第七編 上訴・再審

第一章 上訴

第一節 上訴総説

上訴
当事者が裁判の確定前に、上級裁判所に対して原裁判の取消・変更を求める不服申立

いわゆる「裁判の変更」の一場面、裁判の自己拘束力(自縛性)の例外
目的
@ 下級審の不当な裁判の是正→当事者の救済→判決の正当性と信頼性を確保
A 最高裁による法令の解釈適用の統一
 の二つの目的がある
上訴理由
原裁判に対する上訴人の不服申立(=原裁判の取消・変更の要求)
上訴の種類
(イ) 終局裁判に対する不服申立
→控訴(第二審)
→上告(第三審)

(ロ) 決定・命令に対する不服申立
→抗告(第二審、なお抗告に対する抗告が再抗告(330条))
上訴理由
原裁判に対する上訴人の不服申立、すなわち原裁判の取消・変更の要求
上訴要件
@ 原裁判が不服申立のできる性質の裁判であり、その裁判に適した上訴であること
A 上訴が法定の方式に従い有効であること(訴訟能力の具備など)
B 上訴期間経過前の上訴であること(不変期間)
C 上訴権の放棄や不上訴の合意がないこと
D 上訴人が原裁判によって不利益を受け、「不服の利益」を有すること
効果
@ 確定遮断の効力
A 移審の効力
B 上記@Aの効力の及ぶ範囲は、上訴人の申し立てた不服の範囲に限らず、原判決全体に及ぶ(上訴不可分の効力)


第二節 控訴

控訴
控訴人の被控訴人を相手方とする第一審終局判決に対する第二審への上訴申立行為であり、控訴審手続を開始すること
控訴権
第一審判決に対する不服の当否につき控訴審の判決を求める第一審当事者の異議権
控訴の利益
(不服の利益)
当事者の原審における申立と、判決主文とを比較して、判決主文が申立より不利である場合(全部勝訴していない場合)に認められる(形式的不服説)

← 自らの責任で全部勝訴した者に、相手方や裁判所にとって負担となる上訴による裁判の取消を認める必要はないからである
修正
形式的不服説は一義的で明確であるが、これを形式的に運用すると、当事者の控訴権が害され、権利の実現に不利益を与えるおそれがある

そこで、次のような修正を加える

@ 理由中の判断に不服があっても控訴不可である
しかし、相殺の抗弁ならば控訴可能
←なぜなら、相殺の抗弁については既判力が生じ、それを理由に勝訴しても実質的には敗訴に等しいからである

A 訴え却下判決は全部判決となる。よって控訴不可となるはずである
しかし、訴え却下判決に対して請求棄却判決を申し立てた被告には、不服の利益を認める(判例)
←なぜなら、被告にとって抜本的な紛争解決基準を示す請求棄却判決を得た方が有利だからである

B 離婚訴訟(人訴9条)や、口頭弁論終結前の事由に基づく請求異議の訴え(民執35条2項)のように、別訴が禁止される場合
←争いはあるが、確定判決で全部勝訴していても、権利主張の機会を与えるため控訴を認めるべきである
附帯控訴
すでに開始された控訴審手続の口頭弁論終結までに、被控訴人が控訴人の申し立てた審判対象を拡張して、自己に有利な判決を求める不服申立(293条1項)
趣旨
控訴人が審判対象を拡張しうるのに対応して、当事者平等原則の観点から不利益変更禁止の原則を排除して、非控訴人に審判の範囲を自己に有利に拡張することを認めるもの
控訴審の終了
(1) 訴えの取り下げ、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解

(2) 控訴の取り下げ
 ←控訴人による原判決に対する不服申立の撤回

(3) 終局判決
控訴却下
控訴要件欠缺の場合
控訴棄却
一審判決を正当と認める場合(302条1項)
原判決の理由が不当でも結論が原判決の主文と一致する場合(302条2項)
控訴認容
控訴の理由があり、一審判決を不当と認める場合(305条)
一審判決の手続が法律に違背する場合(306条)

◎ 一審判決が取り消された場合、控訴裁判所が自判するのが原則である

しかし、次の場合は異なる
@ 一審が不適法却下とした判決を取り消す場合 →『必要的差戻し』(307条)
A @の場合の他、事件につき更に弁論をする必要がある場合 →『任意的差戻し』(308条)
B 事件が管轄違いであることを理由として一審判決を取り消す場合→ 『移送』(309条)

加えて、金銭支払請求事件の判決には、原則として仮執行の宣言をしなければならない(310条)
不利益(利益)変更
禁止の原則
控訴は不可分であり、全請求が移審するが、自判や差し戻しにあたっては控訴、あるいは附帯控訴による不服申立の範囲内に限られるのが原則(304条)

