捜査の定義

 捜査とは、犯罪の嫌疑がある場合に、公訴の提起・追行のために犯人を保全し、証拠を収集・保全する行為をいう。
 これに対しては、捜査は単に公訴の準備にとどまらず、犯罪の嫌疑の有無を明きかにして、起訴不起訴を決定することを目的とするところの、公訴とは区別された独立の手続であるとする説もある。
 しかし、不起訴は捜査の一つの重要な帰結であっても、捜査の目的とはいえないし、公判中心主義という刑事訴訟法の理念とも調和しがたいので、妥当でない。



 弾劾的捜査観

 弾劾的捜査観とは、捜査を一方当事者としての捜査期間が単独で行う公判への準備活動と解する立場をいう。
 憲法的刑事訴訟法論の下における適正手続主義では、被疑者を無罪の推定を受けた者として、その手続的人権を十分に保障し妨訴主体としての地位を認める当事者主義の捜査構造が要求され、裁判所の抑制的機能が重視されるべきであるから、弾劾的捜査観が妥当であり、比津ばつ主義に基づく職権主義的構造の糾問的捜査観は支持し難い。
 現行法上の理由として、令状主義の原則を採用し、捜査手続も当事者対立構造を採っていること、黙秘権の保障があること(憲38条1項、198条2項)、被疑者の弁護権が保障されていること(憲34条、30条、39条)、公判中心主義の採用により(憲37条2項、320条)、捜査は公判への準備活動であり、裁判の中心は公判によって決せられること、被疑者には証拠保全請求権(179条、180条)、勾留理由開示請求権(82条)があること等があげられる。



 捜査と訴訟条件

 親告罪で告訴がない事件について捜査はできるか。捜査を公訴準備の手段であると解すれば、捜査にも公判に準じた要件が必要でないかが問題となる。
 この点、親告罪の告訴がない場合は、およそ捜査ができないとする説もある。
 しかし、捜査は公訴提起を前提として行われるものであるから、現時点で訴訟条件が具備されていなくとも、将来において訴訟条件が具備され、公訴提起の可能性がある場合には捜査できるとする説が妥当である。
 しかし、将来において全く訴訟条件の備わる見込みのない場合は、捜査を行うべきではない。
 これは、訴訟条件が捜査の条件であるからではなく、不必要な捜査を避けることによって、捜査における人権を確保するためである。