第二章 訴訟の主体

◎裁判所

◎裁判所の管轄

◎刑事訴訟における裁判所・裁判官の役割

 【捜査段階における裁判官の役割】

(1)捜査に対する司法的抑制。
捜査機関が強制処分を行なう場合には、裁判官の令状が必要である。
この令状主義の原則は、強制処分を捜査機関の自由に任せると、その濫用により国民の人権が侵害される虞がある。
そこで、強制処分の可否を、公平な立場で捜査の必要と人権の保障のバランスを考慮できる裁判官の判断に委ねたのである。
 逮捕状(199条+規143条ノ3)、勾留状(207条・60条+87条)。捜索差押令状(219条+218条)について、裁判官は令状発布の要件、及びその必要性の審査を行なう。
(2)準抗告制度(429、430条)。
準抗告制度は、救済手段としての意義があり、これも捜査段階における裁判官の関与の一形態である。
(3)証拠保全の制度。
裁判官は、第1回公判期日前に、当事者の請求により証拠の保全を行なうことがある。
1)公判前の証人尋問請求(226、227条)。 2)証拠保全請求(179条)。
がそれである。

◎検察官一体の原則

◎刑事訴訟における検察官の役割

【検察官の職務】

(1)捜査段階。
捜査の第一次的責任は司法警察職員にあるとされている(189条)が、検察官も二次的な捜査機関としての権限をもち(191条)、司法警察職員への指示権や指揮権も与えられている(193条)。
また、勾留請求等の権限もある。

(2)公訴段階。
我が国では、国家訴追主義の原則が貫徹されると共に、検察官の起訴独占主義を採用している(247条、但267条)。
さらに起訴便宜主義がとられ起訴をするか否かの裁量が広く認められており(248条)、その権限は極めて大きい。

(3)公判段階。
公判においては、検察官は原告たる訴訟当事者としての地位を有し(但267条)、訴訟追行において主導的役割を果たす。国の代理人であり、弁護士的機能といえる。
検察官の最も主要な役割である。

(4)刑の執行段階。
刑事裁判の執行は、検察官の指揮によるのが原則であり(472条、但70条、108条)、刑の執行も、現実には行刑官等に委ねられるが、やはり検察官の指揮に基づく。

【捜査における検察官と司法警察職員】

 捜査における第一次的機関は司法警察職員であり(189条2項)、検察官は二次的な機関とされ(191条1項)、両者は別個独立の捜査機関であり、原則として協力関係にあるとされる(192条)。
 しかし、捜査は本来検察官の公訴提起・公判維持のために行なわれるものであり
検察官にも補充的な捜査権が認められているので、例外的に、次に述べるような司法警察職員に対する検察官の検察官の指示権・指揮権が認められている。
(1)検察官の一般指示権(193条1項)。
 検察官は、捜査に必要な事項に関する一般的準則を定めることができる。
(2)検察官の一般指揮権(193条2項)。
 検察官は、捜査の協力を求めるために必要な一般的指揮をすることができる。 (3)検察官の具体的指揮権(193条3項)。
 検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要のある時は、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。
 司法警察職員は、上記の場合は検察官に従わなければならない(193条4項)。

◎被告人、被疑者

被告人=検察官によって公訴を提起された者
被疑者=公訴提起前に捜査機関から嫌疑を受けた者

○身代わり犯人に対して有罪判決がなされた場合

被告人の特定はいかなる基準をもってなされるべきか

被告人の特定→表示説・意思説・挙動説(←これは、身代わり犯人を形式的被告人として扱い、形式裁判を行うための説)

起訴状の記載は人定質問(規196条)で確認されるので、明確性の点で表示説が基本となる。
しかし、起訴状から推認される検察官の客観的訴追意思を考慮して実質的合理的に判断すべし。

手続的処理〜誰に対して訴訟継続が生じているか

(1)【人定質問前に発覚】     公訴は本人に対して成立  人定質問(冒頭手続)を受けていないので、訴訟継続は生じない
(2)【第一回公判期日までに発覚】 訴訟継続が生じているので形式裁判で手続き打ち切り
(3)【有罪判決後確定判決前】   その有罪判決は「本人」こと「身代わり」として裁判を受けた者に対して生じているので、控訴すれば、公訴棄却判決(400条)
(4)【確定後】          非常上告

