・民事訴訟法−他の紛争処理手続との比較、訴訟の非訟化 ・民事訴訟の目的論 ・民事訴訟と信義則−発現例 ・法定管轄の種類、区分の視点 ・訴えの主観的併合と併合請求の裁判籍 訴訟の移送 訴訟が特定の裁判所に係属した後に、受訴裁判所の裁判に基づいて当該訴訟が他の裁判所に係属させられる場合、その裁判を移送の裁判と呼ぶ。 移送の目的は次の三つ。(1)管轄違いの訴えに対する救済、(2)土地管轄の弾力化、(3)事物管轄の弾力化、である。 種類としては、(1)管轄違いに基づく移送(16条)、(2)損害または遅滞を避けるための移送(17条)、(3)簡易裁判所から地方裁判所への移送(18条・274条)。(4)申立および同意に基づく必要的移送(19条)、がある。 ・合意管轄−民法の類推適用の可否 当事者が管轄の合意(11条)をなしたが、その合意に意思表示の瑕疵があった場合、どうなるか。管轄の合意に民法の類推適用があるかが問題となる。 そもそも、訴訟行為については、表示・外観主義を優先しないと、手続の安定性、明確性が害されることとなるので、民法の類推適用は原則として否定すべきである。 かように解しても、当事者には撤回自由の原則があるし、場合によっては、338条1項5号の規定を使って訴訟行為の効力を否定することも可能だから不都合はない。 だが、訴訟前・訴訟外の訴訟行為の場合は、訴訟手続とは直接の関連性がないので、これに類推適用を認めても、さほど手続の安定性は害されない。そこで、例外として、民法の規定の類推適用により、無効取消の主張が許されるとするのが妥当である。 管轄の合意は、訴訟上の合意(訴訟契約)としての訴訟行為の一種である。 よって、管轄の合意に瑕疵(意思無能力・錯誤等)があった場合は、無効ないし取消となる。 ・付加的合意か専属的合意か不明な場合 ・専属的合意と移送の可否 ・国際裁判管轄−裁判権の及ぶ人的・物的限界 ・除斥・忌避事由の存否の確定とそれ以前の訴訟行為の効力 ・忌避権乱用への対処−刑訴24条2項の類推適用の可否 ・当事者の確定の基準 訴訟手続における行為主体としての当事者の地位が明らかでない場合、何を基準として判断すべきであろうか。 訴訟において、当事者は判決効を受ける主体であり、また訴訟行為の主体でもあるので、手続保障の見地から、誰が当事者であるかは明確でなくてはならない。 とすれば、訴えの提起は訴状をもってなされるのであるから、誰が当事者かは訴状における表示を基準として定めるのが明確性の上で最も妥当である(表示説)。 ただ、形式的に訴状の当事者欄の表示のみをもとに決定するのではでは、人格の特定に困難を来す場合も少なくない。 そこで、訴状の記載をもとに、請求の趣旨・原因の記載までを考慮して実質的に判断するべきである(実質的表示説)。 確定の効果として、確定された表示者の記載に誤りがあった場合、全体の趣旨からみて同一人物と判断されれば、表示の訂正を要し、たとえ記載はかわらなくとも別人を指しているなら任意的当事者変更の措置を採らなくてはならないとされる。 ・氏名冒用訴訟−原告側冒用 甲が乙の名をかたって訴えを提起した場合、誰が原告となるか。当事者の確定基準が問題となる。 この点、原告または裁判所の意思を基準とする意思説、あるいは当事者らしく振る舞ったかを基準とする行動説があるが、いずれも基準として不明確である。 当事者とは、訴えまたは訴えられることによって判決の名宛人となる者であり、訴訟のすべての手続に関与する者であるから、その確定は重要である。そのためその確定の基準は明確でなくてはならない。 よって、訴状の記載を合理的に解釈して当事者を決定すべしとする表示説が、最も明確な基準を提示できるので妥当である。 とすれば、訴訟係属中に冒用の事実が判明したときは、冒用者を訴訟から排除すべきで任意的当事者変更の問題となる。 ・氏名冒用訴訟−判決が出てしまった場合 甲が乙の名をかたって訴えを提起した場合、誰が原告となるか。当事者の確定基準が問題となる。 この点、原告または裁判所の意思を基準とする意思説、あるいは当事者らしく振る舞ったかを基準とする行動説があるが、いずれも基準として不明確である。 当事者とは、訴えまたは訴えられることによって判決の名宛人となる者であり、訴訟のすべての手続に関与する者であるから、その確定は重要である。そのためその確定の基準は明確でなくてはならない。 よって、訴状の記載を合理的に解釈して当事者を決定すべしとする表示説が、最も明確な基準を提示できるので妥当である。 だが、そうなると、判決の効力は訴状の記載の通りとなるので、被冒用者に判決の効力が及んでしまうことになる(115条1項)。 その場合でも、上訴または再審によって救済を求めうるのだし、その方が法的安定性に資する。よって、表示説の結論は支持される。 ・死者を被告とする訴訟 訴訟係属前、原告または被告として表示された者が死亡し、にもかかわらず訴状が別の者によって受領され、外観上訴訟係属が発生し、訴訟手続が進められた場合、訴訟の効力はどうなるか。誰が当事者となるかが問題となる。 この点、表示説をそのまま適用すれば、当事者は死者ということとなり、訴訟係属は生じえないことになる。 しかし、かような場合、実質的には相続人が当事者となって訴訟行為を行っているのだから、この結論を認めるべきでない。 そこで、訴状全体、ことに請求原因の記載などを考慮して、相続人を当事者とする趣旨が合理的に推認される場合には、死者ではなく、相続人が当事者とされていると解すべきである。 そして、その場合は、(1)死者から相続人への表示の訂正を認める。(2)相続人の訴訟行為は、受継の有無にかかわらず有効として扱う。(3)表示の訂正がなされないままに判決が確定した場合は、判決の更正を認めるといった措置を認めるべきである。 ・当事者能力の趣旨、欠缺の場合の効果 ・法人格なき社団・財団の当事者能力、民法上の組合の場合 ・訴訟能力の趣旨、訴訟無能力者の地位 ・訴訟能力と弁論能力の異同 ・訴訟無能力者の訴訟行為の効果−追認、補正 ・訴訟無能力を看過した判決の効力 ・訴訟無能力を看過した棄却判決に対する控訴、訴訟無能力を理由とした却下判決に対する控訴 ・訴訟上の代理人−趣旨 訴訟上の代理人とは、当事者に訴訟行為の効果を帰属させるために、当事者の名で当事者に代わって、自己の意思決定に基づいて訴訟行為をなし、または受ける者である。 その趣旨は、(1)訴訟無能力者の能力の補充、(2)時間や能力のない当事者の便宜、(3)円滑迅速な訴訟の運営を図ること、である。 訴訟上の代理権の存否については、手続の安定の要請より、明確化・画一化が図られている。 すなわち、(1)代理権の存在は書面で証明を要し(規則15条・23条1項)、(2)代理権の消滅も相手方への通知を要する(36条1項、59条)、(3)法定代理権の範囲(28条)、訴訟委任に基づく訴訟代理権の範囲は明文で明らかにされている(55条)。 代理権の存在はここの訴訟行為の有効要件であるから、代理権欠缺の場合、訴訟行為は無効である。但し、追認があれば遡及的に有効になる(34条2項、59条)。 また、代理権欠缺の場合、裁判所は補正命令を出したり、遅滞のため損害を生ずる恐れのあるときは、一時訴訟行為をさせることができる(34条、59条)。 そして、訴えの提起や訴状の受領にあたって代理権を書く場合は、訴訟要件を書くため、訴えは却下される。 ただし、これを看過してなされた本案判決は当然に無効ではない。本人は上訴・最新によってその判決の取消を求めなければならない(312条2項4号)。 ・法定代理人 訴訟上の代理人は、法定代理人と任意代理人に大別される。法定代理人とは、訴訟上の代理人のうち、その地位が本人の意思に基づかない代理人である。 法定代理人は、包括代理人と個別代理人にわけられる。そして、前者には、実体法上の法定代理人と訴訟法上の特別代理人がある。 個別代理人の具体例としては、監獄の長(102条3項)がある。 実体法上の法定代理人とは、本人との身分関係上当然に法定代理人になる場合である。 例えば、未成年者の親権者・後見人、禁治産者の後見人、民法上の特別代理人などである。 訴訟法上の特別代理人とは、民事訴訟法等の規定に基づき裁判所がここの手続において必要に応じて選任する法定代理人である。 例えば、訴訟無能力者の特別代理人(35条)、証拠保全における特別代理人(236条)、強制執行における特別代理人等である。 法定代理人は、自ら訴訟行為ができない当事者に代わる者であるから、訴状・送達・出頭等手続上本人に準じて扱われる。 ・法定代理人と任意代理人(訴訟代理人) 任意代理人とは、訴訟上の代理人のうち、その地位が本人の意思に基づく代理人をいう。 任意代理人は、包括代理人と個別代理人に分けられる。そして、前者を訴訟代理人という。 訴訟代理人には、訴訟委任に基づく訴訟代理人と法令上の訴訟代理人がある。 任意代理人の個別代理人の具体例としては、補佐人(60条1項)、送達受取人(104条1項後段)がある。 訴訟委任に基づく訴訟代理人とは、特定の事件ごとに訴訟追行の委任を受け、そのための包括的な代理権を授与された訴訟代理人である。 訴訟委任に基づく訴訟代理人は、原則として弁護士でなければならない(54条1項本文)。また、訴訟代理権は、原則として制限できない(55条3項)、反訴の提起などのお特定事項については個別的委任を要する(55条2項)。 法令上の訴訟代理人とは、一定の地位につくことによって、法令が一定範囲の業務について包括的な代理権を認めている訴訟代理人である。例えば、支配人(商38条)船舶管理人、船長などである。 ・訴訟代理人と法定代理人の違い 法定代理には、自ら訴訟行為ができない当事者に代わる者であるから、手続上本人に準じて扱われる。 すなわち、(1)法定代理人は訴状・判決書に当事者と並べて表示され(133条2項1号、253条1項5号)、(2)送達は法定代理人になされ(102条1項)、(3)本人に代わって法定代理人が出頭し(151条1項1号)、(4)法定代理人は訴訟追行について本人の干渉を受けず、(5)法定代理人を尋問するためには、当事者尋問手続によらなければならず(211条)、(6)法定代理人の死亡や代理権の消滅があるときは、訴訟手続は中断する(124条1項3号)。 訴訟代理人は、法定代理人の場合とは異なり、あくまで第三者として取り扱われる。 すなわち、(1)訴訟代理人は訴状・判決書に当事者と並べて表示されることはなく、(2)本人に対する送達も適法であり、(3)本人は訴訟代理人がいても出頭を命じられることもあり、(4)当事者には更正権があり(57条)、(5)訴訟代理人は証人・鑑定人になることができ、(6)訴訟代理人の死亡や代理権の消滅が生じても、訴訟手続は中断せず、(7)訴訟行為にあたる者の知・不知・故意・過失などが訴訟行為の効力に影響を及ぼす場合(24条2項等)には、これらの事由の有無は代理人について判断される(民101条1項) ・法人の代表者の地位、代表者の確定方法 当事者能力を認められる法人等については、自らが訴訟行為をなすことができないので、その代表者によって訴訟行為がなされる。 この意味で、代表者は、訴訟無能力者の法定代理人に準じる(37条)。 代表者としても授権があるか否かについては、登記簿による証明が要求される(民訴規則18)。 代表者でないものによる訴訟行為が行われた場合、特別の授権を欠く場合、および登記簿の提出がない場合については、法定代理人の場合と同様、補正または追認の可能性がある(34条1項2項)。 ・法人の代表者−表見代理の類推適用 法人の訴訟は代表者が追行するのであるが(37条)、法人の登記が実体関係を反映していない場合、登記を信頼して訴えを提起した者は保護されるか。実体法上の表見法理の類推適用があるかが問題となる。 この点について、判例は(1)訴訟行為と実体上の取引行為とは区別され、表見法理は、後者のみ適用されること、(2)商法42条1項但書において裁判上の行為が表見法理の適用外とされていることを理由に、これを否定する。 しかし、(1)訴訟行為は区別されるといっても、代表権の存否は実体法により決せられるのだから、実体法たる表見法理も類推適用の基礎があること、(2)商法42条も不真実の登記に対する信頼を否定するものではないことからみて、否定説には根拠がない。 むしろ、(1)実質的にみて、不真実の登記を放置している法人より、信頼した原告を保護すべきであるし、(2)代表権の存在は職権調査事項であるが、裁判所としては登記を基準とせざるを得ないことからみて、類推適用を肯定すべきである。 ・訴えの意義・種類・性質・機能 訴えとは、原告が裁判所に対して裁判を求める申立をいう(133条1項)。 その意義は、(1)第一審手続の開始、(2)裁判所に対する審判対象の明示、(3)訴訟上の請求(権利主張、判決要求)である。 訴えには、(1)給付の訴え、(2)確認の訴え、(3)形成の訴えがある。 ・給付・確認・形成の訴え (1)給付の訴えとは、特定の給付請求権の存在を主張する訴えである。 給付の訴えには、(a)現在給付の訴えと(b)将来給付の訴えがある。 (2)確認の訴えとは、特定の権利関係の存在または不存在を主張する訴えである。 給付訴訟は積極的に現状の変更の実現を目的とする訴訟類型であるのに対し、確認の訴えは現状の変更を防止・予防する訴訟類型である。これは判決の既判力によって担保される。 (3)形成の訴えとは、一定の法律要件に基づく権利関係の変動を主張する訴えである。 身分関係や会社関係に関する事件などは、利害関係人が多数であり、第三者に対する関係でも明確かつ画一的に変動を生じさせる必要がある。そこで、法は、権利変動に一定の法律要件に加えて、確定判決をも要求することとした。それが形成の訴えである。 形成の訴えには、(a)実体法上の訴え(離婚訴訟・株主総会決議取消の訴え)と(b)訴訟法上の訴え(再審の訴え)がある。 ・訴状の記載事項 訴状とは、原告が訴えを提起するために第一審裁判所に提出する書面である。必要的記載事項と任意的記載事項とがある。 必要的記載事項とは、訴状に記載されていなければ、訴状たる要件を欠くことになる事項である(133条2項)。 具体的には、「当事者」、「法定代理人」、「請求の趣旨」、「請求の原因」があげられる。 当事者の表示が必要なのは、訴訟手続に関与する者を明らかにすると共に、判決の名宛人を明確にする趣旨である。 請求の趣旨の表示が要求されるのは、請求(訴訟物)を特定するために要求される事項であり、これによって請求(訴訟物)及び訴えの種類が特定される。請求の原因の表示が要求されるのも同様である。 これに対し、訴状の任意的記載事項とは、民事訴訟規則によって記載が要求されている等の事項であり、その記載が書けても訴状としての効力に影響のない事項である。 具体的には、規則の53条・54条に規定がある。事前の争点整理のための記載事項が多い。 ・訴状の提出 訴えの提起は、原告が訴状の記載事項を記載した訴状を裁判所に提出してなすのが原則である(133条1項)。 原告は、訴状に必要的記載事項を記載し、訴額に応じた印紙を貼り、副本を添えて、送達費用を予納しなければならない。 但し、簡易裁判所では、口頭の訴え提起が認められている(271条)。 ・訴状の審査 まず、訴訟継続前においては、裁判長が訴状審査をする。 すなわち、事件の配布を受けた裁判長は、訴状の必要的記載事項の具備および印紙の貼付を審査し、そあれらに不備があれば補正を命じ(137条1項)、補正されない場合は命令で訴状を却下する(137条2項)。 次に、訴状の不備を見落とし、訴状が被告に送達され、訴訟継続が生じた後においては、裁判所が訴状審査をする。 すなわち、訴状の必要的記載事項の具備及び印紙の貼付に不備があれば、裁判所が補正を命じ、補正されない場合は、判決で訴えを却下する。 ・訴状の送達 裁判長の訴状審査の結果、欠缺がなければ、あるいは欠缺があっても補正されれば、訴状を被告に送達する(138条1項)。 送達費用の未納や被告の住所表示が不正確なため送達できない場合には、裁判長は補正を命じ、補正されない場合には、命令で訴状を却下する(138条2項、137条)。 送達は、被告に訴状の副本を交付してする交付送達が原則である(101条)。 ただし、交付送達が出来ない場合には、書留郵便に付する送達がなされ(107条)、書留郵便に付する送達もできない場合には、公示送達がなされることになる(110条以下)。 ・形式的形成訴訟の意義、性質、処分権主義、弁論主義の可否 ・境界確定訴訟の性質 ・訴訟係属の意義、効果、発生時期 訴訟係属とは、訴えの提起により生じた、特定の事件が特定の裁判所で判決手続によって審判される状態をいう。 訴訟係属がいつ生じるかについては、争いがあるが、訴訟係属は、被告へ訴状が送達された時に生じると解する。けだし、民事訴訟は二当事者対立構造のもとで紛争解決をする手続であるところ、被告に訴状が送達されて初めて被告に防御の機会が与えられ、二当事者対立構造が生じるといえるからである。 これに対し、訴状提出時とする説もあるが、訴状に不備があり原告が補正に応じなければ裁判長の命令で訴状を却下されるから(137条2項)、訴状の提出だけでは訴訟係属が生じているとはいえないと考える。 訴えの提起により、訴訟係属が生じることによって、訴訟法上効果が生じる。 例えば、二重起訴の禁止(142条)、訴訟参加(42条)、訴訟告知(53条)、また、中間確認の訴え(145条)、訴えの変更(136条)、反訴(146条)が可能となる。 さらに、関連請求の裁判籍の発生(47条、145条、146条)、審判対象の特定が生じる。 ・二重起訴の禁止−趣旨・基準 二重起訴禁止とは、裁判所に係属する事件については、当事者はさらに訴えを提起できないことをいう(142条)。 その趣旨は、(1)二重の起訴追行を強いられる後訴の被告にとって、その負担が甚だしいこと、(2)訴訟経済上も好ましくないこと、(3)裁判の矛盾抵触の危険性があること、等にある。 ところで、二重起訴に該当するのかは、前訴・後訴の事件が同一である場合であるが、この事件の同一性は、(1)当事者の同一性と、(2)審判対象の同一性を各要件とする。 そして、右(2)の要件としては、訴訟物自体の同一の場合であると狭く解する説もあるが、これでは、狭すぎて審理内容の矛盾抵触の危険を避けるには十分でない。両訴の権利関係の基礎となる社会生活関係が同一であり、主要な法律要件事実が共通であれば、同一性を肯定すべきである。 ・二重起訴(重複起訴)の処理 ・一部請求訴訟における残部請求と重複訴訟 ・相殺の抗弁と別訴の提起 既に係属中の訴訟において、相殺を抗弁としている自働債権について別訴を提起することは二重起訴にあたるか。 この点については、相殺の抗弁は既判力を生じるといっても、攻撃防御方法にすぎず、訴訟係属が生じていないこと、等を理由として二重起訴にはならないとする説もある。 しかし、(1)まず、二重起訴の禁止は、現実に既判力が抵触することを前提としたものではなく、そのおそれがある事件について、予め重複審理を防止しようとする原則であり、(2)また、相殺の抗弁では、相殺を以て対抗した額の限度において既判力を有するから、両訴訟の間で既判力の抵触が生じるおそれがある。 よって、二重起訴の禁止の精神から、別訴による請求を禁じて、その場合は、反訴を提起すべきであるとする説が妥当である。 なお、仮に右別訴が提起された場合、裁判所は直ちにこれを不適法却下とすべきではなく、前訴の手続と併合審理すべきである。 ・訴訟物特定の趣旨、基準 ・訴訟物論争の現代的意義 ・処分権主義の意義・根拠・機能 処分権主義とは、訴訟の開始、審判の対象・範囲及び訴訟の維持・終了について当事者に自己決定権を認める原則をいう。 この処分権主義は、実体法上の権利・法律関係がそうであるように、それをめぐる紛争の処理方法についても、私的自治の原則によって律せられるべきことから根拠づけられる。 そして、処分権主義の主要な機能としては、次の三点が指摘される。 (1)紛争解決方式選択の保障機能。