契約当事者として負担する一切の債務を負担する趣旨であると解すべきであるから、解除における原状回復義務と損害賠償義務の性質論に拘泥することなく、保証人は、原則としてこれらの債務を保証すると解すべきである。

 主たる債務者が取消権を有する場合、保証人はこれを行使することができるか

 保証人が主たる債務者の有する取消権を行使し得るか。保証人は120条の取消権者に含まれていないので、問題となる。 確かに、これを根拠に否定する説もあるが、しかし、もし主たる債務者が取り消したときは、保証債務も遡及的に消滅するのだから、主たる債務者が取り消すかも知れぬ間に、保証人に無条件に履行をなさしめることは、保証人に酷であり、保証債務の附従性にも反する。

 したがって、主たる債務が取り消されるかどうか不確定の間、履行拒絶権を認め、保証人の保護を図るのが妥当である。

 449条は、取消原因が詐欺・強迫の場合にそれを知って保証したときも適用されるか

 保証債務は、主たる債務に附従するものであるから、主たる債務が取消されて消滅すると、保証債務も消滅するのが原則である。

 449条は、保証人の合理的意思の推測による例外規定にすぎない。

 よって、本条の適用は無能力の場合に限定され、詐欺・強迫の場合には適用がないと解される。

 なぜなら、詐欺・強迫をなした債権者の帰責性が高いにもかかわらず、本条の適用を認めて、保証債務を有効にすると、債権者を不当に保護することになるからである。

 保証人が主たる債務者の引き渡し債務の目的物(不動産)の所有者となった場合

 保証債務は、主たる債務と同一の内容を有する。

 したがって、主たる債務は原則として代替的給付を内容とすることを要する。不代替的給付を目的とする債務について保証をなした場合には、主たる債務が不履行によって損害賠償債務に変ずることを停止条件として保証をなしたものと解すべきである。

 しかし、特定物を給付する債務のように、普通には主たる債務者だけが実現し得るものであっても、何らかの事情によって他の者もまたこれを実現することが可能である限り、かかる債務についても普通の保証債務の成立を認めることができる。

 本問の場合でも、保証人は当該不動産の所有権を移転すべき義務があると解される。

 保証人が時効の利益を放棄した後、主たる債務者がこれを援用した場合、保証人は改めて時効の援用ができるか

 信用保証における保証債務において、保証人が解約できるのはどのような場合か

 信用保証における保証債務は相続の対象となるか

 賃借人の債務の保証はどのような特徴があるか

 身元保証契約にはどのような特徴があるか

 466条2項但書の第三者の保護要件は善意のみでよいか

 譲渡禁止の意思表示は、これをもって善意の第三者に対抗できない(466条2項但書)。

 これは、善意でその債権を譲り受けた第三者に、不測の損害を与えないためである。

 この「善意」には無過失を要するとの説もある。

 債権は譲渡性を有するのが建前であるから、特約によって譲渡性を奪っても、依然として譲渡性を有するかのごとき外観を呈する。この外観を信頼して行動した者の方が、例外的なことをした者よりも優遇されるべきである。

 したがって、466条2項但書の「善意」は無重過失を要すると解される。善意の第三者は軽過失があっても保護されるというべきである。

 譲渡禁止特約付債権の悪意の譲受人への譲渡および追認の効果

 債権は、本来譲渡性を有するものであるが、債権者と債務者との特約によって、これを譲渡し得ないとすることができる。 この譲渡禁止の特約の法的性質については、債権的効力を規定したものにすぎないと解する説もあるが、法が466条2項で特に特約の有効性を規定したのは、単に当事者間に債権的効力を生ぜしめる以上の強い効果を付与する趣旨と解すべきである。

 よって、この特約は物権的効力を生じ、特約に違反して譲渡した債権者の義務違反を生じるばかりでなく、譲渡自体を無効ならしめると解すべきである。

 したがって、たとえ債務者が追認したとしても、譲受人が悪意・重過失ならば、本来この譲渡は無効となるはずである。

 しかし、債務者の追認のある場合にまで、譲渡禁止の効果を貫徹させることは実益がない。当事者の合理的意思解釈により、この譲渡は当初に溯って有効となると解すべきである(判例)。

 譲渡禁止特約のある債権を差し押さえて、転付命令を得ることができるか

 差押債権者が転付命令を取得したときに、善意である場合に限り、その転付命令は有効であるとする説もある。

 しかし、法が特に明文をもって、債務者の一般財産中差し押さえることができないものを定めているにもかかわらず、私人の意思表示によって、差し押さえることを得ない財産を作ることは許されるべきでない。

 したがって、転付命令によって債権が移転する場合には、差押債権者が善意なると悪意なるとを問わず、その債権は当然に移転するものと解すべきである。

 債権の二重譲渡において、確定日付ある通知が債務者に同時に到達した場合に譲受人間に優劣があるか

 債権譲渡において、確定日付のある通知が対抗要件とされているのは、債務者の認識をもって譲渡の公示とするためである。そして、確定日付を要求するのは、譲渡人と債務者の通謀によって譲渡の日付を溯らしめ、第三者の権利を害することを防止するためである。

 したがって、対抗要件の優劣は債務者の認識すなわち到達時の先後によって決せられるべきである。

 では、通知が同時に到達した場合はどうなるか。この点、判例は、各譲受人は債権の全額を請求し得るとする。

 しかし、わたしは、この債権は分割債権となり、債務者は当該債権を債権額に按分して履行する義務を負うと考える。

 なぜなら、多数当事者の債権関係は分割債権が原則であり(427条)、また、債務者は債権の実現に対する負担について責任を負わなければならない立場にあるからである。

 債権譲渡の異議なき承諾の法的性質

 この点、新たな債務の承認と解する説もある。

 しかし、これは法律が譲受人を保護して、債権譲渡の安全を保障するために、債務者の意義を留めない承諾という事実に、公信力を認めたものである。

 債権譲渡の異議なき承諾の相手方は誰か

 異議なき承諾の法的性質を、新たな債務負担の意思表示と解する立場からは、債権の譲受人に対して行われることを要することになる。

 しかし、これを公信力を付与する行為とみる説からすると、必ずしも債権の譲受人に対して行う必要はなく、債権の譲渡人、すなわち債権者に対して行ってもよいことになる。

 債権譲渡の異議なき承諾の譲受人の保護要件は何か

 468条の規定は、法律が譲受人を保護して、債権譲渡の安全を保障するために、債務者の意義を留めない承諾という事実に、公信力を認めたものである。 

 したがって、本条の規定は、譲受人の信頼を保護して債権譲渡の安全を保護しようとするものであるから、保護される譲受人は善意・無過失の者に限るべきである。

(判例は、善意は要求するが、無過失までは要求しない)

 さらに、その譲受人から債権を譲り受けた転得者が悪意であっても、債務者は譲渡人に対抗し得た事由をもって、転得者に対抗できない。

 また、譲受人が悪意であったとしても、転得者が善意・無過失であるときは、債務者は転得者に対抗することができないとするべきである。

 異議を留めない承諾の後、債権が解除によって消滅した場合

 抗弁事由は承諾前に存在することを要するか、あるいは承諾後発生した事由も含まれるか。

 未完成部分の請負報酬請求権を譲渡が譲渡され、異議を留めない承諾の後、右請負契約が解除された場合、この解除は抗弁事由となるか。抗弁事由は承諾前に存在したものに限られるか否かが、問題となる。

 抗弁事由とは、債務の成立・存続・行使を阻止する事由と解される。

 そして、468条1項の文理上は、抗弁事由は承諾の以前に存在していることを規定しているが、抗弁事由は、通知・承諾以前に確定的に発生していることまでは要しないが、抗弁に至るべき原因が存在していることを要すると解される。

 消滅した抵当権付債権が第三者に譲渡された場合、債務者が異議なき承諾をしたときは、債権とともに抵当権も復活するか。

 この点、判例は債務者に対する関係でのみ復活するとした。そして債務者との関係においても、債権が消滅した場合と、最初から不存在の場合とにわけ、後者の場合には復活しないとする。

 しかし、消滅と不存在とを区別すべき論理的根拠はない。

 債務者に対する関係では、抵当権が復活すると解するのが妥当である。

 また、異議なき承諾の後に抵当権を取得するにいたった者に対しては抵当権の復活を主張し得る。なぜなら、彼は復活する抵当権の存在を覚悟すべきだからである。

 しかし、異議なき承諾のある前に、新たに目的不動産につき利害関係を取得した第三者に損害を被らしめることは許されるべきでないから、かかる第三者に対しては抵当権の復活をもって、対抗し得ないものと解するのが妥当である。

 賃貸人の地位の移転には、賃借人の承諾は必要か

 賃貸人の地位の移転は、契約上の地位の譲渡の一類型である。

 契約上の地位の譲渡は、個々の債権の譲渡と個々の債務の引受とが併存すると解すべきでなく、債権と債務は合して、一個の契約上の地位を構成し、その地位の譲渡があるものと解すべきである。

 その譲渡は、三面契約によってなされれば、もちろん有効であるが、契約一方の当事者と譲受人との間の契約によっても、他方の当事者の承認を条件として、効力を生じると解するのが妥当である。

 したがって、賃貸人の地位の移転も、賃借人の承認を条件として生じると解すべきはずである。

 しかし、判例は賃貸人の義務は賃貸人が何人であるかによて履行方法が特に異なるわけでなく、むしろその義務の承継を認める方が賃借人にとって有利であるから、賃借人の承認は不要と解している。

 弁済の提供(現実の提供・口頭の提供)の制度趣旨

 弁済の提供とは、債務の履行について債権者の協力を必要とする場合に、債務者の側において弁済のために自らなしうるだけの行為をなすことをいう。

 弁済の提供は「債務の本旨に従いて」なされることを要する(493条・415条)。提供が債務の本旨に従うものかどうか具体的に決定するには、取引の慣行を考慮し、信義誠実の原則によって判断するべきである。

 提供には現実の提供と口頭の提供とがある。両者は債務者が弁済のためになすべき準備の程度による区別であって、前者は、受領という債権者の協力さえあれば履行を完了し得べき場合において、債務者のなすべき弁済の準備であり、後者は受領以外にもまず債権者の協力がなければ履行を完了し得ない場合において、債務者のなすべき弁済の準備である。

 弁済の提供の効果

 弁済の提供は「その提供の時より不履行によりて生ずべき一切の責任を免れしむ」(492条)。すなわち

(1) 損害賠償、遅延利息、違約金の請求を受けない。

(2) 双務契約においては、解約をされない。

(3) 約定利息も発生しない。

 債務者が口頭の提供もしなくてよい場合あるか

 債権者が受領拒絶の意思が強固で、翻意の可能性もないとき、債務者に口頭の提供を要するとした場合、現実の提供は無意味であり、かえって不誠実な債権者に不当な口実を与えることになってしまう。

 よって、そのような場合には、493条の口頭の提供も不要と解さなくてはならない。

 弁済の提供のほかに受領遅滞が定められたのはなぜか

 受領遅滞の法的性質

 債権はあくまで権利であり、義務ではない。したがって債権者に給付受領義務を認める余地はなく、義務違反は生じないのだから、債務不履行責任を負うことはない。

 しかし、それでは債務者に酷であるから、法が、公平の見地から信義則に基づいて、債権者に責任を認めた。これが受領遅滞である。

 この点、債権者に受領義務を認め、受領遅滞も債務不履行責任の一つであるとの説もあるが、413条は受領遅滞に帰責事由を規定していないので、妥当ではないと考える。

 債権の準占有者への弁済について、弁済者に無過失まで要求されるか

 478条の条文が「善意」としか規定していないことを理由に、善意で足りるとする説もある。

 しかし、弁済者には善意のほか無過失まで要求されると解される。

 なぜなら、478条は、真実の権利者の犠牲のもとに準占有者を権利者と信じた弁済者を保護する制度であるので、過失ある弁済者を保護するのは公平に反する。 また、478条と同趣旨の480条は明文で無過失を要求していることとの調和を図るべきだからである。(判例同旨)

 なお、この弁済が有効とされ、債務が消滅した場合、準占有者に故意・過失のあるときは、債権の侵害として不法行為が成立する。

 478条の「債権の準占有者」には自称代理人まで含まれるか

 債権の準占有者とは、自己のためにする意思をもって債権を行使する者をいう(205条)。

 この点、代理人は「自己のためにする意思」は、有しないのが通常であるから、債権の準占有者とは自ら債権者なりと称して債権を行使したる者を意味し、自称代理人を包含しないとする説もある。

 しかし、準占有にも代理占有関係の成立を否定すべき理由がない。

 また、本人と詐称するか代理人と詐称するかによって、債務者の保護を異にする理由もない。

 したがって、債権の準占有者には債権者の代理人として本人のために債権を行使するものを含むと解すべきである。(判例同旨)

