第四編 訴訟の審理

第三章 当事者の訴訟行為

第一節 口頭弁論における当事者の行為

◎本案の申立
原告の請求認容・被告の請求棄却の終局判決を求める申立
相手方の対応
@ 認める→ 請求の放棄・認諾
A 争う → 攻撃防御方法を提出
攻撃防御方法
@原告の本案を基礎づけるため、またはA被告の反対申立を基礎づけるため、
提出するいっさいの資料

[例] 法律上の・事実上の主張、証拠の申出、証拠抗弁、責問権の行使・相手方の攻撃防御方法の却下の申立
◎主張
申立を基礎づける裁判資料を提出すること
法律上の主張と事実上の主張がある
○法律上の主張 請求を基礎づける具体的な権利関係の存否に関する自己の認識・判断を陳述すること
[例] 目的物返還請求における所有権の主張
対応
→被告の対応は二つ

@ 認める→ 権利自白となる
A 争う  → 原告の法律上の主張を否定、または別の見解を主張
○事実上の主張
被告が法律上の主張を争う場合、原告が請求原因事実に関する認識・判断を陳述すること
[例] 貸金返還請求訴訟における、@返還約束と、 A金銭の授受という事実の主張
対応
→被告の対応は五つ

@ 認める(自白)
→相手方に対する関係では、原則として撤回できなくなる。裁判所に対する関係では裁判所はその自白に拘束される。よって、証明は不要となる(179条)

A 沈黙(擬制自白)
→弁論の全趣旨からみて、争っていなければ自白したものとみなす(159条1項)。ただし、相手方との関係では拘束力はない。

B 争う(否認)
→原告は事実を立証しなければならない

C 知らない(不知)
→否認と見なされる(159条2項)。原告は事実を立証しなければならない

D 認めつつ争う(抗弁)
→事実を認めつつも権利消滅事由等を被告が主張。これは被告が証明しなければならない
◎否認
相手方が立証責任を負う事実を否定する陳述
種類
@ 単純否認
真実でないといって否認する陳述

A 積極否認
相手方の主張と両立しない別の事実を主張して、相手がtがの主張を否定する陳述(理由付き否認) 
◎抗弁
自ら立証責任を負う事実の積極的主張
種類
@ 制限付き自白
相手方の主張を認めながら、別の事実を主張すること

A 仮定抗弁
相手方の主張を争いながら予備的に抗弁を提出する旨の陳述


第二節 訴訟行為の評価と瑕疵ある訴訟行為の取り扱い

訴訟行為
裁判に向けて訴訟手続を展開させていく当事者及び裁判所の行為
評価
@ 成立・不成立
[例] 133条の方式に反する訴え提起
A 有効・無効
[例] 意志能力・訴訟能力・代理権を欠く場合、訴訟手続に関する効力規定に違背した場合
B 適法・不適法
[例] 訴訟要件の具備、申立の時期(157条)
C 理由あり・理由なし
瑕疵への対応
@ 追認
無効な訴訟行為を事後的に有効とする意思表示([例] 34条2項)
A 補正
当事者が事後的に補充、または訂正する行為([例] 34条1項)
B 判決の確定・責問権の放棄・喪失(90条)による治癒
C 訴訟行為の追完(97条)


第三節 私法行為と訴訟行為をめぐる諸問題

訴訟行為と私法行為
訴訟行為と同時に私法行為としての効果を認めざるをえないことがあり、その関係が問題となる
【論点】 訴訟行為に民法94条〜96条を類推適用できるか

意思表示としての性質を有するもの、例えば管轄の合意、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解、訴えの取り下げなどについて、詐欺・強迫、錯誤等があった場合、救済の必要が生じる。

そもそも、訴訟行為は、判決に向けての訴訟手続の一環として裁判所に対してなされるのが通常である。

@ 訴訟手続は、個々の訴訟行為の積み重なりである。したがって、一つの訴訟行為の瑕疵が全体に対して影響を及ぼすことになる。よって、手続の安定を図る必要性が高い。
A また、裁判所に対する公的な陳述という面があり、明確を期する必要があるので、表示主義・外観主義が広く妥当するべきである

よって、原則として民法規定の適用はない、と解するべきである

しかし、訴訟行為も当事者の意思を本質とするものであり、これに瑕疵がある場合は救済の必要性が高い。

そこで、
@ まず、訴訟行為は原則として撤回が可能であるから、撤回による救済を図り、あるいは補正により、さらに再審による救済を広く認めて救済するべきである。

A また、訴訟前・訴訟外の訴訟行為(管轄の合意・不起訴の合意等)は裁判所の関与はなく、訴訟手続との関連性もないので、類推適用を認めても手続の安定性を害しない

B 訴訟手続を終了させる行為(請求の放棄、訴えの取り下げ等)は、後に訴訟行為の積み重ねがないので、類推適用を認めても手続の安定を害しない

よって、A、Bについては例外として民法の類推適用を認めて救済することが許される
【論点】
○訴訟上の一定の効果を発生させる当事者間の合意を訴訟契約というが、これは許されるか

管轄の合意(11条)や仲裁契約のように明文があるものについては争いはないが、不起訴の合意、訴え取り下げの合意、自白契約や証拠制限契約については明文がなく、その適法性が問題となる

そもそも、民訴は公権的紛争解決制度であり、定型化された訴訟手続の変更は手続の混乱を招くので、許されないのが原則である(任意訴訟の禁止)

しかし、民訴の対象は私的自治の妥当する私的紛争なので、処分権主義・弁論主義が採用されている↓
そこで、処分権主義・弁論主義が妥当する任意法規については訴訟契約も有効と解する

もっとも、不当な予期せぬ合意に国が関与するのは権利保護の使命に反する

そこで、合意にあたって、訴訟上の効果が明確に予測されることが必要である 

○では、訴訟契約(例えば不起訴の合意)の効果はどうなるか

そもそも、訴訟契約は私法上の契約であり(私法契約説)、それにより実体法上の(不)作為義務が生じるのみである

そこで、義務違反の場合も、直接訴訟上の効果は発生しない

もっとも、相手方が抗弁として合意の存在を主張すると、裁判所は訴えの利益を欠くとして不適法却下
【論点】
訴訟における形成権の行使

取消権・解除権・建物買取請求権等の形成権を、訴訟上権利抗弁として形成権行使の意思表示を行った。しかる後、この抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却下され、あるいは訴え自体が和解ないし取下で消滅した場合、この形成権の実体法上の効果は残存するか。

この場合、当事者は別個に実体法上の意思表示は行っていないのだから、実体法上の効果は残存しないようにも思える。

しかし、訴訟上の形成権の行使といっても、これは実体法上認められた権利を行使したにすぎず、これを実体法上の権利行使と区別する理由は存在しない。

そこで、形成権の行使という私法行為と、その行為の私法上の効果を、裁判所に陳述するという訴訟行為とが併存していると解して、実体法上の効果の残存を認めるべきである(併存説) 。

もっとも、相殺の抗弁を訴訟上行使したところ、157条で却下された場合、この説では原告勝訴の判決が確定すると、被告は自働債権を別訴で求めることもできなくなってしまうという不都合がある。

そこで、当事者が形成権行使の効果の残存を望まない場合には、その形成権行使を解除条件付き意思表示と解して、その効果は残存しないと解するべきである(条件説)。