合格講座 手形小切手法 その6

(前回のまとめ)

2,担保責任(15条)

A→B→Cと手形が譲渡されAが支払拒絶したとき、CはBに対して責任を追及できる。A→B→C→Dと譲渡された場合は、DはBにもCにも責任を追及できる。こうやってさかのぼって権利を行使できることを遡求という。
*ちなみに、CがDに対して担保責任を果たしたら、CはBに対して担保責任を追及できる。これを再遡求という(77条1項4号→47条1項)。

15条の担保責任は振出人Aに対し権利取得が認められない被裏書人にも認められるであろうか?
例えば、A→Bー(盗取)→C→D(B・C間の裏書はCが偽造)と手形が移転し、Dが盗取の事実について悪意であった場合

Dが善意・無過失なら即時取得(16条2項=民192条)の規定によりAに対し権利行使ができるが、悪意なら権利取得ができない。

では、この場合、DはCに対して15条の担保責任を追及できるだろうか。

(政策説)
15条の担保責任は法が手形の流通確保のため特に裏書人に対して政策的に責任を負わせたものであって、裏書人の意思表示の効果ではない。
とするなら、悪意の譲受人に対して担保責任を負わせることはないとしても手形の流通を害するわけではない。
→よって、責任は否定される
(意思表示説)
15条の担保責任は裏書人が保証債務を負担するという意思表示を裏書きすることによって行ったことにより認められる。
とするなら、悪意の被裏書人に対しても債務を負担するという意思表示をしたことになるので、責任は肯定される。

*政策説に対しては、以下のような批判がある
いかに流通を確保するためとはいえ、意思表示がないにもかかわらず、担保責任を負わせるのは私的自治に反する

*逆に政策説の中で意思表示説を批判するときは
もっとも、意思表示を根拠に担保責任を認める見解もあるが、これを認めるためには、裏書の無因文言性より、そのような意思表示が手形面上に記載されている必要があるが、そのような文言は手形面上存在していない。
15条は記載の有無に関わらず、裏書人の担保責任を認める規定であって、意思表示を根拠とするものではないと考える。

『A→Bー(盗取)→C→D と手形が譲渡されDが善意無過失であって場合、DはAに対して手形を呈示したが支払を拒絶された。DはCに対して責任を追及できるか(なお、B・C間の裏書はCが偽造したものであった)」
Dは16条2項の即時取得の規定により、Aに対して権利取得できる。

B・C間の裏書はCが偽造したものであるため、B名義の裏書は無効であり、DはBに対して責任を追及することができない。

では、Cに対してはどうか。CはBの裏書を前提にしてDへの裏書をした。しかし、Bの裏書は無効なわけであるから、DへのCの裏書もまた無効ということになるのではないか。

そして、Cの(Dへの)裏書が無効なら、DのCへの担保責任の追及もできなくなるのではないだろうか。

これについては、7条が以下のように規定している

*手形行為独立の原則
「手形に〜偽造の署名〜により署名者もしくは本人に義務を負わしめること能わざる署名ある場合といえども、他の署名者の債務はこれがためにその効力を妨げらるることなし」

CのDに対する裏書自体はCが自ら署名したのであり、たとえBの裏書が無効でも、それがためにCの裏書が無効になることはない。よって、CはDに対して担保責任を負う。

○例えば次のような問題が出題された場合は、次のように構成する。
『A→Bー(盗取)→C→D(B・C間の裏書はCが偽造)と手形が譲渡された場合、手形法上Dはいかなる権利を行使できるか』

Dが善意・無過失の場合

1,Dは即時取得によって権利取得ができるか(16条)

2,Dの権利取得を認めたとして
(1)DからAへの権利行使
(2)DからBへの権利行使→被偽造者の責任の問題
(3)DからCへの権利行使
←*ここで前述の問題が出てくる
15条の担保責任の前に、7条の手形行為独立の原則が述べられなくてはならない。
さらにCはBの裏書を偽造したのだから偽造者の責任という問題が出てくる。

Dが悪意の場合
1,Dは即時取得により権利取得ができるか?できん

2,Dの権利取得が否定された場合
(1)DからAに対する権利行使
(2)DからBに対する権利行使
←*これについて答案で詳しく説明する必要はないが・・・・否定される
Bは自ら裏書をしていないので、Bの裏書はむこうである。したがって担保責任は否定される。
確かに、いわゆる被偽造者の責任に基づいて表見代理の成立があるかも知れないが、Dが悪意ならこれも否定される。

(3)DからCに対する権利行使
←*この論点についてはすでに述べた

○15条と7条との関係について、再び述べる(Dが善意・無過失のとき)
Cの裏書はBの裏書を論理的前提としている
したがってBの裏書が無効ならCの裏書も無効ということになるのではないか?

