合格講座 その11

株主名簿(223条、224条)

223条(株主の氏名及び住所が記載事項となっている)→通知に必要
224条(効力=通知する場所は株主名簿の記載をもってたる)→会社の事務処理の便宜を図る
206条(株式移転の対抗要件=取得者は名簿に記載しないと会社に対抗できない)→会社の免責

問題

『株主名簿の名義人がすでに株式を譲渡したことにつき会社が悪意であるときは、会社は譲渡人に利益配当しても免責されないか?』
誤りである。名義書換のない限り、会社は常に免責される(悪意でも)
株式会社では一般に株主が多数いる
真実株式が譲渡されたかどうか、いちいち会社が確認するとしたのでは事務処理が煩雑になる。
224条の趣旨→「画一的処理の要請」から名義書換があったかどうかのみで会社は判断する

(前回の宿題)

『甲会社の株主AがBに譲渡担保権を設定した。譲渡の際、取締役の承認が必要との定款がある会社であっても、やはり承認は必要か?』
204条1項但書の趣旨
会社にとって好ましくない者を排除し、会社の利益を保護するための規定である。
とすれば、会社に対して譲渡担保権を主張できないとすれば足りる。
当事者間では有効としてかまわない

問題なのは、このとき譲渡担保権者Bが会社に対して利益配当請求をする場合である。
−例えば株式質・・・これは商法自身が認めている(209条で株主名簿に記載した上で、自己の債権の弁済に充てることを認める)

さらに問題となるのは、譲渡担保権者Bが会社に対して譲渡担保権者であることを理由に議決権(共益権)を行使してきた場合、取締役会の承認がないことを理由に断ることはできるか?

『譲渡担保権者はどういう権利をもつか』
これが担保にすぎないなら、Bの議決権行使不可(承認不要)
204条但書の趣旨
ところで、譲渡担保の実体は担保権にすぎないのだから、担保としての効力を認めれば十分である。

とすると、譲渡担保が設定されても議決権を行使するのは、なお譲渡担保設定者Aである。
Bには自益権のみを認めれば十分である。

(所有権的構成ならば、Bの自益・共益権を共に認める。)
204条1項但書の趣旨
ところで、Bは自益権も共益権も有している。
よって、会社は会社にとって好ましくないかどうかを判断
ゆえに、承認決議は必要である。

ただ、担保的構成では、次のような論点が出てくる。

設定時に承認が不要であっても実行時には承認が必要となる。
では、Bの方から会社に対して承認を請求できるか?

原則は204条の2で「譲渡人たる株主から請求」となっている。
指名債権譲渡と同じ趣旨
真実株式が譲渡されたかどうかは譲渡人が知りうるから

しかし、実際上、譲受人(譲渡担保人自ら)承認請求する必要がある場合があることに鑑み、204条の5を規定した(H、2改正)→譲受人保護の必要

(宿題)

『株式会社が自己株式を取得する場合の商法上の規制について論ぜよ』
210条の立法趣旨
もっとも大きな理由は、自己株式の取得を自由に認めると、会社財産の充実を害する一方、株主に対する会社財産の払い戻しとなり、会社債権者の利益を害する(資本の充実)

【追記】

自己株式取得規制の論証

株式は有価証券化されており、会社が自己株式を取得することも理論上は可能であるが、自己株式取得には以下の弊害がある。

(1)「資本維持の原則」会社が自己株式を有償取得することは実質的に株主に対する出資の払い戻しとなり、会社の財産的基礎を危うくする
(2)「株主平等原則」取得の方法や価格によっては、特定の株主を不当に優遇することになる
(3)「会社支配の不公正」経営権争奪に際して、現経営陣が会社資金で保身を図るおそれがある
(4)「株式取引の不公正」会社が自己株式取得により相場操縦やインサイダー取引等の不公正な取引をおこなうおそれがある
そのため、法は従来、自己株式取得を原則として禁止してきた。