当事者には、訴訟を利用するか、それ以外の私的紛争解決方式を利用するかの自由、また訴訟を打ち切るかの自由が保障される。 (2)争訟の対象の自主的形成の機能。当事者が申し立てた事項について訴訟による紛争処理についての自己責任が基礎づけられ、また私益をめぐる事件での裁判所の中立性が確保される。 (3)不意打ち防止の機能。原告の申し立てない事項については裁判できないことは、不意打ちの裁判によって裁判を受ける権利を奪えないという手続保障機能を果たすことになる。 ・訴えの提起と処分権主義 訴えの提起とは、被告に対する請求について裁判所の本案判決を求める原告の行為である。 処分権主義の下では、訴訟の他、和解や調停のうち、いずれの紛争処理方法を選択するかについて当事者の自由に委ねられている(「申立なくば裁判なし」の原則)。 そこで、訴えの提起は原告からの訴状の提出があって訴訟は開始される(133条1項)。これは訴訟制度を利用するか否かの決定を当事者に委ねたものであり、処分権主義の訴えの提起の場面における現れといえる。 もっとも、例外もある。 (1)訴訟費用の裁判(67条・258条2項)や仮執行宣言の裁判(259条1項)等は、付随的裁判であることから、申立がなくてもよい。 (2)また、人事訴訟手続では紛争の対象たる権利の性質が公益に関係し、当事者の自由な処分が許されているものではない以上、そこでは処分権主義は制限されている。たとえば、婚姻取消訴訟では検察官が原告として起訴することができ(744条、人訴19条)、処分権主義が制限されている。 ・処分権主義と申立事項の特定 裁判所は、当事者の申し立てない事項につき裁判をすることはできない(246条)。民事訴訟では、当事者が審判の対象(訴訟物)とその範囲を決定し、裁判所はこれに拘束されるからである。これは、処分権主義の「争訟対象の自主形成機能」と「不意打ち防止機能」の発現である。 申立事項の特定は、原告が訴えの提起にあたり請求の趣旨・原因を訴状に記載することにより(133条2項)、なされる。これによって審判の対象が確定される。 また、審判の対象のみならず、(1)訴えの類型、(2)救済手続、(3)救済順序についても当事者の決定に委ねられる。 さらに、(4)原告が訴えを提起する際に、審判対象を限定し救済の量的範囲を決定することもできる。 これは訴えの提起の場面において、民事訴訟をどの限度で利用するかという権能を当事者に認めるものであり、訴えの提起の場面における処分権主義の現れである。 一部請求の可否については、処分権主義との関連が考慮されなくてはならない。 ・申立事項と判決事項の関係−一部認容判決 債務者が、債権者に対し500万円の債務全額の不存在確認を求めたが、審理の結果100万円の債務が明らかになった場合、裁判所が100万円を超えては債務は存在しないとの「一部認容判決」をする事は、原告の申立の範囲内であることに争いはない。 この場合、訴訟物は、債務全額である。 では、債務者が原告となって、債権者の主張の500万円のうち100万円の債務の存在は認めるが、100万円を超える部分は存在しないことの確認を求める場合はどうか。 結論から言うと、この場合も全部不存在確認の訴えと同様である。 すなわち、裁判所が審理の結果200万円の残債務を確認したときは、原告が400万円の部分は存在しないと申し立てていたのに対し、存在しないのはその一部300万円であるから、500万円のうち200万円を超える部分は存在しないとの「一部認容判決」をなし得る。 この場合、訴訟物は、債務者が認めなかった残額部分ということになる。 ・債務不存在確認訴訟と一部認容 債務者が500万円という上限を示さないで、ただ100万円を超えて債務は存在しないことの確認を求めたが、審理の結果200万円の債務の存在が明らかになった場合に、いかなる判決をなすべきか。申立事項の特定があるかが問題となる。 この点、「請求の趣旨」で債務総額が示されていなくても、訴訟物は「請求の原因」の記載から特定しえるわけだし、それが明確でないならば訴訟物自体が特定されないこととなるのだから、「一部認容判決」が許されるとする説もある(判例同旨か)。 しかし、この場合、原告は残債務の不存在を争っているのだから、残債務が訴訟物のはずである。 とすれば、残債務の額が明示されていない原告の申立は、債権者の防御の利益を侵害することになってしまう。 やはり、不存在確認を求められる債務の総額を請求原因などから明らかにした上で、初めて「原告の残債務は200万円を超えては存在しないことを確認する」という「一部認容判決」をなしえると解すべきである。 ・請求額を明示しない申立の可否−不法行為 裁判所は、当事者の申立事項についてのみ判決しなければならない(246条)。 この申立事項は解釈により拡張されるが、その場合でも、原告にとっても、被告にとっても不意打ちにならないことが基準とされなければならない。 不法行為に基づく損害賠償請求については、賠償額は裁判官の裁量によって決まる部分があることから(例:慰謝料)、請求にあたってこれを明示する必要はないとする説もある。 しかし、原告の要求額の最大限が示されることが、ことに被告の防御の方法・程度等についての態度決定につき手続保障上重要である。 そこで、相当額の支払いを求めるとの請求の趣旨の記載ではなお申立事項は特定されず、そこで常に、原告は要求額の最大限を示さねばならない、と解するのが妥当である(判例同旨)。 ・一部請求の可否、要件(判例) 金銭の給付訴訟において、原告が債権のうち一部の数額についてのみ給付を申し立てる行為を「一部請求」という。この一部請求に対する判決の残額請求は許されるか。右判決の訴訟物は何かが問題となる。 この点、訴訟物は金銭債権の全額であり、その一部について請求棄却判決がおりた以上、残額についても既判力が生じるため、もはや残額請求は許されないとする説もある(伊藤)。 しかし、実体法上一部請求が許されているのに、訴訟においては一部請求が許されないと解するのはバランスを失する。 訴訟における処分権主義はいかなる請求をするかは当事者に委ねられているのだから、金銭債権の分断も許すべきである。 ただし、被告としてもいつまでも後訴の危険にさらされるのは妥当でない。そこで、給付の一部の請求であることが明示されているときに限り、その一部のみが訴訟物になると解し、その場合に限り、残額請求を認めるのが妥当と考える(判例同旨)。 なお、明示の有無は、請求の趣旨、及び請求原因の記載を総合して判断すべきである。 ・一部請求における時効中断の範囲 ・後遺症による損害賠償請求の理論構成 ・訴訟要件の意義、種類、機能 訴訟要件とは、本案判決を受けるための一定の前提要件である。 すなわち、民事訴訟は私的紛争を国家が公権的に解決する制度であるところ、多数の訴訟を適正かつ迅速に処理するためには、本案判決までなすに値する訴訟か否かを予め選別しておく必要がある。そこで、制度説映写としての国家的見地から無駄な審判を避け、能率的な訴訟制度の運営を図るべく、訴訟要件の具備が要求されるのである。 訴訟要件には、(1)裁判権、管轄権などのように、裁判所に関するもの、(2)当事者の実在、当事者能力、訴訟能力、当事者適格などのように当事者に関するもの、(3)訴えの利益、併合訴訟の要件の具備などのように請求に関するもの、等の各種の訴えがある。 訴訟要件は、すでに訴訟法律関係が成立していることを前提とするものであるから、訴訟成立の要件ではなく、本案判決がなされるための要件としての性質をもつ。口頭弁論終結時までに訴訟要件が具備されない場合は、裁判所は訴えを却下する終局判決、訴訟判決を下すことになる。 ・職権調査事項と抗弁事項 職権調査とは、ある事項について当事者の主張がなくとも裁判所が自ら進んで調査しなければならないことをいい、職権探知主義とは、ある事項の判断に必要な資料の収集を、裁判所の職責とすることをいう。 訴訟要件の存否は、職権調査事項であり、かつ一定の訴訟要件については、職権探知主義が妥当する。 訴訟要件については、当事者の主張の有無とは関わりなく裁判所の職権に基づいてその存否の判断を行うものとするのが妥当であるし、より公益性の強い訴訟要件については、判断のための資料も職権によって収集することが妥当だからである。 ただし、被告の利益保護を目的とする訴訟要件については、職権調査の対象とせず、弁論主義に服させる場合もある。 具体的には、不起訴の抗弁、仲裁契約の抗弁、訴訟費用についての担保提供の抗弁(75条)などがこれにあたる。 また、職権調査に服するが、職権探知の対象とならないものとして、任意管轄、訴えの利益、当事者適格などが挙げられる。 ・訴訟要件存否の判断基準時−判断基準事後の訴訟要件の具備・欠缺 ・訴訟要件の審判 本案棄却の結論が訴訟要件の判断よりも先に出た場合、請求棄却判決を出すべきであろうか。それでもなお裁判所は訴訟要件の存否を確認しなければならないかが問題となる。 この点、被告の利益の保護を主たる目的とする訴訟要件(例:仲裁契約の抗弁、任意管轄)や、無益な訴訟の排除を目的とする訴訟要件(例:訴えの利益)の場合には、それらについて判断することなく請求棄却判決をなすことが許されるとする説もある。 しかし、訴訟要件が本案判決言い渡しを裁判所がなすための要件である以上、その判断を経ることなく請求棄却判決の言い渡しを認めるのは問題である。 少なくとも、職権調査に服する訴訟要件については、用いられ得る資料に基づいてその具備を確かめるべきである。また、抗弁事項に属する訴訟要件についても、当事者がその欠缺を主張しているにもかかわらず、裁判所がそれについての判断をすることなく、本案について請求棄却判決をなすことは許されないと解すべきである。 ・各訴訟要件と職権探知主義 各訴訟要件について、職権探知主義をとるか、弁論主義をとるかについては、以下のように各訴訟要件の公益上の要求の強さの程度により異なると解される。 まず、裁判権の有無、専属管轄権、法定代理権の存否、当事者能力、訴訟能力等の公益性の強い訴訟要件については、職権探知主義によるべきである。 これに対して、任意管轄、当事者適格、訴えの利益、併合訴訟の要件の具備、二重起訴の該当性、抗弁事実等の公益性が比較的弱い訴訟要件については 弁論主義によるべきである。 ・訴えの利益の意義、趣旨、将来の給付の訴えの利益−必要がある場合 ・確認の利益の判断基準 ・確認の利益が問題となる場面 ・当事者適格の意義、趣旨、判断基準、欠缺の効果 ・法人の内部紛争における被告適格者 ・任意的訴訟担当の意義、許容性、要件 組合の業務執行組合員は、組合の財産に関する訴訟において当事者として訴えを提起できるか。任意的訴訟担当たる選定当事者(30条)が認められるかが問題となる。 思うに、選定当事者とは、共同の利益に関して共同して訴訟をしようとする多数者の中から選ばれて、総員のために、これに代わって当事者となるものである。そしてそこ選定は、各人の個人的利益を各自の意思に基づいて処理する問題であるから、多数決ではなし得ず、各人の個別的な授権が必要であると解される。 しかし、組合の業務執行役員は、訴訟に関する包括的な与えられてはいるものの、当該訴えについての個別的な授権はなされていない。よって、選定当事者としては訴訟を起こすことはできないと考える。 ・明文のない任意的訴訟担当 組合の業務執行組合員は、組合の財産に関する訴訟において当事者として訴えを提起できるか。明文のない任意的訴訟担当が認められないかが問題となる。 この点、これを全面的に認めては、法が定める弁護士代理の原則(54条)に反することとなるので、許されない。 しかし、思うに、弁護士代理の趣旨は、係争利益に無関係な素人の訴訟追行により訴訟手続が混乱し、権利主体の権利が害され、あるいはいわゆる三百代言の跳梁を招くという事態を防止しようとしたことにある。 とすれば、そのような弊害がなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には、弁護士代理の原則に反せず、明文にない任意的訴訟担当を認めることができるものと解する(判例同旨)。 そこで、(1)他人間の権利関係に関する訴訟について自己固有の利益を有する場合、または(2)権利主体から包括的管理権が与えられ、かつその権利関係について権利主体と同程度、またはそれ以上に知識を有するほど関与がある場合には認め得ると解すべきである。 ・必要的口頭弁論の原則−意義、趣旨、例外 ・公開主義(憲法82条1項)の意義、趣旨、例外、当事者公開の意義 ・双方審尋主義の意義、根拠、具体例 ・口頭主義の意義、趣旨、例外−書面主義 ・直接主義の意義、趣旨、例外、弁論の更新の性質 ・準備書面の意義、機能、効果、準備書面に記載した事実の範囲−間接事実、証拠の申出 ・当事者照会制度の趣旨−163条 当事者照会制度は、争点整理の前提となる事実主張や証拠提出の準備について、釈明権行使などの裁判所の権能の発動によらず、当事者間の直接の応答によってこれを行うことを可能にするとの目的をもったものである。 この制度は、米国のディスカバリーにおける「質問書」の制度を参考にしたものであり、当事者主導型の訴訟運営を目指すものである。 すなわち、旧法の下では、当事者は訴訟関係を明瞭にする場合に限り裁判長に対して釈明権の行使を促すしか方法がなかった。 しかし、この制度によって、裁判所の介入なしに、期日外の当事者の交渉によって当事者が必要とする情報を収集することが可能となった。 これにより裁判所にとっては争点整理についての負担が軽くなるし、当事者にとっても証拠が偏在している場合の証拠収集方法として有効である。 ただ、当事者照会の対象事項は法定の除外事由(163条各号)があるし、回答拒絶がなされた場合は、回答を強制する手段はないので、その場合は裁判所の釈明権に頼ることになる。 ・準備的口頭弁論−意義、利用することのメリット ・弁論準備手続−意義、準備手続との異同、準備的口頭弁論との比較 ・書面による準備手続−新設された趣旨 準備的口頭弁論や弁論準備手続においては、期日において当事者と裁判所が口頭で協議しつつ争点整理を行うことが予定されているが、遠隔の地に居住しているなど、当事者が争点整理のために期日に出頭することが困難な事情がある場合には、裁判所は、当事者の意見を聞いて、書面による準備手続によって争点整理を行うことができる(175条)。 この手続の特徴は、準備書面の提出・交換と、それを補充する電話会議装置の利用によって、書面と口頭陳述を結合することによって、期日を開くことなしに争点整理を認め、それが終結した段階で口頭弁論において裁判所と当事者の間で争点を確認し(177条)、引き続いて集中証拠調べを実施する点にある(182条)。 ・適時提出主義(156条)−意義、趣旨 原告が本案の申立を基礎づけるために提出するいっさいの裁判資料を攻撃法法といい、被告が提出するものを防御方法という。そして両方をあわせて攻撃防御方法という。 そして、攻撃防御方法の提出は、訴訟の進行状況に応じて適時に行われなければならない(適時提出主義:156条)。 適時提出主義の目的は、争点の整理・圧縮を前提とした効率的かつ弾力的な審理の実現を図ることにある。 ということは、攻撃防御方法の提出が円滑な審理の進行を妨げ、相手方に不当な負担を生じさせる場合には、その提出が制限されることもある。 時期に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)、釈明に応じない攻撃防御方法の却下(157条2項)、準備書面等の提出期間の定め(162条)、中間判決(245条)に伴う制限などがこれに属する。 また、弁論準備手続等の争点整理手続終了後の提出には、相手方への説明義務が課されることがあるが、これも適時提出主義に基づくものである。 ・時期に後れた攻撃防御方法−要件 これは当事者の訴訟行為の懈怠に対して制裁を加えて、訴訟遅延を防止する趣旨である。 (1)時期に後れて提出されたものであること (2)それが当事者の故意重過失によること (3)それについての審理によって訴訟の完結が遅延すること ・時期に後れた攻撃防御の対処 当事者の攻撃防御方法の提出時期について全く制限がないとすると、それを訴訟の駆け引きや訴訟の引き延ばし、さらには相手方に対する不意打ちにも利用できることになる。 そこで、次のような制限が設けられている。 1、提出時期による制限 (1)時期に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)。 (2)釈明に応じない攻撃防御方法の却下(157条2項) 2、手続上の制限 (1)弁論の制限による制限(152条1項) (2)中間判決による制限(245条) (3)準備書面制度による制限(161条3項) (4)既判力の遮断効による制限 3、当事者の合意による制限 4、禁反言による制限(2条) ・その他の訴訟資料提出の制限−157条2項、245条、167条等 ・口頭弁論の分離が許されない場合 訴えの併合、反訴、または弁論の併合などの原因に基づいて、一個の手続において数個の請求が審判の対象となっているときは、裁判所は、一個の手続で審理をなし、一個の判決を言い渡すのが原則である。 しかし、審理の輻輳を避けるために裁判所は、ある請求についての審理を請求に関する審理から切り離すことができる。この裁判を弁論の分離と呼ぶ。 分離するか否かは原則として裁判所の裁量に委ねられる。 だが、必要的共同訴訟(40条)、同時審判申出共同訴訟(41条)、および離婚訴訟の本訴と反訴などの場合には、一個の手続で審理することが要求されるので、分離は許されない。選定当事者によって複数の請求が定立されている場合も同様である(144条)。 分離前の訴訟資料・証拠資料は、分離後のそれぞれの手続でも当然に資料とされるが、分離後のそれぞれの手続に上程される訴訟資料・証拠資料は区別され、判決も別個になる。ただし、管轄には影響を生じない。 ・弁論併合の効果 弁論併合前の証拠調べを証拠資料とする場合、援用が必要であろうか。 この点併合によって一つの手続になるのであるから、当然に証拠資料となるとする考え方もある。 しかし、それでは、自己の手続的保障が及ばないところでなされた証拠調べによって自己の判決が決定づけられてしまうことになり妥当でない。 よって、当事者による援用があってはじめて併合後の訴訟においても証拠資料となるとかするべきである。 ただし、併合を促す申立をなした当事者については、その申立の中に援用の意思表示が含まれると解すべきである。 また、自己が当事者として関与した証拠調べの結果については、既に手続保障が与えられているので、援用は要しない。 従って、問題となるのは、請求の主観的併合を生じる場合に、併合の申立をなさず、かつ問題となる証拠資料の形成に関与しなかった場合に限られる。 ・最初の期日において一方当事者が欠席した場合−争点整理手続を経ていた場合の158条の適否 ・続行期日において一方当事者が欠席した場合−158条の適否 ・当事者双方が欠席した場合−口頭弁論を終結できるか、双方欠席が繰り返される場合 ・口頭弁論−主張・陳述の意義 口頭弁論とは、期日に受訴裁判所の公開法廷で、当事者双方が口頭で、本案の申立および攻撃防御方法の提出その他の陳述をすることを意味する(狭義)。 民事訴訟法は、口頭弁論によって裁判がなされなければならないのを原則としている(87条1項)。 まず、口頭弁論においては、原告が訴状の「請求の趣旨」に記載した事項を陳述し、これに対し、被告が「反対の申立」(訴えの却下or請求棄却の申立)等を行う。この当事者の終局判決を求める陳述を「本案の申立」という。 次に、原告と被告は、それぞれの根拠となる法律上・事実上の主張をするとともに相手方の主張に対して態度を明らかにする。 「主張」とは、申立を理由づける判断資料の提出行為であり、「陳述」もこれとほぼ同義で用いられる。 この「主張」には、法的効果についての当事者の認識の報告である「法律上の主張」と、事実に関する知識の報告たる「事実上の主張」とがある。 