 預金契約において預金名義人と出捐者が異なっている場合、どちらが預金者となるか

 この点、預金契約には出捐者の名前が出てこないことを理由に、預金名義人を預金者とする説もある。

 しかし、預金契約において、預金払戻の受取人が誰であるかが重要なのであって、銀行は預金者が何人であるかにつき格別利害関係を有しないから、出捐者の利益を優先するのが妥当である。

 したがって、出捐者が預金者であると解される。

 定期預金の期限前払戻に478条は適用されるか

 期限前払戻は、定期預金の解約(法律行為)と金銭の払戻(弁済)という側面とがある。問題は、この二面性を有する期限前払戻が本条の「弁済」に該当するか否かということである。

 弁済に該当すると解される(判例)

 なぜなら、期限前払戻の具体的内容は、契約締結時に予め合意されており、実際上解約申入があれば払戻に応じる義務があるから、その実質的効果は、定期預金の期限到来に基づく払戻(弁済)と同視することができるからである。

 定期預金担保貸付後の相殺に478条は類推適用されるか

 この相殺にも478条は類推適用されると解される。

 なせなら、定期預金を担保として貸し付けた後相殺するという一連の行為は、全体的にみれば、期限前払戻と経済的同一性を有するものと言えるからである。

 この点、銀行は、虚偽の外観を信頼した者であるから、表見代理(110条)の規定や、通謀虚偽表示(94条2項)の規定を類推適用することによって保護するのが妥当とする説もある。

 しかし、どちらも本人の帰責性を強く要求しており、銀行の保護に欠ける。

 預金契約においては、大量取引の増加により証書と印章の確認による支払いによって債務者が免責される必要があるからである。

 預金担保貸付が不履行となり相殺が実行されたとき、478条類推適用肯定説をとった場合、弁済者の善意・無過失の判定基準時はいつか

 貸付時に善意・無過失であればよいと解される。

 なぜなら、銀行は、将来相殺することを期待して貸付するから、貸付時の銀行の信頼を保護する必要があるからである。

 偽造の受取証書の持参人に弁済した場合、480条が適用されるか

 受取証書は偽造のものでもよいとする説もあるが、それでは真実の債権者の利益が不当に害されるおそれがある。

 したがって、受取証書は真正に成立したものであることを要すると解される。

 ただ、偽造につき債権者に過失のある場合には、弁済者を保護すべきである。

 よって、受取証書は作成の権限ある者によって作成されたものでなければならないが、権限のない者が作成した場合でも、その作成について表見代理の用件を充たす場合には、また真正のものとみなすべきである。

 親子や友人などは 474条2項の第三者に該当するか

 474条2項は、「利害関係を有しない第三者」は債務者の意志に反して弁済ができない旨を規定している。

 では、この「利害関係」を有する第三者とは何を指すか。

 474条2項は、弁済に関する債務者の意思を尊重する趣旨である。

 しかし、これは法が債務免除を単独行為としたこと(519条)、ならびに債務者の意志に反する保証の成立を認めたこと(462条2項)と首尾一貫しないばかりでなく、債権の社会的作用からみてその当否が疑われている。

 かように、利害関係のない第三者の弁済を制限することに合理性がないとすれば、利害の関係を適当に広く解すべきである。

 ただ、ここにいう利害関係は、法律上の利害関係であって、事実上の利害関係を含まないと解すべきである。

 したがって、親子や友人は、この第三者には含まれないと解される。

 後順位抵当権者や一般債権者は 500条の「正当の利益」を有するか

 500条は「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」は弁済によって当然に債権者に代位する、と規定する。

 この「正当な利益を有する者」とは、第三者の弁済をしなければその債権者から自分が執行を受けるとか、または自分の権利が失われるような地位にある者と解される。

 後順位抵当権者は、弁済することによって先順位の抵当権を消滅させ、担保価値の把握を確実にするという利益を有しているので、「正当な利益」を有する。

 一般債権者についても、もし債務者が代位の目的たる財産だけを有しており、しかも、その価額が後順位の担保債権者の債権を弁済するに足らないような場合においては、右後順位の担保債権者と無担保債権者の地位とはほとんど同様であって、その間に差異を設ける理由はない。

 したがって、一般債権者もまた弁済をなすにつき正当な利益を有すると解される。

 抵当権実行により覆滅する不動産賃借人は 500条の「正当の利益」を有するか

 500条は「弁済をなすにつき正当の利益を有する者」は弁済によって当然に債権者に代位する、と規定する。

 この「正当な利益を有する者」とは、第三者の弁済をしなければその債権者から自分が執行を受けるとか、または自分の権利が失われるような地位にある者と解される。

 このような前提にたつと、抵当不動産の賃借人も「正当な利益」を有する者といえると解される。

 なぜなら、抵当権が実行されて、賃借目的物が競売された場合、賃借人が自己の賃借権を競落人に対抗できないときは、あたかも、抵当不動産の第三取得者と同じ地位におかれるからである。

 抵当権が付着している債務について保証人が一部弁済した場合、保証人は単独で抵当権を実行できるか

 弁済者が債権の一部のみを弁済したときは、一部のみについて代位を生ずる。

 この場合には、代位者は価額に応じて「債権者と共に」その権利を行う(502条1項)。

 判例は、保証人は債権を分割して行使できる以上、抵当権についても単独でこれを行使して、各自弁済した割合に応じて配当を受けることができるとする。

 しかし、かかる見解は、債権者の将来の担保権の実行を不可能ならしめ、また担保権の不可分性に反し、債権者の優先権を害するおそれがある。

 したがって、一部代位者は単独に代位した権利を行使しうるものではなく、債権者がその権利を行使する場合のみ、「債権者と共にその権利を行う」ことをうべく、かつ、この場合にも弁済については債権者に優先せられると解することが、代位弁済制度の目的からみて妥当である。

 保証人が「予め」代位の付記登記をしなければならない(501条但書)ことの意味

 法が付記登記によって公示を要求したのは、第三取得者を保護し取引の安全を図るためである。

 したがって、保証人は、かれが弁済する前に、担保不動産を取得した第三者に対しては、付記登記なくして代位を主張しうると解される。

 なぜなら、この第三取得者は、登記簿上債権及び担保物権の存在を確認し得べく、その担保権の実行を覚悟すべきものであるから、後に保証人に代位されることによって不測の損害を被るものではない。

 また、かかる場合に保証人に対して弁済する前に代位登記をなすべきことを要求することは、実際上も無理だからである。

 保証人が物上保証人を兼ねる場合、弁済による代位の割合はどうなるか

 保証人と物上保証人との間においては、その頭数に応じて債権額を分かち、その範囲で代位することができる(501条5号1項)。

 保証人が物上保証人を兼ねる場合には、一人として頭数を計算すべきであるとするのが妥当である。

 なぜなら、それぞれが担保する目的は、同一の主たる債務なのだからである。

 保証人と物上保証人の間で501条但書5号所定の代位の割合とことなる特約を結んだ場合、この効力を第三者に主張できるか

 債権が対立する場合でなくても相殺することのできるのはどのようなときか

(1) 第三者の有する債権で相殺できる場  合

 相殺者が・・・

 1) 連帯債務を負う場合(436条2項)

 2) 保証債務を追う場合(457条2項)

(2) 第三者に対する債権で相殺できる場  合

 1) 連帯債務者の一人が弁済し、他の  連帯債務者に求償する場合(443条  1項)

 2) 保証債務を弁済して主たる債務者  に求償する場合(463条1項)

 3) 譲渡通知前の反対債権で、債権の  譲受人に対して相殺する場合(468  条2項)

 双方の債権が同一の事故によって発生した場合、相殺することができるか

 判例は、この場合も 509条を適用して、相殺を禁止している。

 しかし、509条は(1)不法行為の誘発の防止、(2)被害者への現実給付の確保、を目的として規定されたものである。

 したがって、双方の債権が同一の事故によって発生した場合には、禁止する理由がない。

 よって、このような場合、相殺は可能であると解すべきである。

 自働債権・受働債権双方の弁済期未到来のとき受働債権が差し押さえられた場合の処置

 自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到来する場合なら、自働債権の債権者は、自分の債務(受働債権)の弁済期について期限の利益を放棄し得るので(136条)、受働債権が差し押さえられても相殺の意思表示をして相殺しうると解される。

 また、この差押がなされたとき、自働債権の弁済期も受働債権の弁済期も共に未到来であった場合であっても、自働債権の弁済期が先に到来するなら、相殺が可能であると解される。

 なぜなら、差押債権者が差し押さえた受働債権を行使しえるときには、既に自働債権は弁済期に達しているはずであり、その時には自働債権者は相殺をなしうるはずであるから、この自働債権者の相殺に対する期待を保護する必要があるからである。

 同じ債権について相殺が競合した場合の優劣は、相殺適状の前後で決するか、それとも相殺の意思表示の前後で決するか

 相殺の意思表示の前後で決すべきと解される。

 相殺は相手方への意思表示によってなされる(506条)。

 たとえ後から相殺適状になった債権といえど、意思表示をされれば相殺され受働債権は消滅する。

 そして、その後、先に相殺適状に達していた債権の債権者が相殺しようとしても、その時点では、既に相殺適状は存在しないから、相殺は許されない。

 この点、相殺適状の前後によって決すべきとの説もある。

 確かに、先に相殺適状になった債権の持ち主は相殺について期待権を有する。

 しかし、単に期待権を有していた者よりも、期待実現へ向けて努力した者をより保護すべきである。

 
 

契約法

 
   契約締結上の過失

 全部不能を目的とする契約が無効であるとするときは、かかる無効の契約を締結するについて過失ある当事者に対して、相手方がその契約を有効だと誤信したことによって被った損害(信頼利益)を賠償すべき義務を認めるのでなければ、当事者間の公平を失する。

 これが契約締結上の過失である。

 我が民法においては明文はないが、債権法上の信義誠実の原則を根拠に、これを認めるべきと解される。

 なお、契約締結上の過失を、契約当事者は、相互に相手方の人格及び財貨を害しないように適当な考慮を払うべき義務、いわゆる保護義務に基づくものと解する立場もあるが、保護義務の根拠が明らかでないので、採り得ない。

 交差申込によって契約は成立するか

 交差申込とは、売主・買主の双方から同一内容の申込がなされることをいう。

 契約は、申込と承諾によって成立するが、この場合、一方の申込を承諾とすることはできない。

 しかし、双方の意思表示の内容が主観的にも客観的にも合致しているのだから契約の成立を認めるのが妥当である。

 交差申込が成立するとして、契約の成立時期はいつか

 交差申込は、申込と承諾という定型以外の行為で契約が成立する場合であるから、526条の適用はなく、97条を適用すべきである。

 97条によれば意思表示は相手方に到達したときに効力が発生する。

 したがって、後の申込の到達時に契約は成立する。

 申込と申込の誘引はどのように区別されるか

 契約の効力は何時から発生するか

 契約の成立時期については、(1)承諾発信時に成立するが、その効力は到達時に生じるとする説、(2)到達を停止条件とするが、効力は発信時に遡及するとする説、(3)発信によって不確定的に成立するが、到達によって効力が確定的になるとする説等があるが、いずれも法が迅速な契約の成立を予定した発信主義の趣旨に反し、妥当でない。

 そこで、(4)承諾は発信によって確定的に効力を生じるとする説もある。

 この説は、期限内に承諾が不到達の場合は、申込が遡及的に消滅するので、契約の成立要件を欠くことになり不成立となるとする。しかし、承諾によって確定的に契約が成立すれば、以後申込に独自の意味はなくなるので、妥当でない。

 契約は原則として承諾の発信によって、効力を生じるが、期限のある申込については別に考え、承諾の不到達を解除条件として、承諾が期限内に到達しなかったときは、始めに溯って不成立となると、解するが妥当である。

 取消・無効による原状回復義務と同時履行の抗弁権

 同時履行の抗弁権(533条)は総務契約について認められたものであるが、その理由は公平の観点から、相対する再建関係に抗弁権を認めるのが妥当とするものである。

 546条は解除の原状回復義務について533条を準用しているが、法律関係を遡及的に否認することに関しては取消もまた公平の観点から変わることはない。

 よって取消の原状回復義務もまた同時履行の関係にあると解する。

 弁済と受取証書・債権証書と同時履行の抗弁権

 弁済と受取証書の交付(486条)は同時履行の関係にあると解される。

 なぜなら、弁済した後でなければ、受取証書の交付を請求できないとすれば、弁済した証拠が手元に残らず、二重払いの危険にたたされ、弁済者に酷であり公平を失するからである。

 これに対して、債権証書(487条)については同時履行の関係にたたないと解される。

 なぜなら、受取証書さえあれば二重払いの危険は回避されるし、債権証書を紛失した場合は、債権者は弁済を受けられないことになり酷だからである。

 借地人の建物買取請求権行使の場合における代金と敷地引渡義務との同時履行の抗弁権

 建物買取請求権が行使された場合、建物に対しては同時履行の抗弁権を行使できる。

 したがって、その反射的効力として、当然に敷地の引き渡し拒絶が認められると解される。

 ただし、借地人は土地の使用・収益権を有するわけではないから、それによって利益を得ていれば、土地所有者に返還しなければならない。

 借家人の造作買取請求権の場合における代金と家屋明渡義務と同時履行の抗弁権

 造作とは、建物に附加せられた物権で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与える物をいう。

 判例は、建物と造作は別個の存在であり、造作買取請求権は造作に関して生じた債権であり、家屋に関して生じたものでないとして、家屋に対する同時履行の抗弁権の成立を否定する。

