合格講座 その5

前回の復習

○競業避止義務

取締役が競業行為を行うと、会社の得意先を奪うなど会社の利益を犠牲にし、自己または第三者の利益を図るおそれがある。
よって、取締役の承認を要するとした(264条)。
*なぜ承認があれば会社の利益が損なわれないのか?
承認を与えた取締役にも責任がかかってくるため、判断が慎重になるためである。
*その責任とは?
・善管注意義務ないし忠実義務(254条の3、254条3項)
←でも損害額の算定が困難
・266条2項3項(決議に賛成した取締役の責任)の適用はある。
・266条4項(競業避止義務違反での会社の損害は取締役等が得た利益と推定)
←こいつは承認を得ないで損害を与えたケース。承認を得た場合にはそのまま適用はできない。
←類推適用?(小塚のノートには類推適用できると書いてあるが、龍田の本にはできないとある(謎))
・266条の3(第三者(株主等)からの責任追及)

要件

「自己または第三者のため」

名義か?計算か?
264条の趣旨(会社の利益の損害を回避)
名義が誰であっても、自己または第三者の計算で行われれば、会社の利益を犠牲にして個人的利益を図る必要がある。よって、自己または第三者の計算でなされればたる。

「営業の部類に属する」

現に営業を営んでいるものに限られるか?
確かに、現に営業を営んでいなければ損害は生じないように思える。
しかし、法が善管注意義務に加えて特に競業避止義務を設けたのは、競業行為自体が会社の利益を害するおそれが強いからである。
とすれば、制限されるのは、現に営業を営んでいるのみならず、会社の事業活動と競合し、利益衝突を生じる可能性がある取引であれば足りると解するべきである。
よって、例えば会社が現に行っていない事業・地域でも、進出を計画しているものは競合する。
【追記】
小塚は定款上の事業目的がそのまま基準となるとしているけど、ちょっと広すぎる。誰の説だろ。

「重要なる事実の開示」

どの程度まで開示するか?
取締役会が承認するかしないか適切な判断を下すに必要なもの一切である。
したがって、単に競業行為をするというだけでなく、取引の内容等を報告しなければならない。
逆にいうと、適切な開示が可能な範囲であれば包括的承認も可能である。

「企業結合と競業」

『P社の代表取締役Aが、Q社の代表取締役に就任した。AがQ社を代表して競業取引を行った場合、競業規制を受けるか?Q社がP社の子会社で営業の一部が重なり合っている場合はどのように扱うべきか?』
・Q社とP社が資本関係がない場合
AがQ社を代表して行う競業取引については、P社の取締役会の承認がいる。AがP社も代表することになるから、Q社の取締役会の承認もいる。
・Q社がP社の一人子会社である場合
両社は経済的に一体で実質的利害衝突のおそれはないので、どちらの会社の取締役会の承認もいらない(判例)
・Q社にP社以外の株主がいる場合
同一グループに属する場合によくあることである。取引のつど承認を得るのは面倒だから、代表取締役の就任に際し包括的承認を得ておくことになる。
PQが親子関係にある場合は、AがQ社のためにする取引にP社の業務執行としての一面もあり、通常の競業と事情が異なる。例えば損害賠償額の推定は働かないと考えるべきである(龍田)
『では、P社の取締役Aが、個人で全株を所有するR社に競業させる場合はどうか?』
確かに形式的にはAはR社の取引行為に関わっていない。
しかし、R社はAの分身と見るべきであり、AがR社の取締役にすらなっていなくとも、P社の取締役会の承認が必要である(判例)

○違反の効果

開示しなかった場合はどうなるか(開示が足りなかった、事後報告しなかった)
264条違反という法令違反行為→266条1項5号(損害賠償責任)
損害賠償額について→266条4項(賠償額の推定)
介入権の行使→264条3項

○介入権の効力

取締役が取引先を奪うなどといった競業行為を行った場合、取引先との取引を会社のために行ったとみなす方が、損害賠償額の算定で悩むよりも効果的である。そこで、介入権(264条3項)が設けられた。
したがって、ここに「自己のため」とは、経済的利益を自己に帰属させる目的で、すなわち自己の計算での意味と解すべきである。
介入権が行使されると、競業取引をした取締役は、取引の経済的効果を会社に帰属させる義務を負う(債権的効果)。
*介入権が行使されたら266条4項の出番はない。共に損害額の算定の困難を救済する規定

