『次の事実を認定するためには、被告人の自白のほかに補強証拠を必要とするか。
(1)自動車の無免許運転で起訴されている被告人について、当該自動車を運転した者が被告人であること
(2)右の被告人が自動車運転の際、免許を有していなかったこと
(3)覚醒剤取締法によって覚醒剤の所持を許可されている者でないのに覚醒剤を所持していたとして同法違犯でき訴されている被告人について、同人が当該物件を覚醒剤であると知っていたこと
(4)右の被告人が覚醒剤取締法によって覚醒剤の所持を許可されている者にあたらないこと』
自白について補強を要するとして、どの範囲まで補強を要するか。明文規定がないため問題となる。
この点、判例は自白の真実性を担保する程度の事実に補強証拠があれば足りるとしている(実質説)。
しかし、そもそも補強法則の趣旨は自白偏重による誤判を防止しするため、わざわざ裁判官の事実認定を拘束したものである。それを自白の真実性の担保の有無を裁判官自身が判断するのでは、何のために事実認定を拘束したのか分からない。補強法則の趣旨が没却されてしまう。
そこで、裁判所の認定基準を明確化し恣意的な判断を防止する観点から、犯罪を構成する重要部分(罪体)について補強証拠を必要とすると解するべきである(形式説・罪体説)。
では、その犯罪を構成する重要部分(罪体)とはいかなるものであろうか。
確かに、誤判のおそれを重視すれば犯罪事実のすべて(客観的側面、主体的側面、主観的側面)について補強を要するとするのが良いようにも思える。
しかし、このすべてについて補強を要求するのは捜査機関に困難を強いることになるので妥当ではない。
したがって、少なくとも罪体とは犯罪事実の客観的側面(何人かによる被害の発生という客観的側面)についての補強が必要であるとするのが、基準の明確性という点で妥当と考える。
もっとも、自白による誤判は、架空の犯行に基づくよりも、多くは犯人を被告人と誤認するところから生じるのであり、犯罪事実の主体的側面(犯人と被告人との結びつき)については自白内容の信用性をより慎重に吟味するべきである。(日和見・・・・)
補強証拠にどの程度の証明力が要求されるかについては、自白の証明力との相関関係で証明力の程度を問題とする立場もあるが、補強証拠の範囲について罪体説を採る以上、自白の証明力とは一応区別し、補強証拠自体で一応の証明力を有する必要があると解するべきである。
犯罪の阻却事由についても、補強証拠が必要かが問題となる。
思うに、犯罪の阻却事由についての挙証責任は検察官にあるが、その存在を示す証拠提出責任は被告人にあると解する。
だとすれば、このような阻却事由については補強証拠を不要としても、誤判にはつながるとはいえない。
したがって、補強証拠は不要と解する。
このほか、犯罪事実以外の事実(累犯前科・処罰条件たる事実)については補強を要しない。