別件逮捕・勾留

  別件逮捕・勾留とは、自白の獲得をねらっている本命の重大な被疑事件(いわゆる本件)について、被疑者の身柄を拘束するだけの証拠資料がないときに、別の、通常は軽微な被疑事件(いわゆる別件)を理由に逮捕・勾留し、その身柄拘束の状態を利用して本件の取り調べを行う捜査方法である。
 別件逮捕・勾留の適否については、別件を基準とし、別件について逮捕の要件を欠く場合にこれを違法と解する別件基準説もあるが、これは別件に対する通常の要件審査で足りることを意味し、逮捕権の濫用という別件逮捕の脱法的本質を無視する考えであり妥当でない。
 別件について逮捕等の理由と必要があっても、その逮捕等が実質的には隠れた本件の捜査のために請求されたものであるときは、逮捕等に関する司法的抑制の趣旨を濳脱することになるから、許すべきでなく、本権を基準として判断する説が妥当である。



 別件逮捕の適法性の基準

 別件逮捕の適否については、別件を基準として判断する説もある。
 確かに、別件逮捕の場合には、実はその別件自体も、逮捕の理由と必要性を欠くことが多く、その点で別件基準説にも理由がある。
 しかし、別件逮捕が、一応は逮捕の理由と必要性を有している場合も少なくない。
 その場合、たとえ別件について逮捕等の理由と必要があったとしても、その逮捕等は実質的には隠れた本件の捜査のために請求されたものであって、逮捕等に関する司法的抑制の趣旨を潜脱することになるから許すべきではない。
 この場合は、本件を基準として判断する説が妥当である。



 余罪取り調べの適法性

 身柄拘束下の余罪の取り調べについては、身柄拘束下の取り調べを任意処分と考える説は、原則として適法と考えることになる。
 しかし、身柄拘束下の取り調べは強制的要素を否定しえず、強制処分と考えるべきであろう。
 そして、逮捕・勾留については、身柄拘束の原因を明確にし被疑者の人権を保障する趣旨から、その効力は令状に記載されている犯罪事実にしか及ばないとする「事件単位の原則」を採用すべきであり、それによれば、余罪の取り調べは原則として違法と考えるべきである。
 ただし、余罪の取り調べも、実際上、被疑者に有利に働く場合(例えば、被疑者が自ら進んで自白したときや、余罪が軽微で同種事犯であるとき等)には、例外的に許されることもある。