第六編 複雑訴訟

第一章 複数請求訴訟

第一節 請求の原始的複数(訴えの客観的併合)

固有の訴えの客観的併合
一人の原告が一人の被告に対して、当初から一つの訴えで数個の請求をすること
趣旨
当事者の負担の軽減、審理の重複・裁判の矛盾抵触の防止、紛争の一回的解決
←デメリットとして、審理の複雑化、訴訟の混乱・遅延のおそれもある
要件
@ 数個の請求が同種の訴訟手続によって審判されること(136条)
A 請求の併合が禁止されていないこと(人訴7条2項、36条、32条1項等)
B 各請求が他の裁判所の専属管轄に属さないこと(13条、7条)
◎単純併合
両立し得る数個の請求を他の請求と無関係に併合し、すべての請求について審判を求める場合
審判方法
すべての請求につき審判する必要がある
弁論の分離・制限、一部判決は裁判所の裁量で自由になしえるのが原則
←それぞれの請求は本来別個のものだから、判決の矛盾抵触が生じないため

とすれば、各請求に矛盾抵触が生じる関係があれば弁論の分離・制限、一部判決は許されないことになる。
具体的には、@先決関係にある請求や、A各請求の基礎的法律関係が共通な場合には、許されないと解すべきである
【論点】
物の引渡請求と執行不能の場合の代償請求を併合した場合の関係は
(将来、物の引渡が不能となった場合にそなえて損害賠償の請求も併合する場合)

『結論』 両請求とも両立するから、単純併合(判例は予備的併合とする)
「理由」 引渡請求は基準時における引渡請求権の存在を主張するものであり、代償請求は基準時後の執行不能となったときの代償請求権の存在を主張するものである
◎選択的併合
両立しうる数個の請求のうちの一つの認容を解除条件とする併合
(旧訴が前提、黙示の選択的併合を認めることにより二重判決を防止しうる)
審判方法
一つの請求を認容するときは他の審判は不要。原告を敗訴させるには両請求を審判しなければならない
弁論の制限は可。ただし、性質上、弁論の分離・一部判決は不可
勝訴判決に対し控訴されると、原審で審判されなかった請求を含む全請求が控訴審に移審
【論点】
原告勝訴判決に対して被告が控訴した場合の控訴審での審判の範囲

『結論』 原審で判断されなかった請求についても審判の範囲に含まれる
「理由」 事実関係の資料が共通し、実質的に原審での攻撃防御と審理が保障されているので、被告の審級の利益は害されない
◎予備的併合
両立しない数個の請求に順位をつけて、主位請求の認容を解除条件として副位請求を併合する場合
審判方法
原告の指定した順位に従い審判(もし順位に反すれば、246条違反)
弁論の制限は可。
ただし、性質上、弁論の分離、一部判決(主位請求棄却)は不可
【論点】
主位請求認容判決に対して被告が控訴した場合の控訴審での審判の範囲

『結論』 主位請求のみならず、副位請求についても審判の範囲に含まれる
「理由」 主位請求と副位請求は表裏の関係にあり、副位請求についても実質的に原審での攻撃防御と審理が保障されているので、被告の審級の利益は害されない
【論点】
主位請求棄却・副位請求認容判決に対して被告のみが控訴した場合の控訴審での審判の範囲

『結論』 副位請求のみが審判対象となる(判例)
「理由」 主位請求棄却部分に対する原告の不服申立がない


第二節 請求の後発的複数

訴えの変更
原告が訴訟係属後に当初の審判対象(請求の趣旨・原因)を変更すること
趣旨
原告の利益、訴訟経済(ただし、被告の防御の困難、手続の混乱・遅延のおそれあり)
要件
@ 請求の基礎に変更がないこと
← 被告の防御の困難を防ぐため
A 著しく訴訟を遅滞させないこと
B 事実審の口頭弁論終結前であること
C 客観的併合要件を具備すること(136条)
D 交換的変更の場合は、相手方の同意が必要(261条2項類推)と解されている
【論点】
「請求の基礎」の同一性とは?

『結論』 新旧両請求の利益関係が社会生活上共通であり、旧請求の裁判資料の継続利用が可能であること

「理由」かかる要件は、新請求の裁判資料が旧請求のそれと異なることによる被告の防御の困難を防止するために要求されるものだから
【論点】
訴えの変更をするためには常に請求の基礎の同一性がなければならないか

『結論』 被告が同意した場合、相手方の陳述した事実を新請求の原因とする場合は不要

「理由」 請求の基礎の同一性の要件は、被告の防御の困難を防ぐことを目的としている
【論点】
2000万円の損害賠償を1000万円に縮減する場合、どういう手続をとればよいか?

『結論』 訴えの変更ではなく、訴えの一部取り下げ(判例)
←一部請求肯定説を前提とする
反訴
係属中の本訴の手続内で、関連する請求につき被告(反訴原告)が原告(反訴被告)に対して提訴する訴え
趣旨
当事者平等の原則の要請、審理の重複・裁判の矛盾抵触を防止
要件
@ 本訴の事実審の口頭弁論終結前であること
(控訴審での反訴提起については、原告(反訴被告)の審級の利益との関係で、その同意または応訴を要する(300条))
A 反訴請求が本訴請求または本訴の防御方法と関連すること
イ) 本訴請求と関連する場合
→両請求が権利内容や発生原因において法律上・事実上共通
[例] 所有権に基づく明け渡し請求に対して賃借権確認の反訴、両請求が同一事故に基づく損害賠償請求である場合など
ロ) 本訴の防御方法と関連する場合
→反訴請求が本訴請求を理由なからしめる事実と内容や発生原因で共通
[例] 物の返還請求に対し、留置権の抗弁を提出し、その被担保債権の支払請求をする場合、金銭支払請求に対し、相殺の抗弁を提出し、相殺に供した額を超える部分の給付を請求する場合
B 著しく訴訟手続を遅滞させないこと
C 反訴請求が客観的併合要件を具備していること
D 反訴請求が他の裁判所の専属管轄に属しないこと(専属的合意管轄は含まない)
中間確認の訴え
訴訟係属中に、当該請求の当否の判断の先決関係たる権利・法律関係の存否について確認を求める訴え
趣旨
先決関係に既判力を及ぼし、別訴による訴訟不経済・裁判の不統一を回避
要件
@ 先決関係にある法律関係につき当事者間に争いのあること
A 事実審の口頭弁論終結前であること
B 確認請求が客観的併合要件を具備していること(136条)
C 確認請求が他の裁判所の専属管轄に属さないこと(専属的合意管轄は含まない)