第三者に対する違法行為によって取得された証拠(例えば、捜索・差押令状の執行にあたり立会人がいなかったので、隣人を無理矢理手足を押さえて立ち会わせた結果得られた証拠など)について被告人に排除申立適格が認められるか。
現行法上、排除法則の申立手続について明文規定はなく、違法収集証拠は公判の証拠調べに関する異議(309条、規則205条〜206条)を通じて排除されることになるが、このような異議に申立適格があるのかが問題となる。
違法収集証拠の排除は証拠禁止に属するもので、排除の主張はプライバシーの侵害を受けた者の、自己負罪拒否特権と同じ意味での証拠法上の「特権」といえるから、排除申立適格は違法証拠収集行為の被疑者に限られ、被告人には認められないことになる。
したがって、第三者に対する違法行為によって取得された証拠は原則として排除されない。
違法収集証拠の排除は証拠法上の特権であるから、その証拠調べに一般的同意を与える以上、特権法規(責問権の放棄)として証拠能力が認められる。
また、326条1項の「同意」を証拠能力付与行為と捉えれば、その同意により証拠能力が認められる。
もっとも、権利侵害が重大な場合にはその同意の効果は認められない。
(S49−2出題)
私人の違法行為が捜査機関の教唆などに基づく場合は捜査活動と評価でき排除法則の適用があることに争いはない。
問題となるのは、私人が独自に違法に収集した証拠の証拠能力である。
この点、排除法則を司法の無瑕性の維持を根拠と解すれば、裁判所が違法行為の共犯者になるのを避けるべきだという理由で排除を認め得ることになる。
しかし、排除法則を捜査する側の違法行為に着目するならば、私人による違法収集証拠を特に排除する理由はないというべきである。
もっとも、私人による圧力で任意性に疑いが生じているのなら、この自白は排除される可能性はある。
違法収集証拠を被告人の供述の証明力を争うための弾劾証拠として許容することができないかが問題となる。
いったん弾劾証拠としての利用を認めると、違法収集証拠が間接的にではあるが有罪の心証形成に影響を与え、排除法則を潜脱する危険が生じるから、違法収集証拠は弾劾証拠としても許容できないと考える。
もっとも、被告人に有利な方向では弾劾証拠の利用を肯定する余地はある。
近時、違法捜査による被告人の苦痛を「犯行後の状況」として有利な情状として考慮する裁判例もある。捜査機関でなくとも拘置所職員による暴行の結果、被告人が受けた苦痛を量刑事情として考慮しうるとするものもある。