この「主張」に基づいて裁判は進行する。 ・口頭弁論−原告の法律上の主張 法律上の主張とは、具体的な権利関係の存否に関する自己の認識・判断の報告である陳述をいう。 法律上の主張に対し、相手が認めれば「権利自白」となり、認めなければ、その主張に対して「争う」ことになる。なお、被告側が主張する法律上の主張を「権利抗弁」という。 この「争う」を前提として「事実上の主張」がなされることになる。 ・口頭弁論−事実上の立証 事実上の主張とは、具体的な事実の存否についての自己の認識・判断の報告である陳述をいう。これは、相手方の法律上の主張に対して「争う」ことが前提となる。 原告は、訴訟上の請求を基礎づけるために主張・立証責任を負っている「請求原因事実」(権利根拠規定の要件事実)を、まず主張する。 被告のこれに対する態度は、次の四つ、(1)認める(自白)、(2)沈黙、(3)不知(争うと同様となる(159条))、(4)争う(否認)、である。 被告は、逆に「抗弁」事実を主張することができる。これは、原告の訴訟上の請求を理由のないものにするためのものであるが、主張立証責任も被告の側にある。 原告の抗弁主張に対しては、被告もまた、認める、沈黙、不知、争うの態度をとる。 この原告と被告で「争われた」事実については、証拠による証明を要する(159条)。裁判所はこの採否を判断し(181条)、証拠調べが行われる。 そして、主張と立証が十分尽くされて「事件が判決に熟した」状態になると(243条)、裁判所は弁論終結・判決言渡(250条)をする。 ・防御方法の分類−承認、沈黙、不知、否認 原告の事実上の主張に対する被告の陳述の態様としては、その事実を(1)認める、(2)沈黙、(3)不知、(4)争う(否認)、の四つがある。 まず、否認には単純否認と理由付き否認とがある。 単純否認とは、相手方の主張する事実を直接に否定する陳述をいい、理由付き否認とは、相手方の主張する事実と両立しない事実を主張して間接的に相手方の主張する事実を否定する陳述をいう。 いずれの場合も、原告はその主張事実を証明する必要がある。 次に、被告が不知の陳述をした場合には、否認したものと推定される(159条2項)。従って、陳述の場合と同様に、原告はその主張事実を証明する必要があることになる。 また、被告が原告の主張する自己に不利益な事実を真実と認めると、裁判上の自白が成立し、その事実は証明を要しない事実となる(179条)。 最後に、原告の主張する事実について被告が沈黙した場合は、自白したものとみなされる(擬制自白(159条1項))。 ・訴訟行為一般と私法規定の(類推)適用 ・明文なき訴訟契約の有効性、性質 ・訴訟契約と私法規定の(類推)適用 ・明文なき訴訟契約の具体例 ・訴訟における形成権の法的性質 ・訴訟行為として意味がなくなった場合における私法上の効果 ・職権進行主義の趣旨、訴訟指揮権 ・責問権の意義、趣旨、範囲 ・責問権の放棄・喪失の趣旨、要件 ・訴訟手続の中断の意義、趣旨、停止の効果 訴訟手続の中断とは、法定の中断事由の発生により、手続の進行が禁止される制度をいう。当事者の手続関与の機会を保障するための制度である。 この間は、期間も進行しないし、当事者および裁判所が訴訟行為を行っても、効力を生じない。これに違反した場合には、当事者が手続関与の機会を奪われたものと見なされ、上訴または再審による救済が与えられる(312条・338条)。 ただし、口頭弁論終結後に手続が中断したときには、もはや当事者に訴訟行為をなす機会を与える必要はないので、裁判所は、判決の言い渡しをすることができる(132条1項)。 その法定事由とは次の通り(124条1項・125条)。(1)当事者能力の消滅、(2)訴訟能力の喪失、法定代理人の死亡、法定代理権の消滅、(3)当事者適格の消滅、である。 訴訟手続の中止とは、裁判所または当事者が訴訟行為を行うことを不可能にする事由が発生した場合、その事由が止むまで手続を停止するものである(130・131条)。 ・当事者の死亡による訴訟手続の中断と受継 組合の業務執行組合員が死亡した場合、訴訟手続は中断する。 この中断の制度は、そのような場合に、手続の進行を停止させ、両当事者の手続への関与を確保し「当事者権」を保障して、適正な審理の実現を図ることを目的とするものである。 そして、訴訟に関する権利義務を承継した者が新当事者となり、その訴訟を承継することになる(当然承継)。 この点について明文の規定はないが、訴訟手続の中断や受継に関する諸規定(124条1項等)は右のことを当然の前提としているものと考えられる。 問題は、誰が承継人となるかであるが、組合の場合、組合員の死亡は組合の脱退事由であるから、業務執行組合員の相続人に承継させるわけにはいかない。 そこで、新たな訴訟担当者が選任させるまでは、原則に戻って、組合員全員となるとなると考える。よって、組合員善意が訴訟を受継するまで、訴訟手続は中断することになる。 ただ、訴訟代理人がいれば訴訟手続は中断しない(124条2項)。 ・弁論主義の内容 弁論主義とは、訴訟物たる権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な裁判資料の収集、すなわち事実と証拠の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則をいう(159条、179条、人訴10条、14条、行訴24条、等参照)。 その具体的内容は次の三点。 (1)権利関係を直接に基礎づける事実、すなわち主要事実については、当事者による主張がなされない限り、裁判所はこれを判決の基礎とすることはできない。この原則から主張責任の概念、および判決の起訴となる事実によって構成される訴訟資料と、その認定のための証拠資料の区別などが派生する。 (2)主張事実について当事者の自白の拘束力が認められる。 (3)職権証拠取調の禁止、すなわち事実認定の基礎となる証拠は、当事者が申し出たものに限定される。 これに対して、職権調査の対象事項に属する事実については、(1)および(2)の原則が排除され、さらに(3)の原則も排除されることがある(職権調査事項の中の職権探知事項)。 ・弁論主義の根拠 訴訟物たる私人間の権利関係は、私的自治の原則に服し、当事者の自由な処分に委ねられる。弁論主義は、その権利関係の判断のための裁判資料の収集について私的自治の原則が適用されることを根拠としたものである(本質説)。 なお、私的自治を理念的基礎とする点では、弁論主義と処分権主義は、共通性を持つ。 しかし、弁論主義が事実および証拠にかかわるものであるのに対して、処分権主義は、審判の対象の定立および処分にかかわるものである。 訴訟物の範囲の確定、ならびに訴訟上の和解、請求の放棄・認諾、および訴えの取り下げなどの審判要求の撤回の根拠となる点で弁論主義と区別される。 ・弁論主義と職権探知主義との相違 弁論主義とは、訴訟資料の収集を当事者の権限とする原則である。 具体的には、(1)裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の資料として採用してはならない、(2)裁判所は当事者間に争いのない事実(自白した事実)は、そのまま判決の資料として採用しなければならない、(3)当事者間に争いのある事実を認定するには、当事者の申し出た証拠によらなければならない。 これに対して、職権探知主義とは、訴訟資料の収集を当事者ではなく裁判所の権能とする建前をいう。 具体的には、(1)裁判所は当事者の主張しない事実でも判決の資料として採用できる、(2)裁判所は当事者間に争いのない事実(自白した事実)でも判決の資料として採用しないことができる、(3)裁判所は証拠調べの際に当事者の申し出た証拠の他にも職権で他の証拠を取り調べることができる。 民事訴訟においては弁論主義が妥当する部分が多いが、(1)真実発見の高度の必要性(公益性)、(2)第三者の利益保護の要請、の強い部分では、職権探知主義が妥当する。 ・職権探知主義と職権調査事項 職権探知主義とは、証拠資料の収集を裁判所の権限とする建前である。 それに対して、職権調査事項とは、当事者の申立や異議がなくとも、裁判所が職権で問題として取り上げ判断すべき事項をいう。対立概念として処分権主義が挙げられる。 両者は酷似しているが、職権調査事項かどうかは、ある事項を職権でも考慮しなければならないかに関するものであり、ある事項を判断する場合の基礎となる資料の収集を誰の責任とするかの問題、つまり弁論主義をとるか職権探知主義をとるかとは、次元を異にすると解するのが通説である。 これに対して、職権調査事項とは、自白に拘束されないという意味で弁論主義と異なるが、裁判所は必要があれば当事者の主張、立証を求めうるにとどまる点で、職権探知とも区別されるとして、この三者を同一平面上に並べて理解する立場もある。 だが、現行法上、職権調査と職権探知は相反する観念ではないので、この立場は取り得ない。 ・仮定的主張、仮定的抗弁 一方当事者が前後して相矛盾する事実上の主張ないし抗弁をなすことは許されるか。 本来、一般的な経験則としては、後の主張によって前の主張が取り消されたものとして扱われる。 しかし、複数の主張の順序に当事者が条件を付ける場合には、それが訴訟手続の安定を害する不合理なものでない限り、いずれも訴訟資料として扱われる。これらを仮定的主張または仮定的抗弁と呼ばれる。 裁判所は、法律上は、当事者が付した主張の順序に拘束されるものではない。当事者の意思にも反しないし、攻撃防御方法たる事実についての判断は、判決理由中の判断であり、既判力は生じないので、当事者に不利益が生じないからである。 しかし、相殺の抗弁については、既判力が生じるので(114条2項)、これを先に判断すれば、当事者に不利益が生じるおそれがある。そこで、それが仮定的に主張されているときには、本来的主張が認められない場合にはじめて審判の対象となる。 ・弁論主義−主張責任の意義、配分基準 ・弁論主義−主張共通の原則の意義 ・弁論主義の適用有無の基準−主張責任 民事訴訟においては、弁論主義の建前が採られているが、すべての事実について、弁論主義の適用があるわけではない。 まず、弁論主義によれば、当事者が主張する事実だけが裁判の基礎となり、自己に有利な事実を主張しない当事者は不利に扱われることになる。 この不利益を「主張責任」と呼ぶが、これは主要事実のみ妥当する。 これは、攻撃防御目標の明確化による不意打ちの防止は、主要事実について主張責任を認めれば、一応達成できるし、また、間接事実についてまで、主張責任を認めると、事実認定は不自然に拘束され、自由心証主義(247条)が害される結果、妥当な紛争解決が図れなくなるからである。 ・弁論主義の適用有無の基準−裁判上の自白 民事訴訟においては、弁論主義の建前が採られているが、すべての事実について、弁論主義の適用があるわけではない。 弁論主義によれば、裁判所は、自白された事実をそのまま判決の基礎としなければならず(179条)、また相手方を保護するため、自白者は、原則として自白を撤回することができないことになっている。 このような、自白の拘束力は、主要事実について認められることに問題ないが、間接事実の自白の拘束力については争いがある。 この点、これを肯定する説もあるが、間接事実の自白は裁判所に対しても自白者に対しても拘束力がないと解する(判例同旨)。 なぜなら、自白制度の趣旨が弁論主義に基づいて主要事実についての相手方の証明の負担を免除し、争点を圧縮するところにある以上、間接事実について自白の効力を認めるのは、この趣旨に逸脱する。 また、裁判官が証拠調べなどから疑いを持つ間接事実を前提にして主要事実の心証形成を強いることは、自由心証主義に反し、妥当な紛争解決を妨げるからである。 ・事実に関する弁論主義の適用対象 事実に関する裁判資料の提出は、当事者の責任に委ねられるが、法令の解釈については裁判所が責任を負う。 では、法規の事実への当てはめ、すなわち法的観点はどうか。例えば、不動産の所有権移転の事実について争っている事件について、裁判所が譲渡担保の認定をした場合、当事者が争っていない法律構成を当てはめるケースがそれである。 法的観点は、事実そのものの主張と不可分の関係にある。当事者がある法的観点を前提として、それに当てはまる事実主張をなしているときに、裁判所が同一の事実に基づいて別の法的観点を採用することは、弁論主義違反の問題が生じるものではない。 しかし、それによって当該当事者および相手方の攻撃防御方法に影響が生じる。したがって、弁論権を尊重する趣旨に照らして、裁判所は、釈明権を行使して、法的観点の内容を当事者に対して指摘しなければならない。これを「法的観点摘示義務」という。 ・弁論主義−主要・間接・補助事実の概念 訴訟において認定を必要とする事実は、(1)主要事実、(2)間接事実、(3)補助事実、である。 (1)の主要事実とは、権利の発生・変更・消滅という法律効果の発生に直接必要な事実であり、法律効果を定めている法規の要件事実に該当する事実である。 例えば、貸金返還請求訴訟においては、(1)金銭の交付、と(2)返還の約束、という事実が主要事実である。 この主要事実によって、訴訟物が基礎づけられる。 (2)の間接事実とは、主要事実を証拠によって直接認定することが困難な場合に、経験則を適用することにより主要事実を推認させる事実をいう。 例えば、先の貸金返還請求訴訟においては、「借主はその日以降金回りが良くなった」という事実がそれである。 (3)の補助事実とは、証拠能力や証拠価値を明確にする事実をいう。例えば、承認の信用性や書証の記載の趣旨・目的等がそれである。 ・主要事実と間接事実の取扱(H.3 no.1) 一、主要事実と間接事実 二、弁論主義との関係 1、弁論主義と主要・間接事実 2、裁判上の自白と主要・間接事実 三、その他 1、証明責任との関係 2、要証事実との関係 3、(1)訴状・答弁書その他の準備書面に事実上の主張を記載するには、できる限り、主要事実と間接事実などを区別して記載する必要がある(規則53条2項、79条2項)。 (2)判決の事実摘示に記載すべき事実は、原則として主要事実のみで足り、間接事実の記載は要しない。 (3)主要事実について判断を遺脱すると再審事由となるが、間接事実については必ずしもそうではない(388条1項9号)。 ・弁論主義−不確定概念、代理権の存在の処理 過失や正当事由など、法律要件事実が具体的事実そのものではなく、具体的事実についての評価を前提としたものとして規定されている場合には、主要事実は、評価の対象となる具体的事実とみなされ、弁論主義もそれについて適用される。 また、狭義の一般条項のうち、権利濫用および信義則については、それぞれの評価の前提となる具体的事実が主要事実として弁論主義に服する。ただし、公序良俗違反の評価は、高度の公益性を含むものであるから、この場合には、その内容たる事実が弁論において主張されないときであっても、裁判所は、他の事実から主要事実の存在を推認し、公序良俗違反を認定しうる。 では、代理人による契約締結の事実についてはどうか。 これについて判例は、訴訟物が契約締結の事実であれば、代理人によろうが本人によろうが契約締結の事実に変わりなく、これは主要事実ではないので、当事者の主張無くして裁判所がその事実を認定できるとしている。 ・弁論主義から許容される主張事実と認定事実の不一致の範囲 ・弁論主義から許容される主張事実の解釈の範囲 ・釈明権の意義、趣旨、範囲(伊藤) 裁判所は、訴訟関係を明瞭にするために事実上および法律上の事項に関して当事者に問いを発し、または立証を促すことができる。これを釈明権と呼ぶ(149条1項)。 請求の設定は当事者に委ねられることになるはずであるが、法は弁論主義の修正として裁判所に釈明権を認めたのである。 この釈明権はどこまで認められるか、釈明権の目的をめぐって問題となる。 この点、釈明権は、裁判所が当事者の主張立証における不明瞭を指摘し、是正の機会を与えるものであると狭く解する説もある。 しかし、釈明権の目的はかように消極的なものではない。(1)訴訟において当事者が有する訴訟追行の能力は同一ではないので、裁判所は当事者の公平に配慮しつつ、事実について真実を発見するようつとめなければならないし、(2)また裁判所は法の適用によって正義が実現されるよう、事実や証拠の提出を促すことが要請されるからである。 そこで、釈明権の範囲は、当事者が当然になすべき資料の提出を促す釈明(新資料提出の釈明)も許されると広く解するべきである。 ・釈明権の範囲−消極的釈明と積極的釈明 消極的釈明(当事者が既に申立や主張をしているときに、それらに不明瞭・矛盾・不適当があるときそれを明瞭・是正させる釈明)が含まれることについては争いがない。 問題は、積極的釈明(当事者が未だ申立や主張をしていない場合に、これを示唆・指摘する釈明)がどこまで許されるかである。 積極的釈明も、適正公平な裁判の実現という釈明権制度の趣旨に合致するものであり、原則として認められると解される。 しかし、積極的釈明の行使がいきすぎると、相手方に不公平となる。また、裁判所に釈明権が認められるとしても、訴訟資料の提出の主役はあくまでも当事者である。 したがって、積極的釈明の行使には、限界があり、限界を超えた釈明権の行使は、違法となると解される。 もっとも、釈明権の行使がその範囲を超えて違法と評価される場合であっても、これに基づく当事者の主張・申立や判決は適法であると考える。なぜなら、これを違法とすると、裁判所の釈明を信じて行動した当事者の利益を著しく損なうことになるからである。 ・釈明権と「法律上の事項」 釈明とは、裁判所が訴訟関係を明瞭にするために、事実上および法律上の事項に関して当事者に問いを発し、または立証を促す機能および義務をいう(149条)。 釈明権は、弁論主義の形式的な適用による不合理を是正する点に、役割があるのであるから、少なくとも弁論主義の妥当する範囲においては釈明権も機能する。 のみならず、釈明権は、弁論主義の及ばない範囲をカバーする。例えば、主要事実に影響を及ぼす間接事実なら、釈明権は及ぶと解される。弁論主義が間接事実に及ばないとされる反面として、当事者に手続保障を及ぼさなければならないからである。 さらに、釈明権は、法的評価、法律構成などの法律問題(法的観点)にも及びうるものである。 法規の事実への当てはめ、すなわち法的観点は、事実そのものの主張と不可分の関係にあるからである。したがって、当事者がある法的観点を前提として、事実を主張しているとき、裁判所が別の法的観点を採用する場合には、釈明権を行使して、当事者にその内容を告知し手続の保障を及ぼさなくてはならない。 ・釈明義務の懈怠と弁論主義(伊藤) 裁判所が釈明権を行使すべきであったにもかかわらず、これを怠った場合、どうなるか。 そもそも、釈明権は、裁判所に帰属する権能であるが、当事者の申立に対して判決をなす義務を負っている裁判所としては、事案を解決するために適切に釈明権を行使することは、訴訟上の義務でもある。 もっとも、弁論主義の下では、裁判所の釈明権不行使がすべて違法となるわけではない。 釈明権が行使されなければ不合理な結果が生じる場合であって、かつ適切な申立や主張をなさなかった当事者が右違法を主張するに信義則違反となることが無い場合に限って、釈明義務違反として、上告、または上告受理申立理由となる(312条3項・318条1項)。 当事者の「申立」や「事実」・「証拠」に関する主張に不明瞭な点があれば、釈明義務を認めて差し支えないだろう。 なお、逆に、釈明権の行き過ぎがあった場合には、それが異議によって排除され、あるいは忌避による責任を問われることは別として、釈明権行使にもとづく当事者の主張などが無効とされることはない。 ・釈明義務の懈怠と弁論主義(鈴木) 釈明義務違反の判決は上告の理由となるか。この点、控訴審の場合は、問題は生じない。