『甲 乙両名は、共謀の上丙を殺害したとして起訴された。甲に対する証拠として、乙の「甲に頼まれて丙を射殺した」という検察官面前調書がある。しかし、乙は、公判廷では曖昧な供述をするのみであった。一方、甲は終始、乙に依頼したことを否認している。甲の有罪の認定での問題点は。』(昭和61年第二問)
この問題では(1)共謀の立証方法>厳格な証明。(2)共犯者の自白の証拠能力>321条1項2号の伝聞例外。が問題となる。
そして、それらを肯定した後に、検面調書に証拠能力が認められるとしても、この検面調書のみで甲の有罪を認定できるか、共犯者たる共同被告人の自白は「本人の自白」(憲法38条3項)、「その自白」(319条2項)として補強法則が適用されるかが問題となる。
この点、共犯者の自白は引っ張り込みの危険があり、信頼性に欠けるし、自白した者(乙)は補強法則で守られるのに、否認した者(甲)は有罪となるのは不均衡であるとして、「自白」に共犯者の自白を含めて補強証拠を要求する説もある。
しかし、引っ張り込みの危険は、共犯者に対する反対尋問で正し得るし、自白した方が無罪となり、否認した方が有罪となるのも、自白が反対尋問を経た供述よりも証拠力が低い以上、当然である。
そもそも、補強法則は自白偏重による誤判回避のための制度であり、引っ張り込みの危険を理由とする証拠力の低さを理由とするものではない。
よって、条文通り、自白には補強法則は適用されないと解すべきである。
もっとも、共犯者の供述は引っ張り込みの危険があるという点は、反対尋問で正し得るとしても、共犯者が客観的情況については真実を語り、行為の主体のみ虚偽を述べた場合、反対尋問でこれを正すのは難しいので、その認定は慎重にするべきである。