合格講座 手形小切手法 その9

(前回のまとめ)

人的抗弁

1,17条の抗弁とは当事者間では提出できるものであっても、その後の譲受人に対しては提出できないというものである。
これは、原因関係上の抗弁もまた当事者間では手形上の抗弁として主張できることを前提としている。つまり手形金の支払いを拒絶できる、ということ。
*二段階有因説では、これらのことは当たり前であって、17条は注意的な規定となる。

答案上で17条を表現するなら、
手形行為の無因性を述べて、「しかし、当事者間では原因関係を考慮することが公平の観念上必要とされる」
但し、譲受人に対しては原則として原因関係を主張することはできない。
例外として、「害することを知りて・・・・」

などと、述べるとくどくなっていけない。
(手形の無因性とか、当事者間においての考慮とかいった記述は省いてしまって)
振出人に受取人に対しては原因関係の抗弁をもって手形金の支払いを拒絶できるが、譲受人に対しては、譲受人が「債務者を害することを知りて」手形を受け取った場合を除いては、原因関係の抗弁を理由として拒絶することはできない。

と、サラリと書いて「害することを知りて」の要件に関する記述に重点をおくべきである。



『A→B→C と手形が譲渡され、Aが無能力を理由として手形の振出を取り消した場合』

1,手形の振出は債務負担の意思表示→民4で無能力を理由に取消可→Bに対して主張できる

2,ではCに対して取消をもって対抗できるか?
*ここで、人的抗弁・物的抗弁の区別について記述。無能力取消がどちらの抗弁に入るかの比較衡量を行わなければならない。
しかし、問題の文面から他の記述がメインのときは、ここの議論は省略してかまわない。人的抗弁ならば「害することを知りて」(17条但書)が論点の中心


後者の抗弁

『A→B→C と手形が譲渡され、Cの原因関係上の債務不履行を理由にBが解除した』

1,C・A間の権利関係
Cは手形上の権利者であろうか。原因関係の消滅が、手形上の権利に影響を与えるかどうかが問題となる。

裏書譲渡は無因である。12条が「単純なる」と規定するのはその趣旨である。
原因関係が消滅しても、Cはなお手形上の権利者である。
よって、AはCに手形金を支払えば免責される。

2,問題なのは、BのCに対する抗弁を、AはCに対しても主張できるかである。』(後者の抗弁)

そもそも、抗弁というものは、特定の人との関係で認められるものである(人的抗弁の個別性)。
他の手形債務者はその抗弁を援用できないものである。
(では、Cから請求を受けたAは、常に手形金を支払わなくてはならないのであろうか。)

CはAから支払いを受けた後、Bから不当利得返還請求を受ければ、Bの請求を受けなければならない。
そうなると法律関係が複雑になる(求償の循環)ため迂遠であるし、Cが無資力となったときは、Bの保護に欠ける結果となり不合理である。

Cは本来Bに返還しなければならない手形が手元にあるのを奇貨としてAに請求したのであって、権利の濫用である。よって、Aは権利の濫用を理由に拒絶できると解するべきである。


融通手形の抗弁

融通手形とは、何ら現実の商取引がないのに手形を交付し、被融通者をしてこれらにより他から割引により金融を得させようとするものである。
融通手形が相互に交換的に振り出され、両者が双方的に第三者から割引を得ることにより金融を得ようとする場合に、これらの手形を交換手形(書合手形)という。

『BがAから金を借りたいと考えていたが、Aの手元にも金がない。そこで、Aは金の代わりに手形をBに振り出し、BはそれをCに割り引いてもらい現金化した。』

A・B間においては、AはBからの請求に対し融通手形であることを理由に拒むことができる(融通手形の抗弁)。

問題なのは、Cが融通手形であることを知って、Bから手形を取得した場合、AはCからの請求を拒むことができるか、である。

Cが融通手形であることを知っていたときはAは拒めるであろうか?Cが17条にいう「害することを知りて」手形を取得したといえるかが問題となる。

そもそも、17条の「害することを知りて」とは、単に抗弁が存在することについて知っていただけでは足りず、所持人の前者の抗弁が満期において主張されることが確実であるとの認識を有していたことが必要と解する。

なぜなら、単に存在を知っていたというだけでは、なお譲り受ける場合もあり、そのような場合においても抗弁の主張を受けるとすると、所持人の利益が害され、ひいては手形の流通を損なうことになる。

そこで、「害することを知りて」とは、満期において抗弁が提出されることが確実であるとの認識を要すると解すべきである。

そこで、本問を見ると、融通手形であることを単にCが知っていても、満期においてその抗弁が提出されるのが確実であるとの認識を有していたとは言えない。

(満期までに買い戻されるのが通常であり、これで抗弁の対抗を受けるようでは誰も融通手形の割引を行わなくなってしまう)

しかし、Bが満期において手形を買い戻さないことを知りながら、なおCが手形を譲り受けた場合には、満期において抗弁権が提出されるのが確実であるとの認識があるといえ、17条の「債権者を害することを知りて」にあたると考える。



