合格講座 その13

『株券不所持制度について説明し、商法上問題となる点を論ぜよ』

株券不所持制度(226条の2)

「所持を欲せざる旨」の株主の申し出

会社

不発行の処置(所持中の株券は無効)or銀行等への寄託(費用→226条の2 5項)
○趣旨
株券は有価証券であり、善意取得が認められている(229条)
これは一方で株式の流通を促すが、他方で株券を喪失した者は第三者の善意取得により権利を失う可能性があり危険である。
そこで、商法は株券の不所持を求める株主のために、株券不所持の制度を認めた。
(ま、一言でいうと、静的安全の保護である)

さて、問題

『株主Aの申し出により、会社がAの株式を不発行とし、その旨を株主名簿に記載した。このAが株式を譲渡しようとする場合、改めて会社から株券の再発行を受けなければならないのか?』
再発行を要する
株券の交付は株式譲渡の効力(205条1項)←趣旨、有価証券法理

問題なのは、会社が銀行などに寄託した場合、指図による占有移転の方法は可能かである。

この場合、株主Aが会社に寄託し、会社が銀行等に再寄託する、と構成すれば、Aが指図による占有移転の方法によって株式をBに譲渡することも可能であろう。

しかし、多数説はできないと解している。
銀行は会社のために保管するのであって、株主のためにするのではない。あくまで別個の寄託契約だからである。

すなわち、226条の2 5項(費用は会社の負担とす)は、会社と銀行間に寄託関係がないことを明らかにしたもの。
法は株主が不所持の申出をしてきたとき、会社が株券を不発行にするか、銀行等に寄託するかを決める。
したがって、会社が必ず銀行等へ寄託しなければならないなら再寄託と解することもできるかもしれないが、会社は不発行にすることもできるのであって、必ず寄託しなければならない義務はない。
また、銀行等に保管させる場合も、銀行に対して会社の名義と計算でなされている。

株式譲渡に煩雑な手続を要するくらいなら指図による占有移転を認めるべきだとの見解もある。

しかし、自ら株式の不所持を会社に申出した以上、そのような株主が譲渡の自由を制限されるとしてもやむを得ない。


新株の発行

○発行権者は取締役会(280条の2 1項)
新株の発行(いわゆる増資)は、業務執行のための重要な資金調達方法である。
よって、新株の発行は業務執行権の一内容として、代表取締役の権限ともいえる。

しかし、他方で、新株の発行は会社の人的・物的規模の拡大である。
よって、本来は株主総会の決議事項とするのがすじであろう。

しかし資金調達には迅速性を要するため、いちいち株主総会を開かなくてはならないのでは、迅速性を損ない業務執行を害することになる。

そこで、商法は資金を調達する便宜を図るため、新株発行権を取締役会に与えたのである。

○資金調達は、確実かつ迅速に行われる必要がある。
そのため、商法は数々の規定を定めている。

募集は会社が株主に払込期日の二週間前に行う(280条の3の2)
通知から二週間と区切ったのは資金調達を迅速に行うため。

申し込みは取締役が作成した株式申込書を通じて行われる(書面を要求;280条の6,280条の14→175条)

かような形式手続により資金調達を確実にすることができる。

○割当
誰に割り当てるかは会社の自由(割当自由の原則)。割り当てられたら引受人となる。

割当は代表取締役が行う。
では、この割当行為が著しく不公正な方法で行われたら?

株主の新株発行差止請求権(280条の10)という制度がある。

272条(株主による取締役の行為の差止)があるにもかかわらず、この制度が設けられたのは、272条は会社に損害を与えた場合の規定であり、株主にのみ損害が生じた場合は、別に規定が必要だったからである。

○引受
新株引受権(優先的に新株を引き受けることのできる権利)
←割当自由の原則の例外

どういう場合に認められるか?
280条の2 1項本文(定款の規定による新株引受権)
280条の2 1項5号(取締役会の決議による新株引受権)
280条の5の2(譲渡制限株式と株主の新株引受権)

新株割当権の運用によって会社の支配率に影響がでる。
しかし、商法は新株発行による資金調達の便宜を優先し、会社の支配率の変化について特に規定していなかった。
だが、公開会社ならいざ知らず、小規模閉鎖会社においては、会社の支配率の維持は重大な意義をもっている。

