NTR寄稿分

●劇団の経営・運営に関すること

 その劇団は将来どうなりたいのか、メンバーからいろんな話を聞き、あるいは過去の実績をふまえ、大まかな方向性を見いだします。「この方向であれば可能」とか「その方向ではこのようなリスクがある」という助言提案もおこないます。おぼろげでもいいので劇団の将来像を把握し、それを達成するために良い方法を考えます。一つ一つの公演計画を提案したり、劇団からの相談にのったり一緒に考えたりします。
 一つ一つの公演は(プロデュース公演は除く)劇団の将来像を達成するための過程の一つであるということを制作者は知っておかなければなりません。
 この分野は制作の最も重要な仕事です。この分野の仕事を円滑に行うためには劇団と制作者の間にしっかりとした信用関係が結ばれている必要があります。
 重要な仕事ではありますが、この仕事も必ずしないといけない言うわけではなく、劇団がすべて経営・運営を考えていて、制作者は一つ一つの公演について考えればよい場合もあります。

●一つの公演に関すること

 ・公演計画、スケジュール(2年前〜半年)

 脚本、日程、劇場、スタッフ、キャストについて決めます。制作者から提案することもあれば、劇団からの提示に沿ってやることもあります。一緒に考えることもあります。公演の規模(大まかな動員・予算等)の把握も行うことがあります。
 具体的な日程が決まれば、スケジュール案を立てます。内容は主に広報宣伝やチケット管理等です。
 本来は舞台監督に属するのですが、練習計画やステージスタッフ(装置・照明・音効・衣装・メイク等)のおおまかな計画も立てることがあります。座付きの舞台監督がいない劇団では、制作がやってもいいでしょう。
 表現の内容にどこまでかかわるかは難しいところで、劇団と制作者の関係次第としかいいようがありません。まったくノータッチのこともあれば、演出にどんどん意見を言うこともあるでしょう。練習の進行状況が計画より遅れているようであれば確認の意味でなんらかの関わりはしても良いでしょう。


 ・予算立案、管理(1年前〜4ヶ月前)

 収入の予算と支出の予算をたてます。収入(チケット収入、広告収入等)の見込みを立てて総収入を把握し、あわせて支出予算の立案をします。制作だけでは決められないので、演出や舞台監督その他必要なスタッフと話し合って決めます。収入については制作が、支出については演出・舞台監督がメインとなるかと思いますが、この辺は劇団によってまちまちだと思います。
 収入と支出の均衡具合は制作が確認すべきでしょう。赤字覚悟の公演で赤字になるのは仕方ないですが、気付いたらいつの間にか赤字になっていたというのはまずいです。

 ・公演会計(公演計画が動き始め〜公演終了1ヶ月)

 せっかく、予算を立ててもそれを守らなければ何の意味もありません。予算に沿って会計を管理します。各スタッフ別に会計責任者を置くのがベストです。また芝居では支出は先に必要で、収入はあとから入ってくるので、このあたりのやりくりも必要です。各種の収入を集め、必要な支払いや各部署への仮払いを行います。公演が終わったら各部署の収支の決算を行います。

 ・座席チケット管理(4ヶ月前〜公演日)

 チケットを売ります。チケット販売会社に委託したり、公演の参加者が売ったりします。随時チケット販売が順調か確認します。順調でないときはその時々で頭を悩ませて解決していかねばなりません。同時に客席数以上にチケットを売ってないかも注意が必要です。チケット収入は公演会計に算入します。
 特にお世話になっている人に招待券を出すときはその管理も行います。日時指定かどうか、座席指定かどうかで仕事の内容も変わってきます。

 ・広報宣伝(1年前〜公演日)

