合格講座 その16

発起人の責任

成立した場合
資本充実責任
損害賠償責任
>対会社(193条1項=取締役の責任266条1項5号に相当)
>対第三者(193条2項=取締役の責任266条ノ3に相当)
○「悪意・重過失」の内容
193条2項は「発起人に悪意又は重過失ありたるときは云々・・・」と規定している。
この「悪意・重過失」は任務懈怠という事実についてあれば足りるか?あるいは生じる損害についての加害行為についての認識まで必要か?
*同じ論点が266条ノ3であったよね

発起人は設立の中心者であって、その地位は極めて重要である。

なぜなら、その任務が正常に行われないならば、取引関係に入った第三者まで損害が及ぶ。
そこで、第三者保護の観点から法は193条2項を規定したのである(法定責任)
とするならば、悪意重過失は任務懈怠で足り加害行為までは要しないと解する。

○資本充実責任(192条1項、2項)
趣旨=資本充実の要請〜会社債権者の保護

会社成立後、引受なき株式があるときは、会社の資本充実の要請が損なわれ、ひいては会社債権者の保護に欠けることになる。
そこで、法は192条1項を規定し、発起人に資本充実責任を負わせたのである。

192条の論点は以下の通り

(1)資本充実責任は過失責任か?
資本が充実しなかったことにつき発起人が無過失であった場合、無過失責任なので責任を免れないと解する。
理由は192条の立法趣旨(株主・取引先保護のための法定責任)
(2)発起人に対する責任の免除(196条)
総株主の同意により、株主に対する責任のみならず資本充実責任まで免除は可能か?
否定−資本充実責任は会社債権者を保護する趣旨であって、総株主の同意で免れさせることはできない。
(3)会社設立が無効な場合
会社設立が無効とされた場合でも、発起人は資本充実責任を負うであろうか?

会社設立の無効の主張は必ず訴えによってなされなければならない。
これは会社がいったん設立され登記を受けると、多くの利害関係人を生じるため、判決という形で無効を宣言し画一的処理を行う必要があるからである。
そして、設立された会社が無効となるには時間がかかる
ちなみに、会社設立登記の後、無効判決がなされるまでの間、会社は有効に成立したものとして営業活動を行うため多くの債権者を擁することになる。
ということは、会社債権者保護の観点から認められた資本充実責任は無効となった場合でも行われなければならない。

(4)引受・払込の欠缺が著しく大きい場合
発起人の資本充実責任が生じることは問題ない
問題なのは、発起人らがその責任を全部履行したときにも、欠缺が著しく大きいことが無効原因となるであろうか。

(肯定説)
資本充実責任はわずかな瑕疵で会社設立の手続が無駄になってしまうのを防ぐための規定である。
瑕疵が著しく大きな場合は、そのような不健全な会社をその後も存続させることは、その後の会社債権者を害することになる。

(否定説・鈴木)
発起人がこれを履行する限り、資本充実の要請は充たされており無効とする理由はない。
また、無効判決がなされるまでの間、多数の利害関係人が発生しており、無効とするなら彼らの利益を害する。

【追記】

小塚さんは肯定説だったけど、ま、ここは鈴木でいいんじゃないかな

仮装払込

「預合い」

預合いとは、株式会社の設立または新株発行に際し、発起人または取締役が払込取扱銀行から借り入れをして、これを払込金として会社の預金に振り替え、その借入金を返済するまでは、右の会社の預金の引き出しをしない旨を約する行為をいう。

会社は設立段階では会社の財産的基礎を確保する必要がある。
そのためには「払込が確実になされている」必要がある。
*新株発行においては会社はすでに財産的基礎を有しているはずだから、資金調達に重点がある点で設立と異なる
そこで、銀行または信託会社に払込期間を限定した上(170条2項)、登記の際はその保管証明を必要と規定して(189条)、払込の確実性を図った。

しかし、銀行または信託会社が払込がないのに保管証明を行うおそれもある。これを預合いという。
これを防止するために、法は銀行に対して189条2項で、払込がなかったことを会社に対しては対抗できないと定めている。
また、発起人に対しては、資本充実責任はいぜん残っているし(192条)、発起人の損害賠償責任(193条1項、2項)が課せられる。
加えて刑事責任(491条)による責任もある。

