第四編 訴訟の審理

第一章 口頭弁論

第一節 審理の方式に関する諸原則

口頭弁論
公開の法廷で当事者双方が対席し、受訴裁判所の面前で口頭により弁論・証拠調べを行う審理方式
必要的口頭弁論の原則
(87条1項)
@ 訴えに対して判決をするには口頭弁論を開くことを要する
A 口頭弁論で陳述または顕出された事実・証拠だけが裁判の基礎となる
趣旨
両当事者に攻撃防御の機会を保障
違反の効果
絶対的上告理由(312条2項5号)。再審事由とはならない。


口頭弁論の諸原則

◎公開主義
訴訟の審理・裁判を国民の傍聴しうる状態で行うこと(憲法82条)
趣旨
裁判の公正を担保し、裁判に対する国民の信頼を確保
◎双方審尋主義
訴訟の審理において当事者双方にそれぞれの主張をする機会を平等に保障すべき、との原則
趣旨
適正な裁判を受ける権利(憲32条)と法の下の平等(憲14条)の訴訟上の実現
◎口頭主義
弁論と証拠調べが口頭で行われなければならず、口頭で陳述されたものだけが判決の基礎となるとの原則
長所
@ 口頭による陳述は新鮮
A 当事者間の応答や裁判所の釈明により争点の発見・整理ができる
B 臨機応変に審理をなし得る
短所
@ 不確実
A 複雑な事実・法律関係の場合、裁判所・相手方にとって理解が困難

以上の欠点ゆえ、部分的に書面主義による補完がなされる
直接主義
審理担当の裁判官と判決担当の裁判官を一致させること(249条1項)
長所
陳述の趣旨やその真偽を正確に理解し、その結果を裁判に直結できる
違反の効果
絶対的上告理由となる(312条2項1号)
また再審事由となる(338条1項1号)
直接主義の後退
@ 弁論の更新(249条2項)
←直接主義を貫くと、裁判官の交代の場合、弁論と証拠調べを繰り返さなければならず、訴訟経済に反する
→もっとも、証人尋問は、当事者の申出があれば、再尋問を要する(249条3項)
←証人尋問では、証人の供述態度が裁判官の心証形成を左右するので、例外の例外として直接主義が貫かれる。

A 証拠調べについては、裁判所外での受命裁判官・受託裁判官による証拠調べを容認(184条・185条)
←訴訟経済上の理由


第二節 口頭弁論の準備

準備書面
当事者が口頭弁論において陳述しようとする事項を記載し、裁判所に提出する書面(161条)
←大幅な改正を受ける(記載事項(規則79条、80条、81条)、準備書面の直送(規則83条)、提出期間(162条))
制度趣旨
期日における審理の充実・促進と相手方に対する不意打ちの防止
提出・記載の効果
@ 相手方が欠席しても記載事実を主張できる(161条3項の反対解釈)
→よって、記載事項につき相手方が準備書面で明らかに争っていない場合、擬制自白が成立する(159条3項)
A 最初の口頭弁論期日に欠席しても、記載事項は陳述したものと見なされる(158条)
(簡易裁判所では続行期日にも妥当する(277条))
*旧255条3項は削除され、準備手続きで陳述を怠っても、口頭弁論で記載事実を陳述し得るという効果はなくなった
不提出・不記載の効果
相手方は在廷しないときは、口頭弁論で主張できない(161条3項)
【論点】
「事実」には証拠の申し出が含まれるか?

『原則』 含まれる
[理由] 準備書面記載事項以外の証拠が提出されれば、相手方に対し不意打ちとなり不公平

『例外』 欠席当事者にも予測できたとみられる証拠の申出は、準備書面による予告なしに相手方不在廷の口頭弁論期日にも許され、その証拠調べは違法だが責問権喪失により有効となる(判例)
「理由」 かかる場合には、相手方への不意打ちとなるとは言い切れない
当事者照会
当事者が訴訟の係属中、相手方に対し主張・立証を準備するために必要な事項につき、相当な期間内に書面で回答するように求めることができる制度(163条)
相手方の義務
相手方には信義則上の回答義務がある。
もっとも、163条1号から6号に例外規定
争点及び証拠の整理手続
164条以下に規定。早期に争点および証拠を的確に整理し、これに続く集中証拠調べ(182条)を軸とする集中審理により、訴訟の適正・迅速な解決を図る
準備的口頭弁論
口頭弁論を争点とする証拠を整理する段階(準備的口頭弁論)と本来の口頭弁論の段階(本質的口頭弁論)に分けて運用する場合の前者(164条〜)
効果
手続終了後に攻撃防御方法を提出した当事者は、相手方が求める場合、手続終了前に提出できなかった理由につき期日において口頭または書面での説明を要する(167条、規則87条)
弁論準備手続
弁論兼和解から和解手続を切り離し、もっぱら争点や証拠の整理を目的とする手続(168条〜)
効果
手続終了後も攻撃防御方法を提出しうる(失権効なし)
もっとも、相手方が求める場合、提出できなかった理由につき書面での説明を要する(174条、167条、規則90条)。間接的ながら失権的に働く
書面による準備手続
当事者の出頭なしに争点や証拠の整理をする手続。
当事者や代理人が管轄裁判所から遠隔地に居住している等、裁判所が「相当と認めるとき」「当事者の聞いて」この手続に付することができる(175条)。
効果
手続終了後に攻撃防御方法を提出した場合、相手方に対する説明義務あり(178条、規則94条)


