【上訴における不利益変更禁止の原則】
被告人が上訴し、または被告人のため上訴がなされた事件については、原判決より重い刑を言い渡すことはできない(402条、414条)。これを不利益変更禁止の原則という。
不利益変更禁止の原則は、弾劾主義・当事者主義(訴えに基づく判断・不服の限度の裁判)と、可及的な二重の危険の排除という考え方に基礎をおく。
さらに、被告人が刑を重く変更されることを恐れて、上訴をちゅうちょすることがないようにという政策的根拠が援用される。
問題は、何が重い刑かということであるが、刑10条は一応の基準となるが、結局、刑名等の形式だけによらず、執行猶予、未決勾留日数の通算、訴訟費用の負担などの主文の全体から見て、実質的被告人に不利益となるかどうかで判断するほかない(具体的総合説:判例)。
【控訴審の構造】
控訴とは、第一審の判決に対する第二審の裁判所への上訴である。
控訴審の構造としては「覆審」「続審」「事後審」とあるが、当事者主義の採用により第一審が充実したこと、392条が控訴裁判所は原則としてそこに指摘された事項についてだけ調査するとされていることから、現行法は、原判決の当否を事後的に審査するという事後審の方式を採っていると解される。
この事後審の内容をどう理解するかについては、争いがある。
この点、事後審の構造に忠実に、時的には原判決時を基準として、資料的には原審にあらわれた証拠に限られるとする厳格説もあるが、当事者特に被告人の救済の見地より疑問がある。
そこで、当事者の救済を重視し、控訴審は、原判決の判断過程を審査するものではなく、結論の客観的当否を問題とするから、厳格説のような時的・資料的制約はないが、第一審重視の判決(382条)はあるという審査審説が妥当である。
【再審公判手続】
再審請求の審査を経たのち、再審公判手続が開始される。この管轄は原判決裁判所である(438条)。
再審においては原判決より重い刑を科することはできない(452条)。
【再審】
刑事訴訟において、終局裁判が確定し確定力が発生すると、法的安定性の要請からその当否を争うことはできなくなる。しかし、他方で裁判には適正な方の実現の要請もある。よって裁判の誤りがあれば可能な限り是正しなければならない。そのための非常救済手続として、事実認定の誤りを是正する再審と、法令違反を是正する非常上告がある。
この再審の目的は、現行法が憲法39条による二重の危険の趣旨に基づいて、利益再審のみ認めた点を重視し、真実そのものの追求ではなく、無罪の救済にあると解するので再審規定の緩やかな解釈も要請され、再審は請求されれば原則として開始すべきだろう。
再審の手続では、まず再審請求の審査が行われるが、その際、再審理由の存否が審査される(435条)。理由は、証拠の誤り、職務犯罪、新証拠の発見の三種に分類される。
再審開始決定がなされた場合は、再審公判手続によって審判が行われる。
【再審理由の「証拠の明白性」】
再審理由の審査については、証拠の新規性と明白性が必要とされる。では、この「明白性」とはいかなるものか。
再審理由としての「証拠の明白性」については、基本的に最高裁の白鳥決定によるべきである。
すなわち、
(1)435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうと解すべきだが、
(2)この明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり、
(3)この判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において利益原則が適用されると解すべきである。