【被告人の訴訟上の地位】

 無罪推定の原則と、訴訟主体としての地位が重要である。
(1)無罪推定の原則
 被告人(被疑者)は原則として無罪と推定される。
 この原則は、憲法37条1項の公判審査を受ける権利の内容をなすとする説もあるが、憲法31条の内容をなし、336条はそれを具体化したものと解するが妥当である。
 この法理により、被告人(被疑者)の事由を制限する場合にも、必要最小限度に止められるべきことが要請される。

(2)訴訟主体の地位
 被告人の訴訟主体(当事者)としての地位を保障するため、憲法は、黙秘権と証人尋問権を保障している。
 前者は当事者としての消極的側面であり、供述強要は禁止され、これに反すれば証拠能力が否定される。
 また不利益事実として推定されない。
 後者はその積極的側面といえ、自己に不利な証人への反対尋問権、有利な証人への強制的尋問権を内容とする。

○【捜査に対する被疑者側の防御活動】

 弾劾的捜査観からは、捜査段階において被疑者にも公判への防御準備権を保障する必要がある。
 具体的には、
1)黙秘権、
2)弁護人の援助を受ける権利、特に国選弁護人依頼権、接見交通権、
3)証拠の収集保全権・開示請求権、
4)立会権、保釈請求権、等の保障が重要である。

◎当事者能力と訴訟能力

◎弁護人

○【被疑者の弁護人依頼権】

 憲法的刑事訴訟法論の下における適正手続主義では、被疑者を無罪の推定を受けた者として、その手続的人権を十分に保障し妨訴主体としての地位を認める弾劾的捜査観が要請され、被疑者には種々の権利が与えられてるが、実際にはそれを行使する能力を持たないことが多いため、その権利を守るための弁護人の存在が不可欠となる。
 憲法は、身体を拘束された被疑者に弁護人依頼権を保障しているが(34条前段)、刑訴法は身体の拘束の有無を問わず全ての被疑者に対し弁護人依頼権を保障している(30条)。

◎捜査における弁護人の地位

○弁護人の役割

○弁護人の地位・権限

○【捜査における弁護人の地位】

 捜査における弁護人の任務は、被疑者の正当な利益を守ることである(弁護士法1条)。
 この任務の達成を可能とするため、弁護人には次のような権利・義務がある。
 まず、弁護人の権利として代理権と固有権がある。代理権の中でも重要なのは、弁護人が被疑者の正当な利益の保護者としてその意思から独立して明示の意思に反しても行使できる独立代理権である。
 具体的には、勾留理由開示の請求(82条)、勾留取消・保釈請求(87条)、証拠保全の請求(179条)等がある。

 固有権で重要なのは、弁護人だけで単独でもつ狭義の固有権である。
 具体的には、被疑者との接見交通権(39条)等がある。

 次に弁護人の権利として、被疑者の正当な利益のための善管注意義務や真実義務がある。
 このうち真実義務については、積極的な提供開示義務まで要求されず、消極的な妨害回避義務であるとする説が妥当である。

◎接見交通権をめぐる諸問題

○【刑訴法39条1項の趣旨】

 刑訴法39条1項は、身柄を拘束された被疑者に弁護人との接見交通権を保障している。
 これは、1)被疑者に弁護人が防御の必要的知識を教示する必要性、
 2)接見による捜査の可視性を高める必要性、
 3)被疑者の公判への準備活動の必要性、
 4)弁護人依頼権(憲法34条)の実効化等の理由に基づく。

 他方で、刑訴法39条3項は、捜査機関は「捜査の必要性」があるときは接見の日時、場所、時間を指定できると規定している。
 刑訴法は、弁護と捜査が鋭く対立する場面において、一方で被疑者に接見交通権を認めると共に、他方で捜査機関側に指定権を与えて、両者の調整を図ったものである。