 しかし、これは造作によって増加した建物の価値を維持しようとする立法趣旨に反し、妥当でない。

 造作と建物とは完全に別個の物とすることはできず、建物に対しても同時履行の抗弁権を肯定すべきである。

 弁済と担保権消滅手続きと同時履行の抗弁権

 留置権や動産質権などのように占有の移転によってなされるものや、仮登記担保の抹消手続きについては、同時履行の抗弁権を認めるべきである。

 なぜなら、留置権や質権の場合は、占有の移転は債権者にとって負担ではなく、また弁済後に債権者の手元に動産の占有を残しておくことは、取引の安全を害するからである。

 また、仮登記担保の場合は、仮登記を抹消して担保権設定者に所有権登記を復帰しなければ、担保権設定者は目的物を取得した第三者に対して所有権を対抗できなくなるからである。

 しかし、抵当権の抹消手続きの場合は否定すべきである。

 なぜなら、登記抹消手続きは債権者にとって負担が大きいし、抵当権の附従性によって、弁済すれば抵当権は消滅するから、それで債務者の保護としては十分だからである。

 仮登記担保における清算金支払と本登記手続きと同時履行の抗弁権

 元来、仮登記担保契約は片務契約である。また対価関係にあるのは披担保債権と土地等の担保目的物の被担保債権額に相当する部分であり、清算金支払債務と所有権移転登記及び引渡債務ではない。

 したがって、これらは同時履行の関係にはない。

 しかし、仮登記担保法は、債権者の清算金支払債務と債務者の債権者への土地等の所有権移転登記および引渡債務について533条を準用している。

 賃貸借終了時の立退料支払い義務と土地・建物の明渡義務と同時履行の抗弁権

 賃貸借契約終了による、賃借人の賃借物の明渡義務と、「正当事由」を補強するため賃貸人が提供する立退料の支払いについて、判例は賃借人を保護するためその支払いと引換に賃借物の明渡を命じた。

 したがって、両者は同時履行の関係にたつと解される。

敷金返還義務と土地・建物明け渡し義務

 敷金とは、賃貸借契約ことに建物の賃貸借契約を締結するにあたり、賃借人が借賃その他の債務を担保するために賃貸人に交付する金銭をいう。

 敷金返還請求権の発生時期については争いがあるが、賃貸借終了後であっても明渡前においては、敷金返還請求権は、その発生及び金額の不確定な権利であって、明渡時において初めて確定するのであるから、明渡時に発生すると解する説が妥当である。

 したがって、賃借人は賃貸借契約終了後であっても敷金返還請求権はなく、同時履行の抗弁権も主張し得ないと考える。

 相手方の同時履行の抗弁権を失わせるためには、履行の提供を継続する必要があるか

 この点、533条の文言及び受領遅滞の性質からみるも、また信義則からみるも、受領遅滞に陥った当事者は、もはや同時履行の抗弁をなし得べきでないとする説もある。

 しかし、この場合はなお履行を提供しなければ同時履行の抗弁を受けることになると解される(判例)。

 なぜなら、相手方の提供を受領しなかった当事者は、受領遅滞の責めに任ずるに至るけれども、その者の債務には何らの影響もなく、同時履行の抗弁はその債務の履行につき与えられたものだから、相手方からその履行を請求された場合には、なお交換的に履行させることが、ことに相手方が一度弁済を提供した後に無資力となったような場合において公平に適するからである。

 なお、解除の場合とは事情が異なる点に注意すべきである。

 不安の抗弁権とは何か

 当事者の一方が特約または法律の規定によって相手方よりも先に履行すべき義務を負担するときは、その者は同時履行の抗弁権を有しない。

 しかし、先履行義務者は契約締結後に相手方の財産状態が悪化して、期限到来後における相手方からの反対給付が期待し得られないような場合でも、相手方の請求を拒むことができないとすることは公平に反する。

 そこで、そのような場合には、事情変更の原則の適用により、相手方が担保の提供その他履行に対する何らかの保証を与えない限り、先履行義務者は履行を拒むことができると解すべきである。これを、不安の抗弁権という。

 危険負担の債権者主義(534条)は、どのような場合に適用されるか

 双務契約においては、双方の債務は対価関係にたつのであるから、成立上・履行上の牽連関係を認めるのが公平であるなら、存続上の牽連関係を認めるのが公平であり、534条1項は、合理性を欠くというべきである。

 そこで、不動産売買においては、登記・引渡・代金支払のいずれかが存した場合に、売り主から買い主に対して危険が移転すると解するのが、当事者の合理的意思に合致し、公平である。

 二重売買された不動産が、不可抗力により滅失した場合、誰が危険を負担するのか

 債権には排他性がないから、二重売買の両買主はそれぞれ有効に債権を取得しており、両債権に牽連性はない。したがって、各債権者はそれぞれ代金支払義務を負担するとする説もある。

 しかし、534条1項の債権者主義は不合理な規定であり、債権者が目的物の支配を得るまでは適用されないと解すべきである。

 この場合、二重譲受人間の優劣が決定されていない段階では、両譲受人はいずれも目的物を支配しているとはいえない。 したがって、二重売買の場合には債務者主義の原則にかえって、536条が適用され、危険は売主が負担すべきであると考える。

 他人物売買の目的不動産が未だ他人の所有の下にある場合、これが不可抗力で消滅した場合、危険負担はどうなるか

 他人物売買の場合においても534条の規定を適用して、債権者に危険を負担させるとする説もある。

 しかし、534条1項の債権者主義は不合理な規定であり、債権者が目的物の支配を得るまでは適用されないと解すべきである。

 他人物売買では、売主が目的物を他人から取得し、それを買主に移転するまでは、買主が所有権を取得するか否かは不明確である。

 したがって、買主は未だ目的物を支配するに至っていないといえるので、債務者主義の原則にもどって

 所有権留保売買において危険負担はどうなるか

 用益物権設定・移転契約において危険負担はどうなるか

 担保物権設定・移転契約において危険負担はどうなるか

 抵当権設定契約締結後、設定登記終了前に、抵当目的物が滅失・毀損した場合、危険負担の問題は生じない。

 抵当権設定契約自体は双務契約ではないからである。

 確かに、抵当権者・抵当権設定者は、設定登記に協力する義務がある。

 しかし、抵当権設定登記の協力義務は経済的出捐を伴う義務ではないから、双務契約性はないと解される。

 受領不能(受領遅滞)と給付不能(履行不能)は、どのようにして区別すべきか

 債権者が受領遅滞に陥った後、給付不能を生じた場合、債権者の反対給付請求権はどうなるか

 536条2項は、債権者の帰責事由によって履行不能となった場合、債務者は反対給付を失わないとする。この債権者の帰責事由とは、本来履行が不能となったことについて帰責性があることをいう。

 しかし、単に受領遅滞をしたことをもって帰責事由とすることができるか。

 履行不能につき債権者に帰責事由がある場合には、債権者に危険を負担させるのが公平である。そこで536条が規定された。

 ところで、債権者が受領拒絶をしなかったならば、その後の危険は当然債権者が負担していたはずである。

 ならば、受領遅滞をもって、なお債権者に帰責事由ありとして、債権者に危険を負担させるのが公平である。

 そこで、債権者の帰責事由の中に受領遅滞を含ませると解すべきである。

 債務者が一部履行遅滞に陥っているとき、解除権は発生するか

 債務者が付随的債務を履行しなかったとき、解除権は発生するか

 解除権行使の際、過大催告・過小催告は有効か

 履行の催告とは、債務者に対してその債務の履行を促す債権者の意思表示であって、412条3項にいわゆる履行の請求と同じ意味である。

 催告における債務の表示は、その同一性を認識し得れば足りる。

 過大催告は、債権者が適正額の提供を受けても受領しないという意志が明確でない限り、有効である。

 過小催告は、債務の同一性がわかれば有効であるが、原則として催告に示された数量についてのみ効力を有する。ただ、僅かな数量不足の場合には、債務の全額について催告の効力が及ぶとする。

 解除権行使の際、「相当の期間」(541条)とはどのくらいの期間か

 ここにいう「相当の期間」とは、履行の準備及び給付の完了に必要な猶予期間をいう。

 その期間は、履行すべき債務の性質その他客観的事情によって定まる。

 期間を定めずに催告した場合や、催告に定めた期間が不相当な場合にも、催告はなんらの効力を生じないのではなく、単に催告としての効力を商事、その時から相当の期間を経過した後、解除しうるものと解される。

 なぜなら、催告されて相当の期間を経過するもなお履行しない債務者の利益を保護する必要がないからである。

 継続的契約を解除する場合、541−543条の解除に関する一般規定の適用があるか

 継続的契約とは、賃貸借、雇用、委任等、契約の履行・終了に一定期間の経過を必要とする契約関係である。

 判例は、解除の一般規定である541-543条の適用を認める。

 しかし、賃貸借や雇用に関しては、いわゆる信頼関係破壊の法理に基づいて、軽微な債務不履行の場合の解除権制限、あるいは信頼関係が破壊された場合の無催告解除を認めている。

解除の法的性質をどのように解すべきか

 契約は解除されることにより、遡及的に消滅し、契約の当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である(直接効果説)。

 620条が賃貸借契約の不遡及をわざわざ規定しており、これを反対解釈すれば、契約は遡及的に消滅することを民放が認めていることになる。

 また545条1項は原状回復義務を解除の効果として規定しているが、これは契約の効力が当初に溯って失われると解することによって最も端的に説明し得る。

 さらに、545条1項但書で第三者保護をわざわざ規定したことは、遡及効を前提としていると解される。

 解除における原状回復義務の法的性質

 契約は解除されることにより、遡及的に消滅し、契約の当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である(直接効果説)。

 したがって、既に給付された物は「法律上の原因」を失うのだから、各当事者は不当利得として返還請求をなしうる。

 しかし、それでは現存利益しか返還請求できなくなってしまうので、債権者の保護に欠ける。

 そこで法は、特則を設けて返還義務の範囲を原状回復まで広げたのである。

 したがって、不当利得返還義務の性質を有する原状回復義務は、本来の債務とは別個の債務である。

 解除における使用利益の返還の意味

 他人物売買で目的物が給付された後、右契約が解除された場合、買主は使用利益の返還をしなければならないか。売主に不当利得にいう「損失」がないため問題となる。

 確かに、解除に基づく使用利益返還義務を不当利得返還義務と解するなら、売主には、買主の「受益」に対応する「損失」がないため、使用利益の返還を要しないとすることになる。

 しかし、解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に当該契約に基づく給付がかなったと同一の財産状態を回復させるためには、買主の使用利益をも返還させる必要があるのであって、たとえ、売主が所有権者でなく右使用利益を保有し得なくても、この結論に変わりはないと解される。

 解除における損害賠償請求権(545条3項)の性質及びその範囲

 契約は解除されることにより、遡及的に消滅し、契約の当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である(直接効果説)。

 その結果、当事者が負っていた債務は消滅し、給付した物については不当利得返還請求権を拡張した原状回復義務が課せられることになる。

 しかし、原状回復は契約が解除されるまでの間に被った損害の除去までは包含しないから、契約締結前の状態への復帰を期するために、契約が有効であった間にその債務の不履行に基づいて生じた損害の賠償を認めたものである、と解される。

 なお、この損害賠償は債務不履行に基づくものであるから、履行利益の賠償と解される。

 545条1項但書で第三者が保護される理由は何か

 契約は解除されることにより、遡及的に消滅し、契約の当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である(直接効果説)。

 しかし、解除されるまでは契約は有効なのだから、この契約を信頼して新たに取引関係に入った者を保護する必要がある。

 そこで民法は545条1項但書により、解除権者を犠牲にしても、この第三者を保護するよう規定したのである。

 なお、ここにいう第三者とは、94条2項や96条3項にいわゆる第三者と同じく、解除された契約から生じた法律効果につき、解除までに新たな権利を取得した者である。

 解除された債権の譲受人や債権に質権を設定した者はこの第三者ではない。

 解除における第三者が権利を主張するには対抗要件が必要か

 契約は解除されることにより、遡及的に消滅し、契約の当初から存在しなかったことになると解するのが妥当である(直接効果説)。

 しかし、解除されるまでは契約は有効なのだから、この契約を信頼して新たに取引関係に入った者を保護する必要がある。

 そこで民法は545条1項但書により、解除権者を犠牲にしても、この第三者を保護するよう規定したのである。

 本来の権利者を犠牲にして第三者を保護するのだから、この第三者が保護されるためには、対抗要件を具備するまでに密接な利害関係を有する必要があると解される。

 解除権不可分の原則

 契約当事者の一方が数人ある場合には、特約のない限り、解除はその全員から又はその全員に対してのみなされることができる(544条1項)。これを解除権不可分の原則という。

