【73】法律上の推定と事実上の推定

◎法律上の推定 一定の事実(前提事実から一定の他の事実(推定事実)を推認する法的処理
    推定規定(法律上の推定)の許容基準
明文である事実(前提事実)から他の事実(推定事実)を推認するよう推定規定(麻薬特例法18条等)が設けられていることがあるが、これはそもそも許されるか。

推定とは、挙証責任を負う当事者にとっては証明主題の変更を許すものであるが、相手方にとっては挙証責任の転換を伴うこととなるので問題となる。

そもそも、犯罪事実の存在は検察官が合理的疑いを容れない程度まで証明する必要がある。したがって前提事実から推定事実の推認は強制的であり、転換される挙証責任は実質的挙証責任であるとすれば、利益原則ないし無罪の推定原則に抵触することとなる。

しかし、(1)裁判官に対する推定の拘束力が許容的であり、

加えて、
(2)前提事実と推定事実の間に合理的関連性があり(合理的関連性の基準)、
(3)また推定事実の不存在についての立証が被告人に比較的容易であること(便宜性の基準)

であれば、利益原則ないし無罪推定原則とも抵触を避けられる。そこで、これを要件として、推定規定の存在は許容すべきである。

    被告人の証明の程度
証明の程度についても、被告人に合理的疑いを容れない程度までの証明を要求すれば、これは実質的挙証責任の転換であり、利益原則ないし無罪の推定の原則に反する。

そこで、この場合は、推定事実の存在を疑わせる一応の証拠の提出をもって足りるとする説(証拠提出責任説)もあるが、これでは容易すぎて、逆に推定規定を置いた意味が没却されてしまう。

そこで、推定事実の存在に疑いを投げかける合理的な事実の提出(修正された証拠提出責任説)をもって足りると解するべきである。

   
◎事実上の推定 間接事実から経験則・論理法則を用いて要証事実を認定する場合の合理的な自由心証過程
    意義
これは、裁判官のあるべき自由心証を述べたにすぎない