権利の移転という面で、例えば債権譲渡がある。
しかし、それでは原因関係の瑕疵を譲受人が負担することになる危険があり、譲受人としては安心して受領できない。
それでは、権利の流通が妨げられる。
よって、手形は原因関係と無関係とされた→無因証券性
↓
そして手形は手形を振り出すことにより権利が発生する(設権証券性)
*この二つは一体不可分。無因証券なら理論上当然に設権証券でなければならない
○では、なぜ、手形の作成・振り出しによって権利が発生するのか?
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それは、約束手形の振り出しは(原因関係から離れた)「債務負担の意思表示」だからである。
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意思表示だから、民法総則にいうところの
・瑕疵の不存在
・行為能力の存在
そして、「意思表示の到達」(民97条)が必要とされる。
意思表示が到達してはじめて手形上の権利が発生するのである。
○では、債務者の手形作成後交付前に、その手形が盗まれたらどうなるか?(交付欠缺)
上記の原則からいくと、債務負担の意思表示が債権者に到達していないのだから、右手形は権利身発生であり、盗人から譲り受けた者は権利を主張できないことになる。
しかし、それでは権利の流通を目指す手形法の趣旨からいうと望ましくない
そこで、債務者が手形面上に署名すれば、それだけで権利が発生するとの説が考え出された。これが創造説である。
これにより、署名後盗取された場合にも、その後の所持人を保護でき、権利の流通に資することになる。
*より詳しくいうと、債務者が手形と認識しながら署名すればこの段階で債務者は自分自身に対して債務負担の意思表示を行ったと考え、意思表示の到達の問題(民97条)をクリアしたのである。
これに対して、通説からは、同一人間に法律関係を認めることはできないという前提を崩してまで権利を認める必要はない。かような場合は権利外観理論で救済できる、と批判されている。
創造説より
「署名した段階で手形上の権利は発生する。その発生した権利を債務者が債権者に譲渡することによって権利が移転する。
そう解することにより、署名後盗取された手形の譲受人は即時取得により保護することができるため、権利の流通を確保することができるのである。」
交付契約説より
「手形上の権利は振出人が証券を作成することによって発生する。すなわち約束手形の振り出しは債務負担の意思表示である。
ところで、この債務負担の意思表示は相手方に到達しなければならない(民97条)。
そこで、署名しただけでは、手形上の権利は未だ発生しておらずその署名された手形を交付することが必要である。」
*設権証券という観点から上記のような議論の展開が可能である。振出=債務負担の意思表示という大前提から(1)権利の発生、(2)瑕疵の不存在、(3)行為能力の存在、といった論点が展開されていく
「厳格な要式証券性」
そうであるなら、権利の内容を定めるに必要な事項が手形に記載されていないと権利の流通を害することになる
そこで、法は75条で手形要件を法定し、これを充たさない手形は「効力を有せず」と規定した〜厳格な取扱
これを厳格な要式証券性という。
文言証券性ゆえ、文言は客観的に解釈されなければならない。
これを「手形客観解釈の原則」という
もっとも、文言をあまりに客観的に解釈しすぎると、手形を無効と解さざるを得ないケースが増え、所持人の利益を害し、手形の流通を損なう危険性がある。
したがって、合理的に解釈すれば有効と解しうる場合には、有効として取り扱うことが必要となる。
*逆に、あまりにひどい手形を有効として取り扱うなら、手形流通をかえって害することになる
←価値判断なので反対説に考慮しつつ結論を出せばよい
手形要件(75条)で記載内容を特定
金額欄=75条2号「一定の金額を支払うべき旨の単純なる約束」
*ところで、手形の無因性の条文上の根拠を述べよ、といった場合、本条の「単純なる約束」が根拠となる。条件とか原因関係にかかわることを記載しないという趣旨である
「一定の金額」=金額の記載は一定でなければならない趣旨
無因・設権・文言について述べ←前提として軽く
手形の文言性から判断すると、手形面に記載されるべき文言はなにひょりも権利の内容を明確ならしめるものでなければならない
そこで、手形法は手形金額の記載は一定性を有しなければならないとした。
よって、本文のような場合、75条2項に反し無効である。
○『金額欄に「100万円と10万円」との記載がある場合』
一定性なしと解し無効。金額の算定が必要なら、これは二つの記載である
○『金額欄に「米貨1万ドルに相当する邦貨」との記載がある場合』
「米貨一万ドル」なら41条「外国通貨表示の手形の支払い」規定で満期における価格で支払い可能である
しかし、本文のような記述は、一定性がなく無効である
なぜなら、為替相場は日々変動しており、満期日において金額がいくら支払われるかを譲受人が知り得ないからである。41条はあくまで債務者の便宜を図ったものにすぎない。
○『金額欄に「1000000円」という記載に併せて「金壱百円」という記載がある場合』
なぜこのような記載があるかというと、算用数字の場合、変造されるおそれがあるからである。
しかし、この場合、両者の不一致という事態が出てくる。
そこで、手形法6条は文字の方を優先すると規定している。
文字の方が比較的誤りが少ないという趣旨である。
本文のような場合、数字の方が真実の意思を示しているようにも思える。なぜなら印紙代だけで100円以上かかるからである。
しかし、手形外の事情に立ち入ることは許されない(無因)。所持人を保護する必要はあるが、6条が明らかに文字を優先している以上、画一的処理をすることにより手形の流通を確保する方が妥当である(判例)。
○『満期に「平成13年2月29日」との記載がある場合』
*満期(33条)には4つの種類がある
実務の中心は確定期日払い(4号)
他に、
日付後定期払い(3号)←振出日以降一定期日後(〜日後に払うから貸してね)
一覧後定期払い(2号)
一覧払い(1号)←所持人が支払いのために提示した日〜裏書人に対して振出日+2日に限らず1年間請求可能というメリット
「平成13年2月29日」は存在しない不合理な記載である
権利の流通→手形の無因・設権性
文言性→手形に記載される文言は権利の内容を明確ならしめるものでなくてはならない
↓
したがって、存在しない日というような不合理な記載はしてはならないというのが原則である
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しかし、文言をあまりに客観的に解釈すると、手形を無効と解さざるを得ないケースが増え、所持人の利益を害することになり、ひいては手形の流通を損なう危険性がある
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したがって、合理的に解釈すれば有効と解しうる場合は有効と扱うことが必要となる
↓
本問の記載は2月末日の記載と解するのが合理的であり、無効と解するべきではない。
○『振出日「平成13年12月末日」、満期「平成13年9月29日」との記載がある場合』
価値判断の分かれるケース
満期は振出日より当然あとに来るもの→ゆえに不合理な記載である
手形の流通→無因・設権→文言性→権利内容の明確の要請
このような不合理な記載は権利の内容を不明確にするおそれがあり、手形取引の安全を害する
よって、無効である
あるいは
確定日付払い手形において振出日はあまり意味がない。満期が重要である。
(銀行取引約款では振出日はなくてもよいことになっている)
よって、この場合も有効である
○『支払地に「東京都新宿区高田馬場2−16」との記載がある場合』
「支払いをなすべき地」(75条4号)
「地」とは「場所」と異なり、ある程度広い範囲を示す
なぜ「場所」は手形要件になっていないか?
それは、営業場所の変更が弾力的に行われるためである