第二章 当事者

第一節 当事者の意義と確定

当事者
訴えまたは訴えられることによって判決の名宛人となる者(形式的当事者概念)

訴訟物の内容をなす権利義務の主体自体を当事者とする考え方(実質的当事者概念)がスジ

しかし、訴訟担当者などの場合を説明できず

よって、権利義務の主体以外の者が訴訟を追行し、判決の名宛人となる場合も含めて当事者とする

当事者の確定

被告とされた者が死亡した場合に、民事訴訟上いかなる取り扱いがなされるかについて論ぜよ。

原則 (1)誰が被告か

「被告とされた者」とは通常「被告」を指す。
もっとも、被告とされた者が必ずしも被告でない場合もありえる。
そこで、誰が被告なのか。当事者の確定が問題となる。

当事者とは訴え、訴えられることによって判決の名宛人となる者→訴状送達や管轄の基準となる。
とすれば、誰が当事者かは訴えの提起後直ちに、客観的かつ明確に定められる必要有り
よって、訴状の記載を基準に判断するのが原則
もっとも、訴状が誰を当事者としているかは、ある程度合理的な解釈にゆだねられる。
具体的には、当事者欄だけでなく請求の趣旨、原因もまた考慮して判断すべし

(2)被告が死亡した場合

被告=当事者>死者には当事者能力を欠く(28条)
ゆえに被告が死亡すれば二当事者対立の原則(訴訟要件)が崩れる。
よって、不適法却下が原則

救済方法 不適法却下が原則

そのうえで、相続人がいれば、改めて訴えを提起する
しかし、それまでの訴訟結果が無駄>訴訟経済上の損失&再訴の煩
そこで、訴訟の進行状況に応じて様々な取り扱いの要

(1)訴訟係属前に被告が死亡していた場合

(ア)訴状審理の段階で判明

>補正命令(137条1項)で救済
>さもなくば訴状却下命令(137条2項)

(イ)訴訟進行後判明

原則は不適法却下
しかし、訴訟係属中訴訟代理人を選任していれば訴訟承継される。
なのに、訴訟代理人を選任していながら、訴訟係属前というので承継を否定されるのは酷
加えて、訴状を裁判所に提出していながら、相手方に到達する前に死亡した場合>訴訟係属は未発生
しかし、本人としてはやるべきことはやってしまっているわけで、承継が否定されるのは酷
そこで、かような場合には潜在的な訴訟係属が認められると解して124条1項1号を類推
訴訟係属を肯定すべき
>確定前に判明すれば訴状の表示の訂正
>確定後は判決の更正(257条)

なお、潜在的な訴訟係属なし、&相続人が訴訟活動を追行中
任意的当事者変更による救済

(2)訴訟係属後に被告が死亡した場合

訴訟は中断>相続人が訴訟を承継する(124条1項1号、2項)
もっとも、訴訟代理人がいればその限りではない

誤って本案判決
>上訴で取り消しうる(281条、312条2項4号類推)
>確定後は再審により(338条1項3号類推)

(3)口頭弁論終結後に被告が死亡

裁判所は判決言い渡しが可能(132条1項)<言い渡しに当事者の関与は不要
言い渡し後上訴期間が過ぎれば酷
よって、上訴期間は停止する(132条2項)  

(4)確定判決後に被告が死亡

この場合は、判決効は口頭弁論終結後の承継人に及ぶ(115条1項3項)
よって、相続人に判決効が及ぶ。

(5)相続人がいない場合

以上の救済策は、相続人のいる場合の処置であり、相続人がいない場合は原則にもどって訴訟は終了する。
 
二当事者対立の原則
二当事者が互いに相対立して存在することが必要とされる建前
趣旨
原告・被告を対立させ、双方に「自らの利益主張を尽くす地位と機会」を対等に与えることにより、裁判の適正・公平を図る。
欠缺の効果
訴え却下となる。誤って本案判決が下されたときは上訴で取り消しうる。上訴期間さえ徒過したときは無効判決となる。