利益相反取引

会社と取締役との取引は、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図る危険性がある。そこで、取締役会の承認が必要とした(265条)
「承認決議なし」
→266条1項5号
「承認決議有り」
→他の取締役に金銭貸付した(266条1項3号)
→その他の自己取引(266条1項4号)←金銭を借り受けた場合はこちら
*3号と4号では免責要件に差がある
266条1項3号〜金銭貸付の場合、一般に会社が損害を被りやすいので免責要件が厳しい
266条1項4号〜2/3の賛成で責任の免責有り
○266条1項3号4号で認められる責任は無過失責任か?
通説・判例は無過失責任説
←これらの規定は会社の利益保護規定であるので(無過失責任では取締役に酷かも知れないが)、取締役が無過失であっても責任をとらせる必要あり。
←過失があれば、266条1項5号で当然に責任を負うことになろう。そこにあえて別に266条1項3号4号を規定しているのだから無過失責任と解すべきである。
○直接取引と間接取引
形の上では取締役と会社との取引ではなくても、同じように両者の利益衝突がある取引には取締役会の承認が必要である。(間接取引(265条後段)については、S.56改正で条文化された)
『甲社の代表取締役Aは、同時に乙社の代表取締役である。甲社が銀行より金を借り受けた際、乙社がこれを保証する行為は許されるか?』
甲会社と乙会社の利益は相反し、Aは乙会社の利益を犠牲にして自己または甲会社の利益を図る危険がある。
したがって、甲会社の債務を保証するためには乙会社の取締役会の承認決議を得なければならない。
もっとも、程度の大小を問わなければ、取締役=会社間の利益相反は無限にあり得る。
『Aが甲会社の平取締役の場合は?』
平取締役にすぎないなら、乙の危険を犠牲にしてまで、甲の利益を図る危険性があるとは一般的にはいえない。
よって、利益相反取引にはあたらない。
『では、平取締役Aが甲会社の株の過半数を持つ場合はどうか?Aは取締役ではないが、甲会社の全株を持つ一人株主であった場合はどうか?』
甲とAは実質的・経済的に一体関係を有しているので、この場合は乙の利益を犠牲にして、甲の利益を図る危険がある。
よって、利益相反取引にあたる。
○利益相反取引にあたるとして、承認決議を経なかった場合の行為の効力はどうなるか?
乙と銀行間の保証契約は、原則として無効となる。
もっとも、第三者を保護し、取引の安全を払う必要がある場合もある。
そこで、会社が第三者に対し無効を主張するには、承認のないことにつき第三者が悪意であったことを主張・立証しなければならない、と解すべきである(相対的無効説)。

*第三者が無効を主張することは許されない。265条は会社利益の保護を目的とする規定であるし、第三者にとっても当初から意図した結果のはずだからである。

○265条違反によってなされた手形行為の効力
会社が取締役宛に約束手形を振出・裏書し、取締役の振りだした為替手形の引受をする行為にも取締役会の承認が必要である。
←これに対し、手形行為はそもそも265条の取引に含まれないとする立場もある。無効なのは原因行為であって手形は決済手段であるというのである(判例少数意見)。
しかし、手形債務は原因行為とは別個・独立の厳格な債務であるから、改めて承認を要求すべきである。(判例多数意見)
そして、その効力については相対的無効説によって処理すべきである(判例多数意見)。
よって、手形が第三者の手に移れば、第三者の悪意・重過失を立証しないと無効は主張できない。
また、一旦善意者に渡った後、悪意者の手に渡った場合も完全な権利の承継を認めざるを得ない。


問題
『取締役が在任中に取締役会の承認を得て会社から金銭を借り入れたが、弁済期に返済しないまま退任してしまった。会社及び株主は、どのような措置を採ることができるか。』(H、6@)

○利益相反取引→なれど承認あり→この場合の責任如何

○会社の採り得る措置

・当該取締役に対して金銭消費貸借に基づく返還訴訟
・当該取締役に対して266条1項4号←この取締役は「貸し付けた」者ではないので、4号の無過失責任を負う
○では、貸し付けた代表取締役(266条1項本文)及び貸付に賛成した取締役(266条2項)は、会社に対してどのような責任を負うか?
→266条1項3号が4号にあたるもののうち金銭貸付だけを取り出して特に規定していることからすれば、3号が適用されると解される
→3号の責任の性質は無過失責任
←「未だ弁済なき額」を弁済すべき旨を規定していること、
←責任免除の特則がないこと
したがって、会社は、貸し付けた代表取締役および貸付に賛成した取締役に対して、未弁済額を弁済するよう請求できる。
○株主の採りうる措置
・代表訴訟による取締役の責任追及→退任取締役といえど、借り受けは取締役就任中になされたのでOK
・代表訴訟の要件を備えない株主は、いかなる措置をとれるか?266条の3は株主の受けた間接損害についても適用があるかが問題となる。
266条の3→法定責任説→任務懈怠行為と損害に相当因果関係が認められれば、直接損害であろうと間接損害であろうと賠償範囲