なぜなら、控訴審は事実審であって、釈明権の不行使は、控訴審で行えば足りるからである。 問題は、上告審で生じる。上告審は法律審だから瑕疵を治癒できないからである。 この点、消極的釈明については、それを認める点に争いはない。 だが、積極的釈明については、その不行使が直ちには上告理由とならず、一定の制約があると解される。 弁論主義の下では、訴訟資料の不提出は当事者の責任であるから、裁判所が釈明権を行使しなかったからといって、すべての場合に上告を認めるのは妥当でないからである。 そこで、(1)もし釈明権が行使されていれば、原審の勝敗が逆転し、判決主文に重大な変更をきたした蓋然性が高い場合で、(2)差し戻し後の手続の資料と差し戻し前の手続の資料の間に密接な関連が認められる場合、と限定して破棄差戻を認めるべきである。判例も、一定の限度で原判決の破棄を認めている。 ・法的観点摘示義務の懈怠と弁論主義(高橋) 裁判所の法的観点の釈明が不十分だった場合、どうなるか。 この点、弁論主義は、もっぱら事実に関するものであると捉えて、事実の法的評価は当事者の主張に拘束されず、裁判所が自由になし得るものであることを厳格に解する立場から、法的観点釈明の不十分は、弁論主義とは無関係であるとし、釈明義務違反で処理される。 しかし、弁論主義を単に事実の面のみをカバーする原則と解するのは、今回のように法的観点が問題となった際、弁論主義の主要な機能である不意打ち防止の機能が及ばないこととなってしまうので、妥当ではない。 そこで、弁論主義とは別に、裁判所は当事者の気づいていない法的観点で裁判しようとするときは、その法的観点を当事者に向かって開示し、当事者と裁判所の間で法的観点ないし法律構成についても十分に議論を尽くさせる義務があると解するべきである。これを「法的観点指摘義務」と呼ぶ。独仏では成文化されている。 この義務に違反した場合は、破棄差し戻し事由となると解される。 ・真実義務の意義、性質、違反の効果 ・釈明権の拡張−新法の対応 ・釈明処分と釈明権の異同 釈明処分は、裁判所自身の行為によって事実関係を明らかにする手段である(151条)。 具体的には、当事者本人等に対して口頭弁論期日への出頭を命じ、当事者の事務処理者や補助者に陳述させ、当事者の所持する文書等の提出を命じ、留置し、検証し、または鑑定を命じ、必要な調査を嘱託する。 訴訟関係を明確にする目的および裁判所がそれを行うという点では、釈明権と類似性があるが、釈明権は裁判所が主張・立証などの訴訟行為を当事者に促す手段にすぎない。 釈明処分の結果として、裁判所が事実関係について一応の心証を形成することはありうるが、これは事件の概要を把握し、争点を整理するための手段であり、手続に関しては証拠調べの規定が準用されるが(151条2項)、心証形成については、争いとなる事実についての証拠調べとは区別される。 ・要証事実の範囲 ・要証事実−経験則、法規 ・弁論主義下での不要証事実−裁判上の自白、擬制自白、顕著な事実の内容 ・裁判上の自白の意義 裁判上の自白とは、口頭弁論または弁論準備手続における(1)相手方主張の事実と一致し、(2)自己に不利益な事実を認める旨の陳述をいう。 ここに自己に不利益な事実の意味については争いがある。 これついて、証明責任の所在を問わず、自白当事者の敗訴につながる可能性のある事実について自白を認める説もある(敗訴可能性説)。 この説によれば、自己が証明責任を負っている事実についても自白の成立が有り得ることになる。 しかし、有利な事実か不利益な事実かが一義的に確定できないところに問題があり、また実質的にも矛盾した陳述をしているにすぎない当事者に対して、自白に基づく拘束力を課することになり妥当でない。 証明責任の有無という明確な基準に基づき、裁判上の自白とは、相手方が証明責任を負う事実について、相手方主張の事実と一致する主張によって、相手方の証明責任の負担を免れせしめるものと解すべきである(証明責任説:判例同旨)。 ・裁判上の自白の意味 裁判上の自白が口頭弁論または弁論準備手続でなされたものであるのに対し、これ以外でなされた自白を「裁判外の自白」と呼ぶ。 裁判外の自白については、自白の事実自体がその対象たる事実を認定するための資料として扱われるだけであり、自白本来の効果が認められるわけではない。 自白の対象は権利関係を基礎づける事実、すなわち主要事実に限定されるのが原則である。 問題となるのは、権利自白である。 まず、(1)具体的事実に関する陳述ではなく、それに対する評価を前提とした法律判断を当事者が陳述する場合(例:「過失を認める」「正当事由の存在を認める」等)がある。 これは、主要事実ではないので、自白とは言えず裁判所を拘束しない。 次に、(2)主要事実に基づく法律効果の成否に関する陳述がなされる場合である。所有権に基づく物の引渡訴訟における、被告が原告の所有権を認める旨の陳述がそれである。(狭義の権利自白) これについては争いがある。 ・裁判上の自白の効果 自白の効果としては、主要事実について自白が成立すると裁判所はその事実につき、証拠による認定が不要となる(179条)。 それどころか裁判所は、自白した事実をそのまま判決の基礎とすべき拘束を受ける(自白の審判排除効)。これは弁論主義による帰結である。 自白は裁判所に対するだけではなく、自白した当事者に対しても効力を有する。すなわち、自白した当事者は原則としてこれに反する事実を主張(撤回)できなくなるのである(自白の不可撤回性)。 これは、自白された事実の立証責任を免れるという相手方が得た利益を当事者の一方的意思によって奪うべきでないからである(相手側の利益の保護)。 また、自己の過去の言動と矛盾した態度をとることは禁反言の原則からして許されないからでもある(2条)。 ・自白の撤回が許される場合 (1)相手方の同意があるときは、自白の撤回は許される(判例)。 (2)自白が相手方又は第三者による刑事上罰すべき行為によって行われた場合(338条1項5号)。 (3)上記のいずれの要件に合致しない場合であっても、自白が錯誤に基づいてなされたときには、その撤回が許される。 自白も当事者の意思に基づく訴訟行為である以上、錯誤による自白の撤回を許さないのは不合理だからである。(ただし、自白自体は事実の報告ないし観念の通知と解され、錯誤規定も類推適用の可否にとどまる) 錯誤の内容は、真実に反するにもかかわらず、真実と誤信して自白の陳述をなしたことである。 判例は、自白された事実が真実に合致しないことの証明がなされた以上、その自白は錯誤によるものと推定され、撤回が許されるとしている。 したがって、錯誤を主張するためには、その前提として自白事実が真実に反することの証明が要求されることになる。 ・自白の対象−自己が証明責任を負う事実 ・自白の対象−対象外とされるもの 自白は、その根拠が弁論主義に求められることから、その対象も、権利関係を直接に基礎づける主要事実に限定されるのが原則である。 (1)したがって、まず権利自白は原則としては、自白の対象外である。 (2)次に、経験則は、事実に関する判断法則として、証明については、事実と同様の取扱をされる。 しかし、自白の対象は、その趣旨から主要事実に限定されるべきものであるから、経験則に関する自白は成立し得ない。実際的に考えても、一般的判断法則の有無・内容を当事者の意思によって決定することは妥当でない。 (3)裁判所に顕著な事実、すなわち公知の事実や裁判所が職務上知り得た事実に反する事実を当事者が認めた場合に自白が成立するかどうかについても争いがある。 ・自白の対象−間接事実・補助事実 当事者が間接事実や補助事実について自白した場合、その効力はどうなるか。 この点、弁論主義の精神を貫いて、その自白は、有効であるとする説もある。 しかし、裁判所が認定するのは主要事実であり、間接事実や補助事実は、主要事実を推認するのに役立つ事実にすぎない。 ここで、間接事実について、自白の審判排除効や不可撤回性を認めれば、主要事実について別の心証を有していた裁判官の判断について不当な制約を課することになる。これは自由心証主義(247条)にもとることになる。 よって、間接事実や補助事実については、自白の対象とはならないと解すべきである(判例同旨)。 かように解しても、右自白の事実は弁論の全趣旨として、裁判官の心証に一定の影響を与えうるから結論の不当性はない。 ・自白の対象−権利自白の意義、成否、要件 ・自由心証主義の意義、根拠 ・証拠共通の原則の意義、根拠 ・心証形成(事実上の推定)の態様 ・自由心証主義の制限−証拠方法 ・自由心証主義の制限−証拠評価 ・自由心証主義の制限−当事者の行為 ・事実認定が違法とされる場合 ・証明責任の意義、趣旨、機能 ・証明責任−主要事実と間接事実 証明責任とは、ある事実が存否不明であるときにも紛争解決を可能とすべく、いずれか一方の当事者が、その事実を要件とした自己に有利な法律効果の発生が認められないことになるという不利益である。 この証明責任は主要事実についてのみ適用があり、間接事実については適用がない。 なぜなら、証明責任は、裁判所が法律効果の発生・変更・消滅の判断をすることを可能にするためのものであるから、法律効果の発生・変更・消滅を直接に規定する法規の構成要件に該当する事実、すなわち主要事実についてのみ定めれば必要十分だからである。 ・証明責任の分配の基準 ・権利根拠事実、権利障害事実、権利滅却事実 ・証明責任転換のための法技術 ・間接反証−意義、機能、問題となる場面 ・相手方の下にある証拠の証拠調べ 民事訴訟を規律する弁論主義の下では、証拠の収集および提出は当事者の権能である。ここから証拠法における当事者対等の原則が導かれる。 しかし、この原則は、両当事者が対等に証明活動を行い、対等に証拠の収集・提出ができるということが前提となる。 よって、この前提が欠如する場合、例えば公害や医療過誤等の現代型訴訟などのように証拠が一方にのみ集中しているような場合に(証拠の偏在)、この原則をそのまま当てはめれば、他方はその証明責任を果たせず敗訴することになってしまう。 しかし、そのような結論は当事者間の実質的平等を害することになり妥当でない。 そこで、当事者間の実質的平等を確保するため、相手方の下にある証拠を証拠調べの対象とする制度が必要とされる。 具体的には、文書提出命令、証拠妨害、模索的証明、違法収集証拠等の制度が設けられている。 ・証拠妨害 証拠妨害とは、証明責任を負わない当事者が故意または過失により証明責任を負う当事者の立証を失敗させまたは困難にさせることをいう。 現行法においては、書証、検証、当事者尋問について、個々的に規定がある(224条等)。この結果、例えば文書提出命令に当事者が従わない場合は、その文書に関する挙証者の主張を真実と認めることができる。 これによって、(1)当事者に相手方の証拠収集を妨害しないことが期待できる(予防的機能)。(2)また、妨害が実際にあったときは、妨害者に不利な事実を擬制することで、実質的公平を図ることができる(回復的機能)。 なお、この証拠妨害の法理を一般化したうえで、当事者の証明妨害行為があったときは、当該立証主題たる事実について、挙証責任の転換がなされるとする説もある。 しかし、証明妨害があったときの効果としては、裁判所は、より低い心証度に基づいて立証主題たる事実を認定(証明度の軽減)できるとしたものと解するのが、妥当である。 ・模索的証明 特定の事実の立証のために当事者が具体的証拠を提示して、それについての証拠調べを裁判所に要求する申立を証拠の申出という。 証拠の申出には、証拠方法および立証事項を特定し、かつ立証趣旨、すなわち両者の関係を具体的に明らかにしなければならない(180条1項、規則99条1項)。 しかし、これを厳格に要求すると、紛争の事実関係を全く知り得ない証明者にとってはかなり酷なことになる。 ことに、いわゆる現代型訴訟においては、その原因解明には専門的技術的知識が要求されるのであり、また、証拠の偏在により原告としてこれを立証することは困難を来すことが多い。 そこで、当事者対等主義を修正し、立証事項の特定が困難なときは、ある程度抽象的・不特定的記載で足りると解することで実質的公平を図るべきである。 ・証拠調べ−唯一の証拠申立と却下 ・文書提出命令義務−「文書」判断基準 当事者が文書提出命令の申立をするには、文書の表示・趣旨・所持者・証明すべき事実・提出義務の原因を書面で明らかにする必要がある(221条1項、規則140条)。 もっとも、「文書の表示・趣旨」については、文書提出命令の手続の利用を容易にするために、当事者の申立により裁判所が文書の所持者に対して明らかにするよう求めることができるものとし(222条)、文書の特定が不十分な申立を許容している。これは証拠の偏在の下、提出命令の対象となる文書は他人の下にあり、当事者は文書の表示・趣旨を具体的に知ることができない場合が通常であるため、文書の特定の要件を緩和したものである。 また、「証明すべき事実」についても、その記載は抽象的・不特定なもので足りると解する。けだし、証拠の偏在という状況下では、当事者は具体的な事実を表示しようとしても不可能ないし困難な場合も少なくないからである。 ただし、挙証者は自己の申立が当てずっぽうなものでないという「手がかり」を示す必要があると解する。 ・新法における文書提出義務の一般化 文書提出命令が認められるのは、相手方に文書提出義務が認められることが必要である。 旧法の下での提出義務は、(1)引用文書、(2)引渡・閲覧文書、(3)利益文書、(4)法律関係文書に限定されていた。 しかし、それだけでは当事者の実質的平等を確保するための証拠収集手段として不十分であるとの批判を受けていたため、新法では、右(1)から(4)までを踏襲したうえで、220条4号を追加して、同号のイロハの場合を除き、文書提出義務を一般義務化し、証拠収集の拡充を図っている。 ・検証協力義務 検証とは、裁判官がその五感の作用で事物の形状・性質・現象・状況を感知し、その判断内容を証拠資料とする証拠調べの一方法である。 当事者が相手方の下にある文書以外の証拠を証拠調べの対象とする方法の一つとして、検証物提示命令(232条)がある。 当事者の申出により裁判所が検証物提示命令を出した場合、物の所持者はこの命令に従わなければならないか。232条は文書提出義務を一般義務化した220条を準用していないため、検証物提出義務の根拠について問題となる。 そもそも、検証物については、原則として目的物の所持を所持人に委ねたまま証拠調べが行われるため、文書よりも所持人の負担は小さいといえる。にもかかわらず、文書について提出義務を認めて、物について認めない理由はないと思われる。 よって、この場合は、証人義務の場合と同様に一般的義務として、所持人は物を裁判所に提出するか、現場における検証の実施を受認するかの検証協力義務を負うと解するべきである。 ・証拠保全−保全の必要性の判断基準 法は「予め証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」がある場合には、証拠保全を行うことができるとしている(234条)。 この点、証拠保全が証拠の保全を目的とした制度であることを重視すれば、廃棄のおそれや改竄のおそれがある等の保全の必要性やその疎明の程度(規則153条3項)については、改竄の前歴があった等の具体的事情を付加し、客観的な改竄のおそれを疎明して行うことが要求されるといえよう。 しかし、証拠保全の機能はそれにつきるものではなく、特に提訴前の証拠保全については、証拠開示機能が重視されるべきである。また、証拠開示を目的とした証拠保全を認めることにより、濫訴の防止や和解の促進という作用も期待できる。 そこで、この立場からは、保全の必要性および疎明の程度を厳格に解する必要はないと解され、廃棄や改竄のおそれは一般的・抽象的なもので足り、その疎明も廃棄や改竄のおそれを一般的・抽象的なおそれで足りると解するべきである。 ・証拠保全の証拠開示機能 証拠保全とは、訴訟における証拠調べの対象となることが予定される証拠方法について、その証拠調べが不能又は困難になるおそれがある場合に、証拠資料を保全するために予め証拠調べを行う手続である。 この証拠保全の機能は本来的には、まさに証拠の保全であるが、その機能はそれにつきるものではない。 特に、証拠開示機能は重要である。 すなわち、証拠の偏在が著しい訴訟の類型においては、原告がその請求や主張を構成するために十分な事実や証拠を把握することが困難である。 そこで、証拠保全の手段を利用することによって、提訴前に相手方の下にある事実・証拠を把握することが可能となるのである。 しかも、これによって、根拠のない訴えの防止、和解の促進、あるいは真実発見などの目的にも資するという利点も生じるのである。 ・訴えの取下げの意義、性質、要件、請求の放棄 訴えの取下げとは、請求について審判要求を撤回する原告の訴訟行為であり(260条)、裁判所を相手とする単独の意思表示である。 原告は、判決の確定に至るまでにその訴えを取り下げることができる(261条1項)。ただし、取下げについては、被告側の同意を得なければならない(261条2項)。これは被告が本案判決を受ける権利を保護する趣旨である。 その効果は、訴訟係属の遡及的消滅であり(261条)、請求の当否について何ら効果が生じない点で請求の放棄とは異なる。 また、請求の放棄は、請求の内容により制限が存する。例えば人訴等のように私的自治に服さない場合がそれである。しかし、訴えの取下げの場合は、そういった制限はない。 これは、訴えの取下げが訴訟係属の遡及的消滅、再訴禁止という効果しか発生せず、請求の存否については何らの効果も生じないため、私的自治の制限にも抵触しないためである。 ・意思表示に瑕疵ある場合 訴えの取下げに錯誤があった場合、この取下げを無効とできるか。訴訟行為たる訴えの取下げに民法の類推適用があるかが問題となる。 この点、原則としては、訴訟行為には民法の意思表示の瑕疵に関する規定の類推適用はないと考える。 なぜなら、(1)訴訟では、手続の安定性および明確を期するため、表示・外観主義が要請されること、(2)当事者の訴訟行為は原則として撤回が自由であり、撤回により行為者の救済は可能となること、(3)撤回が制限される場合でも、再審の規定(338条)の類推適用により、救済が可能となること、が挙げられる。 しかし、訴訟行為のうちでも、訴えの取下げの場合については、例外として、民法の意思表示の瑕疵に関する規定の類推適用を肯定してよいと考える。 なぜなら、訴えの取下げのように訴訟手続を終了させる訴訟行為の場合には、それ以前の行為が積み重なっておらず、手続の安定性は要求されないからである。 よって、この場合は、民法95条の類推適用により、表意者は無効を主張できる。 ・訴えの取下げ契約の有効性、性質(伊藤) 原告が被告に対して訴えを取り下げる旨を約した場合、その事実を訴訟上主張できるだろうか。訴えの取下げの合意の法的性質が問題となる。 この点、判例・通説は、この合意に私法契約としての効力のみを認める一方、権利保護の利益の欠缺を理由として「訴え却下」判決をなすべきであるとする。 しかし、合意の内容が訴訟係属の遡及的消滅である以上、右合意には私法契約と訴訟契約が併存いると見るのが合理的意思解釈であり、その効果としては、訴えの取下げと同様に、訴訟係属の遡及的消滅が生じると解するのが妥当である。 したがって、裁判所は、その効果を確認するために訴訟終了宣言判決を行うべきである。 なお、このような取扱は、訴え取下げの合意に訴え取下げと同一の効力を認めるものであるから、再訴禁止効(262条2項)も類推適用される。 ・訴えの取下の効果−再訴禁止効 訴えの取下げの効力として、再訴禁止効(262条2項)がある。 その趣旨は、紛争解決の機会を自ら放棄した原告に対する制裁である。その結果、不利な本案判決を得た原告が訴え取下げを濫用することを防止する機能を果たすことになる。 