 まず宣伝方針(何をウリとするか等)・宣伝計画を立てます。
 企画書、予算書、チラシ、宣伝用写真等を準備し、各種の宣伝媒体(雑誌・新聞・テレビ・ラジオ他)へのアプローチを行います。資料を送るだけというのもあるし、アポをとって先方におじゃましてアピールすることもあるでしょう。
 チラシは他劇団の公演や配布媒体にて配布します。さらにいままでのお客様や関係者に案内をおくったりします。当日用のパンフ作成もこの分野に入ります。

 ・その他の収入確保(1年半前〜1ヶ月前)

 スポンサーを探したり、助成金を申請したりします。赤字が出た時、制作だからと言って赤字の責任を負うと言うことはなくて、事前の取り決めによります。普通はみんなで割ったり、劇団から補助したりします。
 赤字が出れば責任を負うが、黒字が出れば収入とできる場合は芝居ではプロデューサーという事が多いです。例外はたくさんありますけど。

 ・本番運営(劇場入り〜劇場撤収)

 受付の運営、食事の手配、招待客の対応、客席の整理、差し入れ等の収受・アンケートの回収、チケット販売、金銭管理、チラシ折込を行います。
 受付の責任者は、劇場入りして本番公演が始まる間に「もし火事になったらどうしようとか、緊急時いかにスムースな誘導するためにはどうすればいいか?」ということを考える癖がついてます。
 メインとしては舞台監督の仕事ですが、劇場入りしてからのタイムテーブル作成に関わることもあります。

 ・宴会等手配(随時)

 公演顔合わせの宴会、公演終了後の打ち上げの手配も制作がすることが多いようです。客演や外部スタッフの人がいるときは間をとりもったり、会話のきっかけを作ったりします。参加者の交流を深め、意志疎通をしやすい環境を整えることは重要な仕事です。

 ・公演事後事務(公演終了後)

 各種精算、お世話になった人への挨拶まわり、アンケートの入力・分析を行い次回公演につなげます。関係者との顔つなぎも大切なことです。


●まとめ

 ここ数年、福岡の演劇界においても制作の重要性が認知されるようになってきました。よりよい制作者と出会いたいという思いを持った劇団は確実に増えてきています。劇団が順調にステップアップしていくためには、限られたリソースで最大限の結果を出す戦略立案部門といえる制作の仕事は大変重要です。とはいっても肝心の芝居が中心にあることは動きませんので、トータルで見れば制作の出来ることは比率としてはやはり小さいと言うべきでしょう。芝居の規模とつりあわない制作方針をとったとしても戦略的に見れば逆効果です。
 
 上記で述べた制作の仕事はあくまで一般論です。制作という肩書きがあるからと言ってすべてこれをやらないといけないというわけではありません。得意分野や劇団の成り立ちもありますので誰がどれをやってもいいのです。劇団が大きくなると難しいですが、専門の制作者をおかずに役者が制作の仕事をしている劇団も多いです。また劇団内部の制作か、外部の制作かでも仕事の内容は変わってきます。
 日程もあくまで大まかなものであり、地元の小劇場系の劇団では本番の3ヶ月前から動き始めるということもあるでしょう。基本的には早め早めに動くのがベストです。
 あとこれらの仕事を一人でやるというのは到底無理な話です。制作の人が複数いたり、公演の参加者で分担しておこなったりします。芝居をつくって公演をするという裏側に目立たないけどこういう仕事もあるのです。
 会社で働いたことのある人はわかると思いますが、芝居をつくるというのは特殊な作業になりますが、制作の仕事というのは会社のなかのどこかの部門がやっていることが大抵当てはまります。会社勤務経験のある人は制作の仕事の中で似たような仕事をしたことがあると思うので、制作の仕事のどこかの一部門は即戦力としてやっていくことが出来ます。経験のない方でもやる気さえあれば劇団の心強い協力者となります。
 そして多くの劇団ではこの制作の仕事をする人が少なくて、困っているところが多いです。お気に入りの劇団に「制作の仕事のこの部分を手伝いたい」とメールでも出してみれば、かなり感謝されることでしょう。