第四章 公 訴

◎検察官の訴追裁量の合理的規律

◎公訴権濫用論

○【公訴権濫用論】

 公訴権の行使は検察官に委ねられている(247条)。
 これが適法なためには訴訟条件の具備が必要であるが、形式的には訴訟条件を具備していても、実質的には不当・不公正な公訴提起といえる場合もある。
 かような場合には、公訴権の濫用的行使として、非類型的訴訟条件を欠くとして形式裁判で公訴を退けるべきとする説がある。かような主張を公訴権濫用論という。
 判例は、検察官の裁量権の逸脱が公訴の定期を無効ならしめる場合もありうるが、それは公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるとしている。
 しかし、これはあまりに限定的すぎ妥当でない。裁判所のエクイティ的救済機能として、裁量権逸脱が「顕著・明白」な場合という程度にゆるめて解する説が妥当である。

○【違法捜査に基づく起訴】

 違法捜査に基づいて起訴された場合、その起訴の効力はどうなるか。かような起訴は、検察官による公訴権の違法な運用でないかが問題となる。
 この点、捜査手続に違法があっても、「検察官の広範な裁量にかかる公訴提起の性質」に鑑み、適法とするのが判例である。
 しかし、被告人・被疑者の適正手続の保障をうける権利の保障(憲31)という見地、及び違法捜査の抑制という見地から、捜査手法に重大な違法があれば公訴は無効である解すべきである。
 その場合は、訴訟が適法に遂行されるための要件を欠くものとして、被告人に妨訴的地位を保障する必要から、338条4項の「手続違反」に該当すると解し、公訴棄却とすべきである。

○【違法捜査に基づく起訴の効力】

 これについては、捜査と起訴はそれぞれ別個の手続きであって、捜査手続きの違法は公訴の効力に影響がないとする説もある。
 しかし、(1)捜査と公訴とは相対的に独立性をもつ手続き段階だとしても、両者は相互に全く無関係な手続きでなく関連した手続きであることも自明であり、
 (2)とりわけ、被疑者・被告人の適正手続きの保障を受ける権利の保障(憲31条)という見地からは、捜査手続きの違法が公訴の効力に影響を及ぼすことを理論的に肯定することは十分可能であること、
 (3)違法捜査の抑制の見地から、捜査に違法があれば公訴を無効としなければならない場合があることを肯定しておく必要があること、等の理由から、公訴の無効を肯定すべきである。
 そして、捜査手続きに重大な違法があれば、「公訴提起の手続きがその規定に違反した」場合にあたり、刑訴法 338条4号により公訴棄却の判決がなされるべきである。

◎予断排除の原則

◎起訴状一本主義

◎一罪の一部起訴(選択的起訴)の可否

◎訴訟条件

○訴訟条件の種類

○訴訟条件の判断

○【訴訟条件(親告罪の親告)の追完】

 訴訟条件は、単に裁判所の審判の要件であるだけでなく、検察官による公訴の適法要件でもある。
 したがって、訴訟条件は起訴のときから訴訟の終わりまで全過程で存在することが必要である。そしてこれを欠いた起訴は原則として無効となる。
 問題となるのが、告訴なくして親告罪の訴因で起訴された場合である。訴訟経済上の理由をあげ、例外として追完を認める説もある。
 しかし、この場合は、訴訟の発展的性格とは無関係なこと、訴追側のミスは看過できぬほど大きいこと、示談などが行われる余地もあり、必ずしも訴訟経済に合致するとも言えないこと、などの理由から、追完は許されないと解する。
 ただ、(1)冒頭手続きまでに追完された場合、
 (2)被告人の同意があった場合、
 (3)事実の変化で新たに訴訟条件を必要とするようになった場合等には、
 被告人に不利益があるとはいえず、限定的に追完を認めてよいとする説が妥当である。

◎公訴時効

○公訴時効の本質

○公訴時効の起算点

○公訴時効の停止