 これは法律関係が複雑になることを防ぐための規定である。したがって、この原則に関する規定は強行規定ではなく、特約で排除することが可能である。

 また、当事者が複数であっても、その内部関係によって一部の者で意志決定ができる場合は、本条の適用はない。

 例えば、共有物を賃貸していた場合、賃貸借契約を解除することについては、共有物の管理行為として単独でできるので、544条の適用はないと解される。

 
 

契約各論

 
   手附にはどういう種類があり、どのような役割をしているか

 手附とは、契約締結の際当事者の一方から他方に対して交付する金銭その他の有価物である。

 したがって、手附の交付は要物契約であり、従たる契約である。

 手附には次の種類がある。

(1) 契約の成立を証明する証約手附

(2) 手附の交付者が債務を履行しない場合には違約罰として没収されることのできる違約手附

(3) 解除権留保の対価たる意味を有する解約手附

 解約手附の原則性はどの程度守られているか

 手附には証約手附、違約手附、解約手附とあるが、具体的な場合に手附がいずれの種類に属するかは契約の解釈の問題である。

 その不明な場合には、民法は、当事者の通常の意思を推測して、解約手附の成立を有するものと推定した(557条1項)。 これに対して、解約手附の原則は契約の拘束力を弱める点で妥当でないとする説もある。

 確かに、交付される手附の金額が余りに少額の場合は、証約手附と解した方が当事者の通常の意思の推測に合致するだろうが、そうでなければ、手附を授受する慣行の中に、解除権を留保しようとする当事者の黙示の合意が含まれていると解するのが妥当である。

 解約手附と違約手附は両立しうるか

 違約手附の特約があった場合でも、手附の倍返しによる解約、手附の放棄による解約は可能かであろうか。違約手附と解約手附は両立し得るかが問題となる。

 この点、違約手附が交付されれば、当事者の意思は契約の拘束力を強化することが通常であるから、違約手附は557条の解約手附の原則を排除するとする説もある。

 しかし、両者は併存し得ると考える。

 なぜなら、債務不履行解除の場合にその額を支払ってすむなら、履行の着手前に自ら解除してその額ですませることも当然可能とされるべきだからである。

 どのような場合に履行を着手したことになるか

 手附による契約の解除は、当事者の一方が契約の履行に着手するまでになされることを要する(557条1項)。

 そこで、履行の着手とは何かが問題となる。

 履行の着手は履行の準備ではなく、履行行為自体の着手である。

 すなわち「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」ものと解される(判例)。

 557条1項の履行に着手する当事者とは誰をいうか

 自ら履行に着手した当事者が解除権を行使することができるか。557条が「当事者」としか規定していないため問題となる。

 この点、履行があった場合は相手方はもはや解除されないと期待するのが通常であるから、「当事者」とは相手方のみならず自分をも含むと解する説もある。

 しかし、557条1項は、履行に着手した当事者が、相手方から解除されることによって不測の損害を被ることを防止する趣旨を規定したものと解される。

 したがって、「当事者」とは相手方のことを意味し、未だ履行に着手していない当事者に対しては、たとえ自分が履行に着手していたとしても、自由に解除権を行使し得ると解すべきである。

 民法上、担保責任にはどのようなものが規定されているか

 原始的不能を原因とする担保責任と契約締結上の過失の関係をどう理解するか

 要件において担保責任と錯誤の双方を充足する場合、買主はどのような主張が可能であろうか

 担保責任は権利主張の期間が事実を知ったときから1年に限られている。

 これは、法律関係を早期に確定する趣旨である。

 これに対して、錯誤の主張は期間に制限はない。

 担保責任が成立する場合でも、錯誤主張ができるのであれば、法が566条3項で瑕疵担保責任の主張期間を制限した趣旨が没却してしまう。

 したがって、瑕疵担保責任が成立する場合は、錯誤無効の主張はできないと解すべきである。

 担保責任が成立するとき錯誤無効の主張が許されないなら、詐欺取消はどうか

 売買の目的物に瑕疵があって、売主がこれを知りながら告知せず、売り渡した場合、96条の詐欺行為が存在したといえる。

 よって、買主は96条で売買を取り消すと共に、709条で損害賠償請求をすることができる。

 もっとも、詐欺無効が担保責任が成立する場合に主張できないように、詐欺取消もまた主張できないのではないかが問題となる。

 担保責任が成立しているのに、錯誤無効を許すなら、法律関係を早期に解決しようとした566条3項の趣旨が没却されてしまうので、これは許されないが、詐欺行為は違法行為であり、詐欺を行った者との関係では法律関係を早期に確定させる必要はない。

 したがって、錯誤の場合とは異なり、別に詐欺取消を主張することは許されるものと解される。

 他人物売主の地位を本人が相続した場合、本人は目的物を移転する義務を負うのか、担保責任はどうか

 権利者は、相続によって売主の義務ないし地位を承継するため、権利者は買主からの請求を拒み得ないとする説もある。 しかし、相続人は依然第三者として自己の持分権の移転を承諾するか拒絶するかの諾否の権利を有しており、かかる諾否の権利は相続人たる地位とは無関係に自己本来の固有の権利として主張し得るものと解すべきだから妥当でない。

 権利者は、相続によって売主の義務ないし地位を承継しても相続前と同ようその権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができるものと解するのが相当である。

 債務不履行責任以外に認められる売主の責任としての担保責任は現行法上、どのような法的責任と理解すべきか

 そもそも特定物売買においては契約時に既に特定物に瑕疵がある場合には瑕疵のないものを給付することは不能であり、かかる債務の発生を認めることはできない。

 またそのように解することが通常の当事者の意思にも合致する。

 だからこそ483条は瑕疵あるものを引き渡せば足りるとしたのである。

 しかし、それでは買主に酷なので、売買契約の有償性に鑑み、買主保護の観点から、法は特に570条の規定によって買主に責任を負わせたのである。

 これが担保責任の法的性質である。

 売主が瑕疵担保責任を負うのは特定物の売買についてだけか、それとも不特定物の売買についても負うのか

 不特定物売買では、特定物の場合と異なり、売主は帰責事由を前提に債務不履行責任を負う。

 では、売主に帰責事由がなければ、買主は損害賠償請求ができないのであろうか。不特定物にも570条の適用はあるかが問題となる。

 570条は、特定物売買において売主は瑕疵なき物を給付する義務はないので、有償性の原理から買主を保護するために、法が特に規定したものである。

 したがって、570条は特定物売買を前提としているのであって、不特定物には適用はないと解する。

*結論的には債務不履行説の方が妥当かも知れない。

 特定物売買と瑕疵修補請求の可否

 「隠れたる」瑕疵とは、買主として通常要求される注意を尽くしても発見できない瑕疵をいう。

 特定物売買の目的物に隠れたる瑕疵があった場合、瑕疵修補請求をなしえるか。 570条が同請求を規定していないため、特定物売買についても債務不履行責任(415条)を追求できるかが問題となる。 そもそも特定物売買においては契約時に既に特定物に瑕疵がある場合には瑕疵のないものを給付することは不能であり、かかる債務の発生を認めることはできない。またそのように解することが通常の当事者の意思にも合致する。だからこそ483条は瑕疵あるものを引き渡せば足りるとしたのである。

 しかし、それでは買主に酷なので、売買契約の有償性に鑑み、買主保護の観点から570条が規定されたとするならば、特定物売買については債務不履行責任(415条)を追求することはできず、570条しか適用されないものと考える。

 従って、修補請求は認められない。

 570条の損害賠償請求権は信頼利益の賠償か、履行利益の賠償か、それともそれ以外のものなのか

 561条の売主の担保責任は売買契約の有償性に鑑みて、買主保護の観点から、売主が無過失であっても、売主に負わされる責任である。

 とすると、無過失の売主に対して、履行利益までの損害賠償を求めるのは酷である。

 よって、561条の損害賠償責任は信頼利益に限られると解される。

 瑕疵担保に基づく損害賠償請求の方法

 特定物に隠れたる瑕疵があった場合、570条で担保責任を追及できる。しかし、その権利行使は、瑕疵を知ったときより1年以内に行わなくてはならない(566条)。

 この1年の期間は除斥期間であり、その間に裁判上、もしくは裁判外における権利行使があれば足りるものと解する。

 この点、1年の期間は短期間内にこれらの権利を速やかに処理しようとする趣旨であるから、債権者に対しても1年の期間内に訴えを提起することを要するとの説もある。

 しかし、裁判ざたを好まないわが国民性を考えると、ここまで要求するのは買主に酷である。

 よって、権利行使が裁判外であっても足りるものと解する。

 担保責任による損害賠償と508条の可否

 担保責任に基づく損害賠償を所定の期間内に(566条3項)行使しなかった。この場合の買主は570条で請求できるはずだった損儀賠償請求権を自働債権とし、売主への代金債務と相殺できるであろうか。508条の解釈が問題となる。

 確かに508条の趣旨は、相殺の成立には意思表示が必要とされているが(506条)、相殺適状となれば当事者は債権債務は消滅したと考えるのが通常なので、当事者のかような期待を保護するためのものである。

 566条3項は法律関係を早期に解決するため定められた除斥期間であって、時効期間ではない。

 しかし、消滅原因がいずれであれ、当事者が双方の債務が対等額で消滅することを期待することにはかわりはない。

 よって、508条を除斥期間の場合に類推適用することで相殺を認めるべきである。

 瑕疵担保責任における法律上の瑕疵

 瑕疵とは、目的物が通常有すると期待される性質または特に売主が目的物についてその存することを保証した性質を欠くために、目的物の使用価値または交換価値を減少することである。

 判例は、この瑕疵は物理的なものであることを要せず、法律的なものでもよい、とする。

 しかし、これでは、例えば建物の競売において借地権が伴わない場合などは、買主は保護を受けられないこととなり妥当ではない。

 売買の目的たる所有権が他の権利によって制限されるなど、売買の目的たる権利に質的な欠点のある場合は、権利の瑕疵として、566条を類推適用すべきである。

 数量指示売買の担保責任

 数量指示売買(565条)の担保責任は代金減額請求権である。また買主が善意であることを前提として、これとは別に損害賠償請求権、解除権が発生する。

 数量指示売買とは、一定数量を指示して、かつこれを基礎として売買代金を定めた場合をいう。

 数量指示売買の判断基準は、代金減額という処理に適したものでなくてはならず、とすれば、代金が一定数量を基準として割合的に算出されたものでなくてはならない。

 例えば、土地の売買において、面積が表示され、面積当たりの価格の割合で代金を定めた場合は、数量を指示したと解される。

 しかし、当事者が表示された区画を全体として評価し、面積当たりの価格による計算は一応の標準にすぎない場合は、数量を指示した売買とはならないと解される。

 要物性という要件は判例上、どのように緩和されているか

 消費貸借は要物性、片務性、無償性という性質をもつが、最も問題となるのが要物性である。

 この要物性を認めた趣旨は、借り主の保護にあったが、今日では必ずしも要物性が借り主の保護にはならず、かえって借り主の資金調達の妨げとなっているので、この要物性は緩和されて適用されるべきである。

 諾成的消費貸借の有効性について

 諾成的消費貸借とは目的物の交付をまたず、当事者の合意のみで効力が生ずる消費貸借である。

 消費貸借契約は、要物契約であるが、この要物性は借主の保護を目的としたものであったが、今日では必ずしも借主の保護にならず、逆に借主の資金調達の妨げとなるなど、合理性を有していないので、緩和して適用されるべきである。

 したがって、一種の無名契約として、これを有効と解するのが妥当である。

 消費貸借の予約の効力および諾成的消費貸借との差異について

 準消費貸借の成立要件、効果について

 現に金銭その他の物を給付すべき義務を負う者でも、一度その債務額を弁済したうえで改めてその金額を受け取るのでなければ、消費貸借は成立しないわけであるが、かかる二重の授受をすることは迂遠かつ無意味であるから、法は、当事者間の合意だけで消費貸借が成立するものとした(588条)。これを準消費貸借という。

 準消費貸借によって生ずる新債務は旧債務と全く別個の債務であるのか、もしくは債務の同一性を維持しつつ単に消費貸借の規定に従うにとどまるのか、が問題となる。

 判例は、当事者の意思を解釈して決すべきであるとし、当事者の意思が不明な場合には、両債務は同一性を維持するものと推定する。

 したがって、旧債務の抗弁権、担保権、詐害行為取消権等は、新債務に対しても効力を及ぼすことになる。

 賃貸人と賃借人の権利義務には何があるか

 賃貸人の義務として

(1) 目的物を使用、収益させる義務

(2) 費用償還義務

 賃借人の義務として

(1) 賃料支払い義務

(2) 目的物の保管・返還義務

(3) 無断譲渡、転貸しない義務

 賃借人が修繕義務を果たさない場合の賃借人の救済方法には何があるか

 