しかし、昨今の景気低迷から、企業再編や株式の需給調整等を目的とする自己株式取得の必要性が高まった。

そこで、平成13年改正により、自己株式取得は原則として自由になしうることとなった(金庫株の解禁)。

もっとも、自己株式取得には前述の弊害があることから、取締役会が自由に取得を決することは認められず、原則として定時株主総会の普通決議が要求される(210条1項)。

そして、市場での取得ではなく特定人から個別に取得する場合は、株主平等原則違反が生じるおそれが特に大きいことから、特別決議が要求される(210条2項2号、210条5項)。
また、資本維持の観点から、取得価格の総額は配当可能利益の範囲内でなければならない(210条3項)。



○譲渡担保された株式は、株主名簿にどのように記載されているか?
実務では名義書換の形をとっている。
理由は・・・所有権的構成なら当然そうなる
担保的構成なら、質権に準じて「譲渡担保権者B」とでも付せばよい
○違法配当
取締役の責任(266条1項1号)「議案を総会に提出」
「お中元名目で大株主にのみ配当」の事例では・・・・
総会決議なし→当然に266条1項1号の適用あり
総会決議あり→266条1項5号という奴がある(「法令・定款違反」)。これをつかう
○自己株式取得の禁止
これは平成13年の改正で、原則自由となった。
株式も発行されてしまえば、他の有価証券の変わりがないとも言えるからである。

端株・単位未満株

平成13年の改正で大きく変わったところ

昭和25年以前の会社は額面が50円←会社財産の割に株式数が多い
→よって株価が安い→事務経費の負担だけで大変である
よって、昭和56年の改正によって出資単位の引き上げをおこなった

→設立時の発行価額>5万円(旧166条2項、202条2項、168条の3)

結果
○昭和56年以降に設立の会社の場合
端株は本来株式ではない(割合的単位という性質に反するので)。よって権利は行使できないのが原則。
しかし、56年以降の会社は単価が高い
→株式併合や株式分割などで端株が生じた場合、その経済的価値を無視できない
よって、端株にも一定の自益権を認め公平を図った←つまり権利を拡張したもの
○昭和56年以前からある会社の場合
管理費用軽減の必要性→単価の引き上げが望まれる
そこで、単位株制度←単位未満株も本来は完全な株式であるが、権利を縮小して自益権に限定

ところが、平成13年の改正で以下のように変わることになる

○まず、設立時の発行価額5万円の制限が撤廃された。
←これは、単価が低い株式を発行することを許すことになる。単価が低い株式を発行すれば管理コストがかかるが、それはそれぞれの会社が自己の責任において考慮すれば足りる、との考え方である。

これにより、単位株制度を採る意味も消失した。よって単位株制度は廃止となった。
もっとも、昭和56年以前の会社にとっては、管理費用削減のため単位株制度の存続の必要性は残る。
そこで、いわば任意的な単位株制度ともいえる単元株制度に移行することとなった。

○また権利の範囲も変化した
端株も単位未満株も自益権のみを認めることは同様であったが、本来完全な株式である単位未満株の方が、株式でない端株より権利の範囲が広い。

例えば、利益配当請求権について、単位未満株(単元未満株)においては当然に認められるのに対し、端株においては原則認めず定款で認めることができるとされていた。

しかし、今回の改正では、端株の場合も利益配当請求権は原則として認められることとなった。(例外として定款で否定できる、とされた)(220条の3)

条文は次のようにいう。

@端株主は本法に別段の定めある場合を除くの外 株主として左に掲げる権利以外の権利を有さず
一、利益若しくは利息の配当又は二九三条ノ五第一項の金銭の分配を受ける権利
二、株式の消去、併合若しくは分割又は会社の株式交換、株式移転、分割若しくは合併により金銭又は株式を受ける権利
三、株式の返還を請求する権利
四、新株引受権
五、残余財産分配請求権

A会社は定款をもって、一、三,四号の権利を排除することができる。

○端株券の廃止


営業譲渡(245条の2)

営業譲渡がなされると、会社は重大な影響を受けることになる
多くは株価が下落するため、株主は自己の株式を売却して投下資本を回収しようとするが、回収できないことが多い。
よって、法は少数株主の保護のために買取請求権をみとめた。