『Aは、Bに融通目的から約束手形を振り出し交付し、BはCに、CはDに裏書譲渡した後、Cは再度Dから裏書譲渡を受けた。この場合に手形法上生じる問題点について論ぜよ。』

*C→D→C と裏書きされることを戻裏書という

1,C・A間の法律関係
本問A・B間で振り出された手形は融通目的で出されたいわゆる融通手形である。
AはBに対しては融通手形であることを理由に支払いを拒むことができる。
問題なのは、Cからの請求に対してもそのような抗弁を用いることができるか、という点である。
これはCが17条の「債務者を害することを知りて」取得したか否かが議論の中核をなす。
Cが単に融通手形であることを知って取得しただけでは「害することを知りて」取得したとはいえないが、CがもはやBが手形決済金の支払いができない、といった事情を承知の上で手形を取得した場合は「害することを知りて」取得したといえる。

(論証部分省略)

2,AがCに対し支払いを拒める場合、Dが善意でAの抗弁の対抗を受けないとき、CはDからの被裏書人としての地位をも併せ持つので、Dの地位を承継取得してAから抗弁の対抗をうけないことになるか。

Dの地位は承継しない。
A・C間では、単にAの抗弁の主張を認めるのが妥当である(人的抗弁の属人性)。

*次回、論証としてまとめます

3,CがAの抗弁提供によってAに権利行使できないとき、CはBに対して担保責任を主張できるか。

15条は、権利の流通を確保するための法定の責任である。
17条で抗弁が制限されないような譲受人に対して担保責任を認めなくとも権利の流通の妨げとはならない。
*ま、結論は様々です

4,ちなみにCはDに対して担保責任を追及できるであろうか?
できないと考える。
たとえ、Dに担保責任を負わせても、遡及によりCがDに対して担保責任を負うことになり、法律関係がいたずらに複雑になり妥当でない。よって、最初から責任は認められないと解する。


支払

『A→B→Cー(盗取)→D と手形が譲渡され、Aが支払をなした場合、どのような取り扱いを受けるか』

*上の事例の場合、次の2ケースが考えられる
(1)C・D間の裏書はDが偽造した
(2)Dが自分はCであると述べて支払を求めてきた

本来、債務は真実の権利者に対して支払わなければ、弁済は無効ということになるのが原則

しかし、債務者としてみれば、誰が真実の権利者か十分調査しなければならないとすると、手形の取引の迅速性が害されることになる

手形の流通確保のためには、手形の迅速な決済の必要がある。

そのために手形の支払をなす者は、手形面上知りうる事情については調査する義務はあるものの、手形面上kらは知り得ない事情については調査しなくても免責されるものと、法は規定している(40条3項)

*「満期において支払をなす者は 悪意または重大なる過失なき限りその責めを免れる。その者は裏書の連続の整否を調査する義務あるも、裏書人の署名を調査する義務なし」(40条3項)

裏書の連続ならば手形面を読めば判明するが、署名の筆跡の調査はたいへんである。

で、本問の(1)のケースについては、手形面においては一応裏書の連続があるので、Aがこれのみ確認しておけば免責されることになる。

本問(2)のケースではどうか。
裏書欄の最終裏書人と所持人との同一性など、手形面の記載からはうかがい知れないことである。したがって、そのような事項を調査しないからといって、Aは免責されないことはない。

『A→B→Cー(盗取)→D→E と手形が譲渡されたとき』

*上の事例の場合、次の二つのケースが考えられる
(1)DがCの裏書の偽造をして自己を被裏書人とし、しかる後にDがEに裏書譲渡する。
(2)DがCになりすまして、C名義の裏書でEに裏書譲渡する。

(1)の場合
裏書が偽造でも形式上外形から裏書が連続していれば権利者と推定
Eは16条2項により善意取得することになる

(2)の場合
少々面倒なことになる。16条2項の解釈の点で問題となる。

16条2項を無権利者からの譲渡に限る立場から考えると、Eは手形の所持人がDであるにもかかわらず、Cと誤信(DをDと認識し、Dが無権利者だったというのとは事情が異なる)したのだから、適用はないことになる。

しかし、この事例でDがAに請求すれば40条3項によって保護されるのに、裏書を受けたEが保護されないというのはバランスを欠く。

そこで、16条2項で保護される範囲は、裏書の資格保護的効力を一歩進めて、単に無権利者からの譲り受けに限らず、同一性の誤信の瑕疵をも含むものと解する。

【追記】
あれれ・・・・、前言っていたことと違うじゃないか。ま、こっちの方が結論的には妥当なんだが。


「悪意・重過失」(40条3項)の意味

単に知っているだけでは足りない。
容易に無権利者であることを証明できるにもかかわらず、あえて証明せずに支払った場合をいう。

*手形の場合、無権利であることを証明できない限り、所持人に対して手形金を支払わなければならない。さもなくば遅滞の責めを負わされることになる=支払を強制される地位にある。
よって、単に権利者でない、ということを知っているだけでは駄目で、支払拒絶の根拠を証明できない限り裁判で負けてしまう。
したがって、「容易に証明できるのにしなかった」という条件がついたのである。