そして、この禁止は、原告から訴権を奪うものであるため、職権で調査しなければならないから、これに該当する場合には、再訴は不適法として却下されることになる。 右の再訴が禁止されるには、(1)再訴が前訴と同一であること、(2)本案判決後の取下げであることが必要である。 (1)の「同一性」の判断基準は、当事者の同一性を前提として、訴訟物たる権利関係について判決による紛争解決の機会を原告が放棄したとみられるかどうかによって決せられるべきである。 前訴と後訴の訴訟物が同一であれば、原則として同一の訴えとみなされるが、訴えの取下げ時と比較して、後訴の提起時に訴えの提起を必要とする合理的理由があれば、「同一性」は否定されると考える。 ・訴えの取下げの効果−再訴禁止効(伊藤) 後訴の訴訟物が前訴の訴訟物を前提とする場合、例えば取り下げられた前訴が元本債権を訴訟物とし、後訴がその利息債権を訴訟物とする場合、この訴えは適法であろうか。「同一の訴え」といえるかが問題となる。 この点、「同一の訴え」の判断を既判力の判断と同じく解して、再訴禁止効を肯定する説もある。 しかし、既判力が訴えを禁じる理由は訴訟物について裁判所が矛盾した判断を下すおそれがあるからであるが、再訴禁止効は原告自身の訴訟行為を理由とする。 よって、再訴禁止効は既判力の場合より狭く解するべきである。したがって、訴訟物が同一の場合に限定されるべきである。 ・訴えの取下げについての争い 訴えの取下げの有無、およびその効力は、訴訟係属の消長にかかわるので、裁判所が職権をもって調査することができる。 では、訴えの取下げについて争っている原告は、いかなる手段を採るべきであろうか。 まず、原告が採るべき方法は、期日指定の申立を行うことである。 訴訟係属は訴訟法律関係の基本をなすものであるので、訴えの取下げに関する争いについては、裁判所はかならず期日を指定し、口頭弁論を開いて審理すべきであり、単に期日指定の申立を却下することは許されない。 また、原告は再訴の方法によることも可能である。この場合は、裁判所は再訴禁止効の効力が及ぶか否かの判断で、取下げの効力を判断することになる。 終局判決後に訴えの取下げについて争いが生じた場合は、どうなるか。 訴えの取下げの効力は終局判決の効力に還元されるので、争っている当事者は上訴の手段で終局判決の取消を求める。訴え取下げが不存在とされた場合は、他に上訴の理由がなければ上訴は棄却されると解する。 ・請求の放棄・認諾−訴訟要件の具備の要否 請求の放棄とは、請求の理由のないことを認める旨の原告の意思表示をいい、請求の認諾とは、請求の理由があることを認める旨の被告の意思表示をいう。共に訴訟行為である。 訴えの取下げににているが、確定判決と同一の効力が認められる点で異なる。 放棄・認諾に訴訟要件の具備を要するか争いがある。 確かに、訴訟要件は、本案判決の要件であるから、請求の放棄・認諾の直接の要件ではない。 しかし、放棄・認諾に確定判決と同一の効力が認められる以上(267条)、訴訟要件に関する規定は、放棄・認諾について類推適用されると解するべきである。 したがって、当事者の実在、当事者能力、訴訟能力、権利保護の資格などを欠くときは、放棄・認諾は認められず、裁判所は訴え却下の訴訟判決をすることになる。 しかし、訴えの利益など本案判決による紛争解決の有効性を担保するための訴訟要件は、放棄・認諾に対第三者効が認められる場合でない限り、放棄・認諾の要件とはならない。 ・請求の放棄・認諾の効果−既判力の有無 放棄・認諾の意思表示に瑕疵があった場合、放棄・認諾の効果はどうなるか。 請求の放棄・認諾は調書が作成されれば「確定判決と同一の効力」(267条)をもつとされているため、放棄・認諾調書に既判力があるか否かが問題となる。 この点、これを肯定すれば、再審事由にあたらない限り、当事者は無効を主張できない。 しかし、請求の放棄・認諾は、当事者の意思に基づく自主的紛争解決方法であり、その効果は当事者の意思に瑕疵のないことによりはじめて正当化される。 したがって、請求の放棄・認諾の意思表示に瑕疵がある場合には、再審事由にあたらなくても、放棄・認諾の無効・取消を主張しうると解するべきである。 (訴訟上の和解と同じ議論。そっちの論証を見よ) ・訴訟上の和解、意義、性質、要件 訴訟上の和解とは、訴訟係属中当事者がその主張を互いに譲歩して訴訟を終了せしめる旨の期日における合意をいう(267条)。 期日における、かつ訴訟係属中のものに限られるから、裁判外の和解(民695条)や、起訴前の和解(275条)は、これに含まれない。 また、双方の譲歩が必要である。これがない場合は、請求の放棄・認諾にすぎない。 訴訟上の和解は、処分権主義に基づいて認められる自主的紛争解決のための制度である。処分権主義とは、当事者が訴訟の開始・訴訟物の特定・訴訟の終了・紛争の実体的解決について処分権能を有し、自由に決定できることをいう。 この処分権主義は民事訴訟の対象たる私法上の権利につき認められる私的自治の原則に基づくものであり、民事訴訟制度の本質的原則である。 これによって、当事者は訴訟物たる請求の放棄または認諾をしたり、それについて和解をすることができ、判決よらないで訴訟を終結することができるのである。 ・訴訟上の和解−既判力の有無 和解契約が錯誤により無効であった場合、それに基づいてなされた訴訟上の和解の効力はどうなるか。 法は訴訟上の和解に「確定判決と同一の効力」を認めているため、既判力をも認めているようにも見える。 しかし、和解に対する裁判所の関与は形式的審査にとどまることが多く、実体法上の瑕疵の存否等について十分な審査がなされるわけではないので、その瑕疵の主張を広範に排除することは当事者に酷である。 そこで、判例は、訴訟上の和解は、実体法上瑕疵がなく有効な場合に限り、既判力が認められるにすぎないとするが、既判力が、訴訟行為の有効・無効に関わらず認められる制度でああることと矛盾する。 思うに、既判力の正当化根拠は、手続保障を与えられた以上、当事者は自己責任をとるべきとする点にある。とすれば、訴訟上の和解は当事者間の自主的紛争であり、裁判所の手続保障が十分とはいえず、既判力を認める正当化根拠を欠くというべきである。 そこで、訴訟上の和解の効力には既判力はないと解するべきである。 かように解しても、既判力は「主文」114条1項に生じるものであるが、訴訟上の和解には主文にあたるものはないので、267条の文言に反することとはならない。 ・訴訟上の和解−瑕疵の争い方 訴訟上の和解に錯誤無効を主張できると解しても、どのような訴訟手段を採るべきか問題となる。 この点、錯誤無効により旧訴が消滅するのであるから、当該和解に関与した裁判所が当事者の期日申立の基づき口頭弁論期日を再開するのが合理的にも思える。 この説によれば、旧訴の手続・訴訟資料等を利用できるというメリットがある。 しかし、この説では、上訴審で和解がなされると審級の利益を奪うことになってしまう。 しかし、だからといって、この場合に新たに新訴を提起せよとするのも、旧訴の訴訟資料の流用などのメリットが生かせず、妥当でない。 そこで、この場合は方法を限定せず、当事者は、期日指定申立か、新訴提起の方法か、いずれか有利な方を選択することができると解するのが妥当である。 判例も同様な結論を採っていると考えられる。 ・訴訟上の和解の解除 裁判上の和解の後、当事者に和解契約の不履行が生じたため、和解契約が解除されたとする。この場合の訴訟上の和解の効力はどうなるか。旧訴の復活があり得るかが問題となる。 この点、解除原因が和解の前から存在していたならば、解除によって和解は遡及的に消滅するのだから、旧訴が復活するようにも思える。 しかし、和解の内容を履行しないことによる債務不履行解除の場合は、訴訟上の和解後に生じた事由である。すなわち新たな紛争と見るべきである。 したがって、解除によっても旧訴は復活しないと解するべきである。判例も同様に解している。 ・判決の種類 判決とは、裁判所が行う裁判で、必要的口頭弁論など厳格な手続によるものである。 判決の種類は、ある審級の審理を終了するか否かで、(1)終局判決、(2)中間判決、に分けられ、さらに終局判決は、審理を終結する範囲によって、(a)全部判決・(b)一部判決・(c)追加判決とに分けられる。 終局判決とは、係属中の事件の全部または一部につき、その審級の審理を完結させる判決をいう。 全部判決とは、同一訴訟手続内で審理している事件の全部を完結させる終局判決である。裁判所は事件の全部が裁判をするに熟したときは、全部判決をする(243条1項)。 一部判決とは、同一訴訟手続内で審理している事件の一部を完結する終局判決である。裁判所は事件の一部が裁判をするのに熟したときには、一部判決をすることができる(243条2項3項)。 追加判決とは、裁判所が無意識に一部判決をした場合(判決の脱漏)、その脱漏部分を完結する終局判決である。 ・判決の種類−一部判決の許されない場合 一部判決とは、同一訴訟手続内で審理している事件の一部を完結する終局判決である。裁判所は事件の一部が裁判をするのに熟したときには、一部判決をすることができる(243条2項3項)。 一部判決の趣旨は、訴訟の審理を整理し、当事者に早く事件の解決を示すことにある。そして、かえって不経済・不便な事態を生じさせないためにも、十分な弁論をつくさせるためにも、一部判決をするか否かは裁判所の裁量に委ねられる(243条2項)。 一部判決は終局判決であり独立した上訴の対象となるから、一部と残部が別々の審級の裁判所に属し、判決の矛盾を生じるおそれがある。 したがって、一部判決は、審判の性質上別々に分離できない場合(必要的共同訴訟、独立当事者参加)のみならず、一部判決と残部判決との間に判決の矛盾を生じる場合には許されないと解される。 例えば、予備的併合のうち、主位的請求を棄却するだけの一部判決は許されない。上訴されると、原告が順位をつけたにもかかわらず両請求が認容される危険がある。 ・判決の成立・確定で生じる効力 ・非判決・瑕疵ある判決・無効判決の意義 ・確定判決の騙取と判決の無効 ・既判力の本質・根拠 既判力とは、確定判決の判断に与えられる通用性ないし拘束力をいう。この拘束力は、両当事者だけでなく他の裁判所に対しても及ぶ。 既判力の目的・根拠については、争いがあるが、既判力の目的は、紛争解決基準の安定にあると解し、その根拠は、当事者に対する手続保障にあると解する説(二元説)が妥当である。 既判力の目的たる紛争解決の基準とは、ある権利関係の争いについての裁判所の判断が判決の形で確定した以上は、他の裁判所はこれを紛争解決の基準として尊重し、これと矛盾抵触する判断は、避けるべきである、という意味である。 他方、既判力は、他の事件に対する当事者の他の資料の提出の機会を制限するという形で現れる。とすれば、これを正当化する根拠が必要である。それが手続保障の考えである。 すなわち、当事者は、すでに前訴において特定の権利関係に関して裁判資料提出の機会を与えられ、その結果として一定の判断が確定した以上、後訴においてもその判断の拘束力によって裁判資料提出の機会が制限されてもやむを得ないという意味である。 ・既判力の作用 既判力の訴訟法上の効果は、前訴判決の後訴裁判所の判断に対する拘束力として現れる。 その内容は積極的・消極的作用とがある。 積極的作用とは、前訴判決の訴訟物についての判断、例えば所有権の存在の判断を後訴裁判所が覆すことはできず、逆にそれを前提として後訴の訴訟物、例えば妨害排除請求権や登記抹消請求権の有無について判断しなければならないことを指す。 これに対して、消極的作用とは、既判力ある前訴判決の判断と矛盾する権利関係を基礎づけるための主張立証が当事者に許されず、したがって、裁判所もそれを覆すどころか、それについて審判をすることも認められないことを意味する。例えば、金銭給付を命じる確定判決の執行力を覆滅するための請求異議訴訟において、原告が既判力の基準時前の弁済などの事実を主張することは、この消極的作用に抵触する。 ただ、この二つの作用は、前訴と後訴の訴訟物との関係で既判力の拘束力が作用する形態の違いにすぎず、既判力の本質そのものに関するものではないことに注意すべきである。 ・既判力の作用場面の諸類型 既判力は、当事者が援用しない場合でも、裁判所はその存在を考慮することができる。この意味で、既判力の存在は職権調査事項であり、その証拠資料についても職権探知主義が適用される。裁判所が誤って既判力に抵触する判断を下した場合、後訴判決は、上訴および再審によって取り消される(312・318・338条) 既判力の作用場面は以下の通り。 (1)訴訟物に同一性がある場合 所有権確認の前訴で敗訴した原告が、再び自己の所有権確認を求めて後訴を提起する場合。 (2)訴訟物の先決関係がある場合 前訴において原告の所有権が確認された場合、その原告が今度は同じ所有物について明渡請求の後訴を提起する場合である。 前訴において確認された所有権は既判力をもっているから、後訴の被告および裁判所は、これと矛盾する判断をすることはできない。 (3)訴訟物に矛盾関係がある場合 前訴において原告の所有権を確認した場合、被告が後訴で同一物について所有権を主張する場合がそれである。前訴を否定しないと後訴は成り立たない。 ・訴訟判決と既判力 既判力は、訴訟物たる権利関係についての効力である。そして、それは本来、確定した終局判決がなされることを予定している。 本案判決については、当然既判力が生じるが、中間判決については既判力は否定される。 この点、訴訟要件の欠缺を理由として訴えを却下する訴訟判決についても既判力が認められるであろうか。訴訟判決は、いわば門前払いをする判決なので、どの範囲に既判力がおよぶかが問題となる。 裁判権、当事者適格、訴えの利益などの訴訟要件に関する争いが繰り返されることを遮断するために、既判力を認めるべきである。そして、その効力は、問題となった特定の訴訟要件の欠缺の判断について生じると解される。 なお、既判力を有する裁判は、紛争の終局的解決を担保するため、範囲が広げられている。 例えば、決定や命令については、既判力が生じないのが原則であるが、原告と被告の間の実体関係を終局的に解決するものもあり(69条)、これには既判力が生じると解される。 また、仲裁人が仲裁契約に基づき当事者間の法律関係に判断を示した場合も同様である。 ・形成力の性質−既判力との関係 終局判決のうち、訴訟物に関する本案判決には既判力が認められる。 だが、形成判決については争いがある。 形成判決とは、訴訟の目的たる権利関係の変動(発生・消滅・変更)の請求を認容することを内容とする判決である。 例えば、離婚訴訟などがそれである。 形成訴訟における訴訟物は、変動を生じさせる権利関係の法律要件であり、判決はその存否を既判力をもって確定する。 加えて、形成判決と呼ばれる請求認容判決は、主文中で法律関係変動の宣言を行い、判決の確定に伴って、法律関係を変動させる効力、すなわち形成力を持つことになる。 そこで、形成判決には形成力のみを認め、既判力を否定する見解も有力である。確定の形成判決がなされれば、その宣言通りであってもそれを形成判決の既判力という形で後訴を拘束する必要はないというのが理由である。 しかし、形成力の基礎となる形成権または形成原因の存在を確定する必要があるので、既判力を認めるべきである。 ・既判力の客観的範囲−基準時 確定判決中の裁判所の判断は、当事者によって審判が申し立てられた訴訟物たる権利関係に収斂されるものであり、したがって既判力の範囲は、訴訟物によって画される(既判力の客観的範囲)。 しかし、訴訟物は私人間の権利関係であるから、その内容は、変動・消滅する可能性がある。 そこで、既判力によって確定される権利関係といえど、一定の時点(基準時)を前提とせざるを得ない。 では、基準時はいつの時点にすべきか。 訴訟物たる権利関係の存否について受訴裁判所は、弁論主義の原則によって当事者が提出した事実と証拠に基づいて判断を行う。 当事者が事実と証拠を提出できるのは、事実審の最終口頭弁論終結時までであるから、裁判所の判断資料もこの時点をもって画され、権利関係の存否もこの時点を基準とする(既判力の時的限界)。 後訴裁判所は、この判断を前提として判決を下さなければならず(積極的効力)、また、当事者はこの判断に矛盾抵触するおそれのある訴えを提起することもできない(消極的効力)。 ・既判力の客観的範囲−基準時後の効果 確定判決の既判力は、訴訟の基準時(口頭弁論終結時)における権利関係の存否の判断について生じ、当事者は、後訴において、前訴の基準時前に存在した事実に基づく攻撃防御方法を提出することは許されない(既判力の遮断効)。 では、後訴において、前訴判決の基準時前に発生していた相殺権を行使することは、前訴の既判力によって遮断されるであろうか。 思うに、既判力の基準時が、口頭弁論終結時に求められたのは、当事者は、その時点まで新たな攻撃防御方法を提出できたからである。 しかし、相殺権は、訴求債権自体の瑕疵によるものではなく、遡及債権の消滅という別個の出捐を伴う以上、前訴で当然に提出することが被告に期待しうるとはいえず、防御方法として行使を強制できない。 したがって、相殺権については、基準時前に相殺適状にあっても、基準時後に相殺権を行使して、履行を拒絶することができると解する。 ・既判力の客観的範囲−基準時後(その2) 基準時後の取消権、解除権、相殺権、建物買い取り請求権の行使と遮断効−後訴主張の可能性 ・既判力の客観的範囲−確定判決変更の訴え ・既判力の客観的範囲−原則 既判力の効力は判決主文中の判断に限られ、判決理由には及ばない(114条1項)。 既判力とは、確定判決で判断した事項について当事者が争い、また裁判所が矛盾する判断をすることをゆるさないという拘束力をいうが、この既判力は「主文に包含するものに限り」、すなわち、訴訟物の判断について生じ、判決理由中の判断については生じないのが原則である。 その理由は次の通りである。すなわち、 (1)訴訟物たる権利関係の存否は、当事者が意識的に紛争の対象として審判を求めた事項であり、攻撃防御の目標であるから、この点に判断に既判力を認めれば、当事者の意図にそって、当面の紛争を解決するのに十分である。 (2)また、前提問題たる理由中の判断にまで、既判力を認めると、当事者の意図を超え、不意打ちとなってしまう。 (3)さらに、理由中の判断に既判力を認めないことにより、当事者は自由な攻撃防御方法を行うことができ、裁判所としても柔軟な審理ができることになる。 ・既判力の客観的範囲−相殺の抗弁の例外 相殺については、114条2項により、114条1項の例外が認められている。 それは、相殺の抗弁は訴求債権と無関係の自働債権とを対等額で消滅させる効果を主張するものである以上、その判断について既判力を認めないと訴求債権の存否についての紛争が自働債権の存否として蒸し返され、紛争解決の実効性が確保できないからである。 ・既判力の客観的範囲−相殺の抗弁の範囲 判決が相殺の抗弁を認めた場合、既判力はどの範囲で生じるであろうか。114条2項の意味が問題となる。 この点、(1)訴求債権と自働債権とが存在し、(2)その両者が相殺によって消滅したことが確定すると解する説もある。 (1)原告が、自働債権は、当初から不存在であり、被告が訴求債権の支払義務を理由なく免れたとして、不当利得返還請求をなす場合や、(2)逆に、被告が原告の債権は別の理由で不存在であり、原告が自働債権の支払い義務を理由なく免れたと主張して不当利得返還請求をなす場合に、既判力の遮断効を及ぼせるということを理由とする。 しかし、いずれの主張も、基準時における訴求債権の不存在、又は自働債権の不存在の判断に抵触するので、あえて既判力を拡張する必要はない。 114条2項の「請求の成立又は不成立」を、「基準時における請求の存在又は不存在」と解し、既判力は、請求つまり自働債権の不存在についてだけ生じると解するべきである。 ・相殺の抗弁が通らなかった場合の既判力 判決が相殺の抗弁を認めた場合については、争いはあるが、自働債権の不存在という点について既判力が生じる。 