第三節 口頭弁論実施上の諸制度

◎継続審理主義
一事件の口頭弁論を継続的・集中的に行い、その終了後に他事件の審理に移る審理方法
○併行審理主義
多数事件を同一日に併行して審理する方式。継続審理主義に対する概念


◎口頭弁論の一体性
口頭弁論は数回にわたる場合でも一体をなす。よって
@ 後の期日では従前の弁論を続行すればよく
A 弁論はどの期日でお粉手も訴訟資料としての価値は同一である
○適時提出主義
攻撃防御方法は「訴訟の進行状況に応じ適切な時期」に提出しなければならない(156条)
趣旨
口頭弁論の一体性を前提とすれば、当事者は口頭弁論の集結に至るまで随時に攻撃防御方法を提出することができる、とするのがすじである。実際、旧法下ではそのように規定されていた(旧137条)。

しかし、それでは、@訴訟の遅滞を招き、A当事者の駆け引きや訴訟の引き延ばし策として濫用される弊害や、B続審制の下での第一審軽視の弊害等が生じた。

そこで、弁論の促進を図るべく、適時提出主義に改められた。
◎具体化規定
@ 時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)
A 釈明に応じない攻撃防御方法の却下(157条2項)
B 中間判決で判断された事項に関する攻撃防御方法(245条)
*旧225条(準備手続で提出しなかった事項の失権効)は削除された
◎口頭弁論の実施
原則として口頭弁論の進行は裁判所の訴訟指揮権に服する。よって、当事者はその当否を争うことはできないのが原則となる。

(1) 弁論の続行・更新・終結・再開

(2) 弁論の制限・分離・併合

・「弁論の制限」とは、一つの訴訟で数個の独立した攻撃防御方法が争われている場合に、そのうちの一つに審理を制限すること(152条1項)
・「弁論の分離」とは、一つの訴訟で複数の請求がある場合、ある請求が他の請求と関連性がないと認められるとき、その請求を別個の手続で審理すること(152条1項)
・「弁論の併合」とは、同一の官署としての裁判所に別々に係属している数個の請求を結合させて、一個の裁判所による同一の口頭弁論手続で審理すること(152条1項)

◎口頭弁論の懈怠

○時機に後れた攻撃防御方法の却下
裁判所は、申立によりまたは職権で却下の決定をすることができる(157条1項)
要件
@ 時機に後れて提出した(その提出時より前に提出する機会があったこと)
A 故意または重大な過失(攻撃防御方法の種類・当事者の知識も考慮して判断される)
B 訴訟の完結を遅延させる(審理のために新たに期日を開く必要があるか)
○当事者の欠席
口頭弁論は双方審尋主義、口頭主義を原則とする。
しかし、これを厳格に適用すると、当事者が欠席した場合口頭弁論を実施することができなくなり、訴訟促進ないし出席当事者の利益を著しく害することになる。
そこで、当事者が欠席した場合の制度が規定されている。
・最初の期日
最初の期日における一方当事者が欠席した場合

欠席者がそれまでに提出していた訴状・答弁書その他の準備書面に記載した事項は、欠席者が期日に陳述したものとみなし、出席者に準備書面に基づき(161条3項)弁論させ、両者をつきあわせて審理を進める(158条)

この場合、相手方の準備書面の内容につき欠席者が準備書面で明らかに争っていない事実は自白したものと見なされる(159条3項)
・続行期日
続行期日における一方当事者が欠席した場合

口頭主義が骨抜きになるので、158条は適用されない(判例・通説)
・双方当事者
当事者双方が欠席した場合

審理を進める余地がないから、当該期日は終了する
一ヶ月以内に期日指定申立をしないと訴えの取り下げが擬制される(263条前段)
連続して二回期日に欠席した場合も、取下擬制を認める(263条後段)
・欠席と判決
当事者の欠席の場合にも「審理の現状及び当事者の訴訟追行の現状」によって判決ができる(244条)



