NTR取材に答えて

●制作を始めたきっかけは?
 高校演劇部を経て大学演劇部に入ったんですが、本当は演劇部に入るんじゃなくて劇団を旗揚げしてやってみたかったんです。ただ高校の演劇部って役者と演出しかいないんで、スタッフのことが何も分かってないと劇団をやってもうまくいかないだろうと。大学の演劇部というのはスタッフは自前で揃えているところなので、スタッフを勉強したいなと思って大学の演劇部に入りました。
 将来は役者と演出をやろうと思っていたんですが、劇団をやるときにどうしてもネックになってくるスタッフが制作と照明だなと考えていました。他のスタッフは素人が適当にやってもなんとかなるだろうと当時は考えていました。そんなこんなで大学の演劇部では制作と照明のスタッフを選んだのが制作を始めたきっかけです。といっても自分が将来、制作と照明をやるつもりはなくて、劇団を作るときに他のスタッフに教えられるようにとの思いからだったのですが。
 大学2年生の時に劇団「針穴写真館」の旗揚げに立ち会いまして、そこで役者と制作をやったんです。制作の実務とか理念とかについていろいろ考えはじめたのはその劇団の時ですね。劇団も最後の方ではお客さんが500人を越えるぐらいまではなりました。旗揚げが120、30だったことや当時の福岡の演劇状況を考えるとなかなかよくやったかなと。
 劇団の後半期には役者と制作と照明プランと仕込み舞監もやってました。まぁ無茶な話です(笑)。その時は劇団の中にスタッフを持ちたかったんですよね。外部スタッフ使うと難しい問題も出てきますし。
 他には大学4年時に福岡市の主催で大学演劇部の合同公演があったんですが、当時福岡の小劇場演劇ではもっとも活躍しているといえる高橋徹郎さんが脚本・演出をやって、私が学生代表を仰せつかったんです。その時は役者と制作だったんですけど、役者としてもスタッフとしても実に良い勉強になりました。行政との付き合いという意味でもいい勉強になりましたね。

●スタッフのことが分からなければ劇団がうまくいかないという意味はどういう意味?
 劇団になってくると団体の運営が必要になってくるじゃないですか。制作以外のスタッフというのは、基本的には芝居作りのことのみを考えるスタッフなわけです。制作だけが劇団外部とのつながりを考える部門です。「劇団と社会の接点を模索・確定するのが制作の仕事だ」と大学生の頃から言い続けています。「芝居を公演にするのが制作だ」と言われたのがかの有名な荻野さん(fringeプロデューサー)ですね。言い方は違うけど言わんとすることは同じなんじゃないかなと思います。劇団がちゃんとうまく運営されて伸びていくためには制作の仕事がすごい重要なんです。

●なぜ役者・演出をやめて制作に?
 針穴写真館では役者をメインでやるようになり、自分が役者としてやりやすい環境を作りたいなと思って、それがきっかけで制作にのめり込んでいったんですね。練習場所とか、お金を心配させなくていいようにとか、直前になってバタバタしないとか、チケットこれだけ売ってくれれば予算的には大丈夫、とか。
 自分がより良い環境で芝居をするために制作の仕事をしていったところが、ミイラ取りがミイラになったというか、劇団でも後半ではもう役者をやらなくなって、制作と照明だけという感じになっていきましたね。
 役者は2年前くらいにやったのが最後ですね。そういえば最近、劇前劇というか、ちょろっとした小芝居を前説がわりにやったことがあります。役者は引退しているわけではないですが引退したみたいになってますね。

●制作の何が魅力だったのでしょうか?
 制作は1年とか半年とかのスパンでの公演の流れを一番俯瞰できる場所ではあるんですよね。ゼロのところからスケジューリング、予算計画、企画立案して、それをやり遂げるということがすごく面白い。私はたぶん芝居じゃなくても良かったんでしょうが、自分の力を試したいというのもあると思います。