では、判決が相殺の抗弁を認めなかった場合はどうか。裁判所は請求に相対する自働債権が不存在であるという判断を下したのであるから、やはり、この自働債権の不存在という点について既判力が生じる。 なお、114条2項による既判力は、請求に理由があるか否かを判断するのに反対債権の存否を実質的に判断する場合に限って生じる。 相殺の抗弁が時期に後れたものとして却下されたり(157条1項)、相殺が許されない(民法509条等)ため排斥された場合には既判力は生じない。 なぜなら、(1)かかる場合には、反対債権の存否自体が判断されたわけではないので、これについての紛争が既に解決されたということはできない。(2)加えて、これに、既判力を認めることは相殺の抗弁を提出した者の手続保障上も問題があるからである。 ・既判力の客観的範囲−争点効 争点効とは、前訴で当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して下したその争点についての判断に生じる通用力で、同一争点を主要な先決問題とする後訴の審理において、当事者に対してその判断に反する主張立証を許さず、裁判所に対してこれと矛盾する判断を禁止する効力である。 例えば、前訴において、原告が所有権に基づく返還請求をなしたが、被告の賃借権の抗弁が認められたという事例で、後訴において、原告が賃料請求した場合、被告は賃借権の存在を争うことができないという形で現れる。 だが、114条2項という明文がありながら、判決理由中の判断に争点効なる効力を裁判の効力として認めるのは、妥当でない。 むしろ、これは裁判の効力としてでなく、当事者の訴訟行為に対する拘束力と解するべきである。争点効の理論の主要な機能は、信義則に反する当事者の主張・立証を封じることにあるといえるからである。 よって、判決理由中の判断と異なる後訴の提起が信義則(2条)に反するような場合には、その後訴は制限されると解される。 ・争点効−具体的場合 後訴の提起が信義則に反するような場合には、その後訴は制限される。 しかし、信義則は通則としては二条で明文化されてはいるものの、なお一般条項的な概念であるのでその判断基準を明確化し類型化しなければならない。 この点については、信義則が適用される根拠となる指標が、勝訴者・敗訴者で異なるので、以下のように分けて考える。 すなわち、(1)前訴の勝訴者がその利益を維持しながら後訴で前言を翻した主張をする場合には、これが「禁反言の原則」に触れる可能性がある。 また、(2)前訴で自己の主張が認められず敗訴した当事者が、後訴で再び同一問題を持ち出す場合には、これがその点について決着済みと信頼した当事者の利益を害し、不当な蒸し返しとなるので、「権利失効の原則」に反する可能性がある。 よって、信義則の適用にはこれらの可能性の成否を検討して判断すべきである。 争点効−一部請求 前訴一部請求が「因果関係がない」との理由で棄却された。残部について後訴をなし得るか。理由中の判断の効力が問題となる。 この点、前訴で当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して下したその争点についての判断の通用力を争点効として認め、同一の争点を主要な先決問題とした別異の後訴請求の審理において、その判断に反する主張立証を許さず、これと矛盾する判断を制度的に禁止する見解もある。 確かに、判決理由中の判断にかかる制度的な拘束力を認めた方が、紛争解決の実効性を図ることができる。 しかし、拘束力は当事者から裁判を受ける権利(憲32条)を奪うという重大な結果をもたらすのでその要件は明確でなければならないが、争点効は主要な争点の範囲が不明確である。また、これを認めると、必要最低限度の紛争解決基準の定立を確保しつつ、自由で弾力的な当事者の訴訟活動を保障するという114条1項の趣旨を没却するおそれがある。 したがって、争点効のような制度的拘束は否定すべきである(判例同旨)。 ・既判力の主観的範囲−相対効の原則 原告債権者の被告債務者に対する金銭支払い請求訴訟の効力は、保証人に及ぶであろうか。 確定判決の効力は当事者間にのみ生じるのが原則である(相対効の原則・115条1項1号)。これは、(1)私的紛争の解決を目的とする民事訴訟においては、対立する当事者にのみ判決効を及ぼせば足りるし、(2)手続保障の機会のない者に既判力を及ぼすことは、その者の裁判を受ける権利を害するからである。 もっとも、法は、右の相対効の原則の例外として、第三者に対する判決効の拡張を認めている(115条1項2号・3号・4号)。 しかし、「保証人」は、その例外事由にあたらないので、主たる債権・債務者の判決の効力は保証人には及ばないのが原則である。 だが、その結論は妥当でない。 なぜなら、保障債務が主債務に対して附従性を有するものとされている以上(民448条)、主債務の不存在が保障債務の不存在を帰結するのが実体法上の論理であり、かかる論理を訴訟上にも反映させて統一的解決を図るのが妥当だからである。問題は理論構成である。 ・既判力の主観的範囲−承継人の範囲 ・既判力の主観的範囲−既判力拡張と第三者 賃貸人乙に対する建物明渡請求訴訟は、乙の妻子や転借人丙に対しても効力が及ぶであろうか。「請求の目的物を所持する者」(115条1項4号)の範囲が問題となる。 そもそも、既判力が対立当事者間のみに生じるとされているのは、既判力の正当化根拠たる手続保障が当事者のみに与えられているからである。しかるに、単なる請求の目的物の所持人は、その占有につき自己固有の利益を有していない。手続保障を必要とする実質的利益を欠いているのである。 そこで、法は当事者以外の第三者でありながら「請求の目的物を所持する者」には、既判力の拡張を認めているのである。 とすれば、ここにいう所持人とは、手続保障を必要とするだけの実質的利益を有しない者を指すと解するべきである。 したがって、乙の妻子は、乙の賃借権に基づいて占有するのだから、所持人にあたる。 これに対し、転借人丙は、所持人にあたらない。なぜなら、乙の賃借権を基礎に別個独立の法律上の利益を有するからである(賃借人について判例あり)。 ・反射効の意義、肯否 主債務者勝訴判決と保証人や、相殺を認めた判決と不真正連帯債務者など、115条の既判力の相対効の例外にあたらないが、既判力を及ぼす方が妥当な場合がある。 この点、当事者間に既判力の拘束のあることが、当事者と実体法上、依存関係にある第三者に対して、反射的に有利または不利に働く実体法上の効力(反射効)の存在を認め、かかる反射効によって当該紛争の統一的・実効的解決を図ろうとする説がある。 しかし、次に述べるように、既判力を第三者に拡張することによって同様の結果を実現しうる以上、かかる技巧的な構成を採るべきではないと考える。 すなわち、確定判決に既判力が生じ、後訴での矛盾主張が禁止されるのは、既判力による不利益を正当化するだけの手続保障が与えられていたからである。 とすれば、既判力が及ぶと不利益を受ける者に実質的な手続保障があれば、この者に対する既判力が拡張を認めて良いと考える。 115条1項各号が認めたものはその例示であって、これに制限されるものではない。 ・反射効が問題となる具体例 (1)主債務者勝訴判決と保証人 (2)連帯債務者、不真正連帯債務者の一人に対する債権者の請求について棄却判決が確定した場合 (3)合同債務者(商法80条)の一人に対する債権者の請求について棄却判決が確定した場合 (4)賃借人の地位確認訴訟と転借人 (5)共有物についての妨害排除請求と共有者 (6)債務者の特定財産への判決と一般債権者 (7)破産などにおける異議債権者 (8)民事執行手続における配当異議債権者 ・訴えの客観的併合の意義、要件、態様 訴えの客観的併合とは、原告が当初より一つの訴えで数個の請求について審判を求めることをいう。 一つの訴えで紛争が解決できれば、当事者にとって便宜であるし、裁判所にとっても紛争の統一的解決が図られ便宜であるため認められた制度である。 その要件は、(1)同種の訴訟手続(136条)、(2)併合の許容(人訴7条2項等)、(3)管轄権(7条、13条等)、の三つである。 併合の態様は、申立相互間の条件関係によって次の三つに分けられる。 (1)単純併合 「請求Aand請求B」 請求相互間に関連性がない場合、併存関係にある場合に用いられる。 (2)選択的併合 「請求A or請求B」 請求のうちいずれかが認容されることを解除条件として他の請求について審判が申し立てられる場合 (3)予備的併合 「請求A(主位)請求B(副位)」 実体法上両立しない数個の請求につき、あるものは無条件で、他のものは、前者の認容を解除条件として審判を申し立てる場合 ・予備的併合−弁論の併合、一部判決 裁判所が、併合審理をやめ、ある請求の弁論および証拠調べを独立別個の手続で行う旨を命じる処置を弁論の分離という。他方、同一訴訟手続で審理している事件の一部をまず完結することを一部判決という。 単純併合の場合は、すべての請求について判決がなされれば、それは全部判決であり(243条1項)、一部の請求について判決がなされれば、一部判決となる(243条2項)。 選択的併合の場合は、一つの請求について認容判決がなされると、解除条件が成立するので、この判決は全部判決ということになる。 予備的併合の場合は、主位的請求について認容があれば、裁判所は予備的請求について審判する必要はない。これで全部判決となる。 被告が上訴した場合、予備的請求も上訴審に移審し、審判の対象となる。この場合、予備的請求の基礎たる事実はすでに主位的請求で審判済みなので問題ない。 逆に主位的請求棄却、予備的請求認容の判決に被告のみが上訴した場合は、被告の主張が通っても、予備的請求認容の原判決を取消す効果のみが生じる。 ・予備的併合の特色 請求の予備的併合の場合、審理に特色がある。 まず、弁論の分離(152条1項)を許すと、二つの請求が共に認められ、両立しない両請求が認められる可能性がある。そこで、請求の予備的併合の場合には弁論の分離は許されないと解すべきである。 次に、審理の順序は当事者がつけた順序に拘束される。 予備的併合の場合、判決にも特色がある。 主位的請求を認容する判決は全部判決(243条1項)であるが、主位請求のみを棄却する判決は一部判決である(243条2項)。しかし、この一部判決は、主位請求のみが独立して控訴されると弁論の分離と同様、主位請求と副位請求との間で判決の矛盾が生じるから許されないと解する。 ・予備的併合−主位請求認容判決への控訴 一審が主位請求を認容し、副位請求について判断しなかった場合、どうなるか。 まず、主位請求を認容した一審判決に対して被告が控訴すると副位請求もまた控訴審に移審する。なぜなら、主位請求を認容する判決はその審級での訴訟を完結する全部判決だからである。 そして、控訴審が主位請求に理由なしとして一審を取り消すときは、副位請求について差し戻すことなく自ら審判できると解する(判例同旨)。 なぜなら、両請求は密接な関連性を有しており、副位請求も実質的には一審で審理があったものといえ、その審級の利益を害しないし、控訴審においても相手方の同意なくして訴えの変更により請求を追加し得る(297条・143条)からである。 ・予備的併合−主位請求棄却判決への控訴 一審が主位請求を棄却し、副位請求について認容した場合、どうなるか。 まず、原告が控訴した場合、控訴審が主位請求を理由ありと判断したときは、一審判決を全部取消し、主位請求を認容する判決をすべきであると解する(判例同旨)。 これに加えて、副位請求も棄却する判決をすべきであるとする見解もあるが、原告としては主位請求が通ればそれでよいのであって、そのような必要はないと解する。 ただ、この場合、原告が二つの請求認容判決を得たような外観を生じることを防止するため、予備的請求部分を含めた原判決全部を主文で取り消すべきである。 これに対して、被告のみが控訴した場合、第一審において主位請求の棄却部分については控訴審の審判対象となるであろうか。 この点、原告が附帯控訴(293条)しない限り、主位請求は審判の対象とはならないと解するべきである(判例同旨)。 なぜなら、主位請求については被告の不服申立がなく(296条1項・304条)、原告にとって不意打ちになるからである。 ・訴えの変更の意義、趣旨、要件、効果 訴えの変更とは、訴訟の係属中に原告が当初の訴えの内容を変更することをいう。 訴えの変更は、原告にとっては便宜であるし、重複した事実の審理を省けるなど訴訟経済上の利点がある。 他方、訴訟の一回的解決の利益を考えると、被告にも利益がある。しかし、被告の側にとっては自己に不利な訴訟状態の引受を余儀なくされるという不利益も受ける。 そこで、法は(1)「請求の基礎に変更がないこと」(2)「著しく訴訟手続を遅延させないこと」(3)事実審の口頭弁論終結前であること」といった要件を設けている(143条1項)。 (1)は両者の利益の調整のためであり、(2)は公益上の理由に基づく。(3)は、変更は新訴の提起としての実質を持つことによる。 訴えの変更の効果として、旧請求についての裁判資料は、新請求についての資料として使用される。訴えの変更の制度が、訴訟経済上の理由等に基づく以上、当然である。 ・訴えの変更−「請求の基礎」の同一性 訴えの変更には、「請求の基礎に変更がないこと」(143条1項)との要件がある。これは、被告側の防御権の保護のためのものである。 この意味については、二重起訴禁止の要件である事件の同一性(142条)よりは広く、訴訟物たる権利関係を基礎づける事実が同一の社会生活関係に起因する場合だけではなく、これに密接に関連する社会生活関係に起因する場合も含まれると解する。 主要事実や主要争点の共通性とか、事実資料の一体性という表現も可能である。 例えば、所有権に基づく引渡請求を占有権に基づく引渡請求に変更する場合などがそれである(なお、新訴によると、これはそもそも訴えの変更にあたらないことになる)。 なお、この要件は、被告側の防御権の保護のためのものなので、被告の同意があれば、変更は許される。 最後に、訴えの変更がなされても、その要件を欠く場合には、決定で変更を許さない旨を言い渡すことになる(143条4項)。 ・訴えの変更の態様 (1)「追加的変更」 旧請求に新請求を追加するものである。 例えば、所有権確認訴訟に所有権に基づく明渡請求を追加する等である。この追加的変更の場合には、訴えの客観的併合となるから、さらに、単純併合、予備的併合、選択的併合の区別がなされる。 (2)「交換的変更」 旧請求に代えて新請求を追加するもの。 例えば、物の引渡請求をその物の滅失による損害賠償請求に代える等である。 この交換的変更の性質については、追加的変更と「訴えの取下げ」が組み合わされたものであると解されている(判例)。 したがって、交換的変更が成立するには、「訴えの取下げ」(261条)の要件を充たしている必要がある(相手方の同意等)。 なお、旧請求についての時効中断の効力が消滅するかどうかについて争いがあるが、交換的訴えの変更も訴えの取下げに準じて扱うべきである。その場合でも、実体法上同一の権利が問題となっていれば、時効は中断する。 ・反訴の意義、趣旨、要件、効果 ・反訴−請求の基礎の同一性の緩和 ・反訴−控訴審での反訴提起と相手方の同意 ・中間確認の訴え−争点効理論との関係 ・通常共同訴訟の意義、趣旨、要件 共同訴訟とは一つの訴訟手続に数人の原告または被告が関与している訴訟をいう。 かような訴訟を認めれば、統一的な審理・裁判が可能となり訴訟経済上有利であるし、裁判の矛盾抵触の防止に役立つからである。 そして、通常共同訴訟とは、共同訴訟のうち必要的共同訴訟でないもの、つまり各共同訴訟人と相手方との間で判決の合一確定(40条)が必要ない共同訴訟をいう。 通常共同訴訟の要件は、「主観的併合要件」(38条)という。すなわち、 (1)訴訟物が共通 (2)訴訟物が同一の原因による場合 (3)訴訟物が同種の場合 に、これを認めることができる。 通常共同訴訟では、共同訴訟人は、訴訟追行上、他の共同訴訟人から援助されたり、干渉されることがないとするのが原則である。なぜなら、通常共同訴訟は、元来別々の訴訟で解決されてもよい性質の事件が一つの手続に併合されているにすぎないものだからである。 ただ、他の共同訴訟人の訴訟行為が「弁論の全趣旨」(247条)とされる場合はあり得る。 ・通常共同訴訟の認定(52年第2問) 二人への訴訟が共同してなされた場合、または裁判所により併合された場合において、一人の被告が行った事実の主張は、他の当事者にどのような影響を与えるか。 もし右訴訟が固有必要的共同訴訟でなく、また類似必要的共同訴訟でもなければ、通常共同訴訟と認めてよい。そして、通常共同訴訟においては、一方の訴訟行為は他の訴訟当事者に影響を与えない。 すなわち、まず、共同訴訟人の一人に対する判決の効力が他の共同訴訟人に及ぶ場合には、合一確定の要請が認められ、類似必要的共同訴訟となる。 次に、訴訟物たる権利・法律関係の実体法上の管理処分権が共同的に帰属している場合にも、合一確定の必要が認められ、固有必要的共同訴訟となると解される。 上の二つの要件にあたらなければ、右訴訟は通常共同訴訟として、共同訴訟人独立の原則が適用されることとなる。 ・共同訴訟人独立の法則 共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為、および共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。これを共同訴訟人独立の原則という(39条)。 例えば、主債務者と保証人を共同被告とする訴訟において主債務者が弁済の抗弁を提出したとしても、裁判所は保証人について主債務弁済の事実を認定することは、弁論主義に反する。逆に主債務者が債務の自白をしても、その効力は保証人には及ばない。 共同訴訟人独立の原則が適用される結果、判決内容の合一も確保されない。また、一人の共同訴訟人のみに関する上訴によって、確定判決の内容が相互に矛盾したものとなることもあり得る。 通常共同訴訟の法律関係は、このように審判の統一を絶対的に保障しようとするものではないので、裁判所は、共同訴訟関係がかえって適正、かつ迅速な審理の妨げとなるときは、弁論を分離し(152条1項)、共同訴訟関係を解消することが許される。 ・通常共同訴訟−主張共通の肯否 通常共同訴訟の一人の訴訟人が主張した事実は、他の訴訟人にも影響を与えるであろうか。通常共同訴訟における主張共通の肯否が問題となる。 通常共同訴訟は、本来、手続的には全く独立・無関係な複数の訴訟が、たまたま同一手続に併合され審理されるにすぎないばあいである。そこで、共同訴訟人独立の原則が定められたのである(39条)。 これに対し、共同訴訟人独立の原則を修正し、これを各共同訴訟人が他の共同訴訟人の制限を受けないで積極的な訴訟の追行をすることができるとするにとどまると解し、共同訴訟任官の主張共通を肯定する見解もある。 しかし、かかる事実主張の局面において共同訴訟人独立の原則を修正し、共同訴訟人間に主張共通を認めると弁論主義に違反するおそれがある。よって妥当ではない。 よって、原則通り、共同訴訟人の一人のした事実の主張は他の共同訴訟人との関係では効力を生じないと解するのが妥当である。 ・必要的共同訴訟の意義、趣旨、適用原則 ・必要的共同訴訟−合一確定の必要性の意義 ・固有必要的共同訴訟−遺産確認の訴え 相続財産を複数の相続人が相続した場合、遺産確認の訴えは「固有必要的共同訴訟」といえるであろうか。そうだとすれば、各相続人は単独では当事者適格を有せず、弁論の分離ができなくなるので問題となる。 そもそも、固有必要的共同訴訟なる概念が明文もなく認められたのは、訴訟物たる権利関係に多数人が関わる場合、各人が個別に判決を求めることができるとすれば、(1)たとえ判決が出ても、これを単独で執行することはできないし、(2)また、各判決の内容に矛盾が生じる可能性があり、「合一にのみ確定」(40条)することが困難になるからである。 