○【接見制限の条件】

 刑訴法39条3項の「捜査の必要性」については、それを罪証隠滅の防止・共犯者との通謀の防止等を含めた捜査全般の必要性とする説(非限定説)もある。
 しかし、この説は1)刑訴法39条1項が憲法34条を受けて自由な接見交通権を認めた趣旨を没却し、
 2)罪証隠滅の恐れ等では抽象的であり、その恣意的運用の恐れがあり、
 3)真実発見に偏し、適正手続(憲法31条)の見地より疑問があり、妥当でないと考える。
 前記刑訴法39条1項の接見交通権の趣旨、接見指定は被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはならないこと(刑訴法39条3項但書)から考えれば、接見交通権を制約する「捜査の必要性」はできる限り限定的に解釈すべきである(限定説)。

○【接見制限の条件(その2)】

 刑訴法39条1項の接見交通権の趣旨、接見指定は被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはならないこと(刑訴法39条3項但書)から考えれば、接見交通権を制約する「捜査の必要性」はできる限り限定的に解釈すべきである(限定説)。
 従って、捜査機関は、弁護人から接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、捜査の中断による支障が顕著な場合、すなわち、
1)現に被疑者を取調中であるとか、
2)実況見分・検証に立ち会わせる必要がある場合、
3)あるいは右取調べ等をする確実な予定があって、接見を認めたのでは、右取調べが予定通り開始できなくなる場合
 であっても、弁護人と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定して、被疑者が防御のため弁護人と打ち合わせることのできるような措置をとるべきであると解する。

○被疑者と一般人との接見交通

逮捕中の被疑者に対して、被疑者の妻が(1)面会、および(2)差し入れを願い出たが拒絶された。この担当係官の措置は適法か。(セミナー刑事手続法)

弁護人の接見交通権

法39条1項は、弁護人に対して、(1)立会人なくして接見し、(2)物および書類の授受を認める。

身柄を拘束された者は
(1)外界から遮断される→不安
(2)密室での取調→黙秘権等人権侵害の危険
(3)自己の嫌疑を晴らすことができない
という不利益を受ける

そこで、憲法34条前段は、身柄を拘束された者が自己の自由と権利を守るため弁護人の援助を受けることができるよう弁護人依頼権を定めたのである。

しかし、身柄が拘束された者が弁護人に面会することができないなら、弁護人の援助を受けることができず、弁護人依頼権は実効性を欠く。

そこで、法39条1項は弁護人との接見交通権を保障し、弁護人から援助を受ける機会をもつことを実質的に保障したのである。

これにより、身柄を拘束された者は
(1)外界との窓口を得ることになる
(2)捜査の可視性が生じ、捜査の適法性が担保される
(3)弁護人と公判準備をし、自己の嫌疑を晴らすことができる

本問で重要なことは、身柄を拘束された者とは、(1)勾留中の被告人、(2)勾留中の被疑者、のみならず、(3)逮捕により留置中の者も含むことである。

一般人の接見交通権

一般人との接見交通については、刑訴法80条が規定する。それによると、
◆起訴後の勾留→80条によりOK
◆起訴前の勾留→80条には規定なし。but 207条1項により80条の準用。よってOK

but 逮捕された被疑者→規定なし。よって接見交通はNG

その理由は、接見交通権が被疑者・被告人の防御権のためのものであり、それには弁護人がふさわしいから
また、逮捕は捜査の初期の短時間のものであるので、面会に時間をとられるのは不都合との判断

加えて、勾留中の被疑者・被告人についても、法81条や監獄法45条以下等の制限がある
ここでも、弁護人と一般人は区別されている

本問は逮捕中の被疑者であるので、面会および差入れの拒絶はやむを得ない。

もっとも、勾留中の場合、81条但書は「糧食の援助を禁じ、or差し押さえることはできない」となっていることに注意。

◎公判における弁護人の地位

○公判における弁護人の役割

【国選弁護人制度】

当事者主義(審判対象の設定と立証を当事者に委ねるたてまえ)においては、被告人もまた防御権を適切に行使しなければならない
but 素人たる被告人には酷な話
そこで、専門家たる弁護人による反論・反証を期待

