(前回のまとめ)
○手形行為独立の原則は裏書人の担保責任にも適用されるか?
*これは大した論点ではないのでサラリと書いておくこと。
しかも、単独で出ることはなく、事例問題の中に顔を出すので、事例の中で覚えておくこと。
『A→Bー(盗取)→C(B・C間の裏書はCが偽造)→D』
・15条と7条の説明
・立法趣旨
・もっとも学説の中には、無効な裏書によって被裏書人となったCは無権利者であり無権利者の裏書から担保責任を生じさせることはできない、との見解もある。
・しかし、このような見解は権利移転の問題と債務負担の問題とを混同したもので妥当ではない。
・悪意の場合の処理
*前田では結論・理由が異なるので注意
ここで考えられるのは同時履行の抗弁権(民533条)である。では、「Bがこの手形をCに裏書譲渡した場合、AはCに対し何を言えるか?」これが問題の中心である。
まず、A・B間の法律関係について考える。
本来手形行為は無因であって原因関係に左右されるものではない。手形の流通を保護するためである。
←根拠は、振出においては75条1項2号の「単純なる」という文言、裏書においては12条1項の「単純なる」という文言
ただし、手形授受の当事者間においては、なお原因関係をも考慮することが妥当である。
そこで、法は17条において、手形授受の当事者間においては原因関係上の抗弁を手形関係に取り入れることを認めた上で、ただその後の譲受人が害されることを防止する観点から、原則上、その後の譲受人に対しては原因関係上の抗弁を対抗できない旨を規定した。
以下、小塚のノートを通説流に変更して記述する。
手形の振出は、債務負担の意思表示である。
法定代理人の同意がない意思表示は取り消すことができる(民4条)。
したがって、Aは、Bに対しては取消をもって対抗することができる。
では、この抗弁をもってCに対抗できるであろうか?
ここで問題となるのが17条にいう「人的関係に基づく抗弁」すなわち人的抗弁か否かである。
*人的抗弁は人に対して主張する抗弁であり、譲受人に対しては抗弁が切断されることになる。これに対して、誰に対しても主張できる抗弁を物的抗弁といい、譲受人に対しても抗弁が切断されることはない。
○無能力を理由とする抗弁は人的抗弁か?それとも物的抗弁か?
何が人的抗弁となり、何が物的抗弁となるか基準が明文で示されているわけではない。
したがって、各抗弁ごとに人的抗弁として抗弁を切断することによって手形の流通の保護の要請と物的抗弁とすることによって債務者を保護する要請とを比較衡量して決することになる。
確かに、無能力を理由とする取消の抗弁は、その後の譲受人に対しても主張できるなら、譲受人の利益を害し手形の流通を損なうおそれがある。
しかし、民法が取引の安全を害しても、無能力者が自由競争の犠牲者になることから保護する趣旨で無能力制度を設けたことを考えると、無能力を理由とする抗弁を物的抗弁と解して無能力者を保護するのが妥当である。
*これは価値判断であるが、学説の結論は一致している。
他に、物的抗弁の例として、偽造による手形行為、強迫による手形行為・・・などがある。
*論証としては
(1)人的抗弁は第三者に対しては主張できない(抗弁切断;17条)
(2)譲受人に対して「人的抗弁なりや」←条文には規定がない
(3)利益衡量して決するしかない・・・・云々
例えば強迫なら
「手形の流通もさることながら、抗弁が切断されるなら債務者に酷である。
よって、物的抗弁と解するのが妥当である」
と、対立する利益を述べて結論を出す。とにかく基準を論証してあることが必要。
(無因説)
手形行為は本来無因であって原因関係に左右されるものではない。これは75条2項、12条1項の「単純なる」という文言から明らかである。
これによって譲受人の利益が保護され、手形の流通が確保できる。
ただし、手形授受の当事者間における法律関係は原因関係の抗弁が手形抗弁として主張しうると解する。こう解する方が公平だからである。
そこで、Aの手形振出の原因となった契約が解除された場合、AはBに対して原因関係の消滅を手形上の抗弁として主張できる。
*直接当事者間における抗弁の対抗