→控訴人は不服を申し立てなかった部分につき自己に利益に変更されることはない(利益変更禁止の原則)
また、不服の範囲を超えて不利益な判決を受けることもない(不利益変更禁止の原則)
機能
控訴審判決の効力を基礎づける自己責任と、その範囲の明確化→不意打ち防止


第三節 上告

上告
控訴審の終局判決に対する法律審たる第三審への上訴申立行為(311条1項)
上告理由
上告審が原判決を破棄すべき事由のこと
←上告審は法律審ゆえ、上告理由は法令違反に限られる

(1) 一般的上告理由
(イ) 最高裁上告
「憲法解釈の誤り」「その他の憲法違反」(312条1項)に限られる

(ロ) 高裁上告
上記に加え、「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反」がある場合(312条3項)

(2) 絶対的上告理由(312条2項)
@ 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
A 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与
B 専属管轄に関する規定違反
C 法定代理権・訴訟代理権、あるいは代理人が訴訟行為をするのに必要な授権の欠缺
D 口頭弁論の公開の規定違反
E 判決に理由を付せず、または理由に食い違いがあること
裁量上告制度
上告受理の申立(裁量上告制度)の新設(318条)
←最高裁の負担軽減と、使命への集中を狙って新設された
312条3項(相対的上告理由)については、受理するかどうかは最高裁が決定で決められる
手続
(1) (憲法違反):権利上告

原裁判所に上告状を提出

上告状審査 → 要件欠缺 または 不適法 → 上告却下命令

上告提起 通知書送達

上告理由書提出

上告審 移審

(2) (法令違背、判例違背):裁量上告

原裁判所に受理申立書提出

申立書審査

上告受理通知書送達

最高裁に移審

申立理由書の送達

受理決定(上告とみなされることになる)

上告審の終了
(1) 訴えの取り下げ、請求の放棄・認諾、訴訟上の和解

(2) 終局判決
上告却下
上告が不適法な場合(317条)
上告棄却
上告理由が認められない場合(319条)
上告理由があっても他の理由から同一結論となる場合(302条2項準用)
上告認容
上告理由を認める場合

◎上告が認容され、原判決が破棄された場合は、次のような判決になる
@ 破棄差し戻し(325条)
A 破棄移送(325条)
B 破棄自判(326条)


第四節 抗告

抗告
判決以外の裁判である決定・命令に対する独立の上訴方法
判決=裁判所の裁判であって、原則として口頭弁論に基づいて行う
決定=裁判所の裁判であって、口頭弁論に基づくことを要しないもの
命令=裁判官の裁判であって、口頭弁論に基づくことを要しないもの

(1) 通常抗告
抗告を提起すべき期間が限定されず、原裁判の取消を求める利益(抗告の利益)がある限り、いつでも提起できる

(2) 即時抗告
裁判が告知された日から一週間以内に提起しなければならず、即時抗告の提起により原裁判の執行停止の効力が生じる
再抗告
抗告審の終局判決に対する法律審への再度の抗告であり、抗告審の決定に憲法解釈の誤りなど憲法違反、または、決定に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があることを理由とする場合に限り認められる(330条)


第五節 特別上訴

特別上訴
高等裁判所が上告審としてした終局判決に対し、憲法判断の誤り、憲法違背ある場合につき認められる上告(327条)
特別抗告
不服申立のできない決定・命令について、憲法違反を理由として最高裁判所に抗告すること(336条)

*両者合わせて特別上訴という。通常の上訴では最高裁の審判を受ける機会のない事件につき、違憲を理由とする最高裁への不服申立の途を開くもの


第二章 再審

再審
確定した終局判決に対して、重大な手続上の瑕疵、または判決の基礎たる資料の異常な欠陥などがあったことを理由として、当事者がその判決の取消と事件の再審理を求める、独立の訴えによる非常の不服申立方法(338条)
制度趣旨
確定判決の効力を維持する必要性(法的安定の要求)にもかかわらず、当事者の権利保護の観点、適正な裁判とそれに対する信頼保護の観点から認められる
再審事由
(イ) 判決内容への影響の有無を問わないもの(絶対的上告理由(312条2項1号2号4号)に該当する場合(338条1項1号〜3号)

(ロ) 判決主文に影響を及ぼす場合に限るもの
@ 裁判の資料につき可罰的行為があった場合(4号〜7号)
A 判決の基礎たる裁判・行政処分の変更(8号)
B 重要な事由についての判断の遺脱(9号)
C 確定判決との抵触(10号)