319条は、『強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留または拘禁された後の自白その他任意になされたものでない疑いのある自白はこれを証拠とすることはできない』としている。かように自白の証拠能力を否定する証拠法則を自白法則という。
任意性に疑いのある自白の証拠能力を否定する理由はなんであるか。
この点、任意性に疑いのある自白は類型的に虚偽を内包している危険性が高いので、証拠能力を否定するとする説もある(虚偽排除説)。
しかし、そうであれば虚偽を内包しない自白ならよいのか、ということになり「任意性」の有無を調べるためには自白の真実性を調べなければならなくなり、証拠能力の問題が証明力の問題と混同されかねない。
また、人権特に供述の自由を侵害するような違法・不当な取り調べによる自白を排除する趣旨とする説もある(人権擁護説)。
しかし、この説では、任意性があれば、瑕疵ある意思表示であっても証拠能力があることになるし、またそのような心理状態の立証は難しい。
確かに、任意性というからには「供述を採取される側」の心理に着目せざるを得ない。この点で、虚偽排除説も人権擁護説も正しい側面がある。しかし、これのみに着目して任意性を判断することは困難である。
そこで、任意性の認定方法として「供述を採取する側」の取り調べ方法にも着目し、自白法則を、自白採取過程における手続きの適正・合法を担保する一つの手段として理解する見解(違法排除説)を加味して理解するのが妥当である(総合説)。
*短く述べるときは、違法排除説単独でいいんじゃないかな
自白すれば起訴猶予にするという約束に基づく自白について、任意性を否定(百選79)
虚偽排除説および違法排除説ならば説明しやすいが、人権擁護説によれば苦しい。
分泌物検出云々というあざとい虚言を述べて自白を引き出した点、許されざる偽計を用いたとして、任意性を否定(百選80)。
やはり人権擁護説では苦しい。
黙秘権の不告知のみを理由に任意性を否定する判例はない。しかし、取り調べの強引さ、執拗さに加えて、黙秘権の不告知を「黙秘権の告知を受けることによる被疑者の心理的圧迫の解放がなかったことを推認させる事情として、供述の任意性の判断に重大な影響を及ぼす」として、任意性を否定したものもある(百選81)。
現行犯の要件を具備していない違法な身柄拘束中の自白について、「身柄拘束の要件がないことが一見明白であるときのように身柄の拘束の違法性が著しく、右の憲法及びこれを承けた刑事訴訟法上の規定の精神を全く没却するに至るほど重大であると認められる場合には、その身柄拘束中の供述がたとえ任意になされたものとしても、その供述の証拠としての許容性を否定すべきものと解するのが相当である」が、「本件現行犯人の逮捕の違法性は、右の憲法およびこれを承けた刑事訴訟法上の規定の精神を全く没却するに至るほどに重大なものとまではいえないから、本件現行犯逮捕に伴う身柄拘束中になされた被告人の供述は証拠としての許容性を否定されないというべきものである」(百選82)
ここまで来ると、違法収集証拠の排除法則の守備範囲になるとも思われる。
もっとも、田宮のように「違法収集証拠の排除法則こそがより一般的なもので自白法則はその中に含まれ、右二規定(憲38条2項、刑訴319条1項)は自白に関する典型的な場合を例示したものなので、それ以外にも排除されるべき場合はある」と解すれば、違法収集証拠の排除法則と自白法則は同じものとなるから、任意性の法理で処理しても間違えじゃないことになるか・・・・。
逮捕拘留されていない余罪を理由に、接見指定権を行使することは許されない。もっとも余罪について任意捜査としての取り調べは許されるが、その取調中に弁護人が被疑者に面会を求めてきた場合に捜査官の採った措置が問題となったが、裁判所は任意性に問題がないとして証拠能力を認めた(百選83)。
これも、違法収集証拠の排除法則の守備範囲に近い。
判例は、任意性説(接見交通権の侵害の事実を任意性の有無を判断する際の一つの資料とする)にたっているとされる。
違法排除説なら、自白の任意性の有無にかかわらず手続き違反を理由に証拠の許容性が否定されるかも。
重大違法排除説なら折衷的な見解でまとまる。