とすれば、固有必要的共同訴訟か否かの判断基準は、原則として、訴訟物たる権利関係・利益についての実体法上の管理処分権が数人に共同して帰属しているか否かで判断すべきである。 本問の訴えは、ある財産が共有関係にあることの確認を求めるものであり、その適格を持つ共有者全員が共同してのみ訴訟追行権を持ち、判決内容にも合一性が要求し得るから、固有必要的共同訴訟の成立が認められる。 ・固有必要的共同訴訟−該当する類型 どういう場合が固有必要的共同訴訟になるかについては、明文がなく解釈に委ねられているが、次のような類型化が可能である。 (1)他人間の法律関係の変更 例;第三者が提起する婚姻無効・取消 (2)数人が共同してのみ管理処分できる財産に関する争い 例;破産管財人や受託者が数人いる場合 (3)共同所有関係に関する争い 例;物や権利が数人に総有的ないし合有的に帰属する場合(判例) なお、共有関係の場合には、「固有必要的共同訴訟」の成立を認めてしまうと、特に原告側の一人でも権利行使に賛成しなければ、他の共有者も権利行使ができないこととなってしまうため、問題となる。 原則としては、各人の持分権や保存行為として処分権限が認められる場合には、単独での当事者適格が認められるので、必要的共同訴訟性は否定される。 だが、共有物全体の権利が問題となっている場合には、肯定される場合が多いだろう。 ・各種共同訴訟の異同 共同訴訟とは、一つの訴訟手続に数人の原告または被告が関与している訴訟をいう。 通常共同訴訟においては、共同訴訟人独立の原則(39条)が適用され、訴訟の合一確定の要請が求められない。 また、訴訟の適正、迅速な審理の妨げとなるときは、弁論の分離(152条1項)も許される。 ところが、固有必要的共同訴訟においては、合一確定が求められる(40条)。 また、弁論の分離も許されていない。 類似必要的共同度証においても同様である。 ところが、同時審判申出共同訴訟においては、多少異なる。 通常共同訴訟に属する類型のうち、共同被告に対する原告の請求が相互に法律上併存し得ない関係にある場合には、原告の同時審判申出(事実審の口頭弁論終結時まで許される)に基づいて裁判所の弁論分離権限が制限されるのである(41条1項)。 だが、訴訟の合一確定の要請はないので、共同訴訟人独立の原則はそのまま適用される。 ・共有関係に関する訴訟 ○「確認訴訟」 共有にあっては、共有者全員が共同して有する一個の所有権たる共有権と、各共有者が所有物全部につき制限された範囲において有する持分権とがある。共有権の確認訴訟は固有必要的共同訴訟であるが、持分権の確認訴訟は各共有者が単独で提起できる(判例)。 ○「給付訴訟」 移転登記の請求については、共有者全員による固有必要的共同訴訟であると解するのが判例の立場であるが、個別訴訟を許すべきとする説もある。 一部共有者による共有物引渡請求・妨害排除請求は、保存行為であるとして個別訴訟を許すのが判例である。また、共同相続人の一人による登記抹消請求も妨害排除請求にあたり、保存行為として個別訴訟を認める。 さらに、判例は、共有物の引渡請求、貸主が数名あるときの家屋明渡請求について、不可分債権の理論により個別訴訟を認めている。 ○「形成訴訟」 他人間の権利関係の変動を生じさせる形成訴訟は固有必要的共同訴訟となる。共有地の境界確定を求める訴訟は固有必要的共同訴訟となる(判例)。 ・主観的予備的併合の肯否 訴えの「主観的予備的併合」とは、数人の又は数人に対する請求が論理的に両立し得ない関係にあって、そのいずれかが認められるか判定しがたい場合に、共同訴訟形態をとりつつ、各請求に順序をつけて審判を申し立てる訴えをいう。 契約の効力を代理人および本人に併合提起する場合(被告側の予備的併合)や、債権の譲受人と譲渡人とが、債権の請求訴訟をする場合(原告側の予備的併合)等がある。 この予備的併合については、(1)特に原告側に有利に作用し、(2)訴訟経済および(3)裁判の矛盾を回避できるという利点もある。 しかし、(1)逆に被告側にとってみれば、予備的被告の地位の不安定にさらされるわけだし、(2)上訴との関係で統一が図れない危険もある。よって、判例はこれを否定していた。 そして、このほど改正により、「同時審判申出共同訴訟」(41条)が創設されることになった。 この改正により、現行法の下ではもはや主観的予備的併合は適法性を主張することはできなくなったと解するべきである。 ・同時審判申出共同訴訟 通常共同訴訟に属する類型のうち、共同訴訟に対する原告の請求が相互の法律上併存し得ない関係にある場合には、原告の同時審判申出に基づいて裁判所の弁論分離権限が制限される。この形態が同時審判申出共同訴訟と呼ばれる(41条1項)。 弁論分離が制限されても、通常共同訴訟にすぎないので、共同訴訟人独立の原則自体は修正されない。 したがって、共同訴訟人の一人に対する上訴の効果は、他の共同証人に及ばないし、主張共通の原則も働かない。 第一審で同時審判関係が成立したにもかかわらず、それぞれの請求について格別に控訴がなされ、その結果、控訴事件が同一の控訴裁判所に格別に帰属するときには、控訴裁判所が弁論の併合を義務づけられる(41条3項)。裁判所の義務として共同訴訟関係を復活させ、同時審判関係を復元しようとする趣旨である。 なお、原告は、同時審判関係がかえって桎梏となると判断するときは、いつでもこれを撤回することができる(規則19条1項)。 ・主観的追加的併合−法の認める場合 主観的追加的併合とは、(1)当事者の訴訟行為により、(2)後発的、つまり訴訟係属が発生した後に成立する、(3)第三者に新たに共同訴訟人としての地位を取得させる手続をいう。 ○第三者の意思に基づく主観的追加的併合 共同訴訟参加(52条)の制度がある。設立無効の訴え等のように、共同訴訟人の一部による訴訟追行が認められるが、他の者も判決効が拡張される関係にあるとき、他の者に当事者として訴訟追行を求める権利を認め、参加申出の形でこれを認めたものである。 ○当事者の意思に基づく主観的追加的併合 係属中の訴訟の当事者が新たに第三者に対する請求を定立し、従来の請求との併合審判を求めることを第三者の引き込みという。主観的追加的併合の一種である。 権利または義務承継人に対する訴訟引受の制度(50・51条)がそれである。 この場合、引き込まれる第三者に対する手続保障が問題となるが、第三者が権利義務の承継人であること、または同一債権に対する差押債権者であることが主観的追加的併合を認める根拠となっている。 ・明文なき主観的追加的併合−訴訟への参加 同一事故に基づく複数の被害者のうちの一人が、他の者が起こしている訴訟に加わり、その請求を追加定立することは可能であろうか。明文がないため問題となる。 この点、これを肯定する説もあるが、否定すべきである。 なぜなら、形式的には、根拠となる条文が存在せず、また実質的には、係属中の訴訟当事者の手続的利益が侵害されるおそれがあるからである。 ただし、併合審理をした方が、紛争の統一的解決が期待できるので、(1)第三者が当事者の一方を相手方とする新訴を提起し、弁論の併合を申し入れたとき、(2)裁判所は共同訴訟の要件(38条)が充たされており、(3)かつ審理の進行に支障が生じない、ことを条件として併合を命じ(41条3項・152条1項)、追加的併合の要請を充たすべきである。 また、固有必要的共同訴訟において脱落している共同訴訟人について問題となった場合は、裁判所は共同訴訟人に本案判決を受ける機会を保障するために併合を命じるべきである。 ・明文なき主観的追加的併合−訴訟引込 連帯債務者の一人を被告として訴えを提起している原告が、他の連帯債務者に対する請求について併合審判を求める場合、あるいは固有必要的共同訴訟において、脱落していた共同被告に対する請求を追加して併合審判を求める場合、これは許されるか。明文のない主観的追加的併合が許されるかが問題となる。 この点、紛争の統一的解決のため、当事者の意思に基づく主観的追加的併合を認めるべきとすることも考えられる。 しかし、これは訴訟に引き込まれる第三者の手続的利益の侵害となるので妥当でない。 では、他の手段はないだろうか。 第三者自身が新訴を提起し、弁論の併合を申し立てたときは、(1)共同訴訟の要件、(2)審理の進行に支障がない、ことを条件に裁判所による弁論の併合を認めるべきである。 ただ、その場合でも、第三者は、従来の裁判資料を自己の不利に援用される可能性があるので、第三者の利益を害しないよう、裁判所は弁論の併合に慎重でなければならない(判例)。 (但し、固有必要的共同訴訟の場合は別) ・補助参加の意義、趣旨、要件 訴訟係属中に、第三者が当事者の一方を補助して訴訟追行のために参加することにより、当事者と並んで訴訟に関与する場合をいう。 補助参加の要件(42条)として、(1)他人間の訴訟の存在、および(2)補助参加の利益、がある。 (1)補助参加者は、訴訟当事者以外の第三者でなければならない。しかし、当事者か否かは請求を基準として決せられるので、例えば共同訴訟人の一人は、他の共同訴訟人との関係では第三者とみなされ、他の共同訴訟人やその相手方のための補助参加人となりうる(判例)。 (2)補助参加の利益とは、法律的なものでなければならないと解される。 ・補助参加の利益の範囲(42条) 問題となるのは、「利益が害される」の意味である。 この点、第三者に補助参加が認められるのは、判決の効力−既判力が、その第三者に及ぶからであると解すれば、この利益が害されるとは、まさに既判力が及ぶ場合に限られることになる。 しかし、補助参加は共同訴訟参加の制度との区別上、訴訟当事者たり得ない場合に認められる制度なので、かように解せば、補助参加制度自体の意味が没却されてしまう。 補助参加人には、完全な当事者としての権能が認められないので、それに応じた程度の関係があれば足りると考えるべきである。 とすれば、他人間の訴訟の帰趨が実際問題として自分の地位に影響を及ぼすような事実上の利害関係があれば足りると広く解するべきである。 具体的には、同一決議に基づいて義務を負う者、同一原因による不法行為責任を訴求される可能性のある者、等も補助参加が許されると解するべきである。 ・補助参加人の地位−被参加人の形成権 (1)従属的性格 補助参加人は、自己の訴訟をする者ではなく、当該訴訟の本来の当事者ではない。従たる当事者である。 それゆえ、当事者ではなることは許されない証人・鑑定等になることができる。 (2)独立的性格 補助参加人は、自己固有の地位で訴訟に関与するため、期日の呼出や訴訟書類の送達等を受けることができる。 (3)補助参加人にできる訴訟行為 補助参加人は、原則として被参加人の勝訴のために必要な一切の訴訟行為をすることができ(45条1項)、それは、被参加人がしたのと同一の効力を生じる。 だが例外として次の行為はできない。 1)私法上の意思表示(取消・相殺・時効援用) 2)訴訟の目的を変更し拡張する行為(訴えの取下・訴えの変更等) 3)被参加人の訴訟に不利益な行為(45条2項) 4)参加当時の訴訟状態上、被参加人もできなくなっている行為(45条1項但書) 5)被参加人の行為と抵触する行為(46条2項) ・共同訴訟的補助参加−補助参加との差異 共同訴訟的補助参加とは、本訴訟の判決の効力が相手方と第三者に及ぶ場合に、第三者が補助参加する場合である。 法は、判決の既判力が第三者に拡張される場合を認めている。この場合、この第三者が当事者適格を有しない場合には、補助参加するしか手段がない。だが、補助参加人は従たる当事者であり、その地位は制限されている。そこで、補助参加人の地位についての特例として認められたのが、共同訴訟的補助参加の概念である。 例として、債権者代位訴訟に参加する債務者や、株主総会決議取消訴訟における取締役などがあげられる。 その特徴は次の通り。 (1)主たる当事者の訴訟行為と抵触する場合であっても、訴訟参加人の訴訟行為が主たる当事者に有利なものであるときには、その効力が認められる。また、補助参加人の訴訟行為と抵触するときに、主たる当事者の不利な訴訟行為の効力が否定される。 (2)補助参加人の上訴期間が主たる当事者とは独立に計算される。 ・補助参加の効力−参加的効力 補助参加にかかる訴訟の裁判は、補助参加人に対してもその効力を有する(46条)。 この「効力」とはいかなる意味であろうか。 この点、これを既判力であると解する見解もあるが、46条の効力には除外事由が定められているが、除外自由を伴った既判力を認めることは、本来一律に定まるべき既判力の本質と矛盾する。 思うに、46条は、補助参加人が十分に攻撃防御方法を尽くしまたは尽くすことが可能であった事項については、後に補助参加人自身を当事者とする後訴が行われた場合、当該事項についての判断は争うことができないとする趣旨である。 とすれば、補助参加人に対する「効力」とは、(1)被参加人敗訴の場合において、(2)参加人と被参加人との間にのみ生じ、(3)判決理由中の判断について生じる、既判力とは法的性質を異にするものと解するべきである(判例同旨)。 ・参加的効力−主観的・客観的範囲 (1)客観的範囲 まず、既判力は訴訟物たる権利関係、つまり判決主文の判断について生じるが、参加的効力は、補助参加人の法律上の地位に対する前提となる判決理由中の判断について生じる。 補助参加人は、後訴において、敗訴した判決理由中の判断に拘束される。 (2)主観的範囲 また、既判力が主たる当事者間で生じるのが原則であるのに対して、参加的効力は、主たる当事者敗訴の場合において主たる当事者と補助参加人との間で生じるのが原則である。 ただし、参加的効力はすべての補助参加人に生じるのではない。 そもそも参加的効力は、訴訟に参加して勝訴を得ようとした以上、その敗訴の責任も分担するのが公平であるとの趣旨に基づく。 とすれば、参加的効力は、すべての補助参加人に生じるのではなく、敗訴の原因となった事実上または法律上の事項に基づき補助参加人が主たる当事者に対して一定の実体法上の責任を負担する場合にのみ問題となると解するべきである。 ・参加的効力の要件−参加人への手続保障 (1)被告保障債務者側に主債務者が補助参加した場合、あるいは、(2)被告主債務者側に保障債務者が補助参加した場合、 被参加者が敗訴した場合、後に補助参加人自身を当事者とする後訴が行われた場合、当該事項についての判断を争うことはできなくなる(46条)。 これは、訴訟に参加して勝訴を得ようとした以上、その敗訴の責任も分担するのが公平であるとの趣旨に基づく。 これに対して、補助参加人に手続的保障が及んでいるとの理由から公平の見地より、相手方と補助参加人との間に既判力や争点効が拡張されるとする説もある(新既判力説)。 すなわち、補助参加人には主張立証の機会が十分与えられているので、(1)については、主債務の存否の判断について、既判力が、保障債務者に対して(ために)拡張されると解し、(2)については、主債務の存否についての理由中の判断が争点効として主債務者に対して(ために)拡張されるするのである。 しかし、ことさらに既判力拡張や争点効の概念を持ち出さなくとも、訴訟行為を信義則(2条)で制限すれば足りるであろう。 ・訴訟告知の意義、趣旨、効果 訴訟告知とは、訴訟の係属中当事者から参加をなし得る第三者に対して、当該訴訟の係属の事実を知らせる制度である(53条)。 (1)告知人にとっての機能は、被告知人に参加を促すことによって、自己の訴訟を有利に導くことが可能となる点にある。仮に被告知人が参加しない場合でも、告知人が敗訴した場合には被告知人に参加的効力を負わせるという点でメリットがある。 (2)他方、被告知者にとっては、告知を受けることによって、補助参加の機会を得られるという、被告知者への手続保障という点でメリットがある。 ・訴訟告知−参加的効力の生じない場合1 訴訟告知を受けても、被告知者は参加を強制されるものではなく、参加するか否かは自由である。 訴訟告知をすると、被参加者が参加しなかった場合でも参加的効力が生じるが、53条4項が46条を準用している以上、46条の規定する例外が訴訟告知にもありえる。 すなわち、(1)告知者の行為と抵触する、あるいは時期に後れた攻撃防御方法として却下される等、既に被告知者が有効に訴訟行為をなすことができない場合や、告知者が被告知者のなしえない訴訟行為を故意または過失により行わなかった場合等は参加的効力が生じない。 ・訴訟告知−参加的効力の生じない場合2 原告が自己の土地について、譲渡無効・代理権不存在を理由に、所有権確認等を求めて訴えたところ、被告は、原告の代理人から右土地を買い受けたと主張した。原告はAに訴訟告知したが、Aは被告側に参加した。訴訟は表見代理を理由に原告敗訴となったが、原告とAの間に参加的効力は生じるか。訴訟告知の意義をいかに解するかが問題となる。 確かに、訴訟告知の存在意義をもっぱら告知者の利益のための制度であると解すれば、被告知者は訴訟に参加して主張・立証を尽くす機会を与えられたのであるから、参加的効力が生じると解すべきことになろう。 しかし、訴訟告知は、告知者の利益だけにとどまらず、被告知者の手続保障のための制度としての存在意義を有していると解される。 とすれば、(1)被告知者が告知者と実体関係からこれと協力して訴訟追行を期待される立場にあり、かつ(2)手続上もその機会を保障されたのに、これを怠った場合にのみ、訴訟告知による参加的効力は生じ、本問のように両者に利害の対立がある場合には生じないと解するべきである。 ・独立当事者参加の意義、趣旨、性質 訴訟の係属中第三者が新たに独立当事者として訴訟法律関係に加入する制度を独立当事者関係という。 例えば、Z所有の土地について、XY間で所有権確認訴訟が争われていたとき、XY間の訴訟の既判力はZには及ばない。だが、Zは、裁判所によって確認された所有権を後訴によって争うことになり、事実上の不利益を免れない。 また、後訴の提起は、訴訟経済上望ましくなく、裁判の統一的解釈を損なう可能性もある。 そこで、法は、紛争を統一的かつ一挙に解決するために、XY間の訴訟に第三者が参加する制度を認めたのである(47条1項、40条)。 なお、この独立当事者参加の法的性質についても争いがある。 そもそも、訴訟は本来二当事者間で争われるのが原則である。 しかし、この訴訟は、三者間の紛争を合一的に確定(47条1項で必要的共同訴訟の規定を準用)することが求められるのであるから、その法的性質は、特殊な三面訴訟であると解される。 ・独立当事者参加−詐害防止参加 独立当事者参加の形態としては、詐害防止参加(47条1項前段)と権利主張参加(同後段)がある。詐害防止参加とは、「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者」が、例えば、Zの所有物について、XYが、共に馴れ合った訴訟を行っていた場合等に認められる。 いかなる場合に「害される」といえるかについては争いがある。 そもそも、補助参加の制度がありながら、「害される」場合に独立当事者参加の制度を法が認めたのは、当事者が参加人を害する意思で訴訟を起こした場合には、従属的な参加しかできない補助参加の制度では、彼らを牽制するに十分とはいえないからである。 とすれば、「害される」とは、当事者がその訴訟を通じ参加人を害する意思を持つと客観的判定される場合であると解される。 ・独立当事者参加−権利主張参加 権利主張参加とは、「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」が、参加する訴訟である。 いかなる場合にこれが認められるか。 そもそも、独立当事者参加が認められたのは、訴訟に利害関係を有する者についても参加を認めることで、紛争を一挙統一的に解決することが、訴訟経済上からも、裁判の統一的解釈からも望ましいからである。 