第三編 訴訟の開始

第五章 訴訟要件

第一節 総説

訴訟要件
本案判決をするのに必要な要件
趣旨
本案判決を下しても紛争解決をなしえない訴えをあらかじめ排除し、訴訟制度の能率的運営を図る
種類
(1) 請求と当事者が我が国の裁判権に属すること
(2) 裁判所が当該事件につき管轄権を有すること
(3) 両当事者が実在すること
(4) 当事者が当事者能力を有すること
(5) 当事者が当事者適格を有すること
(6) 訴え提起・訴状送達が有効なこと(当事者・代理人が訴訟能力・代理権を具備していること)
(7) 原告が訴訟費用の担保提供の必要なきこと、または必要な担保を提供したこと
(8) 同一事件につき他の訴訟係属がないこと(二重起訴の禁止)
(9) 再訴の禁止(262条2項)、別訴の禁止に触れないこと(人事訴訟手続法9条)
(10) 訴えの利益があること
(11) 請求の併合や訴訟中の新訴提起の場合、その要件を具備すること
【論点】
訴訟要件の判断前に本案棄却の結論が出た場合

原則→訴訟要件の有無を判断してから本案判決を下すべき。直ちに請求棄却判決をすべきではない
[理由] 訴訟要件は本案判決の前提要件

例外→被告の保護を主たる目的とする訴訟要件については、直ちに請求棄却判決をすべき
[理由] その方が被告の保護になる
職権調査事項
当事者の主張の有無を問わず、裁判所が職権でその存否の調査を開始しなければならない事項
抗弁事項
被告の申立(抗弁)をまって裁判所が調査をすればよい事項
[例] 仲裁契約の不存在、訴訟費行の担保の提供(75条)



第二節 訴えの利益

訴えの利益
本案判決の必要性と実効性をここの請求内容について吟味するための要件
要件
@ 法律を適用して判断しうる具体的な権利関係の存否の主張であること
A 起訴が禁止されていないこと(142条、262条2項、人事訴訟手続法9条)
B 当事者間に訴訟を利用しないという特約のないこと
C 通常の訴え以外の簡便なまたは特別の救済手段がないこと(破産法16条)
D 同一請求につき勝訴の確定判決を得た者でないこと
E 訴権の濫用と評価されないこと
現在給付の訴え
訴えの利益が認められるのが通常
将来給付の訴え
基準時までに履行すべき状態にない給付請求権を主張するものゆえ、あらかじめ給付判決を得ておく必要のある場合であることが必要(135条)
[例] 定期行為、義務者が義務の存在を争っている場合、継続的給付の場合で現に履行期にある部分につき不履行がある場合
【論点】
継続的不法行為に基づいて将来発生する損害の賠償請求の訴えの利益

[結論] 
@ 請求権の基礎となる事実関係及び法律関係がすでに存在し、その継続が予測され
A 請求権の存否・内容につき債務者に有利となる事情の変動が、あらかじめ明確に予測できる事由に限られ
B それについての請求異議の訴え提起とその立証を債務者の負担としても酷とはいえない場合には、請求適格を認めるべき(判例)

[理由]
135条が「あらかじめ〜必要がある場合」に限ったのは、将来給付の訴えが認容されると、事情が変動したとき、債務者が請求異議の訴えを提起して、事情の変動につき証明責任を負うことになり酷だから

◎確認の訴え
原則→確認の利益が認められるには、以下の要件が必要

@ 確認対象として適切であること(対象選択の適否)(「自己の」&「現在の」&「権利・法律関係」についての「積極的な」確認請求であること)
A 即時に法律関係を確定する必要があること(即時確定の利益)
B 確認訴訟によることが適切であること(方法選択の適否)

[理由] 確認の訴えは対象が無限定である上、確認判決に執行力等がないため紛争解決手段として迂遠であり必ずしも紛争の抜本的解決となりにくい

例外→証書真否確認の訴え(134条)
[趣旨] 事実を確認しても、通常、権利関係たる本条の解決に役立たないが、書面によって直接に法律関係の存否を証明できるものであれば、紛争解決に役立つ

【論点】
過去の法律関係・法律行為の確認の訴えの利益

原則→認められない
[理由] 権利・法律関係は私的自治の原則に基づいて変化しうるので、過去の法律関係を確認しても紛争解決の抜本的解決にならない

例外→過去の権利・法律関係を確認することで、現在の紛争を抜本的に解決できる場合には、、確認の利益が認められる
【論点】
他人間の法律関係の確認の訴えの利益

○原則→認められない
[理由] 判決効は原則として当事者にしか及ばない(115条1項1号)

○例外→他人間の法律関係の確認によって、被告との関係で原告の法的地位の安定を結果する場合には、確認の利益が認められる
【論点】
遺産確認の訴えの利益

○結論→認められる(判例)
[理由] 確かに過去の法律関係の確認のように見えるし、共有持分確認ができる以上、確認の利益がないようにも思われる。しかし、遺産確認の訴えは当該財産が現に被相続人の遺産に属することの確認の訴えであるし、既判力によって後続の遺産分割審判の対象たる財産であることを不可争とするものであって、紛争の抜本的解決となるので確認の利益が認められる
【論点】
受遺者による、遺言者生存中の遺言無効確認の訴えの利益