第二章 裁判所と当事者の役割分担

第一節 事案の解明における役割

◎弁論主義
裁判の基礎をなす事実の確定に必要な資料(訴訟資料)の収集・提出を当事者の権能と責任とする主義
根拠
実体法上私的自治に委ねられる財産関係をめぐる訴訟は、判決内容も当事者の意思を尊重するのが望ましい
内容
@ 裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならない
(弁論主義の第一テーゼ;253条2項参照)

A 裁判所は当事者間に争いのない事実はそのまま判決の資料として採用してはならない
(弁論主義の第二テーゼ;179条)

B 当事者間に争いのある事実を証拠によって認定するには、裁判所は当事者の申し出た証拠によらなければならない
(弁論主義の第三テーゼ;旧法261条の削除)
機能
@ 不意打ちの防止・手続保障機能
A 争訟内容の自主的形成機能
B 真実発見機能
C 公平な裁判への信頼確保機能
○職権探知主義
弁論主義に対する概念
訴訟資料の探知を当事者の意思のみに委ねず裁判所の職責ともする主義
◎主張責任
当事者の主張がないためその主要事実はないものとして裁判されることになる一方当事者の負う不利益の負担

主張責任の分配は証明責任の分配原理に従うとするのが通説
主要事実
法律効果の発生・変更・消滅を定める構成要件に該当する具体的事実
間接事実
主要事実の存否の推認に役立つ事実
補助事実
証拠能力や証拠力を明らかにすることに役立つ事実
主張共通の原則
主張責任を負う者が主張した事実であるかを問わず、裁判所は判決の基礎とすることができるという原則

[根拠] 弁論主義は裁判所と当事者側との役割分担の問題
【論点】
弁論主義の適用される事実は、いかなる範囲まで及ぶか

過失や正当事由といった抽象的要件事実では、それを基礎づける具体的事実にも適用されるか。

弁論主義が適用される事実は、原則として主要事実に限られる
[理由]
@ 訴訟物樽権利法律関係の発生等を定める構成要件該当事実が審理の中心
A 間接事実→証拠との類似性→これに弁論主義を適用することは自由心証主義に反する

しかし、抽象的要件事実→事実とはいえぬ→当事者にとって防御困難→不意打ちの危険

そこで、抽象的概念を基礎づける具体的事実(準主要事実)につき弁論主義の適用がある、と解すべきである
【論点】
その他、弁論主義の適否が問題となる事例←それぞれ判例百選に載っているのであとでチェック

@ 代理権の有無
A 事実の来歴・経過
B 過失相殺←(平成11年に出題(汗))
C 公序良俗違反・権利濫用・信義則違反←(答練によくでる)

【論点】
では、間接事実は補助事実に弁論主義の適用はあるか

民訴の対象たる権利の存否は、権利の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件該当事実(主要事実)の存否によって確定される

また、間接事実・補助事実は証拠と同様の働きをするから、もし弁論主義が適用されるとなると、証拠の事実認定を裁判官の自由な心証に委ねた自由心証主義(247条)を害することになる

よって、これは否定されるべきである
弁論主義の適用範囲
私的自治が妥当しない権利または法律関係については弁論主義の適用も排除される
←弁論主義は私的自治を根拠とするものだから

@ 訴訟要件
・ 公益性ゆえに規定されたものは弁論主義の適用はない(例、専属管轄←職権探知主義)
・ しかし、その他の訴訟要件については、主張責任・自白の拘束力は排除されるものの、職権証拠調べまでが要求されるものではない。
・ さらに、任意管轄や仲裁契約など当事者の利益保護を目的とする訴訟要件に関しては弁論主義の適用をみとめてかまわない

A 人事訴訟等
私的自治の適用が制限されている以上、弁論主義の適用も制限される(人訴14条・行訴24条等)
釈明権
事件の内容をなす事実・法律関係を明らかにするため、訴訟指揮権の一作用として当事者に対し事実上・法律上の事項について質問し、立証を促す裁判所の権能(149条1項)
趣旨
本来、弁論主義からすれば、裁判所は当事者の主張立証には関与しないはずである。
しかし、それでは、真実発見と正義の実現という裁判所の作用を全うできない。
そこで、裁判所に釈明権を認め、公平かつ適正な裁判の実現をのである(積極説)。
釈明権の種類
@ 消極的釈明
 当事者の主張や申立が矛盾し、または不明瞭な場合、それを問いただす釈明
←これは、当事者の一方に有利に働くことはなく、弁論主義の趣旨にも矛盾しないので、全面的に許容しうる

A 積極的釈明
 当事者が事案の適正な釈明に必要な申立や主張をしていない場合に、これを指摘する釈明
←場合によっては、当事者の一方に有利に働く可能性もあるので、慎重になされるべきである