買い取り請求権と株主訴権との関係

『営業譲渡に反対した株主は、買取請求権を行使すると同時に、総会招集手続の瑕疵をもとに決議取消の訴え(247条)を提起できるか』
競合は認められると解すべきである。
理由は(1)両者の趣旨が異なること。(2)取締役の訴えを提起した株主の利益を保護する必要がある(提起したからといって取り消されるとは限らず、また時間もかかる)
競合請求後、取り消された場合の処置は?
不測の損害を受けるおそれがあり。不利益はそんなことをした会社の方がもつべき。

株式発行前の譲渡

定款による制限(204条1項但書)

では、法律による制限は?
旧210条自己株式取得禁止<これは廃止

株券発行前の譲渡<こいつが問題

会社の設立は登記をもってなる(57条)
会社は会社成立後、遅滞なく株券を発行しなければならない(226条)
趣旨
株式譲渡は株券がないとできない。
株主は株券を売却する以外、投下資本を回収する手段がないので、株券発行が遅滞なく行われる必要がある。
○では、会社が不当に株券を発行しないとき、株主は株券なしに譲渡できるか?
可能であると解する。
会社は権利濫用。
会社が株式の発行を行わない以上、名義書換の際、会社が譲渡の効力を否認することは信義則上許されない。
○では、その際の譲渡手段は?対抗要件は?
意思表示による譲渡を認めざるを得ない。
そして、対抗要件は、債権譲渡の原則通り通知・承諾によるべきである。

権利株譲渡の制限

「株式の引受による権利の譲渡は会社に対してその効力を生ぜず」(190条)
○これは、当事者間での譲渡まで否定する趣旨か?
190条の趣旨は、会社成立前においては、いわゆる権利株が譲渡されると会社の事務処理が極めて煩雑になることを考慮して規定された。
とすれば、当事者間の効力まで否定する理由にはならない。

株式の譲渡

『株主の投下資本の回収する商法上の制度を述べよ』

○総論

投下資本の回収
株式会社制度は、広く公衆から多額の資金を調達して大規模な事業を営むべく考案された制度である。
そのためには、投資家達に投下資本の回収を認める必要がある。
しかし、株主有限責任の原則(200条)により、会社債権者保護の必要から、会社にはある程度の資本が維持されていなければならないので、株式の払い戻しは認められない。
そこで、株式譲渡の自由の原則(204条)が規定された。
*ここで例外については重点を置かない。問題の趣旨に添わない
株式を有価証券とした理由
所持人に権利推定が働く
←権利者であることの証明が不要となり譲渡が容易
即時取得制度
←権利の流通の保護
よって、株式の譲渡が実効性を持つ

端株主の保護>端株券の不発行→買い取り請求権(<あれ?この辺は新法ではどうなっていたっけ?)

204条1項但書←当事者間の効力の有効性をメイン
210条←名義か計算か(<これは廃止)
226条←発行遅滞における譲渡

(問題)

○『株主名簿の名義書換未了者に対して、会社側からも株主権行使を認めることはできない』
そんなことはない。
株主名簿というものは、誰を株主として扱うかについて会社の事務処理上の便宜を図るための制度である。
会社側からの権利行使を認めるのを否定する理由にはならない。
←しかし、そうすると、会社に恣意的な取扱を許す危険性がある。
→だからといって、常に名義人を株主として扱うなら、すでに株式を譲渡した者に対して株主の権利行使をみとめることとなり不合理である。
○『株主名簿の名義書換が停止中であっても、会社はその裁量で名義書換に応じることもできる』
総会の準備は大変である(281条、281条の2、281条の3、281条2項、283条)
よって、法は224条の3で「株主名簿の閉鎖」を定めている。
趣旨;事務処理の煩雑回避、株主確定困難
よって、会社側から認めることは否定しない。

確かに、会社の恣意的取扱(譲受人間の不平等)の危険があることは否定しない。
しかし、すでに譲渡して株主でなくなった者を株主として議決権行使をみとめることとなり、そっちの方が不合理である。