●PINstageについて
 針穴写真館が解散してPINstageを立ち上げました。立ち上げ当初は照明の仕事をいただくことが多かったのですが、最近は制作の仕事が多いですね。あとはチラシデザインやホームページを作ったりする事もあります。チラシデザインは針穴写真館で必要に迫られてやるようになったことがきっかけです。本当は自分でしたくなかったんです。私は高校の時、美術2ですよ(笑)。最初は他の人にお願いしていたのですが、継続的に頼み続けることも難しくて、結局自分でやるしかないなと思って、デザインの勉強とかして自分でやり出したんですよね。「藍色りすと」のチラシは今のところ私が作っています。ほんとは他の人にお願いしたいくらいです。そんなに変なものは作ってないと思いますけど。まあ世の中なんとかなるものです。

●PINstageは会社ですか?
 屋号ですかね。4年ぐらいになるかな。今メインで制作の仕事をさせていただいているのが「藍色りすと」と「アントンクルー」です。劇団からお話を頂いたときはとりあえずその劇団の人と飲みに行ってから(笑)お返事をさせていただくようにしています。

●報酬は?
 特に決めていないです。お金にはこだわってないですね。まったくないのも寂しいですけど。それよりも芝居がすごく魅力的だとか、宴会がすごく楽しいとか、チヤホヤしてくれる(笑)とかいう方が大切です。仕事をする時にはなんらかのリターンがなければやはり継続してやっていくのは難しいと思います。芝居に限った話ではないですけど。

●芝居の質は制作をやっていく上で大きなこと?
 大きいです。この芝居は面白くないと思ったら制作の仕事は出来ません。情宣をするのが心苦しくなります。そういうところは最初からごめんなさいと言うしかないでしょうね。幸い今のところはありませんが。(*1)

●外部制作だが財政面にも関わっているのか?
 予算に関わらないと制作とは名乗りにくいですし、だいたい予算の立案には絡みますね。内情が分かるからギャラくれって言いにくかったりしますね(笑)。予算に沿った収入支出をして大幅な赤字を出さないというのも制作の重要な仕事ですね。

●作品については口出しするのか?
 作品内容にまでコミットするかどうかは劇団によります。
 それよりもトータルでその公演のことを考えます。予算とか宣伝計画とか役者どうするかとかスタッフをどうするかとかいうことは一つの分野に過ぎません。それらを統合したところに制作の仕事があります。さらにその公演だけじゃなくて、ある程度中長期のことまで考える。一つの芝居は劇団の経営戦略の中に位置づけられるということですね。
 その中でやはり劇団との関係は信頼関係は重要です。制作の仕事って内部の方針に関わる仕事なので。信頼関係がないと内部の方針には携われません。単に情宣と会計と予算だけやればいいのならそこまでは求められないでしょうが。
 だから1回目ではあまり立ち入れないですね。だいたい3回目ぐらいからじゃないでしょうか、それなりの仕事が出来るようになるのは。主宰の方がどれだけ仕事をやらせてくれるか。信用してもらえるようにならないと良い仕事はできない。

●財政的にはどのような成果が?
 極端な赤字を出さないということと、個人の極端な負担がないという点で、私が関わった所は健全財政になっているんじゃないかな。赤字が出るにしてもコントロールできる範囲の赤字でとどめる必要があります。基本的に小劇場演劇と言われる公演の規模で、公演の収入で生活するのはかなり困難です。
 助成金についてですが、取り扱いが難しいと思っています。今年は助成を受けられたとしても来年はどうなるか分からない。例えばある劇団は自力で公演やったときに100万の集金能力がある。ところがある公演で50万の助成金を得て150万の予算規模の公演を打っても、その次の公演ははどうなるのかと。次の公演で助成金がとれなかったら公演のレベルが落ちるんです。やはり公演の予算規模と公演のレベルって大きく関係してくるので。
 助成金を取るときは、そこらあたりを計算して取りにいかないといけないですね。支出規模を複数年ベースで考えたときに右肩上がりにしていかなければならない。劇団というものは公演のレベルを落としたらいけないんですよね。
 といっても取れた時うれしいのは事実です。