第三章 当事者の訴訟行為

第一節 口頭弁論における当事者の行為

◎本案の申立
原告の請求認容・被告の請求棄却の終局判決を求める申立
相手方の対応
@ 認める→ 請求の放棄・認諾
A 争う → 攻撃防御方法を提出
攻撃防御方法
@原告の本案を基礎づけるため、またはA被告の反対申立を基礎づけるため、
提出するいっさいの資料

[例] 法律上の・事実上の主張、証拠の申出、証拠抗弁、責問権の行使・相手方の攻撃防御方法の却下の申立
◎主張
申立を基礎づける裁判資料を提出すること
法律上の主張と事実上の主張がある
○法律上の主張 請求を基礎づける具体的な権利関係の存否に関する自己の認識・判断を陳述すること
[例] 目的物返還請求における所有権の主張
対応
→被告の対応は二つ

@ 認める→ 権利自白となる
A 争う  → 原告の法律上の主張を否定、または別の見解を主張
○事実上の主張
被告が法律上の主張を争う場合、原告が請求原因事実に関する認識・判断を陳述すること
[例] 貸金返還請求訴訟における、@返還約束と、 A金銭の授受という事実の主張
対応
→被告の対応は五つ

@ 認める(自白)
→相手方に対する関係では、原則として撤回できなくなる。裁判所に対する関係では裁判所はその自白に拘束される。よって、証明は不要となる(179条)

A 沈黙(擬制自白)
→弁論の全趣旨からみて、争っていなければ自白したものとみなす(159条1項)。ただし、相手方との関係では拘束力はない。

B 争う(否認)
→原告は事実を立証しなければならない

C 知らない(不知)
→否認と見なされる(159条2項)。原告は事実を立証しなければならない

D 認めつつ争う(抗弁)
→事実を認めつつも権利消滅事由等を被告が主張。これは被告が証明しなければならない
◎否認
相手方が立証責任を負う事実を否定する陳述
種類
@ 単純否認
真実でないといって否認する陳述

A 積極否認
相手方の主張と両立しない別の事実を主張して、相手がtがの主張を否定する陳述(理由付き否認) 
◎抗弁
自ら立証責任を負う事実の積極的主張
種類
@ 制限付き自白
相手方の主張を認めながら、別の事実を主張すること

A 仮定抗弁
相手方の主張を争いながら予備的に抗弁を提出する旨の陳述


第二節 訴訟行為の評価と瑕疵ある訴訟行為の取り扱い

訴訟行為
裁判に向けて訴訟手続を展開させていく当事者及び裁判所の行為
評価
@ 成立・不成立
[例] 133条の方式に反する訴え提起
A 有効・無効
[例] 意志能力・訴訟能力・代理権を欠く場合、訴訟手続に関する効力規定に違背した場合
B 適法・不適法
[例] 訴訟要件の具備、申立の時期(157条)
C 理由あり・理由なし
瑕疵への対応
@ 追認
無効な訴訟行為を事後的に有効とする意思表示([例] 34条2項)
A 補正
当事者が事後的に補充、または訂正する行為([例] 34条1項)
B 判決の確定・責問権の放棄・喪失(90条)による治癒
C 訴訟行為の追完(97条)


第三節 私法行為と訴訟行為をめぐる諸問題

訴訟行為と私法行為
訴訟行為と同時に私法行為としての効果を認めざるをえないことがあり、その関係が問題となる
【論点】 訴訟行為に民法94条〜96条を類推適用できるか

意思表示としての性質を有するもの、例えば管轄の合意、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解、訴えの取り下げなどについて、詐欺・強迫、錯誤等があった場合、救済の必要が生じる。

そもそも、訴訟行為は、判決に向けての訴訟手続の一環として裁判所に対してなされるのが通常である。

@ 訴訟手続は、個々の訴訟行為の積み重なりである。したがって、一つの訴訟行為の瑕疵が全体に対して影響を及ぼすことになる。よって、手続の安定を図る必要性が高い。
A また、裁判所に対する公的な陳述という面があり、明確を期する必要があるので、表示主義・外観主義が広く妥当するべきである

よって、原則として民法規定の適用はない、と解するべきである

しかし、訴訟行為も当事者の意思を本質とするものであり、これに瑕疵がある場合は救済の必要性が高い。

そこで、
@ まず、訴訟行為は原則として撤回が可能であるから、撤回による救済を図り、あるいは補正により、さらに再審による救済を広く認めて救済するべきである。

A また、訴訟前・訴訟外の訴訟行為(管轄の合意・不起訴の合意等)は裁判所の関与はなく、訴訟手続との関連性もないので、類推適用を認めても手続の安定性を害しない

B 訴訟手続を終了させる行為(請求の放棄、訴えの取り下げ等)は、後に訴訟行為の積み重ねがないので、類推適用を認めても手続の安定を害しない

よって、A、Bについては例外として民法の類推適用を認めて救済することが許される
【論点】
○訴訟上の一定の効果を発生させる当事者間の合意を訴訟契約というが、これは許されるか

