公知の事実 | 日常の社会生活において普通の知識・経験を持っている一般人なら誰でも当然に知っている事実 | ||
裁判所に顕著な事実 | 裁判所が職務上知り得た事実 | ||
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刑事訴訟において、裁判所は証拠に基づかないで事実を認定することができる場合があるか。 「事実の認定は証拠による」(317条)。これを証拠裁判主義という。裁判の正確さと公正を客観的に示すためである。 よって、原則としてすべての事実は証拠によって認定されなければならないことになる。 | ||
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しかし、だからといって公知の事実についてまで証拠による必要はない。証拠によらなくても裁判の正確さと公正さに影響はないからである。 | ||
もっとも、何が公知の事実といえるかは、明らかでないが、一般に「日常の生活に置いて普通の知識・経験を持っている一般人なら誰でも当然に知っている事実」と定義しうる。 なお、公知の事実といっても、ある時・所でのみ公知である場合、裁判所のみならず、当事者も、その限定された地域に属している必要があるとされる。 | |||
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では、裁判所に顕著な事実はどうか。 判例は、裁判所に顕著な事実は証明の必要がないとする。裁判の正確さに影響しないからである。 しかし、刑事訴訟においては裁判の正確さだけでなく、これに対する当事者および国民一般の信用が重要である。 とすれば、裁判所に顕著な事実といっても証明の必要があると解するべきである。 | ||
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さらに、犯罪阻却事由のように主要事実であっても弁論に現れない事実についてはどうか。 そもそも、刑事訴訟の基本原則である当事者主義の訴訟構造の下では、検察官は犯罪・刑罰の成立を基礎づける事実を主張しなければならないが、その不成立を基礎づける事実の不存在まで主張する必要はない。 検察官は有罪立証のために、一応は犯罪事実の証明だけをすれば足りる。そして、被告人の犯罪・刑罰の軽減・不成立を基礎づける事実については被告人が争う必要がある。 もっとも、検察官は無罪の推定の下、客観的挙証責任を負うのだから、被告人が争う意思を明らかにした後は、その軽減・不成立を基礎づける事由の不存在を証明しなければならないとするべきである。 | ||
最後に、法律上推定された事実についてはどうだろうか。 法律上推定された結果、証明の必要はなくなるといえる。 もっとも、推定の基礎となる事実の証明は必要であり、推定事実の存在は直接に立証される必要がないという意味にすぎない。 |