合格講座 その7

(問題)

『株式会社において会社と取締役の利益が衝突する場合があることを考慮して会社の利益を保護するため、商法はどのような措置を講じているか?』

○総論

会社と取締役は委任関係にある。善管注意義務ないし忠実義務を負う。
会社と自己の利益が衝突したときは、会社の利益を優先させなくてはならない。
しかし、現実には会社の利益を犠牲にして自己の利益を優先させる危険性がある。
そこで、商法は以下の規定を設けて会社利益の保護を図った。
○各論
(1)競業避止義務(264条)
・名義か計算か?
・営業の範囲
・重要なる事実とは?
・介入権の効果
・同業他社の取締役就任
(2)自己取引(265条)
(3)報酬(269条)・・・・各取締役への具体的報酬額
(4)取締役・会社間の訴訟・・・・なれあいの防止
取締役の損害賠償責任(266条)
会社を代表するのは代表取締役ではなくて監査役である。
自己取引については、特に266条1項3号4号←無過失責任である。
(5)特別利害関係人の排除(260条の2 2項)
(6)刑事責任(486条・・・・特別背任)


代表取締役

○代表取締役が対外的な会社の代表権を有するのみならず、対外的にも業務執行権者とされる理由は?
対外的には261条で「会社を代表すべき」と規定されている
対内的には・・・・・実は規定はない。←業務執行権もまた261条に含まれるものと解する
○取締役会が代表取締役の選任権を有する理由
例:『株式会社における取締役会と代表取締役との関係について説明せよ』
まず総論(261条・・・・代表取締役の地位ないし権限)
・業務執行権は極めて広範かつ強力である
・業務執行権が適正に行使されるよう取締役会という会議体に業務執行権を与えた
・しかし、取締役会は意思決定はなし得ても自らこれを執行できない
・そこで、業務執行を実行する代表取締役という機関を設けた

そこで、代表取締役は取締役会の意思を反映した職務執行を行う必要がある。

代表取締役が取締役会の意思を反映しているか監督する権利(260条)が取締役に認められているのはそのためである。

監督権を実効あらしめるため、選任・解任権をもまた認められなければならない(但し、解任権は明文にはない)
(・・・この選任解任権を定款で総会にもっていけるか?なんて論点があるね)
『代表取締役の選任解任権を株主総会に委譲する定款の決議の可否』
業務執行権の意思決定は取締役会にある。
代表取締役は取締役会の意思を反映した職務執行を行う
取締役会には監督権(260条1項)がある
これを実効あらしめるためには代表取締役の選任解任権を取締役が有していなければならない(但し、解任権には明言していない)
解任権が認められる理由は次の通り
・選任解任は表裏一体の関係なので、選任権が認められている以上、解任権も法は認める趣旨である。
・会社と代表取締役は委任の関係にある。取締役会は会社の委任契約の締結解除の意思を決定しうる。
○代表取締役は取締役の中から選任されなければならない理由
代表取締役と取締役会との連携が密になり、より適切な職務執行が可能となる。また職務の迅速性の要請もある。

【追記】

あれ?今気がついたけど、小塚さんは代取と取締役会との関係を、派生機関説で説明しているんだ。ちょっと意外だね。通説は並立機関説だよね。

並列機関説での論証は次の通り

「代表取締役の選任は、原則として取締役会の権限である(261条1項)。
しかし、代表取締役は会社の代表機関であって取締役会の代表ではないから、取締役会の権限といっても論理必然のものではなく、通常、経営の専門家たる取締役によって構成される取締役会に任せるのが適当であるというにすぎない。
したがって、定款によって代表取締役の選任を株主総会の権限とすることも許されると考える。
かように解した方が、小規模閉鎖会社などでは、代表取締役の業務執行の監督が円滑になされる場合もありえよう。」

共同代表取締役

法は共同代表取締役の制度を定める(261条2項)

単独代表を禁止する趣旨
代表取締役の権限は広範かつ強大である。
これが濫用されれば会社・株主の利益が害される

相互の抑制ないし相互牽制によってこれを阻止することをねらった

共同代表をめぐる論点

(1)包括的・白紙的委任の可否
否定される→共同代表取締役の趣旨に反する(単独代表と変わらなくなるからね)
では、個別的・具体的委任の場合は?
肯定される→必要性があるし、濫用の弊害も少ない
(2)単独代表行為をしてしまった場合
共同代表は登記事項である(188条2項9号)
したがって、登記がなければ12条で第三者に対抗できない
逆を言えば、登記があれば対抗できることになる。

でも、それでは取引の安全が損なわれる。

そこで、表見代表取締役(262条)の制度を使えないか?
これは、あたかも代表権があるがごとき名称を使用させていた場合の規定
これを12条の建前からいうと、登記に記載されていないので、会社は責任をとる必要はない、ということになる。

12条と262条は矛盾する。この関係をどう説明するか?

262条は、会社自らがあたかも代表権を有すると認めるべき名称を附した場合に、12条の例外として、権利外観法理上、善意の第三者を保護する制度である。
で、これを共同代表のケースに使えないか?
確かに12条によれば、会社は責任を負うことはない。
しかし、これでは取引の安全が害される(いちいち登記をチェックすることは期待できないから)
そこで、会社の利益もさることながら、取引の安全を図らなければならない。。
262条は代表権のない者についても、会社が責任を負う旨を定めている。
いわんや共同代表は制限付きながら代表権を有する者である。
そこで、262条を類推適用して取引の安全を図るべきである。

表見代表取締役

(1)共同代表
(2)第三者に過失がある場合の処理・・・・条文には「善意」としか書いていない
(3)使用人に代表権があるような名称を付けた場合
営業部長・・・・などといった肩書きをつけた場合はどうなるであろうか
43条にいう「委任を受けたる使用人」はいかに解するべきか?
262条は、会社が代表権のない者にあたかも代表権があるかのように名称を附した場合には、それを根拠に会社の責任を認め、相手方を保護し、取引の安全を図る趣旨である。
取締役であろうとなかろうと、あたかも代表権があるかのような名称を附した点においては何ら変わらない
よって、262条を類推し、会社の責任を認めるべきである
・・・・詳しくは次回にやります

問題

『代表取締役の業務執行を適正ならしめるために商法上いかなる制度が認められているか説明せよ』

○総論

代表取締役の会社代表権は広範かつ強大である

したがって、適正な行使がないと、会社・株主の利益が損なわれてしまう

そこで、商法は以下の規定を設けた
○各論
(1)共同代表取締役制度(261条2項)
(2)他の機関による控制
・取締役会による監督・選任・解任権
・監査役(281条;計算書類の監査)
・株主総会(283条;書類の承認、代表取締役の解任(取締役として))
・株主
・取締役
・検査役