抗弁というのは相手方の権利行使を封じこめるということである。
したがって、(無因説のもとでは)依然としてBは手形上の権利者なのであって、抗弁をしただけでBの権利が消滅するわけではない(原因関係は解除されて消滅しているが、手形は無因・設権証券だから、手形自体は消滅しない)。
だから、AはBに対して不当利得を理由に手形の返還請求できる。
そして、この不当利得に基づく手形の返還請求権が成立する場合には、手形債務者は直接の相手方に対して不当利得の抗弁を対抗できる。これが無因説からの直接当事者間における抗弁が対抗可能なことの説明である。
そういや、木内さんなんかは、不当利得の抗弁をよく力説しておられたなぁ・・・・南無ぅ〜。
通説流の抗弁切断の理論だと、当事者間で抗弁が対抗できるのは当然のこと、となる。
では、譲受人Cはどうか。Cはそのような事情を知らないのが通常であり、17条1項によりAのもつ抗弁は切断されるので、Cは保護される。
しかし、Cが悪意の場合は、17条1項但書によりAは自己の抗弁をCに主張することができる。
*二段階説(有因論)なら、手形の交付は権利の移転と解するので、交付が有因なのである。
当事者間で原因関係の主張ができるのはあたりまえということになるし、譲受人に対する関係はほとんど16条2項の即時取得で解決することになる→人的・物的抗弁の区別は議論する必要はなくなる
しかし、条文は「害することを知りて」となっており、単なる悪意とは異なっている
これは、手形取得時と抗弁発生時期が異なっていることからくる違いである。
実務においては、その抗弁権が満期において提出されるのが確実であると考えない限りそのような手形を譲り受けるのが当然である。
そのような手形の所持人に対し人的抗弁を認めることは手形の所持人を害し、手形の流通を損なうことになる。
したがって、「害することを知りて」とは、単に悪意というだけではなく、抗弁権が満期において提出されることが確実であることを知っていたとき、という意味である(抗弁主張の確実性の認識)
論証例
「Cは抗弁の対抗を受けるであろうか。「債務者を害することを知りて」と言えるかが問題となる。
そもそも、法が17条で債務者の利益よりも譲受人の利益を優先したのは、取引の安全、ひいては手形の流通を図るためである。
譲受人が譲り受けの時点で抗弁が存在することを知りながら、なお手形の裏書を受けることは実務上通常であり、かような場合、譲受人を保護しないと手形の流通が害されるおそれがある。
しかし、譲受人が満期に抗弁が存在するであろうことが確実であることを知りながら、手形を譲り受けた場合まで譲受人を保護しなくても手形の流通が害されるおそれはない。
17条但書が単に「悪意」と規定せず、「害することを知りて」と規定したのはこの趣旨である。
したがって、「債務者を害することを知りて」とは満期において抗弁が存在するであろうことが確実であることを知っていた場合と解するべきである。」
【追記】
ちなみに、川村先生は悪意説をとる。さすがにそれはパス。
*とりあえず、D以下は考えないことにします。
1,Cは手形上の権利者であろうか
原因関係は手形上の権利には影響を及ぼさないので、B・C間の解除はCの手形上の権利に関係がない。
但し、CがBに対して権利行使することはできない。
問題となるのは、CがAに権利を行使しようとした場合、AはBがCに対して有する抗弁を行使することができるか、である。いわゆる「後者の抗弁」の問題である。
*ここでの無因性というのは、権利の存否そのもののこと。(原因関係消滅という)抗弁事由が付着していても手形上の権利は権利である。
そして、あとで出てくる人的抗弁の個別性により、B・C間の人的抗弁はAとは無関係であるのが原則であるので、Aに対してCは手形上の権利者ということになる。
*二段階有因論では、Cはそもそも手形上の権利者ではない。権利移転行為は有因だからである。
よって、この解除によりCは手形上の権利を失う。
よって、CがAに手形上の権利を行使しようとしても、Aは無権利の抗弁を行使してこれを拒絶することができる。
この構成はきれいだね。・・・・採れないけど。