とすれば、権利主張参加が許されるためには、参加人の請求およびそれを理由づける権利主張が、本訴の請求またはそれを理由づける権利主張と論理的に両立し得ない関係にあることが必要と解される。 かような場合こそ、紛争を一挙統一的に解決する必要性・合理性が認められるからである。 ・独立当事者参加−片面的参加の明文化 権利主張参加しようとする者が、当事者の一方とは争いたくない場合、他方当事者のみを相手方とする独立当事者参加は許されるであろうか。 旧法はこれを認めておらず、当時の判例も、当事者の一方のみを相手方とする申立を不適法としていた。 しかし、これが認められないとすると、参加しようとする者は独立の訴えを起こすしか方法がないことになる。 だが、これでは、訴訟経済上不利益であるし、裁判の統一的解釈の要請にも応えられない。 そこで、新法においては、片面的な独立当事者参加の制度(47条・49条・50条・51条)を創設し、裁判の統一的解釈の要請に応えた。 ・独立当事者参加−上告審での参加 独立当事者参加は訴訟係属を前提とするので、訴訟が第一審または控訴審に係属中であれば、参加は許される。 これに対して、法律審として参加人の請求についての審判を予定していない上告審においては、争いがある。 この点、上告審について破棄差戻しの可能性があることを理由として参加を肯定する説もある。 しかし、この場合は、そもそも審判請求定立の可能性に欠けるのであるから、独立当事者参加の申立は不適法となると解する(判例同旨)。 次に、再審の場合についてであるが、補助参加の場合と同じく、訴訟係属は潜在的なもので足りるので、判決確定後であっても、参加人は参加の申出と共に再審の訴えを提起できる。 ・独立当事者参加−上訴しなかった者 三当事者のうち一人が勝訴した場合、他の二人は上訴することができるが、敗訴した一人のみが上訴したとき、他方はいかなる立場に立つかについて、不利益変更原則との関係で争いがある。 上訴の対象となっていない請求に関わる当事者が40条1項の準用によって上訴人となると解する説もある。 しかし、そもそも、独立当事者参加のあった訴訟では、三当事者が互いに対立牽連しあう関係が存在するのであるから(三面訴訟説)、共同訴訟人間の規定である40条1項を準用するのは妥当ではない。 とすれば、上訴しない者は、40条2項の規定を準用して、被上訴人となると解するべきである(判例同旨)。 そして、この場合、上訴審は、上訴提起の相手方にされなかった右当事者の上訴または付帯上訴がなくても、当該訴訟の合一確定に必要な限度において、その当事者の利益にも原審判決を変更することができると解すべきである。 この限りで不利益変更原則は制限される。 ・独立当事者参加−訴訟脱退 独立当事者参加訴訟関係がいったん成立した後であっても、二当事者訴訟関係に還元される場合がある。 (1)訴えまたは独立当事者参加の取下げ 参加がなされた後であっても、原告は訴えを取り下げることができる(261条)。これによって、判決効を受けることなく当事者の地位を消滅させられる。 しかし、この場合は、相手方の同意のみならず、参加者の同意も要する。独立当事者参加訴訟による合一確定については、参加者の利益を無視することはできないからである。 また、参加人も参加の取下げができる。訴えの取下げと同様に扱われる。請求の相手方の同意が必要なのも同様である。 (2)訴訟脱退 権利主張参加の場合、争いの内容に変化が生じ、原告または被告が訴訟追行の利益を放棄する場合がある。この場合でも、残存当事者間の判決効は脱退者に及ぶ(48条)。紛争解決の担保のためである。 脱退には相手方の同意が必要だが、参加人の同意は不要である。 ・訴訟脱退−脱退者に対する判決効(48条) 脱退によって、従来の原告・被告は訴訟関係から離脱し、その結果、三面訴訟は通常の二面訴訟となる。他方、法は残存者による判決の効力が、脱退者にも及ぶ旨を規定している(48条)。そこで、脱退の意味をいかに解するかが問題となる。 この点、訴訟脱退を、訴えの取下げと同じく、単に参加訴訟から離脱するというにとどまると解すれば、脱退者に対し改めて訴訟を行わなければならず、他方、48条の説明に窮することになる。 そこで、訴訟脱退とは、脱退者が、その参加訴訟において自ら訴訟に関与して争うことはやめて、三者間の紛争事件の解決をもっぱら残存当事者の判決に委ねたというと解される。 とすれば、48条の「脱退」とは、(1)参加人が勝訴すれば、自己に対する請求を認諾する、(2)相手方が勝訴すれば、脱退者が原告の場合は自己の請求を放棄し、被告の場合は相手方の請求を認諾する、というように判決の結果を条件とした請求の放棄認諾の意思を予め陳述するものと解すべきである。 ・訴訟脱退−原告脱退の場合 「原告甲が乙を被告として所有権に基づく物の引渡請求訴訟をなした場合、丙がこれに訴訟参加した。その後、甲が脱退した。」 (1)参加人丙=勝訴 被告乙=敗訴 丙>乙:請求認容 甲>乙:未確定 丙>甲:甲が丙の請求を認諾 (2)参加人丙=敗訴 被告乙=勝訴 丙>乙:請求棄却 甲>乙:甲が乙に対する請求を放棄 丙>甲:未確定 (3)参加人丙=敗訴 被告乙=敗訴 丙>乙:請求棄却 甲>乙:未確定 丙>甲:未確定 ・任意的当事者変更−当事者の確定 訴状において、当事者を甲と表示していたにもかかわらず、訴訟係属中にその表示を乙に変更しようとする場合、まず考えられるのが「表示の訂正」である。 しかし、表示の訂正は、あくまで甲と乙が同一人格であることを前提とする。(ここで、当事者の確定基準の論点、あるいは法人格否認の法理の論点が生じる) だが、訴状の全趣旨を総合しても、訂正前の当事者と訂正後の当事者とが別人格だとされれば、これは表示の訂正ではなく、当事者の変更の問題とされる。 そして、当事者変更には、訴訟承継のように、法律の規定に基づいて認められるものと、特別の規定がなく、当事者の意思によるものとがある。 後者を任意的当事者変更と呼ばれる。 ・任意的当事者変更−意義 任意的当事者変更に関しては、その適法性がまず問題とされる。 なぜなら、表示の訂正と違って、任意的当事者変更は、それによって従来の当事者とは別の者との間の訴訟係属の発生、訴訟法律関係の成立という新たな法律効果を伴うからである。 明文の規定もないのに、当事者の意思によってかような効果を認めることは、新当事者となった者への手続保障の点で問題があると言わざるを得ない。 ・任意的当事者変更−要件、効果 訴状の記載と当事者が別人であることが明らかになったとき、任意的当事者変更は許されるか。明文がないため問題となる。 そもそも、明文の規定もないのに当事者の意思によって新当事者に訴訟係属の効果等を発生させるのは、手続保障の点で問題がある。 そこで、任意的当事者変更も、特殊な訴訟行為と解するべきでなく、従来の制度が複合的に構成されたものと解するべきである。 すなわち、新当事者による、または新当事者に対する新訴の提起と、旧当事者による、または旧当事者に対する訴えの取下げという二つの訴訟行為が複合されたものと解するのが妥当である。 この説によれば、提起された新訴が裁判所によって旧訴と併合され、その後原告によって旧訴が取り下げられたと解することになる。 よって、訴えの取下げである以上、相手方の同意が必要となる(261条2項)。また、新訴の提起である以上、第一審でしか許されない。 問題なのは、併合も必要的でないことだが、裁判所は両者の関係が密接な場合は弁論の併合を義務づけられると解するべきである。 ・訴訟承継−意義 訴訟承継とは、訴訟係属中に実体関係に変動が起こり、その結果、従来の当事者が当事者としての地位を失い、代わりに第三者が新たな当事者として従前の訴訟状態を引き継ぐことをいう。 訴訟係属中に実体関係に変動があると、従前の当事者間で判決を下しても紛争解決は図れないから、実体関係を承継した者を当事者としなければならないが、この者と相手方との間で新たに訴訟をしなければならないとするのは訴訟経済上不経済であり、また、前訴で不利な地位にあった当事者の承継人をかかる地位から不当に免れさせ、その相手方の既得的地位を失わせることとなる。 そこで、考えられたのが、訴訟承継の制度である。 ・訴訟承継−当然承継 訴訟承継には、当然承継と係争物の譲渡の場合とがある。 当然承継とは、承継原因の発生により法律上当然に当事者の交代を生じる場合をいう。 当然承継については正面から規定した条文はないが、主に訴訟手続の中断・受継の規定から推知される。 というのも、当然承継の原因が生じ、当然に当事者に変動が起こる場合には、新当事者の裁判を受ける権利を保障すべく手続を中断させ、新当事者の受継により手続を続行させるのが通例だからである。 当然承継の原因は次の通り(124条1項各号) (1)当事者の死亡 (2)法人の合併 (3)受託者の任務の終了 (4)法定訴訟担当者等の死亡・資格喪失 (5)選定当事者の死亡・資格喪失 (6)破産宣告または破産解止(125条) ・訴訟承継−参加承継・引受承継 当然承継の原因以外の原因によって訴訟係属中に当事者適格の変動が生じた場合には、変動の原因たる権利関係の承継人またはその相手方の申立に基づいて、承継人が当事者の地位を取得する。 承継人自らが当事者の地位取得を申し立てる場合を参加承継といい、相手方がこれを申し立てる場合を引受承継という。 承継人の訴訟参加の申立(49条・51条前段)、または、従来の当事者からの参加引受の申立(50条・51条後段)により訴訟承継が行われる。 参加承継の場合、承継人は独立当事者参加(47条)の形式で当事者となり、参加があれば前主である当事者は訴訟から脱退でき(49条・47条1項・48条)、これにより当事者の交代が生じる。 また、引受承継の場合には、従来の当事者の相手方は承継人に対し訴訟引受の申立ができ、これが認められれば前主である当事者はやはり訴訟から脱退でき(50条3項・48条・51条後段)、これにより当事者が交替する。 ・訴訟承継−審理の方法・効果 参加承継訴訟においては、必要的共同訴訟に関する審理の特則が準用される(49条・51条47条4項・40条1項-3項)。したがって、参加承継人は、参加前の訴訟状態に拘束される。 また、参加後の審理においては合一確定に必要な限度で制約は受けるが、自らの訴訟行為よって裁判資料の形成に関与する。 これに対して、引受承継訴訟の審理は、同時審判申出訴訟の審理原則が準用される(50条3項)。したがって、弁論の分離は許されず、また、控訴審において弁論および裁判が併合されることがある(41条1項3項)。 この違いは、参加承継訴訟は承継人が進んで訴訟に参加し併合審判を求めるものであるのに対し、引受承継訴訟は、自らの意思によらずに訴訟状態を承継させられるからである。 訴訟承継がなされると、従前の訴訟状態の引継がなされるが、具体的には、(1)時効中断・期間遵守の効果が新当事者に及ぶ、(2)弁論・証拠調べ・中間判決は承継人との訴訟につき効力が生じる、(3)自白に反する主張・時期に後れた攻撃防御方法の提出は新当事者もできない、といった効果が生じる。 ・訴訟承継−「係争物の譲渡」 「権利・義務(係争物)」は訴訟物より広い概念で、訴訟物の基礎たる権利義務を含み、その承継によって訴訟物についての当事者適格の移転をもたらすものを意味する。 例えば、建物収去土地明渡訴訟の場合、原告の土地所有権や被告の建物所有権が第三者に移転された場合、当事者適格も移転する。 また、右訴訟で被告から建物を賃借した第三者も、被告の占有権限の一部を承継したとして、当事者適格の移転が認められる。 また、「譲渡」は、任意処分以外の、例えば民事執行等も含まれる。 ・訴訟承継人と口頭弁論後の承継人 ・上訴の利益−不服の利益の判断基準 相殺の抗弁により、請求棄却判決を得た被告は控訴できるか。控訴に利益があるかどうかが問題となる。 被告が原判決に対して適法に控訴の申立ができるには、原判決が被告にとって不服の利益がある場合に限られる。 そして、この不服の概念については、原審における当事者の申立と、その申立に対して与えられた原判決とを比較して、後者が前者に及ばない場合に不服があると解されている(形式的不服説)。 なぜなら、(1)それが控訴の利益の判断にとって一義的であり、明確であること。(2)当事者としては、判決理由中の判断に不服があっても、勝訴している場合には、いずれの理由によっても差異がなく、不利益といえないのが一般だからである。 相殺の抗弁が認められて勝訴した場合には、相殺の抗弁の判断は理由中の判断ではあるが、既判力が生じ(114条2項)、被告としては、他の抗弁が認められたときと異なり、反対債権の出捐があり不利益を生じるため、控訴可能であると考える。 ・上訴の利益−判断基準の例外 形式的不服説によれば、原審における当事者の申立と、その申立に対して与えられた原判決とを比較して、後者が前者に及ばない場合に不服の利益があるとしている。 とすれば、申立に拘束されず職権で裁判がなされる事項については、比較の前提を欠くことになる。 また、予備的相殺の抗弁が認められた場合、これを不服として控訴できるかについて、判決理由中の抗弁は既判力が及ばないので、本来は不服の利益が認められないはずであるが、この場合は例外的に認められることになる。 さらに、不法行為に基づく損害賠償請求で、原審の後で損害額が増えた場合、上訴は可能か。一部しか請求しなかった者に上訴の利益があるかが問題となる。 この点も、本来は不服の利益は認められないはずであるが、原告が全部勝訴判決を得ても不服の利益を認めるべきである。 なぜなら、別訴が認められない場合には、控訴審で権利主張の機会を与え、裁判を受ける権利(憲32条)を保障する必要があるからである。 ・一部請求の残額請求と上訴の利益 口頭弁論終結後に新たな損害が発生したとき、損害額の残部について別訴を提起することができるであろうか。一部請求後の残部請求の可否が問題となる。 思うに、民事訴訟においては、処分権主義が認められており、訴訟物の定立は原告の権能となる。とすれば、原告は訴訟物を分断することも許されるはずである。また、一部請求後の残部請求を全く認めないのは、費用の乏しい原告にとって酷である。 しかし、一部請求であるか否かによって相手方や裁判所の対応も異なりうるのだし、相手方がいつまでも不安定な地位にさらしておくわけにもいかないから、相手方の保護と訴訟運営の便宜を考慮する必要がある。 そこで、一部請求後の残部請求については、前訴で一部である旨が明示されている場合に限り認められると解する(判例同旨)。 明示があった場合は、残部について既判力は及ばず、後訴は許されることになる。逆に明示がなかった場合は、後訴は許されない。だが、これは不都合なので、例外的に不服の利益を認め控訴ができると解するべきである。 ・附帯上訴−上訴の利益の要否 ・不利益変更の原則の意義、根拠 ・予備的・選択的併合における審判対象 ・上告−裁量上告制度 ・法人格否認の法理−当事者の確定 ・法人格否認の法理−既判力の拡張 法人格否認の法理が適用され、実体法上、当事者以外の者に法律効果が及ぶ場合に、執行力や既判力など訴訟法上の法律関係についても、同様にこの法理の適用があるであろうか。 この点、判例はこれを認めると、訴訟手続の明確性・安定性が害されることを理由として、同法理の適用を否定している。 しかし、そもそも法人格否認の法理が適用される場面は、まさに例外的な場面にすぎないのであって、訴訟手続の安定性を理由として、その適用を一律に否定するのはおかしい。 そこで、場面を分けて考えるべきである。 すなわち、法人格の形骸化の事例では、法人格と実質的当事者の立場が混然としているのだから、どちらを当事者として取り扱っても問題は生じない。よって、既判力の拡張を認めるべきである。 逆に、法人格の濫用の事例では、当事者はことさらに自己と法人格を分離させているのであるから、実質的当事者の確定は困難であるので、既判力の拡張するのは妥当でない。 信義則を根拠として濫用法人格者による個別的主張を排斥する方法によるべきである。 ・債権者代位訴訟の構造−債権者の地位 債権者代位訴訟において、被保全債権の成立が否定された場合、どうなるか。 思うに、債権者代位訴訟において代位債権者が原告となりえるのは、債権者代位権という法律上の規定により債務者の管理処分権が債権者に移転し、債権者が当事者適格を取得したためであり、債権者代位訴訟は法定訴訟担当の一種であると解する。 とすれば、代位債権者の債務者に対する債権(被保全債権)は債権者代位訴訟における債権者の当事者適格を基礎づけるものであるといえる。 したがって、これを欠くときは、債権者の当事者適格が否定され、訴えは却下される。 では、代位される債権の存在が否定された場合はどうなるか。 債権者代位訴訟における審理の対象は、債務者の第三債務者に対する債権の存否である。つまり、債務者が第三債務者に対して債権を有するか否かは本案の問題であり、訴訟物たる権利関係である。 したがって、これを欠くときの処理は、請求棄却である。 ・債権者代位訴訟での別訴提起の可否 債権者代位訴訟が提起された場合、債務者は当事者として訴訟参加できるか。債務者の当事者適格は失われたかが問題となる。 思うに、債権者代位訴訟においては、訴訟物の管理処分権が債権者に移転する結果、債務者は訴訟物についての管理処分権・当事者適格を失うことになると解される。 そして、かく解することで、非訟事件手続法76条2項が、裁判上の代位に関して債務者の管理処分権の制限を認めていることとの均衡を図ることもできる。 よって、適法な訴訟係属が生じた場合は、債務者は当事者適格を失うと解する。 もっとも、債務者が当事者適格を失うのは、債権者の債務者に対する債権の成立が肯定され、債権者代位訴訟が適法と認められる場合に限られると解するべきである。 そこで、債務者が債権者の当事者適格を争って独立当事者参加を申し立てる場合には、債権者の当事者適格の有無は未だ判明していないというべきであり、債務者も未だ確定的に当事者適格を失っていないと解すべきである。 ・債権者代位訴訟−債務者への既判力 債務者の独立当事者参加は二重危険禁止違反(142条)として許されないのではないか。債権者に対する判決の効力は債務者に及ぶかが問題となる。 思うに、債権者代位訴訟は法定訴訟担当の一場面と解される。とすれば、115条1項2号の適用により、その判決の効力は債務者に及ぶとするのが原則である。 しかし、債務者としては、判決手続に関与することなくその効力が及ぶという不利益を受けることになる。 そこで、債権者代位訴訟における判決の効力は訴訟担当者である債権者敗訴の場合には他の債権者には及ばないとする見解もある。 しかし、それでは第三債務者は債権者に勝訴しても、債務者からの再度の応訴を迫られることとなり、第三債務者の保護にかける結果となる。 やはり、この場合は、原則通り判決の効力は債務者に及ぶと解するのが妥当である。 かように解しても、債権者は勝訴すべく主張立証を尽くすのが通常であるから、債務者の手続保障は債権者を通じて実質的に図られており不都合はない。 ・債権者代位訴訟−独立当事者参加等 債権者代位訴訟において、当事者以外の立場から参加する方法として、補助参加(42条)、および共同訴訟的補助参加の方法がある。 補助参加の場合、その地位は主たる当事者に比べ従たる地位しか有せず、主たる当事者と矛盾する訴訟行為をすることは許されないし、上訴期間についても主たる当事者にあわせることになる。 そこで、代位訴訟の債務者としてはこのような制限のない共同訴訟的補助参加の方法を採るのが妥当である。 次に、債務者がこの訴訟に当事者として参加する場合として、独立当事者参加(47条)、および共同訴訟参加(52条)の方法がある。 共同訴訟参加の方法は、当事者と一方について合一に確定すべき場合であるが、債務者が債権者の被保全債権を争っている場合は、訴訟の効力が及ばない。 よって、従来の当事者の双方に対しても請求を定立できる独立当事者参加の方法がこの場合は、望ましいであろう。