かような会社については、法は定款による譲渡制限を認めた上で、株主に新株引受権を与え(280条の5の2)、支配率の維持を認めた。

○新株の払込
払込期日は取締役会で決める(280条の2 2号)
払込の翌日から株主となる(280条の9)

では、払い込まないまま期間を徒過してしまったら?
→失権(280条の9 2項)
資金調達の迅速性の要請(催告→解除、という手続はいらない)
また、株主に心理的強制を与えることで、払込を促すことができる。


新株の有利発行

○有利発行(280条の2 2項)
株主以外の第三者に対し特に有利な価額で発行する場合、株主総会の特別決議が必要である。

特に有利な価額で新株が発行された場合、市場に出回っている既存の株式の市場価格が下落し、株主の利益が害される(既存株主の保護の要請)
そこで、法は株主総会の特別決議を要求した。

○「特に有利な発行価格」(280条の2 2項)とは?
ある程度のディスカウントはやむを得ない。
有利にしておかないと引受人が出てこない。
また二週間の間に価格の変動も生じ得るからである。

では、「特に」有利と言えるのは?
かっては15%程度のディスカウントも適法とされた(裁判例)。しかし、実務では10%程度のディスカウントがルールとなっているようである。最近は5%〜3%にするよう行政指導がなされている。

有利な価格で発行されることにより、不利益を被る株主の利益保護と会社の新株発行の必要性とを総合考慮する必要があるが、一般的に言って市場価格の10%を超えるディスカウント率を特に有利なる発行額と解される。
この場合は、株主総会の特別決議が必要となる。

○では、特に有利な新株発行の取締役会決議があった場合、株主の利益はどう保護されるか?
株主は差止請求をすることができる(280条の10)
でも株主が知らないうちに発行される危険がある。
これを防止するために
株主に通知または催告する義務(280条の3の2)
会社の公告は官報又は日刊新聞に掲載(166条4項)←方法はあらかじめ決めておく必要がある(166条1項9号)

○新株発行無効の訴(280条の15)

新株発行の瑕疵には次の三つがある。
1,株主総会の特別決議を経ない
2,公告又は通知がない
3,差止請求を無視

一般原則によれば、違法な行為は当然に無効である。
そして、無効ということは(1)いつでも、(2)誰でも、(3)どんな方法でも、主張できるのが原則である。

しかし、法は、新株の発行の瑕疵については、次の二つの要件がなければ無効とならないとしている(280条の15)。
1,一定期間内(6ヶ月)に訴えの提起が必要
2,訴えの方法による

新株が発行されると多数の利害関係人が生じる。
よって画一的処理の要請がある。
ゆえに、訴えの方法によってしか無効を主張できないのである。

また、280条の15は「無効」の原因を特定していない。
よって、解釈をもって決する必要がある。

しかるに、新株の発行は会社の構成員の増加(人的規模の拡大)および資本の増加(物的規模の拡大)を意味する組織法上の行為である。
だが、それにとどまらず、取引法上の行為でもある。

とすると、取引の安全の要請がでてくる。
→無効原因の制限的解釈の必要
→提訴期間の制限

無効原因について考える

1,取締役会決議なし、総会決議なし
代表取締役が発行した以上、新株発行は有効と解される(判例)。
←新株発行は取引的要素を含んでいる←取引の安全を考えないとならない
2,通知、公告なし
株主にとって差止請求をする前提となるもので重大な手続である。よって無効原因となるのが原則である。
しかし、通知、公告がなくとも差止の原因となる違法な点もなかった場合にまで、これを無効とするのは行き過ぎである。
そこで、この場合には、例外として無効原因とならない。
3,差止請求を無視した場合
差止請求を無視して新株発行が強行されてしまっても、それだけでは新株発行の無効原因とはならない。根拠のない、単なる言いがかりの差止請求もありうるからである。
しかし、裁判所が仮処分で差止を命じた場合、本案訴訟で仮処分が取り消されない限り、差止命令の無視は新株発行の無効原因となる。これを認めなければ、株主には何ら事前の防衛手段を有しないこととなってしまうからである。