管轄の合意(11条)や仲裁契約のように明文があるものについては争いはないが、不起訴の合意、訴え取り下げの合意、自白契約や証拠制限契約については明文がなく、その適法性が問題となる

そもそも、民訴は公権的紛争解決制度であり、定型化された訴訟手続の変更は手続の混乱を招くので、許されないのが原則である(任意訴訟の禁止)

しかし、民訴の対象は私的自治の妥当する私的紛争なので、処分権主義・弁論主義が採用されている↓
そこで、処分権主義・弁論主義が妥当する任意法規については訴訟契約も有効と解する

もっとも、不当な予期せぬ合意に国が関与するのは権利保護の使命に反する

そこで、合意にあたって、訴訟上の効果が明確に予測されることが必要である 

○では、訴訟契約(例えば不起訴の合意)の効果はどうなるか

そもそも、訴訟契約は私法上の契約であり(私法契約説)、それにより実体法上の(不)作為義務が生じるのみである

そこで、義務違反の場合も、直接訴訟上の効果は発生しない

もっとも、相手方が抗弁として合意の存在を主張すると、裁判所は訴えの利益を欠くとして不適法却下
【論点】
訴訟における形成権の行使

取消権・解除権・建物買取請求権等の形成権を、訴訟上権利抗弁として形成権行使の意思表示を行った。しかる後、この抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却下され、あるいは訴え自体が和解ないし取下で消滅した場合、この形成権の実体法上の効果は残存するか。

この場合、当事者は別個に実体法上の意思表示は行っていないのだから、実体法上の効果は残存しないようにも思える。

しかし、訴訟上の形成権の行使といっても、これは実体法上認められた権利を行使したにすぎず、これを実体法上の権利行使と区別する理由は存在しない。

そこで、形成権の行使という私法行為と、その行為の私法上の効果を、裁判所に陳述するという訴訟行為とが併存していると解して、実体法上の効果の残存を認めるべきである(併存説) 。

もっとも、相殺の抗弁を訴訟上行使したところ、157条で却下された場合、この説では原告勝訴の判決が確定すると、被告は自働債権を別訴で求めることもできなくなってしまうという不都合がある。

そこで、当事者が形成権行使の効果の残存を望まない場合には、その形成権行使を解除条件付き意思表示と解して、その効果は残存しないと解するべきである(条件説)。



第四章 証拠

第一節 総説

証拠
裁判所による事実認定や知識獲得の手がかりとなる資料
本証
自己に証明責任のある事実を証明するために提出する証拠。
裁判官に確信を抱かせるものであることを要する
反証
相手方が証明責任を負う事実の不存在を証明するために提出する証拠。
裁判官の確信を動揺させ、真偽不明に持ち込めば足りる
証拠の概念
証拠方法とは、取り調べの対象とする有形物
[例] 人証(証人・鑑定人・当事者)、物証(文書・検証物)

証拠資料とは、証拠方法を取り調べることにより感得された内容
[例] 証言、鑑定意見、当事者供述、文書の内容、検証の結果

証拠原因とは、事実の存否につき裁判官に確信を生じさせる原因となった証拠資料および弁論の全趣旨

証拠能力とは、一定の証拠資料を事実認定のために利用しうる資格
証拠力とは、一定の証拠資料が事実認定に役立つ程度(証拠価値)
証明と疎明
証明とは、要証事実の存在につき裁判官が確信を得た状態、あるいはかかる確信を得させようとする当事者の行為

疎明とは、裁判官が要証事実の存在が一応確からしいとの推測を得た状態、またはかかる推測を生じせしめようとする当事者の行為
厳格な証明
自由な証明
厳格な証明とは、法定された証拠調手続によって行う証明
法定手続によらずに行われる証明。
[例] 判決手続における職権調査事項。決定手続における要証事実、法規、経験則


第二節 証明の対象

証明の対象
@ 事実、A 法規、B 経験則
[根拠] 裁判は、経験則によって事実を認定し、それに法規を適用することによってなされるから
○要証事実
主要事実を指す。間接事実と補助事実は主要事実を認定するに必要な限度で証明が必要
○法規
原則として証明は不要である
裁判所は法規の存在・解釈について職務上知る責任があるから
もっとも、例外として外国の法令や、地方の条例、慣習法については証明が必要
○経験則
経験から帰納された事実に関する知識や法則
原則として、証明は不要である
通常人が知っている経験則は客観性が保障されているからである

