もし手形要件について正面から聞かれたら
まず、権利の流通を図るため→無因・設権性が一体不可分として認められ
↓
そのために文言性、すなわち権利の内容は手形面に記載された文言によって定められることになる
↓
とすると、手がtが要件の記載は権利の内容を明確にするようなものでなければならない
↓
そこで、手形法は手形金額の記載につちえは「金額は一定」でなくてはならない(75条2号)、あるいは不合理なものであってはならない(例;振出日前の満期)、というように各論へ進む
前回の続き
○『では、なぜ手形法は手形要件として「支払場所」とせず「支払地」としたのか』
それは、場所が特定されているとなると、営業場所の移転が難しくなってしまい振出人にとって不都合である。
そこで、手形法は支払「地」といったある程度広がりをもった地域の記載で足りるとした。
○では、どの程度の広がりが許されるか?
振出人の利益を考えれば、広い方がいいということになる。
しかし、所持人にしてみれば記載された支払地をたよりに支払い場所を探さなければならず、広くては不便である
そこで、両者の利益を調査して「少なくとも最小独立行政区画」が最大限と解する
○『支払地に東京都新宿区高田馬場2−16」との記載がある場合』
法が「支払地」の記載で足りるとしたのは振出人の利益の観点からである(場所的移動の容易性)
不利益を受ける振出人自らそのような記載をする場合にはその効力を否定する必要はない。
しかし、判例は「東京都新宿区」のみに記載の効力を認め、「高田馬場2−16」の部分はなかったものとして扱うとする→画一的処理の要請
実際、振出人の場所的移動があった場合、不都合が生じる。
記載の通りに支払地を限定してしまうと、手形の所持人は支払地である旧住所にて手形を呈示しないと有効な呈示にならないことになるからである。
*「有効な呈示」は所持人の裏書人への遡及(15条、43条)(裏書人の担保的効力)の重要な要件である。
所持人の利益を保護し、権利の流通を確保するため最小独立行政区画と解するべきである。
○『支払地に「東京都中区」との記載がある場合』
支払地に実在しない地域を記載した手形の効力
(権利の流通→無因・設権・文言・・・・)
手形は不特定人間を転々流通するので、手形要件は権利の内容を定める明確なものでなければならない
よって、支払地の記載は実在する地でなければならない
本問のごとき実在しない記載をした場合、無効な手形と解される。
*有効説なら
しかし、たとえ実在しない土地でも、あたかも実在するがごとき記載であれば、所持人はこれを実在するものと信じきおれを譲り受けてしまうのが通常である。
それにもかかわらず、なお無効とするならば、所持人の利益を害し、手形の流通を害することになる。
そこで、このような場合は有効である。
*無効説からの再反論
これを有効とする見解もあるが、権利の内容として支払地というのは重要な要件であり、どこで支払われるかまったく判明しない手形が流通することになると、かえって手形の信用を害することになり、手形の流通を損なう。
よって、無効である。
○『支払地に「東京都新宿区か東京都豊島区」との記載がある場合』
支払地に択一的記載がなされていた場合の効力←金銭なら当然無効
支払地は重要な権利の内容であり、明確でなくてはならない(明確性の要請)
択一的記載では、権利の内容を明確に定めたものとはいえない。
所持人の利益を図る必要性もさることながら、(←反対利益への考慮)、このような手形を有効とすると手形の流通を害することになる。
よって、無効である。
○『支払地に「東京都新宿区と東京都豊島区」との記載がある場合』
支払地に重畳的記載がなされていた場合の効力(←金額の場合は一定の金額に反する)
支払地は重要な権利の内容であり明確でなくてはならない(明確性の要請)
重畳的記載は一応明確に定まっているといえる。
しかし、通常実務において用いられる確定日払い手形の支払呈示期間は極めて短期間である(満期+2取引日)
その期間内に双方の支払地内の支払場所で支払いのための呈示を行うことは、困難な場合もあり所持人に不利益である。
そのような手形が流通することはかえって手形取引の安全を害する
所持人の利益もさることながら(←反対利益への配慮)、手形取引の安全から無効と解する。
*ま、有効説でもかまわん
1〜4号の趣旨は、手形の文言性にある。権利の内容は文言のみをもとにして判断する。
とすると、逆に手形の権利内容を示すものはすべて手形面に記載されていなければならないし、記載されていなければ無効と扱うという要請が出てくる。これを厳格な要式証券性(75条、76条)という。
これに対し、受取人の記載は権利者を指定したものにすぎない。
○ここで論点。受取人の記載を欠いた手形は有効か?