ならない。理由は7条の存在(手形行為独立の原則)
Cは15条および7条によりDに対して責任を負う。

では、この7条の立法趣旨はなんだろう。

(政策説)
「法は手形流通を確保するために、政策的に裏書人に担保責任を負担させ(15条)、かつこの責任は他の手形行為が無効となる場合でも何ら影響を受けないものと規定した」
(意思表示説)
15条は裏書を通じてなされる債務負担の意思表示に基づく責任

手形行為は他の手形行為と無関係になされるのであるから、他の手形行為の無効によって影響を受けない。

よって、7条は当然のことを注意的に述べた規定にすぎない(当然説)

【追記】

手形行為独立の原則については以前にまとめたものがありますので、それを転記します。

手形行為独立の原則

手形は一枚の手形に複数の手形行為がなされることが一般です。つまり、振出人によって振り出された手形は、受取人から転々と流通する際には裏書をされ、場合によっては第三者によって保証されます。これらはすべて独立した手形行為です。

手形法7条は、一枚の手形なされた署名の一つが何らかの原因で無効となっても、残存する署名の効力は変じないとしています。これを手形行為一般に敷衍したものを手形行為独立の原則といいます。保証の場合の32条にも同様の規定がありますし、77条2項によって為替手形にも準用されます。

◎この原則の制度趣旨については、争いがあります。
そもそも、手形に署名する者は、先行する手形行為が有効であることを前提として、手形に署名をします。よって、先行する手形行為が無効であれば、後の手形行為もまた無効となるのが原則です。

しかし、それでは、後に手形に署名をする者は、先行する手形行為の有効性を確認しなければならなくなります。それでは、手形の円滑な流通を阻害しますし、それを怠ったため手形が無効となってしまえば、手形の取引の安全が妨げられます。

そこで、法は、特に手形行為の独立の原則を規定し、手形取引の安全を図り、手形流通の保護を図ったと解されます(政策説)。

これに対して、7条等は特に変わったことを規定したわけではない、とする説もあります。

どういうことかというと、手形行為は文言性を有しています。文言性とは手形法の特性の一つで、手形行為は手形上の記載のみを意思表示の内容とし、手形債務の内容は手形上の文言によって決定されるわけです。

とすれば、他の手形行為が有効だろうと無効だろうと、手形に署名した者はその記載に応じた手形上の責任を負わなければならない。署名することは債務を負担することに応じる行為だから、これは当然じゃないか、というわけです。(文言説)

確かに、振出などの基本的手形行為なら、その行為の本質は債務負担行為ですから、この立場でも問題は生じないでしょう。また、附属的手形行為でも保証などは、同様に問題は生じないでしょう。

しかし、裏書のような場合には問題になります。なぜなら、裏書の本質は債権の移転(14条1項)であり、債務負担行為を含まないと考えられるからです。

◎ここで、裏書に手形行為独立の原則が適用されるか、という論点がでてきます。
裏書の本質は債権の移転(移転的効力)ですが、他に資格授与的効力、そして担保的効力があります。この最後の効力が認められるのかが重要です。なぜなら、裏書に手形行為独立の原則が適用されなければ、裏書人への訴求権の追求ができなくなってしまうからです。

そこで、裏書の担保的効力は、なぜ認められるのかが問題となります。

当然説の立場からは、この裏書の担保的効力もまた手形の文言性に依拠すると解します。したがって、手形行為独立の原則は、裏書に適用されて当然と言うこととなります。

しかし、手形の文言性と言っても、裏書記載欄には通常担保的効力を記載した記述はありません。にもかかわらず、手形の文言性を根拠に担保的効力を認めるのはいささか難しいように思います。

そこで、当然説を採る結果、裏書には手形行為独立の原則は適用されないとする説もあります。いさぎよいですね。

この説は、債務負担を内容とする手形行為については当然説に基づいて手形行為独立の原則を認めます。

しかし、裏書は特殊な債権譲渡であり、先行する権利を承継するものであるから、債務負担を内容とする手形行為ではありません。よって、手形行為独立の原則の適用を否定せざるを得ません。

この説では、裏書人の担保責任の根拠を意思表示以外のものにもってこなければなりません。そこで、裏書人の担保責任は裏書人の意思によるものではなく、法が手形流通保護のために特に科した法定責任と解することとなります。

もっとも、裏書に手形行為独立の原則がないと解する以上、裏書人に先行する裏書が有効であることが要求されますから、先行する裏書が偽造などにより無効な場合、裏書人への訴求権の追求ができなくなります。

これでは、手形の取引の安全が阻害され、手形の流通が妨げられます。

そこで、この説では、善意取得に関する16条2項に着目し、後続する裏書による手形取得者が善意取得すれば、裏書人に対する訴求権の権利行使ができるとするわけですが、これは無茶ですね。善意取得は振出人への権利行使を正当化することはできますが、裏書人への権利移転を正当化することはできないわけです。

