【98】排除法則の限界


毒樹果実法理

毒樹果実法理(派生証拠の理論)とは、違法に収集した物(毒樹)に基づいて発見された証拠(果実・派生証拠)を排除する法則をいう。

適用が考えられる類型としては以下のものがある。

(ア)違法収集証拠と密接不可分の証拠

(イ)違法収集証拠にその発見を負う第二次証拠

(ウ)違法収集証拠を梃として得られた証拠

(エ)反復自白

等である。

これらの毒樹果実について証拠利用を肯定すれば、排除法則が証拠能力を否定する趣旨を没却してしまう。

そこで、派生証拠についても原則として排除法則を適用すべきである。

もっとも、派生証拠の利用が原則として許されないとしても、それを常に排除するとかえって真実発見を妨げ合理的ではない。排除しても違法抑止効が期待できない場合もあるからである。

そこで、(1)独立入手源法理(独立源から証拠を入手した場合)や(2)(不可避的・必然的発見の法理)違法行為がなくても適法な捜査によって証拠を入手し得た場合、さらに(3)(希釈法理)違法行為の毒性が十分に希釈された場合、などは一次証拠との関連性が薄いので、例外として排除法則の適用がないと解するべきである。

この点、不任意自白に基づいて発見された証拠物について、(1)を認めた裁判例(百選84)もある。

一般論としては、捜査の必要(公共の福祉)と人権とを比較考量的手法で調整し、(1)事件の重大性、(2)証拠の重要性、(3)違法の重大性、(4)手続の違法と証拠との関連性の要件を挙げた伊藤少数意見がいいんじゃないの?

で、(4)の関連性の要件で、上の毒樹果実例外の要件を吟味すれば説得的だと思う。

反復自白

反復自白とは、例えば警察官による違法な取調の結果なされた自白に証拠能力が認められない場合に、同一人に対して検察官が適法な取調をなして同一内容の自白を反復させた場合のように、違法に得られた自白に引き続いてなされた(第一自白と同趣旨の)第二自白のことをいう。

この場合の反復自白に証拠能力が認められるであろうか。二次証拠が証拠物ではなく供述証拠であるため、そもそも違法収集証拠の排除法則の適用があるか、自白法則の適用があるかが問題となる。

自白法則について、自白を採取される側に着目する任意性説(虚偽排除説・人権擁護説)によれば、両者は別物ということになるが、自白法則を自白を採取する側に着目し、捜査機関の違法な自白採取を抑制する制度と解すれば(違法排除説)、違法収集証拠排除法則と自白法則は一体として理解することができる。

とすれば、違法な手続による第一次自白から生じた第二次自白を派生証拠(毒樹の果実)と位置づけることができ、第二次自白に毒樹果実法理を適用して排除することが可能となる。

(あー、なんと消化不十分なまとめかただ(笑))

よって、反復自白が、毒樹果実法理の例外にあたるか否かを検討して排除の有無を探ることとなる。

なお、この際、第二次自白を採取した機関がいかなる機関か(検察官か裁判官か)によって第二次自白の証拠能力が第一次自白から受ける影響に違いがあるかが問題となる。希釈法理を適用するだけの特別の事情があるか否かが問題となるのである。

問題となった判例(58年7月12日最高裁判例)では、別件逮捕中に本件自白(第一自白)がなされ、勾留質問でも自白が維持され(第二自白)、さらに勾留中にも自白(第三自白)がなされたというものである。

法廷意見は第二自白の勾留質問は捜査官とは別個独立の機関である裁判官によって行われるので、第一自白の違法が遮断されるとしている。

(我が国の勾留質問が果たしてそこまでの実質を備えているか疑わしいが)これを前提として伊藤意見は同じ捜査機関による証拠収集の場合には、「特段の事情がない限り、第一次証拠収集の違法は第二次証拠収集の違法につながる」として、第一自白との関連性の程度などを総合的に考慮した上で、第三自白を排除した点注意すべきである。

つまり、同じ捜査機関か別の機関かで希釈法理を適用すべき「特段の事情」の有無に変化があるというわけである。

さらに、違法の連続性という問題もある。

違法な第一自白の後、弁護人との接見交通がなされ、しかる後に第二自白(反復自白)がなされた場合、この弁護人との接見交通が反復自白を許容する「特段の事情」にあたるかが問題となる。

単に弁護人との接見交通がなされたというだけで遮断を認めるべきではない。

遮断の条件としては、第一自白が違法手続による物であって証拠能力を欠くこと自体を被疑者が知悉していたことが必要である。さもなくば、単なる違法自白の繰り返しとなってしまうからである。

排除法則適用の限界(毒樹果実法理の例外を含む)

排除法則の根拠として「排除相当性」を挙げるとすれば、将来における違法な捜査の誘因となるおそれがない捜査方法ならば排除法則の適用は必要ないことになる。

そこで、どういう場合が排除法則適用の限界にあたるかを述べる。

(1)いわゆる「必然的発見の例外」

たまたま一部の捜査官が違法捜査をやったが、彼がそのような違法捜査をやらなくてもいずれ他の捜査官が適正な手続きを進めてその証拠に達したはずであるという場合である。

この場合、違法手続きと証拠との因果性に欠け、違法捜査の抑止の観点からすれば例外となし得る。

(2)いわゆる「善意の例外」

違法捜査をした捜査官がその手続きを合法的と信じていた場合である。

この場合も、排除法則を適用しても抑止効を持たないため例外となしえる。

(3)いわゆる「申立適格の有無」

違法捜査を受けた者以外の者に対して証拠が提出された場合、その者に排除申立の適格性があるかという問題である。

この点は、司法の廉潔性あるいは違法捜査の抑止という観点からすれば、申立適格を被害者に限定する根拠はなく、第三者の申立適格も肯定されると解される。