受取人の記載は権利者の記載にすぎず、権利の内容を定めるに必要なものとはいえない。
したがって、当然には手形要件とは言えないことになる。
しかし、なお法が受取人を手形要件と規定している以上(75条5号)、手形要件として画一的に取り扱う方が、むしろ手形流通の保護に資する。
よって、受取人の記載を欠いた手形は無効である。
では、なぜ法は受取人の記載を要求したのであろうか。
振出人が受取人を記載することによって、裏書きは受取人から始まり裏書きの連続ができるからである。
○ここで論点。『確定日払手形においては、振出日は手形要件であろうか?』
手形が厳格な要式証券とされるのは、手形が文言証券であるから権利の内容を定めるに必要な事項は手形面に記載されていなければならないとの要請による。
とすると、確かに確定日払手形においては、振出日は権利の内容を定めるに何ら意味を有しない。
しかし、法は振出日は手形要件であると規定している以上、要件として画一的に処理することが手形流通確保に必要であると解する。
そうであるなら、確定日払手形においても要件とされなければならない。
*手形要件で問題となるのは、受取人と確定日払手形における振出日が手形要件となるか、くらいである。
*こんな問題はどうか。
『銀行約款実務においては、振出日(確定日払の)や受取人の記載がなくても他の要件が備わっているなら、振出人に対しては免責されるとの扱いがなされている。問題点を述べよ。』
○もう一つ論点。『振出日が満期日よりあとに記載されていた場合』
確定日払手形においては、満期日が重要であり振出日は権利の内容を定めるに意味を有していない。
意味がないなら、たとえ不合理な記載でも有効とした方が手形の流通に資する。
よって、有効である。
○さらに論点。『振出日の記載が真実と異なる場合でもなお有効か?』
手形は原因関係とは無関係であり、証券の作成によって権利が生じる無因・設権証券である。
そして手形の振出は書面を通じてなされる債務負担の意思表示である。
したがって、たとえ真実と異なる記載がなされていても、そのような日を振出日とする意思表示がなされたものにすぎない。
よって、有効である。
*では、実際に振り出した日は成人であったが、記載された振出日を基準にすれば未成年であった場合はどうか?→能力の有無は現に振出がなされた日を基準とする
記名捺印←スタンプ+印鑑(82条)
←「本法において署名とあるは記名捺印を含む」(82条)
なぜ、署名をするかというと、真実振出名義人が手形面上振出を行ったことを明らかにし、所持人が振出人が振出を行ったことを知り得るようにするためである。
これによりその後の所持人を保護し、手形の流通を図ることができる
そこで、署名を手形要件と規定しているのである。
○『振出人欄に「A」との記名はあるが、捺印がない場合』
振出人自ら手書き(サイン)するか(75条7号)、あるいは手書きをしないで誰かに書かせたならば振出人の捺印がいる(82条)のが原則である。
しかし、捺印がなくとも真実振出名義人が振り出したならば、無効とする必要はなく、所持人を保護し手形の流通を図る必要がある。
よって、有効である。
あるいは
(有効とする見解もあるが)、条文上明らかに記名に対しては捺印を要求しているのであって、画一的処理の要請から無効とした方が手形の流通に資することになる。
○『振出人欄に「A」という記名があり、拇印が押されていた場合』
拇印は、行為者の同一性を確認する上でもっとも確実な手段である。
確かに、その判断には専門的技術を必要とするかもしれないが、それは捺印も同様であって、区別する理由はない。
そして、本人が真実かかる手形を振り出したことを認めるなら有効とした方が所持人の保護、ひいては手形流通の要請に資することになる。
よって有効