第二節 当事者能力


当事者能力
民事訴訟の当事者となることのできる一般的資格
制度趣旨
無駄な本案審理を避けるという訴訟経済上の理由
当事者能力者
@自然人・法人(28条)
実体法上の権利能力者は、その権利義務を巡る紛争につき訴訟が生じうるから

A法人格なき社団または財団で、代表者または管理者の定めのあるもの(29条)
このような団体は、現実に取引主体として他人と紛争を生じることがあるので、訴訟上も当事者として扱うのが実際的だから
民法上の組合
(1)組合が第三者に対し訴えを提起するには、固有必要的共同訴訟が原則である
あるいは、
(2)代表者を選定当事者(30条)として代表者を原告とする方法や
(3)任意的訴訟担当として代表者を原告とする方法も考えられる。
しかし、これらはやはり迂遠である。
(4)組合自体に当事者能力を認めて、組合自体が原告となる(29条)という方法が、簡便である。

欠缺の効果
職権調査事項である。よって当事者からの主張がなくとも、訴えは不適法となり却下される。

誤って本案判決が下されたときは、当事者能力のない名宛人に対して既判力や執行力が生じる理由はないので無効な判決となる。よって、上訴で取り消しうる。確定した場合は338条1項3号を類推して再審の訴えをみとめるべき。



第三節 訴訟能力


訴訟能力
訴訟当事者として自ら単独で有効に訴訟行為をなし、または受けるために必要な能力

制度趣旨
自分だけではその利益を十分に主張し防御し得ない者を保護
(人訴では扱いが異なる点に注意。意志能力があればよい)

絶対的訴訟無能力者
未成年者・成年被後見人

【原則】法定代理人が本人に代わって訴訟を行う(31条本文)
【例外】未成年者が独立して法律行為をすることができる場合(31条但書・民法6条1項など)

制限的訴訟無能力者
被保佐人・被補助人

【原則】補佐人・補助人の同意が必要
【例外1】応訴については保佐人・補助人の同意は不要である(32条1項)
←もし同意を必要とすると、相手方は訴え提起できず不利益を被る
【例外2】逆に重大な処分的訴訟行為の場合は、保佐人の特別の同意が必要である(32条2項)
←重大な効果が生じるから。相手方の不利益もなし

欠缺の効果
ア) 訴訟係属過程に訴訟能力の欠缺がある場合(訴え提起時の原告、訴状送達受領時の被告)
→追認により補正されない限り、訴え却下

イ) 訴訟係属過程には訴訟能力の欠缺がない場合
→訴訟能力は個々の訴訟行為の有効要件ゆえ、個々の訴訟行為が無効となる(取り消しでは手続きの安定を害するため無効とした)。もっとも、追認(34条2項)・補正命令(34条1項)により治癒できる

ウ) 訴訟係属中に訴訟能力を喪失した場合
→訴訟手続きの中断(124条1項3号)


訴訟能力の欠缺を看過して終局判決がなされた場合の判決の効力は?

判決は無効ではないが、上訴(312条2項4号)・再審(338条1項3号)で争える


第四節 弁論能力

弁論能力
訴訟手続に関与して現実に種々の申立や陳述などの訴訟行為を有効に行いうる資格


第五節 訴訟上の代理人

訴訟上の代理人
当事者の名で、代理人たることを示して、当事者に代わり訴訟行為をし、または訴訟行為を受ける者

種類
法定代理人
実体法上の法定代理人(28条)
訴訟法上の特別代理人(35条、236条)
訴訟代理人
(任意代理人)
訴訟委任に基づく訴訟代理人
法令上の訴訟代理人(商法38条)

特色
手続の安定・円滑を期すべく、代理権の存否・範囲が画一・明確であることが要請される
(規則15条、17条、23条、民訴36条、55条、58条、59条)
代理権欠缺の効果
訴訟能力の欠缺の場合と同様
【論点】
欠缺を看過してなされた本案判決の効力は?