○では、専門的知識に属する経験則はどうか。
その経験則が客観的に正しいものである以上、証明は不要のようにも思える。
そもそも、経験則が証明不要なのは、証明がなくとも裁判の公正と、それに対する信頼を害しないからである。
専門的知識に属する経験則を証明は不要としても、裁判の公正は害しないが、通常人の知らない経験則を用いることは裁判の公正に対する社会の信頼を害することになる。
よって、この場合は、証明を要すると解すべきである


第三節 証明を要しない事実

不要証事実
@ 顕著な事実(公知の事実、職務上顕著な事実)
客観性が担保されているから

A 自白された事実
弁論主義

裁判上の自白
口頭弁論期日または争点整理手続期日での、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述(179条)
要件
@ 相手方の主張事実と一致すること
A 口頭弁論期日または争点整理手続期日における弁論としての陳述
B 自己に不利益な事実の陳述
【論点】
不利益性の判断基準
イ) 証明責任説
ロ) 敗訴可能性説

自白の可分性
ある事項に関する当事者の事実主張が複数の事実から成り立っているとき、相手方の証明責任を基準として、自白が成立する部分としない部分とに分けられること
ex.金銭授受の事実を認めつつ返還約束を否定←理由付き否認。金銭授受については自白成立
ex.金銭授受および返還約束を認めつつ、弁済の抗弁←制限付き自白
先行自白
一方当事者が自らすすんで自己に不利益な事実を陳述し、その後に相手方当事者が援用する場合
→援用がない間は自白とはならない。撤回も原則可能
◎自白の対象
原則として主要事実
○権利自白
請求の当否の判断の前提をなす法律関係についての自白

そもそも、法律判断は裁判所の専権事項であるので(「我に事実を与えよ、我は汝に法律を与えん」)、裁判所は権利自白には拘束されないのが原則である。
もっとも、すでに相手方から具体的事実が主張され、これに対して一括して認める趣旨でなされた権利自白であれば、事実に関する自白とみなすことができるので、例外的に権利自白も肯定される。
【論点】
間接事実・補助事実の自白

間接事実・補助事実についても179条の適用はあるか

そもそも179条の根拠である弁論主義は私的自治の原則に基づくものである。
そして、私的自治とは権利関係の発生・消滅・変更を当事者の意思に委ねるとする建前である。
とすれば、権利関係の発生・消滅・変更の有無を決める事実、すなわち主要事実について179条の適用がある、とすれば必要かつ十分である。

また、主要事実の存否は証拠に基づいて裁判官の自由な心証によって判断されるが、間接事実・補助事実は証拠と類似した役割を担うもので、これに179条を適用して裁判官の判断を拘束することは、自由心証主義を没却することとなってしまう(247条)

よって、間接事実・補助事実については179条の適用はないと解するべきである。
効力
[原則]
@ 裁判所に対する拘束力→不要証とされる。裁判所は自白事実を裁判の基礎として採用しなければならない
A 当事者に対する拘束力→撤回不可。禁反言の原則に基づく効力

[例外]
イ) 刑事上罰すべき他人の行為により自白した場合(338条1条5号の趣旨)
ロ) 相手方の同意がある場合
ハ) 自白が反真実で、かつ錯誤に基づく場合
←自白された事実が真実に合致しないことの証明を要する。この証明がなされれば、その自白は錯誤によるものと推定され、撤回が許される(判例)
裁判外の自白
自白事実の真実を推測させる間接事実の意義を持つにすぎない
擬制自白
当事者が口頭弁論・弁論準備手続において、相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合、自白したものとみなされる(159条1項、170条6項)

→当事者が一時争わない態度をとっていても、後になって(例えば控訴審で)その事実を否認し、擬制自白の成立を妨げることができる。もっとも157条1項の場合は別である。


第四節 自由心証主義

自由心証主義
事実の認定を、裁判官が審理に現れたすべての資料に基づいて自由な判断によって形成する心証に委ねる原則(247条)
←事実認定に当たって用いるべき経験則の選択を裁判官に委ね、証拠方法や証拠力に制限を加えない原則
趣旨
社会が単純ならば、法定証拠主義も可能
しかし、社会関係が複雑化した現在、定型的な事実認定は不可能。また裁判官の能力も向上
そこで、裁判官を全面的に信頼し、事実認定をその自由な心証に委ねることとした
証拠調べの結果
当事者から申し出がなされた証拠方法について裁判所が証拠調べをなし、その結果証拠資料が得られる。
弁論の全趣旨
口頭弁論に現れた一切の資料から、証拠調べの結果を除いたものである
法は裁判所が当事者の行為自体に対する評価を事実認定の資料として用いることを認める(247条)
証拠共通の原則
裁判官は、一方当事者の主張事実を認定するために、相手方が申請した証拠資料の中にも証拠原因を求めることができることになる。自由心証主義の帰結である。
つまり、当事者からみれば、提出した証拠は有利にも不利にも使用されることになる
@証拠方法の無制限
自由心証主義は、証拠方法の内容、すなわちいかなる証拠方法を証拠調べの対象とするかについて特別な制限を加えないことを意味する