 修繕義務の範囲について

 特約で賃借人に修繕義務を負担させることの可否

 賃貸借契約において、用法違反を理由に契約を解除する場合の処理について

 賃借人は賃貸借の目的物を善良なる管理者の注意義務をもって(401条)使用収益することを要する。

 しかし、目的物が不動産の場合は、普通の賃貸借の場合と異なり、債務不履行があったからといって直ちに催告・解除されるわけではない。

 不動産賃貸借の場合は、賃借人保護という社会政策上の要請により、信頼関係が破壊されたと言うに足りる事情がなければ解除権の行使が制限されるからである。

 したがって、用法違反により信頼関係が破壊されたというに足りる事情がなければ解除はなし得ないし、かような事情があると解される場合は、無催告解除をなしうると考える。

 2カ月分の賃料不払いに基づき、建物賃貸借を催告・解除できるか

 賃貸借契約では、賃借人には賃料支払い義務があるので、賃貸人は債務不履行に基づく解除権を行使し得る(541条)。 しかし、不動産賃貸借の場合は普通の賃貸借の場合とは異なり、債務不履行があったからといって直ちに催告・解除というわけにはいかない。

 不動産賃貸借の場合は、賃借人保護という社会政策上の要請により、信頼関係が破壊されたと言うに足りる事情がなければ解除権の行使が制限されるからである。

 したがって、2カ月の賃料不払いという事実のみで信頼関係が破壊されたと解することはできず、催告・解除はできないと考える。

 賃貸借契約において、借家人が家屋を消失させた場合の処理について

 賃借人は賃貸借の目的物を善良なる管理者の注意義務をもって(401条)使用収益することを要する。

 しかし、目的物が不動産の場合は、普通の賃貸借の場合と異なり、債務不履行があったからといって直ちに催告・解除されるわけではない。

 不動産賃貸借の場合は、賃借人保護という社会政策上の要請により、信頼関係が破壊されたと言うに足りる事情がなければ解除権の行使が制限されるからである。

 建物の賃借人が失火によって賃借建物を焼燬した場合は、重大な保管義務違反であるので信頼関係の破綻を生ぜしめたといえるので、無催告解除が許されると解される。

 賃貸借契約における必要費とは何か

 必要費とは、賃借物を保存する上で、通常必要とされる費用である。

 この必要費は、賃貸借の終了を待つまでもなく、賃借人が支出後、賃貸人は直ちに償還すべき義務を負う(608条1項)。けだし必要費の内容は、本体賃貸人が「使用、収益させる義務」として当然に負担すべきものだからである。

 賃貸借契約における有益費とは何か

 有益費とは、賃借物の客観的価値を増加させるに要した費用である。

 有益費は必要費のように本来賃貸人の債務の内容となるものではないので、賃貸人は賃借物の客観的価値の増加があれば、賃貸借契約終了後償還すべきことになる(608条2項)。

 ただし、賃貸借契約終了前に不可抗力で増加価値がなくなれば賃貸人は償還義務は負わない。

 けだし、有益費償還請求権の本質は不当利得返還請求権に他ならないからである。

 敷金の法的性格、発生時期について

 敷金とは、賃貸借において生じる賃借人が賃貸人に対して負担する一切の債務を担保するため交付される金銭をいう。

 ところで、賃貸借契約が終了しても、常に明渡が同時に行われるとは限らないので、その間の賃料相当損害金についても、なお貸主は敷金をもって担保することができなくてはならない。

 そこで、敷金返還請求権は契約終了時ではなく明渡時において行使し得るにすぎないと解される。

 目的物の明け渡しと敷金返還の同時履行関係について

 敷金とは、賃貸借契約ことに建物の賃貸借契約を締結するにあたり、賃借人が借賃その他の債務を担保するために賃貸人に交付する金銭をいう。

 敷金返還請求権の発生時期については争いがあるが、賃貸借終了後であっても明渡前においては、敷金返還請求権は、その発生及び金額の不確定な権利であって、明渡時において初めて確定するのであるから、明渡時に発生すると解する説が妥当である。

 したがって、賃借人に不利かもしれないが、賃借人は賃貸借契約終了後であっても敷金返還請求権はなく、同時履行の抗弁権も主張し得ないと考える。

 賃貸借契約終了後、敷金返還請求権を第三者が差し押さえた場合

 敷金とは、賃貸借契約ことに建物の賃貸借契約を締結するにあたり、賃借人が借賃その他の債務を担保するために賃貸人に交付する金銭をいう。

 敷金返還請求権の発生時期については争いがあるが、賃貸借終了後であっても明渡前においては、敷金返還請求権は、その発生及び金額の不確定な権利であって、明渡時において初めて確定するのであるから、明渡時に発生すると解する説が妥当である。

 したがって、賃貸借契約が終了しても、建物の明渡がすむまで第三者は敷金返還請求権を差し押さえることはできないと解される。

 賃貸借契約において、借地、借家の目的物が譲渡された場合の敷金の処置

 敷金とは、賃借人の賃貸借上の債務を担保するため、賃貸人に交付される金銭である。

 したがって、賃貸人たる地位が建物の譲受人に移転すれば、担保としての附従性により敷金返還請求権もまた移転することになる。

 また、そのように解しても賃借人にとって不利益はない。むしろ譲受人は資産として当該不動産を所有しているのだから、責任財産の点で有利である。

 なお、賃借人に不払い賃料があった場合、譲受人に移転する敷金返還義務は、この未払い賃料を控除したものになると解される。

 なぜなら、敷金は賃貸借から生じる債権を担保するものであるから、賃貸人の地位の譲渡の場合には、旧賃貸人にとって担保の作用を実現させる必要があるからである。

 賃貸借契約において、土地賃借権が適法に譲渡された場合の敷金の処置

 譲渡について賃貸人の承諾があった場合、旧賃借人の賃貸人に対する敷金返還請求権は新賃借人に承継されるであろうか。

 旧賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権を行使し得る。したがって賃貸人の利益もさることながら、新賃借人に承継されることはないと解される。

 なぜなら、賃借権が譲渡された場合、旧賃借人は賃貸借関係から離脱して、あとは賃貸人と新賃借人との間に賃貸借関係が移転し存続することになる。

 賃貸借関係から離脱した旧賃借人にその後の賃貸人と新賃借人の賃貸借のために敷金を提供し続けなくてはならないのは、あまりに酷である。

 したがって、旧賃借人には敷金返還請求権を認められなくてはならないからである。

 なお、旧賃借人の未払い賃料債務もまた、当然には新賃借人に承継されないと解される。

 賃貸建物が売却された場合の契約関係

 賃貸物の売買において、買主が賃借人の存在を知って賃貸物を買い受ければ、これは買主が賃貸人としての地位を承継する意思をもったと解するのが、当事者の通常の意思である。

 では、買主は賃貸人たる地位を当然に承継するか。賃貸人の地位の移転は債務引受の側面を有しているので、賃借人の承諾が必要でないかが問題となる。

 そもそも、債務引受において債権者の承諾が要求されるのは、債権者が不測の損害を被るのを防止するためである。

 しかるに、賃貸人の債務は使用・収益を忍容する債務(601条)であり、物の所有者であれば誰でも履行できる義務である。

 したがって、賃貸人の交替によって債権者たる賃借人が不利益を被る虞れは少ないと考えられる。また、そのように解する方が、賃貸借契約が存続し、賃借人にとって利益となる。

 よって、承諾は不要と解される。

*買主の善意・悪意で場合分けする

 所有者が賃借人に対し、賃料請求、解約、期間満了による明渡請求などの賃貸借契約上の権利を主張する場合に登記が必要か

 賃貸借契約上の権利義務の関係は、不動産上の物権的支配を相争うという関係は存在せず、対抗問題も生じないから、賃借人は登記を要する第三者ではないとする説もある。

 確かに、この場合の法律関係は対抗関係ではないが、賃貸不動産が二重譲渡された後に、第二の譲受人が所有権取得の登記をすることもあるから、賃借人は二重払いの危険を負うことになる。

 そこで、賃借人の立場を確実にするため、賃借人は登記を要する第三者とすべきであるとする説が妥当である。

 賃貸人の地位の移転には、賃借人の承諾は必要か

 賃貸人の地位の移転は、契約上の地位の譲渡の一類型である。

 契約上の地位の譲渡は、個々の債権の譲渡と個々の債務の引受とが併存すると解すべきでなく、債権と債務は合して、一個の契約上の地位を構成し、その地位の譲渡があるものと解すべきである。

 その譲渡は、三面契約によってなされれば、もちろん有効であるが、契約一方の当事者と譲受人との間の契約によっても、他方の当事者の承認を条件として、効力を生じると解するのが妥当である。

 したがって、賃貸人の地位の移転も、賃借人の承認を条件として生じると解すべきはずである。

 しかし、判例は賃貸人の義務は賃貸人が何人であるかによて履行方法が特に異なるわけでなく、むしろその義務の承継を認める方が賃借人にとって有利であるから、賃借人の承認は不要と解している。

 賃貸借における権利金とは何か

 賃貸借における更新料とは何か

 更新料とは賃貸借の期間が満了し、合意により契約を更新する際契約更新の対価として賃借人から賃貸人に支払われる金銭のことである。

 判例は更新料に次の意義を認める

(1) 将来の賃料たる性質

(2) 異議権の放棄の対価

(3) 紛争を回避するための解決金

 かような意義に鑑み、特に暴利行為となるような場合を除いて、更新料の徴収は有効と解する。

 地番を誤った登記は借地借家法10条(旧建物保護法1条)の対抗力を有するか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 この建物の登記が多少相違していても、同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり、容易に訂正できる場合には、対抗力を有すると解される。

 なぜなら、取引関係に入ろうとする第三者は現地を検分して建物の所在を知り、ひいて借地権等の存在を推知しえるのが通常であるから、取引の安全を不当に害することはないからである。

 建物の表示が現況と異なるとき、借地借家法10条(旧建物保護法1条)の対抗力を有するか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 この建物の表示が現況と異なっていても、旧建物が少しでも残っていれば対抗力の持続が肯定されると解する。

 なぜなら、借地人が建物を利用して居住していれば、借地権の存在の公示となりうるからである。

 権利の登記でなく表示登記であった場合は、借地借家法10条(旧建物保護法1条)の対抗力を有するか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 この登記が権利の登記でなく表示登記であった場合でも、借地借家法の保護をうける登記といえる。

 なぜなら、これでも借地権の存在を第三者に公示する役割を果たしているからである。

 妻や長男名義の登記は、借地借家法10条(旧建物保護法1条)の対抗力を有するか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 妻や長男名義で登記されていた場合については争いがある。

 判例は、近親者といえど別人格である以上、他人名義の登記に他ならないことを理由に、この場合の対抗力を否定する。 しかし、土地の取引は通常現地検分をするものであり、また近親者名義の登記でも借地権の存在を外部から知ることは可能であるので、この場合も対抗力を肯定すべきと解する。

 建物敷地が外れている地筆の土地の対抗力はどうなるか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 では、AとBの地筆からなる土地を賃借し、Bの部分に建物を建てた場合、Aの部分の対抗力はどうなるか。

 判例は、A部分は登記によって公示されていないので、対抗力は及ばないとしている。

 対抗力のない借地権であることを知って土地を取得した新地主は、常に借地人を追い払うことができるか

 借地権は登記することによって対抗力を有するが、たとえ登記がなくても、借地上に登記をした建物を所有することによって第三者に対抗できる。

 逆にいうと、建物に登記がなかったら、新地主には対抗できないことになる。

 しかし、判例は、賃貸人が建物保存登記を妨げたり、新地主が事実上旧地主と同一人だった場合には、権利の濫用として、地主の明渡請求を否定する。

 また、背信的悪意者の理論により、新地主が登記の欠缺を主張し得ない第三者であった場合には、明渡請求はできないとするものもある。

 承諾のある有効な譲渡・転貸がなされた場合の法律関係

 613条1項後段の「前払」の意義

 613条1項後段は「借賃の前払をもって賃貸人に対抗すること得ず」と規定する。

 これは、転借人は賃借人に借賃を支払えば、その範囲では賃貸人の転借人に対する借賃請求権(613条1項前段)は消滅することになるが、賃借人と転借人とが通謀するおそれがあるので、設けられた規定である。