放置すると本人宛の判決として有効となるから、本人は上訴(312条2項4号)、再審の訴え(338条1項3号)で取り消す必要がある。

◎法定代理人
その地位が本人の意思に基づかない代理人
○実体法上の法定代理人
実体法上法定代理人とされている者は訴訟上も法定代理人とされる(28条)
○訴訟法上の特別代理人
民事訴訟法の規定に基づいて裁判所が選任する法定代理人

@ 訴訟無能力者の特別代理人(35条)
[趣旨] 訴訟無能力者に対する訴訟追行の途が閉ざされることを防ぐ
(イ) 意思能力を欠く常況にありながら後見開始の審判を受けていない者
(ロ) 相続人不明の相続財産
(ハ) 代表者等のいない法人その他の団体
(ニ) 訴訟無能力者が原告となる場合にも35条が準用あるいは類推適用される(判例)

A 証拠保全手続における特別代理人(236条)

法定代理人の地位
(イ) 当事者ではない。よって訴訟行為の効果はすべて本人に帰属する
(ロ) 本人の能力を補充する点で、本人に準じた地位が認められる
(本人の受けた判決の参加的効力を受ける。証人能力はないので当事者尋問手続による(211条)など)

法定代理権の範囲
訴訟法に特別の規定がない限り、民法等の規定によって定まる(28条)

◎訴訟代理人
訴訟追行のための包括的代理権を有する任意代理人
弁護士代理の原則
原則として弁護士でなければ訴訟代理人となることはできない(54条1項)
[趣旨] 三百代言の跳梁の防止。法律事務に精通しない当事者の利益を保護し、審理の充実と円滑化を図る。
訴訟代理権の範囲
【原則】 包括的代理権。個別的制限は不可(55条1項)
[趣旨] 手続の円滑。および代理人は弁護士ゆえ、本人の不利益のおそれがない

【例外】 特別委任事項は個別的委任を要する(55条2項)
[趣旨] 本人の意思の尊重
訴訟代理人の地位
第三者であって当事者ではない。よって、判決の効力は受けない。
また、証人・鑑定人となりうる。
もっとも、知・不知、故意・過失等が訴訟上の効果に影響する場合は代理人につき判断すべし(民101条1項)
本人の地位
訴訟追行権は失わない。更正権を有する(57条)
訴訟代理権の消滅
当事者の死亡により消滅しない(58条)
[理由] 手続の迅速・円滑。受任事務の範囲が明確であるし、受任者は弁護士であるから、委任者の承継人の不利益のおそれはない
○法令上の訴訟代理人
一定の地位につくことによって法令が一定範囲の業務につき包括的代理権を認めている者
[例] 支配人(商法38条1項)

法人等の代表者
法人が当事者の訴訟はその代表機関が行う(37条)
【論点】
法人の代表者−表見代理の類推適用

 法人の訴訟は代表者が追行するのであるが(37条)、法人の登記が実体関係を反映していない場合、登記を信頼して訴えを提起した者は保護されるか。実体法上の表見法理の類推適用があるかが問題となる。
 この点について、判例は(1)訴訟行為と実体上の取引行為とは区別され、表見法理は、後者のみ適用されること、(2)商法42条1項但書において裁判上の行為が表見法理の適用外とされていることを理由に、これを否定する。
 しかし、(1)訴訟行為は区別されるといっても、代表権の存否は実体法により決せられるのだから、実体法たる表見法理も類推適用の基礎があること、(2)商法42条も不真実の登記に対する信頼を否定するものではないことからみて、否定説には根拠がない。
 むしろ、(1)実質的にみて、不真実の登記を放置している法人より、信頼した原告を保護すべきであるし、(2)代表権の存在は職権調査事項であるが、裁判所としては登記を基準とせざるを得ないことからみて、類推適用を肯定すべきである。
・・・これは否定説の方がいいかもしれん。
補佐人
当事者・補助参加人またはこれらの訴訟代理人と共に期日に出頭して、これらの者の陳述を補足する者(60条)