さて、手形行為独立の原則を政策説で考えるとどうなるでしょう。

この場合は、当然説のように手形行為独立の原則の適用の可否が問題となることはありません。裏書の担保的効力が意思表示に基づくか、あるいは法定の責任なのかに影響を受けないのです。

なお、裏書の担保的効力の根拠をどう解するか、ですが、先に述べたとおり、裏書欄には債務負担の意思表示を示す文言が記載されていませんので、この場合も、手形流通保護のため、法が特に認めた法定責任と解することでよいのではないでしょうか。

◎悪意の被裏書人に対しても裏書人は担保責任を負うか。
どの結論を採るのか悩ましい論点です。

当然説の立場で、しかも裏書人の責任について文言説を採る立場からは、被裏書人の善意・悪意は問いません。善意だろうが、悪意だろうが、裏書人が責任をとるといった以上、責任を負わされるのは当然ということになりますか。判例も、この結論を示しています。

また、政策説の立場でも、手形流通の保護という面を強調すれば、被裏書人の善意・悪意は問わないという結論も採り得ます。

ですが、手形流通の保護を理由とするならば、悪意者まで保護しなくても、その目的は達せられるはずです。

とすれば、ここはやはり、悪意の者まで保護しなくてもよい、と解するのがよいのではないかと思います。

◎まとめ
前々から、どうもこの手形行為独立の原則は苦手でした。小塚先生の合格口座で論証例を頭に入れただけで終わってしまっていて、理解していなかったのが原因。しかも、模範答案などで、二段階説の立場からは権利の分属がどうのこうのという記述があって、移転行為有因論とのからみがワケワカメ。一度、しっかりまとめておこうと思っていたのです。ま、年内にやれてよかった。

3,資格授与的効力

裏書の連続
手形の所持人まで裏書が連続していれば、その所持人は適法な所持人と推定される(16条1項)

裏書の連続する手形を所持する者は、権利者である蓋然性が極めて高い

裏書の連続という手形の外形から判断しうる方法によって権利者を推定できるなら、手形の流通を確保することになる

そこで、法は16条で裏書の連続する手形の所持人を権利者として扱うことで手形の流通を確保しようとした。

*さらに16条2項で裏書の連続する手形の所持人からさらに手形の裏書を受けて譲り受けた者は善意・無過失なら即時取得ができるようになっている。

そうすると、裏書が連続するかどうか、という判断が重要となってくる

その判断基準は、手形面に記載された文言のみを材料にして手形の外形から社会通念に従って裏書の連続の有無を判断する。

(1)手形の外形から
(2)社会通念に従って
判断するわけだ。

裏書の連続した手形の所持人は権利者と推定される(16条1項)
その立法趣旨は、裏書の連続という文言のみをもとにして形式的な判断で決定できれば、判断が容易で権利の流通に資することになる。
また、実際裏書が連続しているなら、所持人は権利者である蓋然性も高い。
そこで、法は16条を規定した。

そこで、その判断基準は(1)手形の外形から形式的に、(2)社会通念に従って、判断すべきである。

本問においては・・・・・・と各論を続けていく

○『甲→乙 乙→丙(乙の裏書が偽造)』
形式的外形的に見れば、裏書は連続している
○『乙→A株式会社丙 丙→丁』
外形的・形式的に見れば多義的に解することができる(A株式会社とも丙個人とも)
手形の流通を確保するためには、できるだけ所持人を保護することが必要である。
したがって、できるだけ同一性を認めるべく解釈しなければならない。
そう解することが、所持人の保護、ひいては手形の流通を資することになる。
○『乙→丙 A株式会社代表取締役丙→丁』
代理・代表文言がある場合、見解が分かれている。
通常A代理Bと記載されたとき、行為の効果の帰属はAに帰するという意味であり、他に解するのは難しい。
「A代理」を肩書きと解するのは難しい。
したがって、A株式会社が裏書人と一義的に解さざるを得ない。
○『第一裏書人欄に被裏書人「A」、第二裏書人欄に裏書人「A代理人B」と記載されている場合』
これも上記の場合と同様に認められない
○『第一裏書人欄に「A」、第二裏書人欄に「A相続人B」と記載されている場合』
これは「A相続人」部分は肩書きにすぎないので、裏書としては問題ない・・ほんとか?
 

人的抗弁の制限(17条)

AがBに手形を振出し交付したとき、それの原因関係が解除された。この場合、この原因関係は手形の振出には影響を与えない。これを無因性という。
しかし、このままBの権利行使を認めてよいか。
では、裏書の場合、Aから振り出された手形をBがCとの売買の代金として裏書譲渡した。のちこの売買が取り消され、CがAから支払拒絶を食らったとき、CはBに遡求できるであろうか。

これらはそのまま認めると不合理である。そこで17条の人的抗弁の制限が規定された。

しかし、17条の理論的説明は手形行為の無因性との関係で議論がある。