弁護人を選任できない場合→放置してはデュープロセス・平等原則違反
そこで、国選弁護人の制度(憲法37条3項)→(法36条・37条・289条)

○公判における弁護人の地位・権限・義務

【原則】〜弁護人は被疑者・被告人のなし得る訴訟行為で性質上代理に親しむものにつき代理権がある
【包括代理権】〜法に規定がなくとも弁護人はこれを行使しうる(但し、被告人の明示黙示の意思に反しては駄目)ものを包括代理権という
ex、審判併合請求(8条)、管轄違いの申立(331条)、

*原判決後、被告人の母により選任された弁護人が上訴権を代理行使したが、実はその前に被告人に成人擬制が生じていた(これにより被告人の母は上訴権を失う)という事例で、判例は弁護人は選任者の弁護人ではなく被告人の弁護人なのだから被告人の上訴権(351条1項)を包括代理権に基づいて代理行使しうる、とした。

【独立代理権】〜法に規定がなければ弁護人はこれを行使できないが、反面被告人の意思に反しても可
ex、勾留理由開示請求(82条2項)、勾留の取消又は保釈の請求(87条、88条、91条)、証拠保全の請求(179条)等

【固有権】〜弁護人の権利として特別の規定がある場合で、その性質上代理に親しまないもの
◆被告人・被疑者と重複するもの〜検証の立会(142条・113条)、証人尋問の立会(157条・228条)、証人尋問(304条2項)

◆弁護人のみ〜接見交通権(39条)、書類・証拠物の閲覧・謄写(40条)、上訴審における弁論(388条、414条)

【弁護人の真実義務】

弁護人の第一次的な任務は被告人の保護を通じての正義への奉仕である
したがって、被告人の利益を害してまで積極的に情報を開示する義務を課することはできない
もっとも、当事者主義とはいえ弁護人は法に適合する行為をなす義務はあるのだから、それに反することはできない
田宮は、消極的妨害回避義務はある、という・・・すっきりしないな

◎国選弁護人をめぐる諸問題

◎被害者と刑事手続

○【犯罪の被害者の訴訟上の地位】

 被害者は、まず、捜査の過程では、被害届、告訴によって、操作の端緒を提供するが、参考人として捜査機関の取調(223条)も受ける。その結果は、一定の要件の下で証拠となる(321条)。
 次に公訴段階では、まず被害の状況等が検察官の訴追裁量の大きな考慮要因となる(248条)。
 また告訴人には事件処理の通知ないし不起訴理由の告知がなされる(260・261条)。
 それに不服があれば、上級検察庁への抗告、検察審査会への審査申立(検察審査会法30-32条)、職権濫用事件における付不審判の請求(準起訴手続)(262条以下)ができる。
 公判においては、証人となることはもちろんであるが、その際、証人威迫罪(刑105条ノ2)による保護、被害を受けたときの給付制度がある。
 また、保釈に関して、お礼参り防止の予防等の配慮がなされる(89条・96条)。
 判決において、被害の回復の有無、被害者の心情等が情状として考慮される。
 なお被害者給付金制度も存在する。

○被害者の保護の必要性

○捜査における被害者の地位

○【親告罪と捜査】

親告罪たる強姦罪について、告訴がなしで捜査をなし得るか。
そもそも、捜査は公判維持のための準備活動であるが、告訴の訴訟条件であり捜査の条件ではないので、親告罪につき告訴のない場合であっても、告訴の可能性があれば、捜査一般が許されるはずである。
しかし、親告罪が認められた趣旨からすれば、犯罪事実の存在それ自体が公になることが被害者の意思に反することになるといえる。
とすれば、捜査は任意捜査を原則として、必要性・緊急性のある場合に限るべきであり、強制捜査についても証拠保全の必要性・緊急性が著しく大きい場合に限り許されると解する。
すなわち、被害者が告訴をしない旨を明言した場合は、捜査は許されない。
また、確答を得られなかった場合でも、緊急の必要性があり、名誉の侵害の虞れのない場合に限って許されると解するべきである(個別化説)。

○公訴提起における被害者の地位

○公判における被害者の地位