[例外]
いくつかの場合、証拠方法足りうる資格(証拠能力)を欠くとして制限される場合がある
@ 訴訟代理権の文書による証明
A 口頭弁論の方式遵守に関する証明
B 手形訴訟における証拠方法の制限
等々・・・・
→ 違法収集証拠については争いのあるところである
【論点】
違法収集証拠の証拠能力

自由心証主義から証拠方法は無制限とされるため、たとえ伝聞証拠であっても証拠能力は制限されない(判例)。
しかし、違法収集証拠については、@国民が民事訴訟に期待する公正さを損なうことになるし、A裁判所が違法行為を是認するとの誤解を与えかねない。
したがって、違法収集証拠については、原則としてその証拠能力を否定すべきである。

判例は、@その証拠が反社会的な手段を用いて、A人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法で取得されたときは、証拠適格が否定される、と解している。


A証拠力の自由評価
自由心証主義は、証拠の証明力の有無・程度も裁判官の自由な判断にゆだねることを意味する

[例外]
@ 文書の形式的証拠力に関する推定規定(228条)
←一種の法定証拠法則である。もっとも、証拠によって推定を覆しうるから、自由心証主義が完全に排除されたわけではない

A 証明妨害があった場合(208条、224条、229条4項、232条)
←公平の原則による。もっとも、常にそのものに不利な認定をしなければならないわけではないから、自由心証主義を完全に排除したものではない
損害額の認定
損害賠償請求をする場合、損害額の立証が困難な場合がある。
この場合、立証責任を果たしていないとして請求を棄却するのは当事者の公平に反する。

そこで、法は、損害の性質上、損害額の立証がきわめて困難な場合には、裁判所は、確信に達していない場合であっても、相当な損害額を認定できる(248条)と定めた
証拠契約
証拠方法を一定のものに限定する契約
[例] 自白契約(裁判外の合意と異なり訴訟上の効果発生を目的とする)、仲裁鑑定契約、証拠制限契約(証拠能力が否定される)等々

もっとも、すでに取り調べの対象となった証拠方法を提出されなかったのものにするなどの合意は、自由心証を侵害するので、その効力は認められない。


第五節 証明責任

(客観的)証明責任
ある事実が真偽不明の場合に、その事実を要件とした自己に有利な法律効果の発生が認められなくなる一方当事者が負う不利益
趣旨
裁判拒否の防止
対象
主要事実
主観的証明責任
客観的証明責任を負う当事者は、勝訴するためには、証明責任を負う事実を証明しなければならないこと(行為責任)
【論点】
証明責任の分配基準は

一定の法律効果を主張する者が、その効果の発生を基礎づける適用法条の要件事実につき証明責任を負うとする法律要件分類説が妥当である。
けだし、民事訴訟の対象は、実体法上の権利義務に関する紛争であり、自他地方上の規定を基準とすべきであるし、またそれにより証明責任の分配が明確となるからである。

とすれば
@ 権利を根拠づける要件事実 → 権利を集中する者に証明責任あり
A 権利の発生を障害する要件事実 → 権利を争う者に証明責任あり
B 権利を消滅させる要件事実 → 権利を争う者に証明責任あり

証明責任の転換
通常の証明責任の配分とは別に、明文で相手方当事者に反対事実についての証明責任を負担させること
法律上の推定
経験則が法規化され、法規の適用という形で行われるもの。

@ 法律上の事実推定
「A事実(前提事実)あるときはB事実(推定事実)あると推定する」と規定され、推定事実が他の要件事実となっている場合
(例・・・民法186条2項「前後両時において占有をなしたる証拠あるときはその間継続したるものと推定す」)

