写真撮影の法的性格

 個人の容貌の写真撮影に関しては、身柄を拘束された被疑者については無令状で許される旨の規定があるが(刑訴法 218条2項)、その他についての一般規定はない。人はみだりにその容貌を撮影されないという意味での肖像権をもつが(憲法13条)、被疑者の同意のない写真撮影は許されるか。
 強制処分法定主義(197条)との関係で写真撮影の性格が問題となる。
 この点については、まず任意処分説があるが、肖像権侵害の事実を無視することになり妥当でない。
 次に、強制処分(検証)説があるが、無令状の場合が許されず実際の必要に応じ得ないので妥当でない。
 そこで、強制処分法定主義が要求されるのは、既成の古典的強制処分に限られると解し、写真撮影の場合には、厳格に法律規定は要求されないが、法定主義の背景にある令状主義の精神が妥当する新しいタイプの強制処分とする新強制処分説(有力説)が妥当であると考える。



 写真撮影の許される要件

 被疑者の同意のない写真撮影は、緊急事態における即時的処分として行われるので、無令状で行う場合の精神を具体化すれば、次のようになる。
 すなわち、(1)現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、(2)しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、(3)かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるときである。判例も同旨である。
 なお、このような場合に行われた写真撮影に、犯人以外の第三者である個人の容貌が含まれることとなっても、憲法13・25条に違反しないものと解すべきである。



 捜索・差押の現場で、令状記載以外の物件を写真撮影する行為の適法性

 個人の所有物に対する写真撮影は検証(あるいは実況見分)の性質を持つ処分であるから(通説・判例)、それを強制的に行う場合には、検証令状により行われるべきである。
 また、捜索・差押の際に行われる写真撮影については、捜索・差押手続きに付随した検証として、刑訴法 111条の範囲を超えた検証処分が無令状でなされうると解する説もあるが、当初から検証が予定される場合には、別途検証令状を受けて行うのが、法の趣旨と考えられるので、妥当でない。
 むしろ、捜索・差押の機会を利用して無令状の写真撮影が別事件の証拠収集のため意図的に行われた場合には、その捜索・差押は令状主義を潜脱する意図で利用されたことになり違法である。

 捜索・差押の際の違法な写真撮影の救済方法

 捜索・差押の際の違法な写真撮影は、捜索・差押処分事態の違法を招来し、差押処分が準抗告(刑訴法 430条2項)により取り消される場合があると解する。
 この点、判例は、右準抗告(刑訴法 430条2項)の対象は「押収に関する処分」であり「検証」としての性質を有する写真撮影はこれに該当しないとして、準抗告は不適法としているが、文理に偏するもので妥当でないと考える。



 ビデオ撮影

 対象者の承諾なしのビデオ撮影は許されるか。強制処分とすると強制処分法定主義(197条1項但書)に抵触するため、その法的性格が問題となる。
 思うに、強制処分法定主義の趣旨は、令状を要求することにより、捜査機関の権限濫用による人権侵害を防止するところにある。
 とすれば、科学技術の進歩で物理的強制力を用いない新しい捜査方法から、国民のプライバシー権等の人権を守るために、強制処分は権利を侵害する処分をいうと解すべきである。
 したがって、ビデオ撮影は対象者の承諾なくプライバシー権の一環たる肖像権を侵害しているので、強制処分であると考える。
 



 ビデオ撮影と197条1項但書

 ビデオ撮影を強制処分と解すると、ビデオ撮影について現行法上明文がないため、強制処分法定主義(197条1項但書)に反し許されないのではないかが問題となる。
 思うに、同条項の「強制処分」とは、立法当時に予想された典型的な強制処分を意味し、立法当時に予想されなかった新しい捜査方法については同条は規定していないと解する。
 したがって、ビデオ撮影は強制処分法定主義に反しないと考える。



 承諾のないビデオ撮影の要件

 ビデオ撮影が強制処分法定主義に反しないとしても、現行法上許されるのか。許されるとしてその要件は何かが問題となる。
 思うに、ビデオ撮影は、197条1項但書の「強制処分」ではないが、憲法上の強制処分として憲法31条の令状主義の規制をうける。そして、具体的には憲法35条に類した要件で規制され、原則として令状を得て行うことを要する。
 ただ、ビデオ撮影は写真撮影同様、緊急事態における即時的処分として行われるのが通常なので、無令状で行われることが多い。
 しかし、この場合にも令状主義の精神を反映すべく、(1)犯罪の嫌疑が明認され、(2)証拠保全の必要性及び緊急性があり、(3)撮影方法も相当であることを要する、と解すべきである。
 ただ、公の場所等での撮影の場合、対象者の肖像権は放棄ないし主観的期待にすぎないのだから、右要件は緩やか(明認性から蓋然性へ)に解してよいと考える。



 犯行再現ビデオテープの作成

 捜査機関が検証令状を得て被疑者の承諾の下で、犯行を再現させビデオテープを撮影した場合、右捜査方法は適法であろうか。
 この点、犯行再現は非人道的で人格の尊厳を損なうとして違法とする見解もあるが、動作などを通じて再現させることと言葉を通じて再現させることは同じであり、後者は許されるが、前者は許されないとするのは不合理である。
 そこで、犯行再現も必要不可欠な場合に真摯な同意があれば、検証の際の指示説明の一種として適法と解する。