「見せ金」

見せ金とは、発起人または取締役が取扱銀行以外の第三者から借り入れし、これを株式の払込に充て、会社の成立または新株発行の効力発生後、できるだけ短い期間内に払込金を払込銀行から引き出して借入先に返済することをいう。

*見せ金の問題がでたら、まず「預合い」でないことを述べる。

確かに、この場合、現実に金銭の移動は存在する。
しかし、見せ金は仮装払込のからくりの一環をなす。
その実質においては何ら会社に払込がなされていない。
よって、資本充実の要請に反し払込は無効と解する。

取扱銀行の責任
189条2項の趣旨は、銀行が仮装払込に加担していることに基づき、会社ないし利害関係人を保護する観点から銀行に責任を負わせるよう定められたものである。
よって、取扱銀行が悪意の場合には、189条2項を類推適用して責任を負う

【追記】

見せ金か否かについては、
(1)会社成立後借入金を返済するまでの期間の長短
(2)払込金が会社資金として運用された事実
(3)借入金返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無

などを総合的に判断して決すべし、とするのが判例・通説である。

なお、預合いと見せ金を結合したような類型もあるので注意
例えば、発起人または取締役が払込取扱銀行から借り入れ、これを株式の払込に充て、会社成立後その払込金を引き出して借入金の返済に充てる場合

また、会社による払込資金の融資による場合もある
例えば、株式引受人となる第三者に株式払込資金を融資し、あるいは、第三者が他から融資を受けるに際し、会社が保証する場合

発起人の責任

資本充実責任(192条)は見せ金の場合でも負わされる。

では、刑事責任はどうか?
罪刑法定主義の遵守があるので491条は見せ金には類推適用できない

では、特別背任はどうか?
これも駄目。目的が欠けている。

『設立段階における資本充実の要請についてのべよ』

○総論

株式会社の資本充実の要請
株主の有限責任
会社債権者保護の必要から資本充実の要請
○確実な払込のための手続
払込機関の指定、保管証明が登記の要件となっていること
but脱法手段の存在
預合いの存在と対策
問題となるのは見せ金
払込の有効性はいかに
189条2項の類推適用の可否、刑事責任(491条)の適否
○現物出資
変態設立事項の存在>検査役による検査がある
事後設立の問題
○設立費用
設立中の会社の執行機関として発起人が行う設立事務に伴う費用

定款に記載しなくてはならない場合がある(168条1項8号)
「会社の負担に帰すべき設立費用」

変態設立事項だから検査役のチェックが入る。これは会社の財産的基礎を確保するためである。
すなわち、会社の設立は複雑であり費用もかかる。会社が成立したとき、設立のためにかかった費用は本来会社が負担すべきであるが、これを無制限に認めると成立した会社の財産的基礎が犯されるおそれがある。
そこで、これを変態設立事項としたのである。

設立費用は検査役の検査(募集設立の場合は創立総会の承認(181条))を経た限度において、当然に会社の負担となる。
では、発起人が定款に記載した以上の費用を負担した場合はどうなるであろうか?

発起人は設立中の会社の機関である。
発起人の行為の効果は、設立中の会社に帰属する。
*開業準備行為などと異なり、設立費用については異論はない。
設立中の会社は設立された会社と同一性を有する
よって、発起人の行為は設立された会社に承継される

問題:

『定款に設立費用100万円と記載。発起人らが設立費用として500万円負担。債権者は全額会社に請求できるか?』
発起人の設立中の会社の機関としてなした行為は設立中の会社に帰属する。
設立中の会社と設立された会社との同一性ゆえに、発起人の行為は設立された会社に承継される。

もっともこのように解すると、会社の財産的基礎を確保する趣旨から設立費用を変態設立事項となした意味を失わせるとの批判もある。

しかし、会社の財産的基礎を確保する要請は、将来発生する債権者を保護するためのものであるが、将来の債権者よりも現在の債権者の保護を優先させる方が妥当である。

また、そう解さないと、多くの債権者に対して発起人が設立費用として債務を負担した場合、解決が困難である。
(会社の内部関係を知り得ない取引先からすれば、すべて会社に帰属してもらわないと取引の安全を害する)