 したがって、ここでの「前払」とは転借人の支払い義務の生じる前、すなわち転借料の支払い時期と解すべきである。

 有効な賃借権の譲渡・転貸がなされた場合、賃貸人と賃借人の合意解約と転借人の保護

 賃借人が賃借権を放棄し又は賃貸人と合意で解除しても、原則としてこれを転借人に対抗することはできないと解される。

 なぜなら、解除契約の当事者効からいって第三者を害することはできないし、転貸借を承認していた賃貸人・転貸人がこれを覆すことは信義則に反するからである。

 また、放棄については、398条の法理に基づいて、他人の権利の目的となっている権利は放棄しても対抗できないと解すべきである。

 有効な賃借権の譲渡・転貸がなされた場合、賃借人の不履行と転借人の保護

 判例は、賃貸借が債務不履行によって解除された場合は、転借人は対抗し得ず、明渡を余儀なくされると解する。

 なぜなら、合意解除の場合と異なり、賃借人の債務不履行の場合には賃貸人が契約を解除するのもやむを得ないからである。

 しかし、同時に判例は右債務不履行につき転借人に催告なくして解除しうるとしている点、転借人の代位弁済の機会を奪うこととなり妥当でない。

 したがって、賃貸人は賃借人の債務不履行があったときは転借人に催告をなすことを要すると解するのが妥当である。

 そして、催告がなされ賃貸借が解除された場合は賃借人は履行不能となり、転貸借もまた終了すると解することとなる。

 賃借権の無断譲渡・転貸に対する解除権行使とその制約法理について

 不動産賃貸借においては、賃借人の保護という社会政策上の要請があるので、信頼関係を破壊したと認められる事情がない場合には、わずから債務不履行では解除できないと解される。いわゆる信頼関係破壊の法理である。

 よって、612条は無断譲渡につき賃貸人の解除権を定めているが、これは信頼関係が壊されていることを前提として適用される規定と解され、単に無断譲渡があったという一事をもって賃貸人解除をなすことは許されない。

 賃借権の無断譲渡が解除できない場合、その後の法律関係は

 無断譲渡が612条の適用を受けない場合、旧賃借人は賃貸借関係から離脱し、賃借権は適法な承諾があったと同様新賃借人に移転すると解される。

 これは賃貸人に酷かも知れないが、解除権の行使が許されない以上、これを違法とすることができないので、適法な譲渡があったと取扱うしかない。

 また、かように解しても、賃貸人は現に使用収益している新賃借人に対して賃貸人としても地位を対抗できるので、不利にはならない。

 (賃借人の賃料支払義務等については、新・旧賃借人の併存的債務引受が行われる、と解する説もある。)

 賃借権の存続・終了・相続のアウトラインについて

 当事者で3年と定めた借地権は特別法によりどのような修正をうけるか

 正当事由の有無をどのように判断するのか、及び立ち退き料の意義について

 正当事由はどの時点に存在する必要があるか

 建物買取請求権は債務不履行による解除のときも認められるか

 建物買取請求権は、本来賃貸借契約が終了すれば、建物等土地に附属せしめた物を収去する権利義務が発生するが、それでは社会経済上の損失であるし、借地人の投下資本の回収を図る趣旨から認められた制度である(借地借家法13条)。

 債務不履行解除の場合は建物買取請求権を認める説もあるが、借地借家法が期間満了と譲渡転貸による解除の場合に限っていることからみて、債務不履行解除の場合は買取請求権は認められないと解するのが妥当である。

 造作の内容及び債務不履行解除と造作買取請求権

 造作とは、建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与える物をいう。

 借地借家法が造作買取請求権を規定したのは、賃貸借終了時にこれを収去することを強いられるのは、社会経済上の損失なので、賃借人に買取請求権を認めることによって、造作により増加した建物の価値を維持しようとする立法趣旨による。

 債務不履行によって解除される場合にも、造作買取請求権は行使できるか。借地借家法33条1項は「期間の満了又は解約の申入れ」の場合としているが、「解約」の原因について触れていないため問題となる。

 旧借家法時代の判例は、行使し得ないとしていたが、行使できると解される。

 造作により増加した建物の価値を維持しようとする立法趣旨を考えると、賃貸借終了原因によって権利行使が左右されるべきものではないからである。

 賃借人が死亡した場合の内縁の妻の居住権の保護について

 請負と他の契約との区別について

 委任は法律行為の委託であって、準委任は事実行為の事務の委託である。

 労務の提供という点において委任と雇用は共通点をもつが雇用は労務の提供それ自体が目的なのに対して、委任は法律行為を行うための手段にすぎない。

 請負も労務を提供するが、これは仕事の完成という目的のためのものであって、しかも請負人は仕事完成義務を負う点が異なる。

 ただ現実の契約においては、これら典型契約がそのまま適用されるというより、混合した形で行われることが多い。

 請負契約における報酬請求権の発生時期

 請負契約は仕事の完成を目的とするものであるが、その請負人の報酬支払請求権は仕事が完成してはじめて発生する、といったものではなく、契約成立時に発生するものである。

 したがって、この報酬請求権を第三者に譲渡することも可能である。

 しかし、この権利が後払いの場合、請負人は仕事が完成し、引き渡すまで、この権利を行使することができない。

 すなわち、この請負人の権利は停止条件付の報酬請求権ということになる。

 請負契約に基づいて築造された建物の所有権は請負人と注文者のいずれに帰属するか

 この所有権の帰属については、契約の内容なので、本来当事者の意思において自由に定め得るものである。

 したがって、当事者があらかじめ特約を定めていないときは、通常の当事者の意思に従って決せられるべきである。

 例えば、材料を請負人が提供しており、代金が後払いとなっている場合、建物の所有権は請負人に帰属させるのが当事者の当事者の意思に合致すると解するのが妥当である。

 そして、かように解することで、請負人の報酬請求権を確保できるので、結果的にも妥当である。

 仕事完成前の請負の目的物の滅失毀損の場合

 注文者が受領遅滞等のない限り、原則として536条により請負人が危険を負担すると解すべきである。

 なぜなら、請負契約は特定物に関する物権の設定または移転に関するものではないので、原則にかえって536条で処理すべきだからである。

 仕事完成後引渡前の請負目的物の滅失毀損の場合

 建物の滅失毀損によって請負契約は社会通念上履行不能となったと解される。

 問題はこのような場合にもなお請負人は注文者に請負代金を請求し得るかである。すなわち危険負担の問題である。

 この点、請負人の仕事完成義務は建物の完成によって完了しているので、請負人の義務は目的物引渡義務に集中し、これは特定物引渡義務なので、534条の債権者主義の適用があるとする説もある。

 しかし、この場合は536条を適用して、債務者主義により請負人は代金の支払いは請求し得ないと解すべきである。

 請負契約の本質は、仕事の完成であり、目的物の引渡はその一部にすぎない。

 したがって、仕事完成と目的物引渡とを切り離して、後者のみを根拠として534条を適用することはできない。536条により請負人が危険を負担すべきである。

 請負契約の担保責任は裁判外の権利行使で足りるか。

 請負契約は仕事の完成を目的とするものであるから、民法は請負人の担保責任に特則を設けた。

 しかし、その権利行使は、瑕疵を知ったときより1年以内に行わなくてはならない(566条)。

 この1年の期間は除斥期間であり、その間に裁判上、もしくは裁判外における権利行使があれば足りるものと解する。

 この点、1年の期間は短期間内にこれらの権利を速やかに処理しようとする趣旨であるから、債権者に対しても1年の期間内に訴えを提起することを要するとの説もある。

 しかし、裁判ざたを好まないわが国民性を考えると、ここまで要求するのは買主に酷である。

 よって、権利行使が裁判外であっても足りるものと解する。

請負人の担保責任の除斥期間を経過した損害賠償債権と508条の適用の可否

 担保責任に基づく損害賠償を所定の期間内に(637条1項)行使しなかった。 この場合の買主は634条2項で請求できるはずだった損害賠償請求権を自働債権とし、売主への代金債務と相殺できるであろうか。508条の解釈が問題となる。 確かに508条の趣旨は、相殺の成立には意思表示が必要とされているが(506条)、相殺適状となれば当事者は債権債務は消滅したと考えるのが通常なので、当事者のかような期待を保護するためのものである。

 637条1項は法律関係を早期に解決するため定められた除斥期間であって、時効期間ではない。

 しかし、消滅原因がいずれであれ、当事者が双方の債務が対等額で消滅することを期待することにはかわりはない。

 よって、508条を除斥期間の場合に類推適用することで相殺を認めるべきである。

 土地工作物目的の請負担保責任

 請負人の担保責任の規定は、請負人に修補義務を課し、加えて注文者が瑕疵により目的を達することができないときは、解除権を認めている。

 ただし、この解除権は、建物その他土地工作物が目的物であった場合は行使できない。

 これは、解除によって工作物を収去させることとなってしまうので、社会経済上の不利益を防止する観点から、解除権を認めなかったのである。

 さらに、注文者は損害賠償請求をすることができる。

 これらの担保責任は引き渡しのときから5年以内に行使しなければならない(通常は1年)。

 担保責任の除斥期間経過後、過失の存在を前提として、注文者は債務不履行責任を問えるか

 請負人の担保責任は、請負契約の有償性に鑑み、請負人に無過失責任を課したものである。

 では、過失があった場合、請負人は債務不履行責任も併せて負うのだろうか。

 634条以下の規定は、不完全履行の特則でもあると解されるので、請負契約にはたとえ請負人に過失があっても債務不履行責任を問えないと解すべきである。

 かように解することによって、注文者は責任追及できる期間が5年に短縮され不利を被る。

 しかし、638条が法律関係を早期に解決させようとした趣旨を鑑みると、やむを得ないと解する。

 また、これを認めないと、土地工作物目的の請負の場合でも債務不履行による解除を認めることとなり、社会経済上の不利益の防止のため解除権を制限した635条の趣旨を没却することとなる。

 651条の無理由解除権はどのように解釈されるべきか

 
 

事務管理・不当利得

 
   事務管理とはなにか

 事務管理とは、法律上の義務がないのに他人のためにその事務を処理する行為である。

 元来、義務のない者は、みだりに他人の事務に干渉すべきではないけれども、他人の利益をはかることは、社会生活における相互扶助の理想からみて、ある程度奨励されるべき事柄である。

 また、これを不法行為とすることは、人をして緊急の扶助をなすことをも怖じけさせる結果となり、相互扶助の理想に反する。

 よって法は、管理行為を適法なものとし、当事者の公平のために、一定の債権関係が生じることを認めたのである。

 事務管理が債権の中に規定されている理由は何か

 本人は管理者の受けた損害を賠償する義務があるか

 事務管理が成立する場合、管理者に報酬請求権が認められるか。委任契約の場合との対比で問題となる。

 事務管理の効果として、本人と管理者との間に債権関係が発生するとともに、管理行為の違法性を阻却する。

 管理者が事務管理の結果損害を被るも、管理費用と認むべきものでないかぎり、本人はこれを賠償すべき義務はない。

 なぜなら、委任の650条に相当する規定がないからである。

 しかし、本人は他人の行為によって利益を得ているのだから、その他人に発生した損害について賠償する必要はないとしては、公平に反する。

 よって、702条1項の「費用」の解釈にあたっては、当該事務の管理にあたって当然予期される損害はこれを費用に含ませると解するべきである。

 管理者に報酬請求権が認められるか

 事務管理が成立する場合、管理者に報酬請求権が認められるか。委任契約の場合との対比で問題となる。

 事務管理の効果として、本人と管理者との間に債権関係が発生するとともに、管理行為の違法性を阻却する。

 管理者は、その支出した費用の償還請求権を取得するけれども、報酬を請求する権利は規定がない。

 事務管理が私的自治の原則に抵触するものである以上、報酬請求権までは認められないものと解される。

 しかし、本人は他人の行為によって利益を得ているのだから、その他人に何ら報酬を支払わなくてもよい、とするのは公平に反する。

 よって、702条1項の「費用」の解釈にあたっては、管理者の職業ないし営業についての労務の提供をした場合は、定型化された「費用」として報酬相当額の請求を管理者に認めるべきである。

 事務管理として第三者となした法律行為の効果は本人に及ぶのか

 事務管理として本人の名で法律行為を行ったからといって、当然に代理権まで発生するものではないと解する。

 事務管理の制度は、本来義務なくして他人の事務に干渉することは違法であるが、相互扶助の理念からこれを適法とし、その上で一定の法律関係を認めたものにすぎず、それ以上積極的に代理権の発生まで認めたものではない。

 そして、そう解さなくては、本人の私的自治を害することになる。

 ただ、この場合は、無権代理が成立するから、本人が追認すれば本人について効果を生じる(113条)。

 準事務管理の肯否

 利他的意思がなく他人の事務を処理して多くの利益を得た場合、本人はこの利益のすべてを請求し得るであろうか。

 この点、不当利得返還請求権をもとに利益の請求をなし得るが、その請求権の範囲は、本人の損失を限度とすることになり、利益のすべてを請求することができず、また、損失の証明は困難である。

 他方、事務管理の規定を使えば、受け取った金銭等を本人に引き渡す義務が規定されているので(701条>646条)、利益のすべてを請求できることになるが、「他人のために」する意思が認められない以上、これを適用するのは困難である。

 そこで、かような場合、準事務管理の概念を認めて、事務管理の規定を類推適用をすべしとする説もある。

 しかし、不当利得の損害の算定にあたって、一般にそれだけの利得を生じる客観的可能性がある限り、なお得べかりし利得の損害がある、と広く解すれば妥当な解決がなされるのであって、あえて準事務管理の概念を認めるに及ばない。