○結論→認められない(判例)
[理由] 遺言は遺言者の死亡によりはじめてその効力が生じるのものであり、遺言者はいつでも遺言を取り消すことができるので、遺言者の生存中は、受遺者とされた者は、何らかの権利を取得するものではない。このことは、遺言者が心神喪失の状況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消
形成の訴え
形成要件を具備している場合は、形成の利益が認められるのが原則である。
もっとも、事情の変動により形成要件(必要性)がなくなる場合あり


第三節 当事者適格

当事者適格
当事者が当該請求について訴訟追行し、本案判決を求めることのできる資格
趣旨
誰を名宛人として判決を下せば紛争が解決するかを審査
○原則
→訴訟物の権利義務の主体(実質的当事者)
欠缺の効果
訴え却下(ただし、訴訟中に当事者適格を喪失した場合は訴訟承継の問題となる)
○例外
@ 第三者による訴訟担当(115条1項2号)
ex;法定訴訟担当、任意的訴訟担当

A 固有必要的共同訴訟の場合
→全員が共同して原告または被告とならなければならない

B 判決効が第三者に拡張される場合
→法定された者のみ当事者適格あり
【論点】
法人の内部紛争における被告適格

[結論] 法人自体を被告とすべき(判例)
[理由] これによりはじめて対世効が生じる。多くの利害関係人を正当に代表しうるのは法人自体
【論点】
現行法における住民団体・消費者団体等の訴訟の手法

@ 全員が当事者となり共同で共通の訴訟代理人を選任
A 29条の類推
B 選定当事者制度(30条)
【論点】
当事者適格を看過してなされた判決

[結論] 上訴で取り消しうる。ただし、再審事由とされていない。
◎第三者の訴訟担当
訴訟物たる権利義務の帰属主体に代わり、またはこれと並んで、第三者がその訴訟物につき当事者適格をもち、この者の受けた判決の効力が権利義務の主体に及ぶ場合


法定訴訟担当 管理処分権の付与に基づく
担当者のため
実質的利益帰属主体のため
職務上の当事者

任意的訴訟担当 明文のあるもの
明文のないもの

○法定訴訟担当
法律の規定により第三者が訴訟追行権をもつ場合

@ 自己の権利保全・実現のために法律上訴訟追行権が認められた場合
ex;債権者代位訴訟における債権者(民423条)
(この場合、債権者は自己の権利の保全の範囲で債務者の第三債務者に対する債権の管理処分権を取得し、その範囲で債務者は債権の処分権を失う。もっとも、債務者が債権者の債権の存在を争うときには、債権者および第三債務者に請求をたてて独立当事者参加すべし)

A 財産管理人
ex;破産管財人(破産法162条)

B 職務上の当事者
ex;人事訴訟における検察官(人事訴訟手続法2条、26条、32条2項4項)

○任意的訴訟担当
本来の権利義務者の授権のもとに行われる訴訟担当
ex;選定当事者(30条)、手形の取立委任の被裏書人(手形法18条)

【論点】
法定されている場合以外に、任意的訴訟担当は認められるか。

[結論] 弁護士代理の原則(54条1項)、訴訟信託の禁止(信託法11条)を潜脱するおそれがなく、かつこれを認める合理的理由があれば許される(判例)
[理由] この場合、三百代言によって素人が食い物にされることを防ぐという弁護士代理の原則・訴訟信託の禁止という制度趣旨に反しない


第四節 選定当事者

選定当事者
共同の利益を有する多数者の中から選定されて、その選定者のためにこれに代わって当事者となる者
(任意的訴訟担当のひとつ)

趣旨
多数の共同訴訟人の参加による訴訟手続の煩雑化・遅延を防止し、訴訟の簡略化・能率化を図る
選定の要件
@ 「共同の利益」を有し、共同訴訟人となるべき多数者の中から、訴訟係属前または継続後に選任されること(30条1項2項)

A 継続中の訴訟の原告あるいは被告と「共同の利益」を有する第三者は、自ら当事者とならずに原告または被告を選定当事者としうる(30条3項)。この場合、選定者にかかる請求の追加を要する(144条1項2項、300条3項)

【論点】
「共同の利益」とは

[結論]
@ 多数者間に共同訴訟人となるべき関係があり(38条)
A 主要な攻撃防御方法が共通する場合(判例)

[理由] 共同利益を広く解すると54条1項原則に反するし、逆に狭く解すると30条の趣旨が没却される

選定者の地位
いつでも選定の取消・変更ができる(30条4項)
訴訟係属後の選定により、選定者は当然に訴訟から脱退する(30条2項)
選定当事者の地位
選定当事者は、選定者全員および自分の利益について訴訟当事者として訴訟追行権を有し、訴訟についてのいっさいの行為ができる
選定の効果
選定当事者の受けた判決は、選定者の効力が及ぶ(115条1項2号)