【96】補強証拠適格−補強証拠として許容される要件


補強証拠適格の要件

いかなる証拠が自白の補強証拠となるか。それが補強証拠適格の問題である。

補強証拠も犯罪事実認定のための実質証拠であるから、まず、補強証拠には(1)証拠能力がなければならない。

さらに、法が自白に補強証拠を要求する趣旨から考えれば、補強証拠には(2)自白から実質的に独立した証拠である必要があると解する。

1、自白から実質的に独立した証拠

まず、大前提として、被告人の自白(不利益事実の承認を含む)はどの段階でなされても同価値であり補強証拠足り得ない。

(1)被告人が記載した帳簿類

では、被告人が記載した帳簿類はどうか。

捜査を意識しないで作られたものであるかがポイントである。

被告人が記載した帳簿類は嫌疑を受ける前にこれと関係なく機械的に記入し、323条2号の書面として独立の証拠となりうるものについては自白からの独立性を肯定できるので、補強証拠たり得る(判例:被告人が販売未収金関係の備忘のため闇米と配給米とを問わず、その都度記入した未収金控え帳が補強証拠と足り得るとした事例)。

(2)共犯者の自白

共犯者の自白を本人の自白の補強証拠として採用することができるか。

共犯者の自白については、これが被告人の自白とあらゆる意味で同じというわけではないから、たとえ共犯者の自白であっても本人の自白以外に証拠がある以上、法の予想する定型的な誤判の危険は一応解消したと見てよい。

よって、実質的に独立した証拠として補強証拠適格を肯定しうる。

(共犯者の自白への補強の要否につき補強不要説なら当然の結論であるが、補強必要説でもこれを補強証拠となしえる)

(3)被告人の犯行再現行為を録画したビデオテープ

被告人の犯行再現行為自体は自白ではないから補強証拠適格を有するとも考えられる。

しかし、実質的に見れば犯行再現行為は自白的要素を含むから、これに補強証拠適格を認めたのでは自白で自白を補強したのと異ならない。

よって、自白から実質的に独立した証拠とはいえず補強証拠適格を欠く。

(4)被告人の自白を鵜呑みにして書かれた被害届

被害者の被害届は、被告人の供述以外の証拠といえる。

しかし、その被害届が実質的に被告人の自白をもとに書かれたものであれば、自白で自白を補強することに他ならない。

よって、自白から実質的に独立した証拠とはいえず補強証拠適格を欠く。

2、証拠能力ある証拠

伝聞法則、排除法則(毒樹果実法理)の適用が問題となる。

未収金控え帳のような帳簿の場合、伝聞例外としての323条2項の適用が問題となる。

また、共犯者たる共同被告人の供述を補強証拠に用いる場合、その証拠能力の要件が問題となる。

さらに排除法則については、例えば覚醒剤自己使用罪の尿の鑑定書が採尿手続きの違法を理由に排除された場合(鑑定書は違法収集証拠に密接不可分の証拠として排除される)、被告人を自白だけでは有罪となしえないことになる。