●劇団運営の戦略について
 福岡の演劇制作者は戦略をもって公演計画を立てるということが少ないかもしれません。専任の制作者も少ない以上やっぱしそこまで余裕はないと思います。役者は自分の役をいかにうまくやるか、いかに将来自分が伸びるかということで頭の中はいっぱいでしょう。ステージスタッフも似たような状況にいます。他にも劇団には人間関係とか悩む内容はたくさんあります。その中で外部的な視野に立って長期的なことを考えろという方がまぁ難しいでしょうね。
 でも制作の仕事は、ひとつの公演に関わって、その情宣とか事務とかをするというのとは違うんですよね。やはり、中長期の劇団の戦略を睨んで、より効率の良い方法、有効な方法を考えながらやっていくことが出来るかどうか、そこが重要だと思います。
 ただこうは言っても、芝居が面白くないとどうにもならないです。数字でいうならその芝居が1000の力があるとき(制作によって)105か110にできたらいいかなってところです。芝居が面白ければ、いい制作が勝手についてくると思います。

●目標は?
 とりあえず1000人入る劇団の仕事をしてみたいですね。自分が関わっている劇団のいくつかはその可能性があると思っています。上を目指していない劇団の制作って私には興味がないんです。もしくは芝居が圧倒的に面白くなる可能性がある劇団、じゃないとやっても面白くもなんともない。
 自分の力は微力なものだけどそこに達成する過程を見てみたいし、1000人規模になると私が今までやったことだけでは追いつかないこともでてくるので、そこのレベルで自分がやれるのか。なんとかなるだろうとは思ってますが。

●実務よりも、経営面におもしろさがある?
 そうですね。でも8割は実務ですけどね、時間的には。やはり実務を伴わないといいアイデアは出てこない。時間は限られているので効果の高いものからやっていくことになります。その仕事を行うなかで新しいアイディアが出てきたりします。アンケートのデータ入力なんか良い例ですね。入力しているうちにお客さんの名前を覚えたりしますし、必要上アンケートを見ている時間が増えるわけですから、個々のお客さんの芝居への感想を集約したものを捉えられると言うことになります。


●福岡の制作について
 経営のレベルまで考えてやっている制作がもう少し多くてもいいかなと思います。福岡で芝居をしている人で福岡はダメだと言っている人は多いですけど、要は都市の人口・都市の体力に対してどうかということなので、単純に福岡を東京と比べるのはアホみたいな話なんですね。交通圏を入れたら人口は10倍ぐらいは違うだろうし、企業の本社はほとんど東京に集中してメセナや後援で落ちるお金も違う。マニアックな芝居であっても芝居を見に行く母集団が多いから、福岡と同じ支持率であったとしても公演が成立するぐらいの人が来る。単純に考えて福岡の劇団が東京にあったとすればプレイガイド売りのチケットは10倍くらいに増えるはずです。
 そういった中で東京と比べても仕方がないんです。そこを分からずに福岡はダメだと言っている人を見ると、無い物ねだりに見えます。もちろん良くないとこは良くないと認識してやっていかないといけないですけど。正確な分析ではなくて隣りの芝生は青いみたいなところからは建設的な制作は生まれないだろうと思います。表現者は別です。表現者は訳分からんこと言っていても別にいいんです。表現者には論理性よりも必要な要素があるので、それが優れていればいいのです。
 なんだかんだで福岡は健闘しているというのが私の結論です。もちろんまだ上はある。札幌なんかはいい目標になるんじゃないかと思います。札幌は福岡都市圏と人口面積でだいたい同じ規模なのでそのレベルまでは可能だろうと思っています。
 本当は面白い芝居を作ることが重要で、制作なんてどうでもいいんです。めちゃくちゃ面白い芝居があれば、絶対いい制作がつくし、絶対伸びるようになっているから。圧倒的に面白い芝居であればやっぱりお客さんは勝手に増える。地道にしか増えてないのなら、面白いけど「圧倒的に」面白くはないからなんです。東京でも1万人とかいっている規模の劇団は、やはり創成期の時に圧倒的に面白い芝居をしていると思います。

●制作の力はどこまで?
 制作の力で観客動員がどんどん増えるなんてことはなくて、芝居の力が9割でしょうね。制作の力は1割になればいい方だと思います。最後になりますが、とにかく圧倒的に面白い芝居が見たいですね。そんなのをみせつけられたら是非とも制作を手伝わせて下さいと頼みにいきます(笑)。

取材後考えが変わったこと
*1 大きいですけど、最近はあまりこだわってません。