A 法律上の権利推定
「A事実(前提事実)あるときはB権利あると推定する」と規定されている場合
(例・・・民法188条「占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定す」)
暫定真実
前提事実の証明さえ要求しないで、無条件に一定の事実を推定することによって、ある規定の要件事実の証明責任を相手方に転換する法技術
←前提事実を本文に、推定事実不存在を但書に代替する働きをする
(例・・・民法162条1項「20年間の所有の意思・平穏・公然の推定」と186条1項「所有の意思・善意・平穏・公然の推定)
間接反証
ある主要事実について証明責任を負う者が、これを推認させるに十分な間接事実を一応証明した場合に、相手方が右の間接事実とは別個の、しかもこれと両立しうる間接事実を本証の程度に立証することによって主要事実の推認を妨げる立証活動
表見証明
証拠や間接事実による主要事実についての心証形成にあたって、経験則上高度の蓋然性をもって主要事実の存在を示しているといえる場合には、特段の事情がなき限り、主要事実につき一気に概括的に心証に達したものとみることができること
疫学的証明
ことに公害訴訟において、原告側の集団的な原因不明の被害の発生と発生源との間の因果関係の立証のために、原因不明の疾病の集団発生にあたって、その防疫措置のための原因解明のために仮定した原因と発病の因果関係の蓋然性を証明すること
模索的証明
証明責任を負う者が、事実経過の詳細を知り得ない場合に、ある程度一般的・抽象的な申立を許して、証拠調べ手続の中で新たな、また確実な主張・立証の材料を得る途を開こうとする証明


第六節 証拠調べの手続

集中証拠調べ
証人および当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行われなければならない(182条)
◎証拠方法
○人証
人が証拠方法となっている場合→[例]「証人」、「鑑定人」、「当事者本人」
○物証
物が証拠方法となっている場合→[例]「文書」、「検証物」
○証人尋問
第三者をその経験した事実について尋問し、それを証拠資料とする証拠調べ
○当事者尋問
当事者をその経験した事実について尋問し、それを証拠資料とする証拠調べ
(改正により、当事者尋問の補充性が緩和された)
○鑑定
特別の学識経験を有する者にその専門的知識を利用した判断を報告させる証拠調べ(212条以下)
○書証
文書を閲読し、それに記載された意味内容を証拠資料とする証拠調べ(219条以下)
書証の申立方法
@ 自ら提出(219条前段)
A 文書提出命令の申立(219条後段)
B 文書添付の嘱託(226条)
文書の証拠力
@ 形式的証拠力
文書の記載内容が、挙証者の主張する特定人の思想の表現であると認められること
A 実質的証拠力
特定人の思想の表現としての文書の記載内容が、要証事実の証明に役立つ効果
準文書
図画、写真、録音テープ、ビデオテープ等の証拠調べにつき、書証の規定が準用される(231条)

なお、コンピュータ用記憶媒体(磁気テープ、光ディスク等)は、準文書に加えられていない
←その記憶内容を証拠資料とするにはプリントアウトされた文書を提出すれば足りるから
文書提出命令
相手方当事者または第三者の所持する文書は、その者が提出義務を負う場合は、その者に対する文書提出命令を申し立てることにより書証の申出を行う(219条)
改正点
@ 文書特定手続(222条1項)、イン・カメラ手続(223条3項)の新設
A 一部提出命令の明記(223条1項)
B 文書提出義務の一般義務化
C 文書不提出の効果を強化
文書提出義務
@ 引用文所(220条1号)
A 引渡・閲覧請求権のある文書(220条2号)
B 利益文書・法律関係文書(220条3号)
C 次のイロハの場合を除き、文書提出義務を一般義務とした(もっとも、公務文書は除外)
(イ) 文書所持者等に証言拒否権が認められる事項の記載された文書
(ロ) 医師等の職務上の守秘義務事項や技術または職業上の秘密事項で黙秘の義務が免除されていないものが記載された文書
(ハ) もっぱら文書の所持者の利用に供するための文書
【論点】
「利益文書」「法律関係文書」の範囲は。公害・医療過誤等の現代型訴訟で問題となる

「利益文書」とは、挙証者の後日の証拠とするために作成されたもので、作成時点に利益主体が特定しているもの。
「法律関係文書」とは、挙証者と文書所持者との間に成立する法律関係それ自体を記載した文書

しかし、公害・医療過誤等の現代型訴訟では証拠が偏在しているため、これをそのまま適用しては、証拠の範囲が限られてしまい、原告に著しく不利となる。

そこで、被害者保護の見地から、文書提出義務の範囲を広げるべきである。
具体的には、「利益文書」には、間接的に挙証者の利益になる文書も含まれると解するべきである。
また「法律関係文書」には、挙証者・所持人間の法律関係に関連する事項を記載した文書であれば足りると解するべきである。
不提出の効果
(ア) 申立人が記載内容を具体的に主張できる場合
→裁判所は「当該文書の記載に関する相手方(申立人)の主張」を真実と認め得る(224条1項2項)
(イ) 申立人が当該文書の記載につき具体的な主張をすること、および他の代替的な証拠により証明することが著しく困難な場合
→裁判所は「その事実」(証明主題自体)に関する申立人の主張を真実と認め得る(224条3項)
○検証
裁判官がその五感の作用によって対象物の性状を検査し、証拠資料とする証拠調べ(232条以下)
証拠保全
本来の証拠調べを行う時期の前に証拠調べをしてその結果を保存する手続(234条以下)