【追記】

設立費用の例
「定款の作成」、「株主募集の広告費」、「設立事務所の賃借料」、「事務員の雇用」、「株主募集広告委託に要する費用」などなど・・・・

設立費用に入らないものの例
・「設立登記のための免許登録税」<濫用のおそれがない
・「発起人の受くべき報酬」<他に明文で規定
・「定款認定手数料など」<他に明文で規定
・「設立費用に充てるための借入金」
(判例は、(1)金銭の借り入れが設立に必要な行為とはいえないこと。(2)設立費用に該当するとした場合、金銭借入行為のうち、いかなるものが設立に必要な行為と解しうるか基準が明確でないことを理由とする。ま、反対説もある)

○設立費用については、ちょっと理解できていないところがある。
設立費用を発起人が支払い済みであれば、会社と発起人の求償関係の問題となるんだよね。
で、ここで問題となっているのは、発起人が会社のために設立費用として負った債権のことで、これは発起人は未だ支払っていないんだよね。こっちの方も設立費用の問題となるの?
なるんだろうな。
ちなみに、会社の責任を認めた上で、これと重畳的に発起人の責任を認める説(481条2項参照)もある。


資本と株式の関係

概要
昭和25年以前
資本=株金総額(「株式は資本の構成単位」)
昭和25年改正
無額面株式導入(「資本と株式の関係は切断された」)
額面株式は「資本=株金総額」だったが
無額面株式は「資本=発行価額の総額」とされた
昭和56年改正
額面・無額面ともに「資本=発行価額の総額(284条ノ2 1項)」>切断はいっそう進んだ
もっとも、券面額が資本の最低限を画する機能は残された

例:284条の2 2項但書(資本組入)、213条3項(相互転換)、218条2項前段(株式分割)

そして平成13年改正
額面株式廃止>「資本と株式(株金総額)の関係は完全に切断された」

『資本と株式はいかなる関係にあるか』

かっては、額面株式の発行のみが認められ、資本の額と株金総額が一致しており、株式は資本の構成単位と言うことができた。
しかし、昭和25年・56年改正により、無額面株式が導入され、株式の発行価額が資本算定の基礎となったため、資本と株式の関係は切断された。
もっとも、それでもなお、株金総額には資本の最低限を画する機能が与えられており、両者は無関係とは言えなかった。
ところが、平成13年改正により額面株式が廃止されるにいたり、株金総額という概念がなくなったため、両者は完全に切断されることとなった。
ただし、ここにいう切断とは資本の額と株金総額とが切り離されたことを意味するにすぎず、資本は原則として発行済み株式の発行価額の総額とされるから(284条ノ2 1項)、資本の増減と株式数の増減は一定の関係を有する。

額面株式・無額面株式

額面株式とは、定款に一株の金額の定めがあり、かつ株券に券面額の表示のある株式をいう。
無額面株式とは、株券に株式数のみが記載され券面額の表示のない株式をいう。

昭和25年の改正で会社はどちらも発行できることとなった。

株主の権利において両者は同一であり、あまり額面額に意味はない。
意味があるのは次のような場合であった。

・成績不良会社が新株発行し、資金調達を図る場合
株式の額面は定款記載事項(旧166条1項4号)
額面株式の発行価額は券面額を下ることを得ず(旧202条2項)

よって、5万円という券面額に満たない株価しかつけられない成績不良会社は新株を発行し資金調達を図ることができない。
しかし、無額面株式なら制限を受けない(168条3項)

・成績優良会社
市場価額が極めて高額なため流通困難な場合がある。
分割して価額を下げたいが、一株の金額(旧166条1項4号)がネックになって分割できない。やるなら定款変更が必要。
しかし、無額面株式なら容易である。

かように、額面株式のデメリットが目立ってきたため、平成13年の改正で、株式は無額面株式に一本化されることになった。