*裏書の連続は小問の一つとして聞かれることが多いので、以下のような短い論証でよい
「16条1項で、法は裏書の連続する手形の所持人を権利者と推定し、手形の流通を確保した。
ところで、裏書の連続の有無は手形の外形から社会通念に従って判断されるべきものである」
(以下、連続するか否かの判断をやる)
『被裏書人欄のみの抹消が裏書の連続にどのような影響を与えるか』
例:B→C D
白地式裏書(13条2項)として扱う(効果→14条2項)
14条2項は(1)補充が可、(2)表示しないで次の欄に裏書きするも可、(3)譲渡するも可。
*判例は権限ある者の抹消なら白地式裏書、そうでなければ抹消の効力を生じないとする。
裏書欄(全体)抹消と解されると、Dが手形を所持しているのは、手形の連続を破っていることになる。
*白地裏書説
「被裏書人欄のみ抹消された場合は、抹消されなかった裏書署名については当事者はその効力を残す趣旨と解することが社会通念に合致する」
(このまま書けばよい)
→こう解することにより、裏書の連続を多く認めることができ所持人を保護し手形の流通を確保することができる。
もっともこおのように解することは、不正取得者が容易に形式的資格を作出することができ妥当でない、との批判もある。
確かに手形の流通を確保するためには、不正利用を現に排除しなければならない(手形への信頼の低下→流通鈍化)
しかし、だからといって裏書全部を無効にしたところで、不正取得者は容易に他の手段を用いて形式的資格を作出することができるので、そのような批判はあたらない。
ここで問題となるのが、証明の範囲についてである。
欠けた部分のみを証明すればいいのか?それとも全部の権利移転を証明しなければならないのか?
確かに、裏書の連続という形式的資格がなくなった以上、原則に戻ってすべての権利移転を証明しなければならないようにも思える。
しかし、そもそも裏書の連続した手形の所持人が権利者として推定されるのは、各個の裏書の有する資格授与的効力が集積したものに他ならない。
よって、欠けた部分の証明があれば、それによって証明が架橋され、全体についての裏書の連続が回復すると解すべきである。
*16条にも使える表現である。
裏書が連続した手形の所持人は、権利の推定を受ける。
これは裏書に資格授与効を認め手形面の記載から所持人が権利者かどうかを判断できるので、手形の流通の確保を図るためである。
論点は三つある。
(1)無権代理人から手形を譲り受けた場合
(2)無能力者から手形を譲り受けた場合
(3)被裏書人と所持人が同一性を欠く場合
(4)白地手形←今回は触れない。白地手形のところでやる。
「16条2項は、裏書の連続した手形の所持人は権利者と推定されるという16条1項の規定をうけて、仮に譲渡人が無権利であっても、善意取得することができることを規定したものである。
したがって、16条2項が本来予定する瑕疵は前者が無権利の場合である。」
民192条はこの場合のみを想定している。
例えば、無権利者から善意・無過失で譲り受けた者がそれを民192条で取得できるか、というと、無能力制度を無にすることになるという理由で認めないのが通常である。
では、手形法16条2項の善意取得ではどうであろうか?
『A→B→C と手形が譲渡され、Bが未成年で法定代理人の同意を得ていなかった場合』
1,裏書は手形を通じてなされる権利移転の意思表示である。
そこで、未成年者が裏書をなす場合には、法定代理人の同意が必要であり、その同意が得られなければ取り消すことができる(民4条)。
2,16条2項によってCは保護されるか?
16条の制度趣旨を述べる。
↓
したがって、無能力を理由に取り消した場合、保護されない。
*ちなみにCから譲り受けたDは善意無重過失を要件として取得できる
『A→B→C と手形が譲渡されたが、Bの裏書はB代理人甲と記載されていた。ところが甲は無権代理人であった』
1,裏書は手形を通じてなされる権利移転の意思表示である。
甲の行為は無権代理行為なので、無効である(民113条)
*表見代理制度に関する論点は考えないことにする
2,16条2項によってCは保護されるか?
16条2項の制度趣旨
↓
したがって、無権代理人の相手方であるCは保護されないと解する。
『A→Bー(盗取)→甲(Bと裏書欄に記載)→C と手形が譲渡された場合はどうなるか?』
確かに、本問のケースでは甲は盗取者であるので、無権利者とはいえ、無権利者から手形を譲渡されたCは16条2項によって保護されるように見える。
しかし、本問甲はBとなりすましてCに対して裏書譲渡したのだから、無権利者甲がCに対して裏書譲渡した場合と異なる。
本問では、被裏書人Bと所持人甲との同一性に瑕疵があるといえる。
16条2項が予定する場合は、裏書欄の最終被裏書人と手形の所持人とが同一人であり、かつその者が無権利である場合、その者からの譲受人を保護する趣旨である。
よって、本問のように同一性がない場合、16条2項の保護はないと解する。
・A→Bー(盗取)→C(B・C間の裏書はCが偽造)→D(善意)
・A→Bー(盗取)→C(B・C間の裏書はCが偽造)→D(悪意)
上の二つの事例に含まれる担保責任に関する論点は?
1,Dが善意取得した場合
(1)D→A・・・・16条2項による権利行使
(2)D→B
(3)D→C・・・・15条の担保責任の問題
*この場合、DはCに対して担保責任の追及(15条)ができる。
また、Bの裏書が無効であっても、それはCの裏書に何ら影響を与えるものではない(7条)
これは法が手形の流通の確保という観点から政策的に認めたものである。
論点
裏書によって生じる担保責任にも手形行為独立の原則(7条)は適用されるか?
先行の裏書が無効であれば、それによって権利を得た者は無権利者である。無権利者が行った裏書もまた無効であるので、裏書に7条の適用はないと解する説もある(田中耕太郎博士)
しかし、ここで問題となっているのはCが裏書きしたことにより担保責任を負うか、ということであって権利移転の問題ではない。
このような見解は権利移転の問題と債務負担の問題とを混同したもので妥当ではない。
2,Dが善意取得しない場合
(1)D→A・・・・Dは、A、Bに対して権利行使できないのは当然である
(2)D→B・・・・上に同じ
(3)D→C・・・・これが問題
問題となるのは、DがCに担保責任を追及できるか、である。
そもそも、15条が担保責任を規定し、7条が手形行為独立の原則を規定したのは、ひとえに手形の流通を確保しようとする趣旨に基づく。
とすれば、悪意者に対して担保責任を負担させなくても手形の流通を害せず悪意者に対して担保責任を負担させることはないと解する。
よって、悪意のDはCに対して担保責任を追及することはできない。