 不当利得の類型論とは何か

 703条と189条の適用関係

 家屋が売却された後、右売買が取消され家屋を返還するに至ったとき、取消されるまでの間の家賃収入まで返還を要するか。189条の適用の有無が問題なる。

 この点、いわゆる類型論の立場から、かような給付利得の場合には189条の適用の余地はないと解する説もある。

 しかし、189条の趣旨は果実を保有し得ると信頼した者を保護する点にあり、この理はいわゆる給付利得の場合にも認められるべきである。

 189条は703条の特則をなすものであると解されるので、利得を現物で返還し得る場合は、189条から191条・196条で処理し、それ以外の場合は、一般不当利得原理に従って処理されるべきである。

 したがって、家屋の買主は返還するまでの家賃収入を法定果実として収取できるものと考える。

騙取金による債務の弁済についての受益と損失の因果関係の有無

 MがXからの騙取金によって債務をYに弁済したとき、XはYに不当利得返還請求ができるであろうか。Xの損失とYの利得の因果関係の有無が問題となる。

 この点、因果関係の直接性を要求する立場からは、騙取と弁済という二つの独立行為が存在している以上、因果関係は否定されることになる。

 しかし、中間者を介在させることによって結論を異にし得るのは妥当でない。

 不当利得制度は法の技術的な適用によって生じた財産的価値の移動を公平の理念に基づいて調節しようとするものであるから、因果関係の認定も公平の理念に基づいて社会通念に従って決すべきである。 したがって、不当利得における受益と損失との間の因果関係は、両者に社会観念上の連絡が認められるか否かで決せられるべきと解するが妥当である。

 騙取金による債務の弁済についての法律上の原因の欠如の意味

 MがXからの騙取金によって債務をYに弁済したとき、XはYに不当利得返還請求ができるであろうか。因果関係が肯定されたとして、法律上の原因の有無が問題となる。

 思うに、不当利得制度は法の技術的な適用によって生じた財産的価値の移動を公平の理念に基づいて調整しようとするものである。

 よって、「法律上の原因なし」とは、一般第三者に対する関係においては一応利得者に帰属した利得をそのまま損失者に対する関係においてもまた保有せしめることが公平の原則に反することを意味すると解するのが不当利得制度の趣旨に合致する。

 YがMから右の金銭を受領するにつき、悪意又は重過失がある場合には、Yの金銭の取得は、Xに対する関係においては法律上の原因がなく不当利得となるものと解するが相当である(判例)。

 転用物訴権の可否について

 X>M間の契約に基づくXの給付が、契約外の第三者Yを受益せしめた場合に、XのYに対する不当利得返還請求は認められるか。転用物訴権の問題である。

 この点、XはMとの契約に基づいて給付したものであり、Mの無資力の危険はX自らが引き受けるべきであるとして、これを否定する説もある。

 しかし、判例はMの無資力を要件とするだけで、Xの損失とYの利得に直接の因果関係を認めて、広く転用物訴権を承認する。

 因果関係の存否は社会通念上のものでよく、また法律上の原因の有無も、「公平」の観点から判断すればよいと解されるので、転用物訴権は原則として認め得ると解される。

 ただ、YとMの間の特約の存在等を公平か否かを判断する際に考慮する必要がある。

 強制執行を免れる目的での仮装譲渡は「不法」といえるか

 708条は90条と表裏一体をなし、公序良俗に反する行為をなした者の法的救済を否定するものであるから、同条にいう「不法」とは公序良俗ないし社会道徳に反することを言う。

 したがって、強行法規や禁止規定に違反する行為のすべてが「不法」に当たるとは限らない。

 強制執行を免れる目的での仮装譲渡については刑法に触れる行為であり、強い違法性があるが、これに708条の適用を肯定すると、債権者取消権によっても、逸失財産を債務者の手元に取り戻すことができなくなり、債権者が強制執行ができなくなる。

 この場合は、当事者の意思ないしは当事者間の信義・公平からも債権者の利益の擁護の観点からも、本条の「不法」にはあたらないと解すべきである(判例同旨)。

不法原因の比較(708条但書)について

 不法原因給付というにはどの程度の給付が必要とされるのか

 708条にいう「給付」とは、「受領者に事実上終局的な利益を与えるもの」かどうかを基準に判断すべきである。

 なぜなら、終局的でない給付について返還請求権を否定すると、かえって給付の実現に法が寄与することになり、90条や708条の趣旨に反することになるからである。

 そこで、不動産について給付ありといえるためには、本来引渡だけでは足りず、登記まで移転することを要することになる。

 ただし、未登記の建物については、給付者自らが保存登記をすることができるので、登記の取得について国の助力を必要とすることもないので、引渡があれば事実上終局的な利益を与えられたと解することが妥当である。

 不法原因給付とされた場合の所有権関係をどう把握すべきか

 708条は不当利得に関する特則である。では、給付者が所有権に基づいて返還請求をしてきた場合、どうなるか。

 給付者の明渡請求が不当利得を根拠とするものであれ所有権を根拠とするものであれ、給付者は自ら公序良俗違反の行為をなしたのだから、その主張を認めることはクリーンハンズの原則に反し許されないと解するのが妥当である。

 では、この場合、給付物の法律関係はどうなるか。

 給付者はもはや当該目的物についてなんら権利行使できないのだから、かような給付者に所有権を帰属させておくのは無意味のみならず取引の安全を害する。

 そこで、給付者が所有権による明渡を請求できないことの反射的効力として給付者は所有権を失い、受領者が所有権を取得すると解すべきである。

 708条は不法行為に基づく損害賠償請求権にも適用されるか

 708条は、社会的妥当性を欠く行為をした者には復旧の請求を許さないという趣旨に基づくものである。

 したがって、不法行為に基づく損害賠償の請求という形式でその請求がなされる場合にもまた適用があること当然である。これを認めないと、708条の趣旨は没却されてしまうからである。

 判例も、708条の類推適用により不法行為の成立を否定する。

不法行為

 
   不法行為の過失の核心は心理状態か行為義務違反か

 不法行為の過失の客観化とは何か

 不法行為における信頼の原則とは何か

 不法行為成立要件としての「権利侵害」をどう解釈するべきか

 相関関係理論−過失と違法性の位置付けについて

 不法行為の成立要件としての損害をどのように分類すべきか

 709条に規定する「因りて」の意味

 不法行為の因果関係の立証とその軽減

 責任能力の意義−市民社会から現代社会へ

 711条は生命侵害以外の場合にも適用があるか

 711条は負傷にとどまった場合にも適用があるか。711条の明文が生命侵害の場合となっているため問題となる。

 生命侵害ではないが、生命侵害に比肩し得べき傷害を受け近親者が死亡のときにも比すべき精神的苦痛をうけた場合には、711条により慰謝料請求を認めるべきと解する。

 本来、慰謝料請求をなしうるほどの精神的苦痛を受けた者は、709、710条によって賠償を請求し得るはずである。

 しかし、711条所定の関係にある者は、被害者が死亡すれば、精神的苦痛を生じるのが通常であるから、法は彼らが立証すべき精神的苦痛の立証責任を転換させることにした。これが711条の趣旨である。

 とすれば、生命侵害に比すべき傷害を受けた場合にも、なお死亡のときに比すべき精神的苦痛を生じるのが通常であるから、立証責任の転換を認めてよいと解する。

 内縁の妻、未認知の子などは711条所定の請求権者といえるか

 本来、慰謝料請求をなしうるほどの精神的苦痛を受けた者は、709、710条によって賠償を請求し得るはずである。

 しかし、711条所定の関係にある者は、被害者が死亡すれば、精神的苦痛を生じるのが通常であるから、法は彼らが立証すべき精神的苦痛の立証責任を転換させることにした。これが711条の趣旨である。

 したがって、711条に列挙された者以外の者であっても、709、710条によって慰謝料請求をなしえると解される。

 さらに、内縁の妻や未認知の子等は、711条の近親者に準じる者としてこれを類推適用して立証の負担を救済すべきである。

(判例は、709、710条の場合が多い)

 被害者死亡に対し精神的苦痛を感じる能力のない幼児、精神病者も711条の主体たりうるか

 判例は、幼児につき慰謝料請求権の主体たることを肯定した。

 少なくとも、711条所定の者については、慰謝料の請求にさいし、これらの者が現実に精神的苦痛を受けたことを証明する必要さえないのだから、幼児について711条の主体たることは可能であると解する。

 法人に慰謝料請求権が認められるか

 法人の財産的損害について賠償請求ができることには争いがない。

 問題は、法人は人格権侵害による非財産的損害賠償請求権を取得し得るかである。

 法人も、自然人的存在を前提とする権利でなければ人格権を共有し得るから、法人のそれらの権利が不法行為によって侵害された場合には、その法人が損害賠償請求権を取得することになるのは当然のことといわなければならない。

 判例も、法人がその名誉を侵害されて「無形の損害」を受けた場合には、710条によって、侵害者に対し金銭賠償も請求することができる旨、述べている。

 間接被害者は救済されるか。近親者が費用を支出した場合

 被害者が負傷し、近親者が治療費を負担した場合、被害者も近親者も共に加害者に対して損害賠償請求ができると解するのが妥当である。

 なぜなら、近親者と被害者の賠償請求権は、同一の目的の別個の債権であって、不真正連帯債権の関係にたつと解されるからである。

 したがって、近親者自ら治療費等を賠償請求できるのみならず、近親者が治療費を支出した後でも、直接の被害者は治療費相当額を加害者に請求し得ることになる。

 間接被害者は救済されるか。従業員の負傷で企業が被害を受けた場合

 会社の従業員が、第三者から傷害をうけ、その結果会社が被害を受けた場合、その会社は損害賠償の主体となりうるか。 身体に対する傷害によって、被害者以外の者に対して損害を生ぜしめた場合には、その損害が違法な行為と相当の因果関係に立つ限り、その者に対して不法行為責任が発生すると解される。

 そして、企業損害の場合は不法行為から通常生ずべき損害ではないので、原則として否定されると解される。

 これに対し、法人自体に賠償請求権が生じるとする説もある。

 しかし、これを認めることは、現代社会にあっては損害賠償額の拡大、紛争の複雑化をもたらすものであって、妥当でない。

 ただ、例外として企業に対する妨害活動として従業員に加害をうけた場合は、企業それ自体が被害者であり、賠償を請求し得ると解される。

 間接被害者は救済されるか。個人企業主が被害を受けた場合

 個人企業主が、第三者から傷害をうけ、その結果会社が被害を受けた場合、その会社は損害賠償の主体となりうるか。

 身体に対する傷害によって、被害者以外の者に対して損害を生ぜしめた場合には、その損害が違法な行為と相当の因果関係に立つ限り、その者に対して不法行為責任が発生すると解される。

 そして、企業損害の場合は不法行為から通常生ずべき損害ではないので、原則として否定されると解される。

 これを認めることは、現代社会にあっては損害賠償額の拡大、紛争の複雑化をもたらすものであって、妥当でないからである。

 しかし、個人企業にあっては個人と企業との経済的一体性が認められるので、企業に賠償請求権を認めるべきである。

 不法行為における損害賠償の範囲を確定するための理論構成をどうすべきか

 不法行為における損害賠償の基準時をどこに求めるべきか

 不法行為において、過失相殺能力をどう理解するべきか

 不法行為の場合、被害者に過失があれば過失相殺が可能である(722条2項)。しかし、被害者が過失の前提となる責任能力を欠いていた場合、過失相殺は主張できないか。過失相殺の趣旨が問題となる。

 過失相殺でいう過失は、不法行為の成立の要件とするものではなく、公平の見地から損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌して損害額を算定するかという問題にすぎない。

 したがって、未成年者が責任能力を欠いても、事理を弁識するに足りる知能が備わっていれば足りると解される。

 不法行為において過失相殺するに、過失相殺において被害者側の過失を斟酌すべきか

 幼児が事故にあったことにつき、保育園の保母に過失があった場合、加害者は保母の過失をもって過失相殺しうるか。722条2項の「被害者」をどう解するかが問題となる。

 722条2項の過失相殺制度の目的は、発生した損害を公平に分担することにある。

 したがって、被害者と身分上、生活関係上一体をなすと認められる者の過失は、なおこれを被害者の過失としてこれを斟酌できると解するのが妥当である。

 したがって、監督義務者たる親権者、あるいは家事使用人のような場合ならともかく、保母の過失は被害者側の過失にはならないと考える。

 好意同乗者の賠償請求

 友人に好意で自動車に乗せてもらっている途中、事故に遭って負傷した。彼は友人に運行供用者としての全責任を問えるのか。自賠法3条の適用が問題となる。 自賠法3条にいう「他人」とは、当該自動車の運行供用者及び運転者を除く、それ以外の第三者をいう。好意同乗者も含まれると解される。

 自賠法でいう運行供用者責任は、危険責任を主とし、報償責任を従とするものと解されるが、好意同乗者は自動車から利益を得ている者であるため、彼に対して、何らかの責任の制限が必要である。

 そこで、運行供用者性を相対的にとらえ、運行供用者は道路歩行者等に対する外部関係では運行供用者であっても、好意同乗者に対する内部関係では、過失相殺の類推により、その運行供用者性は割合的に減ずるものと解される。

