合格講座 手形小切手法 その5

○違約金(手形要件)の約束の記載
『AがBに約束手形を振り出したとき、その金額欄に百万円と書いたのに加えて「利息年1割」と書いた場合

利息文句を金額欄とは別に記載することはできるか?

一覧払手形や一覧後定期払手形の場合は、満期が定まっていないので、意味があるといえる。

しかし、確定日払や日付後定期払の場合は、満期が定まっているので、利息が算出でき意味がない。あらかじめ手形金額に加算しておけば足りる。

では、あえてAが書いた場合、その手形の効力は如何?

手形法5条1項「一覧払・一覧後定期払手形には利息の約定も可、その他の手形には記入をなさざるものとみなす」

本条は、確定日払手形等はあらかじめ満期までの利息額は算出可能であって、手形金額に加算した方が記載が単純・明確となり、譲受人の誤解を防止できるので、手形の流通を確保する目的からそのような記載はないものとする趣旨である。

ならば、違約金・遅延損害金を記載したらどうなるか?
*利息と遅延損害金とはどう違う?
→利息は金銭消費貸借の対価、遅延損害金はペナルティーである。

利息については、手形授受の直接の当事者間では手形外の民事上の効力を生じるが、以後の間接的な手形の譲受人との間には、手形外においてもなんら効力を生じない(無益的記載;判例S.39.4.7)。

しかし、遅延損害金について法は何ら規定していない。
学説は例によって有効説・無効説に分かれる。

(有効説)
手形法に規定のない違約金を有効と認めたところで、手形の取り扱いに混乱を来して手形の流通を害するとまではいえない。

とするなら、違約金の記載をなお有効と認めて、所持人の利益を保護した方が手形の流通を確保することとなる。

(無効説)
確かに、所持人の利益を害し、手形の流通を損なう危険もある。

しかし、手形法は違約金についての規定をしていない。それは違約金の記載を認めると手形の取り扱いに混乱を来し、手形の流通が害されるからである。

よって、無効である。

*ま、有効説の方が妥当かな


他人による手形行為

これには、機関方式と代理方式の方法がある。

*機関方式←他人Bが直接A名義を記載
*代理方式←他人BがA代理人Bと記載

両者の区別は手形面の記載で区別する

「代理形式」
まず、代理形式について考える。

民法上の代理では、代理が成立するためには「本人のためにする」旨を顕名しなければならない。

しかし、商人であれば、商行為の代理人たるBが本人のためにすることを示さなくても、その行為の効力は本人に対して生じる(504条)。よってBの名前だけで代理が可能。

では、手形の場合はどうか?
原因関係上、代理行為の効力が本人に帰属しても、手形債務の内容はあくまで手形上の記載だけから判断すべきであって(文言性)、手形外の事実関係によって判断されることはない。
よって、Bの名前だけでは駄目である。

「機関形式」
では、機関方式の記載がなされた場合、Bが権限ありでなされた場合と、権限無しでなされた場合とが考えられる。

権限ありなら、いわゆる「署名の代行」の論点となる。
権限なしなら、いわゆる「偽造」の論点となる。

*被偽造者に対して責任を追及するなら表見代理が問題となり、偽造者に対して責任を追及するならば無権代理が問題となる。

なぜか!(A代理人Bと記載したのではなく、単にAとのみ記載したのにすぎないのではないか)
それは、確かに代理そのものではない。
しかし、これは単に手形の記載による形式的区別に過ぎないのであって、無権限者による本人名義の手形振出である点に差異はないから、機関方式においても代理制度を類推すべきである(S.43.12.24)。

よって、偽造の場合であってもAに帰責性があるならば表見代理を類推適用するべきである。

Bの責任についても同様で、A代理人Bと書かれていた場合は、民117条・手8条で、無権代理人としての責任を負うことになる。

手形法8条は民法117条の規定を手形法化したもの
これを単にAと書いた場合、形式的な区別にも関わらず、Bの責任を問えないと言うのは不合理である。

よって、手8条を類推適用してBに責任を負わせるべきである(S.49.6.28)。

*本問を偽造と断じて論じてきたが、他のケースも考えられる。
例えば、BがAという名称を使って署名したような事例などである。
しかし、これは他人名義の手形行為であって、他人による手形行為の問題ではない。
責任の主体と署名者が分離していないからである。


裏書

裏書の種類には、譲渡裏書、質入裏書、および取立委任裏書がある。
 

裏書の効力

1,権利移転的効力(14条)

なぜこれが認められるか、というと権利移転の意思表示があったからである。
意思表示ゆえに(1)瑕疵がないこと、(2)行為無能力者によること、が必要である。
○手形外の権利まで裏書譲渡によって移転するか?
*手形外の権利とは、例えば振出人A、受取人Bの債権・債務関係があり、それを甲が保証人となった場合、BがCに裏書上とすればCは甲に保証人としての責任を追及できるか、ということである。

確かに14条は「裏書は為替手形により生じる一切の権利を移転する」と規定してはいるが、手形外の権利までは移転しないと解する。

なぜなら、裏書による権利の移転もまた無因と解するべきところ(「単純なる」←12条)、裏書の効力も文言によってのみ判断されるべきだからである。

手形面の記載は、手形外の権利の事情までは記載されていない。

よって、いかに所持人に有利とはいえ、認められないと考える(手形上の権利のみ移転)

2,担保的効力(15条)

「裏書人は反対の文言なき限り引受支払を担保す」

要件としては、まず振出人の支払拒絶が必要である。
支払期間内における呈示、すなわち有効な取立行為がその前提となる。
*44〜46条はどーでもいい。必要なのは43条の遡求の条件の所である

そもそも、なぜ裏書人がかような責任を負わなければならないのか。
それは、手形の流通のために法が特に政策的に定めた規定だからである。

その根拠は何か?
担保的効力は、裏書人の担保責任を負う、という意思表示に根拠をもつ効力だとする立場もある。
しかし、12条により裏書は無因と解される。12条が「単純なる」と規定しているのはこの意味である。
したがって、裏書人の意思表示も手形面からのみ判断されなければならない(文言性)。
しかし、手形面上裏書人が担保責任を負担するような文言は存在しない。

担保的効力が意思表示によるならば文言が存在するはずである。
したがって、この効力は意思表示によるものではなく、法が政策的に規定したものと解する。

*こういう問題はどうか?
『AがBに振り出した手形をCが盗んでCの裏書を偽造した上、それを悪意のDに譲渡した場合』
DはCに対して15条の責任追及はできるか?
(政策説と意思表示説の議論の実益が出るところ)
否定(政策説)
手形の流通を確保するために15条の責任が規定された。この場合、悪意のDを保護しなくても手形の流通は害されない。

3,資格授与的効力(16条)

裏書の連続
振出人から所持人に至るまで、手形の裏書が形式的に連続していること

この判断は、客観的外形的に行われなければならない

次回に続く・・・・・