第四編 訴訟の審理

第二章 裁判所と当事者の役割分担

第一節 事案の解明における役割

isu
◎弁論主義
裁判の基礎をなす事実の確定に必要な資料(訴訟資料)の収集・提出を当事者の権能と責任とする主義
根拠
実体法上私的自治に委ねられる財産関係をめぐる訴訟は、判決内容も当事者の意思を尊重するのが望ましい
内容
@ 裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならない
(弁論主義の第一テーゼ;253条2項参照)

A 裁判所は当事者間に争いのない事実はそのまま判決の資料として採用してはならない
(弁論主義の第二テーゼ;179条)

B 当事者間に争いのある事実を証拠によって認定するには、裁判所は当事者の申し出た証拠によらなければならない
(弁論主義の第三テーゼ;旧法261条の削除)
機能
@ 不意打ちの防止・手続保障機能
A 争訟内容の自主的形成機能
B 真実発見機能
C 公平な裁判への信頼確保機能
○職権探知主義
弁論主義に対する概念
訴訟資料の探知を当事者の意思のみに委ねず裁判所の職責ともする主義
◎主張責任
当事者の主張がないためその主要事実はないものとして裁判されることになる一方当事者の負う不利益の負担

主張責任の分配は証明責任の分配原理に従うとするのが通説
主要事実
法律効果の発生・変更・消滅を定める構成要件に該当する具体的事実
間接事実
主要事実の存否の推認に役立つ事実
補助事実
証拠能力や証拠力を明らかにすることに役立つ事実
主張共通の原則
主張責任を負う者が主張した事実であるかを問わず、裁判所は判決の基礎とすることができるという原則

[根拠] 弁論主義は裁判所と当事者側との役割分担の問題
【論点】
弁論主義の適用される事実は、いかなる範囲まで及ぶか

過失や正当事由といった抽象的要件事実では、それを基礎づける具体的事実にも適用されるか。

弁論主義が適用される事実は、原則として主要事実に限られる
[理由]
@ 訴訟物樽権利法律関係の発生等を定める構成要件該当事実が審理の中心
A 間接事実→証拠との類似性→これに弁論主義を適用することは自由心証主義に反する

しかし、抽象的要件事実→事実とはいえぬ→当事者にとって防御困難→不意打ちの危険

そこで、抽象的概念を基礎づける具体的事実(準主要事実)につき弁論主義の適用がある、と解すべきである
【論点】
その他、弁論主義の適否が問題となる事例←それぞれ判例百選に載っているのであとでチェック

@ 代理権の有無
A 事実の来歴・経過
B 過失相殺←(平成11年に出題(汗))
C 公序良俗違反・権利濫用・信義則違反←(答練によくでる)

【論点】
では、間接事実は補助事実に弁論主義の適用はあるか

民訴の対象たる権利の存否は、権利の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件該当事実(主要事実)の存否によって確定される

また、間接事実・補助事実は証拠と同様の働きをするから、もし弁論主義が適用されるとなると、証拠の事実認定を裁判官の自由な心証に委ねた自由心証主義(247条)を害することになる

よって、これは否定されるべきである
弁論主義の適用範囲
私的自治が妥当しない権利または法律関係については弁論主義の適用も排除される
←弁論主義は私的自治を根拠とするものだから

@ 訴訟要件
・ 公益性ゆえに規定されたものは弁論主義の適用はない(例、専属管轄←職権探知主義)
・ しかし、その他の訴訟要件については、主張責任・自白の拘束力は排除されるものの、職権証拠調べまでが要求されるものではない。
・ さらに、任意管轄や仲裁契約など当事者の利益保護を目的とする訴訟要件に関しては弁論主義の適用をみとめてかまわない

A 人事訴訟等
私的自治の適用が制限されている以上、弁論主義の適用も制限される(人訴14条・行訴24条等)
釈明権
事件の内容をなす事実・法律関係を明らかにするため、訴訟指揮権の一作用として当事者に対し事実上・法律上の事項について質問し、立証を促す裁判所の権能(149条1項)
趣旨
本来、弁論主義からすれば、裁判所は当事者の主張立証には関与しないはずである。
しかし、それでは、真実発見と正義の実現という裁判所の作用を全うできない。
そこで、裁判所に釈明権を認め、公平かつ適正な裁判の実現をのである(積極説)。
釈明権の種類
@ 消極的釈明
 当事者の主張や申立が矛盾し、または不明瞭な場合、それを問いただす釈明
←これは、当事者の一方に有利に働くことはなく、弁論主義の趣旨にも矛盾しないので、全面的に許容しうる

A 積極的釈明
 当事者が事案の適正な釈明に必要な申立や主張をしていない場合に、これを指摘する釈明
←場合によっては、当事者の一方に有利に働く可能性もあるので、慎重になされるべきである