 不法行為における慰謝料請求権は譲渡しうるか

 慰謝料請求権は、その基礎にある被害法益、損害ないし請求権の与えられた目的が事実上一身専属的なものとされがちであるため、一身専属性を有するとする見解もある。

 一身専属性には、帰属上の一身専属性と行使上の一身専属性がある。

 帰属上の一身専属性(非譲渡性・相続性)は、慰謝料債権も終局的には単純な金銭債権となるので、否定されるものと解される。

 しかし、行使上の一身専属性(差押・代位権)については、それが合意または債務名義などにより具体的な金額の請求権として確定されたことが必要であるので、これを肯定すると解する(判例)。

 不法行為における慰謝料請求権は相殺できるか

 509条は、不法行為による損害賠償債権を受働債権として相殺することを禁じている。

 これは、弁済を受けられない債務者への不法行為誘発の防止とともに、被害者に現実の弁済を取得されるという趣旨に基づくものである。

 例え、自動車の衝突事故などのように、同一の社会的事実から損害賠償請求権が発生した場合でも、現実の賠償金を取得させるという要請はあるので、やはり相殺は禁止されると解される。

 生命侵害以外の通常の損害賠償請求権について、相続性は肯定されるか

 まず、財産的損害については問題なく相続される。

 慰謝料請求権については、それが被害者死亡時において権利として確立していれば、やはり問題なく相続される。

 生命侵害の場合の財産的損害賠償請求権について、相続性は肯定されるか

 この場合の財産的損害賠償請求権は直接被害者について成立し、それが相続人に承継されると解される(相続的構成)。 これを認めなければ、受傷後死亡するまで時間があった場合と、即死の場合とで取り扱いを異にしなくてはならず妥当でないからである。

 もっとも、死者には権利能力がないので、即死の場合、損害賠償請求の主体適格性がないとする説もある。

 しかし、生命侵害を無限定の身体傷害、すなわち身体傷害の極限概念と解して、死亡の直前、被害者は実質において生命侵害に対する損害賠償請求権を取得し、それが相続されると解することが可能である。

 生命侵害の場合の慰謝料請求権について、相続性は肯定されるか

 死亡による慰謝料請求権の相続については、財産的損害と同様、死者の損害賠償主体性の問題がある。

 これを肯定すれば、慰謝料請求権の相続性を肯定できるか。慰謝料請求権は一身専属権であるから、被害者の請求の意思表示を要するのではないかが問題となる。

 これを要するとする説もあるが、意思表示の有無によって不均衡が生じ妥当でない。

 慰謝料請求権は、確かに相続人に移転し得ない一身専属的な法益の侵害に基づいて生じるけれど、原則として金銭給付を目的とするものであり、その限りにおいて、相続性を有すると解すべきである。 なお、711条の近親者は固有の慰謝料請求権をも併せ有することになるが、その額は両者を相関的に算定されるべきである。

 724条の消滅時効の起算点をめぐる諸問題について

 724条は「損害及び加害者を知ったとき」から時効が進行する旨を規定する。

 この「知った」とは、賠償請求権確保を図る目的によると解される以上、賠償請求が可能となる程度の認識をいうことになる。

 問題となるのは、不法占拠や公害などの継続的な不法行為による損害等である。 この点、最初に損害が生じたことを知ったときを起算点とする説もあるが、時効の完成が早すぎて妥当でない。

 継続的不法行為は、日々新たな不法行為による日々新たな損害が発生しているのだから、この新たな損害について日々に時効が進行すると解するのが妥当である。

 不法行為による侵害に対し現状回復と差止請求は認められるか

 不法行為と債務不履行の損害賠償請求権は競合するか

 監督者責任は不法行為の一般的要件とどう違うか

 責任能力ある未成年者の不法行為と親権者の責任

 責任能力ある未成年者の不法行為について監督者に責任を問えるか。714条が、無能力者が責任能力なしとして免責された場合に、監督者が責任を負うように規定されているので問題となる。

 714条は被害者保護の観点から、監督義務違反の立証責任を転換したものにすぎず、709条の監督者としての責任を免除するものではない。

 したがって、被害者が独自に709条の要件を立証し、監督者に対する責任追及をすることを714条が禁じていると解することは妥当でない。

 失火責任法と監督義務者の責任

 失火責任法は、709条は失火の場合には重過失がなければこれを適用しないと規定している。

 そこで、監督義務者の責任も監督義務違反に重過失を要すると解されるのではないかが問題となる。

 失火によって火災を起こした者は、その失火によって自身もまた損害を被っており、これに709条をそのまま適用して類焼によって多大になることが多い賠償責任を負わせるのは、あまりに酷である。

 そこで、失火責任法は、失火者の責任を重過失の場合に限定したのである。

 したがって、責任が重過失に限定されるのは失火者であり、監督義務者の責任を限定したものではないと解される。

 使用者責任と不法行為の一般的要件とどう違うか

 使用者責任の根拠は何か

 715条は、被用者が事業の執行につき第三者に与えた損害につき、使用者に賠償責任を負わせている(代位責任)。

 これは、使用者は他人を使用することによって利益を得ているのだから、これによって生じた損害もまた使用者が負担すべきであるとの報償責任の原則によるものである。

 使用者責任の課題−企業責任について

 使用者責任における「事業の執行につき」とは

 「事業の執行につき」とは、使用者・被用者間の内部関係や主観的意図にとらわれず、客観的に行為の外形を標準として判断する必要がある(外形標準説)。

 そもそも損害賠償制度は、発生した損害をだれに負担させるのが公平かという観点から規定されるものであるが、不法行為の場合においては、今日ことに被害者の保護に重点がおかれるべきである。

 とすれば、客観的に行為の外形から判断してそれが事業の執行といえるなら、使用者責任を認めるのが妥当である。

 外形標準説と事実的不法行為について

 使用者責任と求償権の制限について

 使用者が被害者に全額賠償した場合、使用者は被用者に対して全額を求償できるか。715条3項が特に制限を加えていないことから問題となる。

 使用者と被用者は不真正連帯債務を負うものと解される。

 715条は、報償責任の原理、すなわち被用者を使用して利益をあげうる使用者は、被用者を使用することから生じる損害をも負担するのが公平である、との原理から規定された。

 にもかかわらず、全ての損害について被用者に求償しうると解することは、右原理に反し、不公平であり、妥当でない。 求償の額は、使用者が監督を怠った程度その他一切の事情を斟酌して定められるべきであり、常に全額の求償を認めるべきではない。

 716条は特殊的不法行為を定めたものといえるか

 元請負人と下請負人との関係

 工作物責任と不法行為の一般的要件との違いはなにか

 土地工作物の占有者(717条)に間接占有者が含まれるか

 工作物責任と対抗要件

 工作物について所有権の譲渡がありながら、移転登記などの対抗要件が依然として前所有者の下にある場合、この前所有者も責任を負うことになるであろうか。 この点、「所有者」の責任は取引法上の責任でなく、不法行為法上の責任であるから、対抗要件でなく実体的権利状態を基準に「所有者」を決すべきであるとする説もある。

 しかし、被害者は自己の加害者を特定し、責任追及の相手方を確定する利益を有している。

 しかるに、対抗要件が移転しない間は所有者は確定しないから、被害者は責任追及の相手方を確定できない。

 したがって、自己の物権を公示しうる状態にある者が、公示を怠っている場合には、不法行為法上の責任を課されてもやむを得ないと考える。

 この場合、譲受人と前所有者とは不真正連帯債務を負うものと考える。

 717条の「土地の工作物」の範囲

 土地の工作物とは「土地に接着して人工的作業をなしたるによりて成立せる物」をいう。

 この点、工場内の機械は土地に接着しているのではないので、土地の工作物とはいえないと厳格に解する説もある。

 しかし、工場内の機械は企業施設を組成する重要な物であり、工場自体は土地を基盤とする物的施設であることは明らかである。

 したがって、機械が土地に接着しているか工場に接着しているかは重要ではない。工場内の機械は土地の工作物となると解すべきである。

 また、運輸業の如く、土地に関する設備を基礎とするとはいえないものでも、一つの企業組織をなす物には本条を適用すべきとする説もある。

 判例も、鉄道の踏切に保安設備がないのを土地の工作物の瑕疵であるとした。

失火責任と工作物責任との関係について

 火災が717条の要件を満たす場合に、717条の責任を問えるか。失火責任法が責任を重過失のある場合に限定しているので問題となる。

 失火責任法の趣旨を、日常の火気取扱いにおいて生じた火災について常に他人に損害賠償の責めを負わせるのは酷だからであると解し、日常家事以外による火災、すなわち土地工作物から生じた失火については717条を優先して適用するとする説もある。

 しかし、この説では責任が拡大しすぎ失火者に酷である。

 失火責任法は、火災から生じる損害は類焼等によって拡大しやすいこと、また失火者自身も被害を被っていることから失火者の責任を制限した規定と解される。 したがって、工作物から直接焼損した部分については717条により、その周辺に類焼した部分については失火責任法により、その責任を追及されるべきである。

 動物占有者責任は不法行為の一般的要件とどう違うか

 動物占有者責任の根拠は何か

 718条にいう占有者と保管者の意義について

 狭義の共同不法行為の成立要件

 719条1項前段は、共同して不法行為を行った者につき連帯責任を規定する。

 これは、両者が損害の発生につき、直接・間接に関連共同しているため、結果についても共同責任とするのが、被害者の保護に資するという趣旨に基づく規定である。

 共同不法行為においても、各人が709条の要件、すなわち故意・過失、損害との因果関係を充たしていなければならないと解する。

 しかし、両者の行為は客観的に関連共同しているだけでよく(客観的共同説)行為者の間に共謀または共同の認識は必要ないと解される。

不真正連帯債務に求償権が認められるか

 不真正連帯債務は、各債務者間に主観的共同関係がないので、負担部分がなく、したがって当然には求償関係が生じないとするのが通常である。

 しかし、私は不真正連帯債務の属性において債務者間に求償権が生じると考える。

 不真正連帯債務という概念は、不法行為の原因を作った者が複数存在した場合、かって各債務者がそれぞれ全額の給付義務を負うと解されていたものを、それでは被害者が加害者の人数の分だけ取り得となるので、債権の満足という目的まで縮減したという沿革から成立したものである。

 したがって、各債務者はそれぞれ本来負担すべき責任の割合に応じた負担部分を有しているのであって、その負担部分を超えた弁済をなした者は、他の債務者に対し求償権を有すること連帯債務と同様と解されるのである。

 加害者不明の共同不法行為の成立要件

 719条1項後段は、共同行為者中加害者不明の場合、連帯責任を認めている。

 では、この場合、加害者は自己の行為によって損害が生じていないことを立証して責任を免れるであろうか。同条の趣旨が問題となる。

 この点、この規定は因果関係を擬制したものとし、免責を否定する説もある。

 しかし、この規定は、被害者の救済を厚くするために共同行為者について因果関係を推定するものと解すべきであるから、免責を認めるのが妥当である。

 共同不法行為における教唆・幇助とは何をいうか

 教唆者・幇助者については、違法行為自体を共同するものではないが、民法はこれを共同不法行為者とみなした(719条2項)。

 共同不法行為の効果について

 共同不法行為者間の責任は連帯債務となるのか、それとも不真正連帯債務となるのか。「各自連帯して」の意義が問題となる。

 共同不法行為者間には必ずしも密接な主観的共同関係のないこと、不真正連帯債務の方が被害者に有利であることを考えると、不真正連帯債務と解するのが妥当である。

 なお、この場合、加害者間に求償関係は認められないであろうか。不真正連帯債務について求償権は認められないかが問題となる。

 不真正連帯債務について求償権を認めない立場からは、加害者間の求償関係は否定されるであろうが、不真正連帯債務においても実質的な関係から、本来負担すべき責任の割合が認められるので、公平の見地により、求償権を認めるべきと考える。

 したがって、共同不法行為間で求償権を認めることができると解される。

 製造物責任をどのように構成して、被害者の保護を図るか

 製造者は使用者が被害を被らないように配慮して製造する義務がある。

 しかし、これについて不法行為責任を問うには、被害者が製造者の注意義務違反・因果関係の立証を負わなければならないので、被害者にとって極めて困難である。

 そこで、被害者は製品に瑕疵があることを立証しさえすれば、製品に瑕疵がある場合には、製造者に過失があるのが通常であるので、かような場合は事実上立証責任の転換を図って被害者の救済を図るべきである。

 なお、製造者は消費者に対し宣伝・広告を行い、あるいは品質保証証書を交付することを、品質保証契約の申込と解し、消費者がそれを信じて購入することを承諾と解することによって、両者に直接の契約関係を認め、もって立証責任を製造者の負わせるとの説もある。

 しかし、これはあまりに技巧的にすぎ、また通常の製造者の意思に反する。

 しかも、この説では購入者以外に生じた損害を救済できないし、過失の免責約款によって製造者は容易に責任を免れてしまう欠点がある。よって妥当でない。