「実演芸術家等に関する人材の育成及び活用について」 審議経過報告 平成21年1月29日 文化審議会文化政策部会 今こそ、日本の文化力を高めていくとき。 天然資源に乏しく、人材に頼るしかない日本にとって、文化は貴重な資源である。 とりわけ音楽、舞踊、演劇等の舞台芸術は、多くの人々に芸術に彩られた精神的潤いのある上質な生活をもたらすとともに、創造性に溢れた人材を育み、世界経済の中で競争力を生み出すことにより、豊かで高品質な国家を実現する原動力となるものである。 しかし、日本には豊吉な人材がいるにもかかわらず、次代の舞台芸術を担う優れた才能を見出し伸ばしていく環境が十分ではない。才能を持つ者が埋もれ、優秀な人材が海外に流出している。 今後日本に必要なのは、国内外から優れた才能を惹き付け、開花させるアジアの舞台芸術のメッカになること。日本人が日本人らしさを再発見することができるよう、国際的な競争力のある才能を見出し、育てていくこと。そして地域の芸術拠点を強化し、人材を活用していくことである。 今こそ、日本の文化力を高め、心豊かな国民生活を実現するとともに、日本の国際競争力を強化していくときである。 目次 はじめに 1・実演芸術家等の育成及び活用に関する基本的な考え方 (1)舞台芸術を振興する意義 (2)実演芸術家等を育成及び活用する必要性 (3)基本的なスタンス (4)今後重視すべき視点 i)各分野に共通する事項 @卓越した実演芸術家等の育成 A実演芸術家等の積極的な活用 B実演芸術家等の育成及び活用に向けた環境整備 ii)分野ごとに特に配慮すべき事項 @音楽分野 A舞踊分野 B演劇分野 I21実演芸術家等の育成及び活用に向けた具体的な方策 (1)卓越した実演芸術家等の育成 i)フェローシップ制度の充実 ii)文化芸術団体における人材育成への支援 iii)新国立劇場に求められる役割と取組 iv)学校教育における専門人材育成の推進 (2)実演芸術家等の積極的な活用 i)公演の創作から実施までの一体的な支援 ii)劇場等における活動機会の提供 iii)実演芸術家等の受け皿の整備 iv)実演芸術家等を活用した文化芸術に関する教育の推進 (3)実演芸術家等の育成及び活用に向けた環境整備 i)実演芸術家等の学習環境、処遇の改善等 ij)国民の文化芸術活動の充実 iii)地域に根ざした舞台芸術の展開、国民意識の醸成等 おわりに 参考資料 (1ページ目) はじめに ○ 平成19年2月9日に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(第2次基本方針)において、国が文化芸術の振興に当たって重点的に取り組むべき事項が挙げられている。その一つに、「日本の文化芸術の継承、発展、創造を担う人材の育成」があるとおり、専門的な人材の計画的・系統的な育成を促進するとともに、優れた人材が自らの才能を伸ばし、能力を最大限発揮できる環境を整備することが重要な政策課題となっている。 ○ このことを踏まえ、文化審議会文化政策部会においては、これまで政策的な検討が必ずしも十分でなかった「アートマネジメント及び舞台技術に関する人材の育成及び活用について」並びに「実演芸術家(音楽、舞踊、演劇等の分野における実演家)等に関する人材の育成及び活用について」という二つのテーマについて集中的に審議することとした。審議に際しては、まず、アートマネジメント及び舞台技術に関する人材(以下「アートマネジメント人材等」という。)の育成及び活用について検討を行い、平成20年2月1日に、その審議内容を整理した「アートマネジメント人材等の育成及び活用について」審議経過報告を取りまとめた。 ○ また、第6期の文化政策部会の第1回会合となる平成20年6月4日以降は、実演芸術家(音楽、舞踊、演劇等の分野における実演家)等に関する人材の育成及び活用について審議を行い、11名の有識者からのヒアリングを含め、9回の会議を開催しつつ、検討を進めてきた。これらの会議においては、文化庁が平成20年8月から9月にかけて調査をした「実演芸術家等に関する人材の育成及び活用状況(調査結果)」など、実演芸術家等を巡る状況に関する各種資料に基づき検討を進めた。なお、検討の対象については舞台芸術全般の実演芸術家等としたが、能楽、文楽、歌舞伎等の伝統芸能に関しては、他の文化財との連携等も考慮する必要があることより、今般の検討の対象外とした。 ○ この「実演芸術家等に関する人材の育成及び活用について」審議経過報告は、これまで審議した論点と現段階での考え方を整理したものである。今後、本審議経過報告に対して各方面から御意見をいただき、更に必要な方策等について議論を深めるとともに、アートマネジメント人材等の育成及び活用と併せ、最終的な報告を取りまとめることとしている。 (2ページ目) 1.実演芸術家等の育成及び活用に関する基本的な考え方 (1)舞台芸術を振興する意義 ○ 第2次基本方針においては、文化芸術の意義について、@人間が人間らしく生きるための糧となるもの、A人間相互の連帯感を生み出し、共に生きる社会の基盤を形成するもの、Hより質の高い経済活動を実現するもの、C科学技術や情報化の進展が人類の真の発展に貢献するよう支えるもの、D文化の多様性を維持し、世界平和の礎となるものであり、また、今日では、「文化力」が国の力であるということが世界的にも認識されるとともに、文化芸術と経済は密接に関連しあうと考えられるようになったとしている。そして、文化芸術は、すべての国民が真にゆとりと潤いの実感できる心豊かな生活を実現していく上で不可欠な国民全体の社会的財産であり、我が国は、今後一層文化芸術を振興することにより、文化芸術で国づくりを進める「文化芸術立国」を目指すことが必要であるとしている。 ○ 音楽、舞踊、演劇等の舞台芸術は、このような文化芸術の中でも、創り手と受け手が時間と空間を共有し、人と人とのつながりを深めるという重要な役割を果たしており、社会共通のアイデンティティの基盤を形成する上で不可欠なものである。 また、舞台芸術は、享受する観客のみに効用があるのではなく、多くの人々に芸術に彩られた精神的潤いのある上質な生活という新しいライフスタイルの可能性を開き、国の「文化力」を高めるとともに、創造性に溢れた人材を育み、世界経済の中で競争力を生み出すことにより、豊かで高品質な国家を実現する原動力となるという重要な意義を有している。 ○ 舞台芸術は、公演に多くの実演家(演奏家、舞踊家、俳優等)、作曲家、振付家、劇作家、演出家等(以下r実演芸術家等」という。)が関わるとともに、舞台の設営・運営に係る経費や会場費などの負担もあり、比較的多額の投資を要する。その一方で、1回の上演で鑑賞し得る観客数や公演の実施回数は一定の限界があるなど、入場料収入等で公演に要する全ての経費を賄おうとすると、高額な入場料を負担できる観客だけが鑑賞できるという傾向に拍車がかかったリ、公演自体が成立しなくなるというように構造的に供給不足に陥るという宿命にあり、公的な助成などの支援が極めて重要となっている。 (2)実演芸術家等を育成及び活用する必要性 ○ 舞台芸術は、実演芸術家等の創造活動によって成り立っており、公演の内容や質は、実演芸術家等の資質・能力に大きく左右される。このため、舞台芸術の振興に当たっては、優れた実演芸術家等の存在が決定的に重要な要素となる。今後とも舞台芸術を発展・充実ざせていくためには、優れた実演芸術家等を育成するとともに、活躍の場を充実させる必要がある。 (3ページ目) ○ また、優れた実演芸術家等を育成し、積極的に活用することは、舞台芸術の振興と文化芸術に関する環境の充実により、ゆとりと潤いの実感できる心豊かな国民生活を実現するとともに、産業や経済活動において新たな付加価値を生み出す源泉ともなり、日本の国力を一層高めることにもつながる。 ○ 他方、我が国の舞台芸術に関する現状を見ると、お稽古事が盛んで文化の裾野は広く、舞台芸術に関心を持ったリ、何らかの関わりを持っている国民も潜在的には多い。しかし、お稽古事として学ぶことから、プロの団体で実演芸術家等として活躍するまでの間には大きな隔たりがあり、分野による違いはあるものの、プロフェッショナルとして第一線で活躍している人材は非常に限られている。また、近年、音楽や舞踊の分野において、国際的なコンクールで優れた成績を収める日本人も少なくないが、高い評価を受けた実演芸術家等の受け皿が国内には乏しく、本来創造活動の拠点となるべき劇場等における公演の機会も非常に限られるため、活躍の場を海外に求めざるを得ない状況になっている。このように、優秀な人材が海外に行ったきり日本に戻らず、国内で持続的に活躍できないような状況が続けば、我が国の文化力が大きく低下していくことが懸念される。 ○ また、国は、優れた才能を有する人材に対して海外で研修する機会を提供したり、文化芸術団体が行う優れた人材育成の取組に対する支援を行うなど、人材育成に向けた諸条件の整備を進めてきた結果、基盤の充実は着実に図られてきたが、高等教育機関の有無、分野による発展の歴史の違いなどがあるにもかかわらず、幅広く公平に配分することが求められてきたため、第一線で活躍する人材を数多く輩出する ○ 地域の実情を見ても、全国的に劇場等のハードの整備は進められてきたが、文化芸術活動を根付かせていくためのソフト面の充実は十分とは言い難く、地域におけ{る公演の鑑賞機会は極めて少ない。芸術家も個人として活動する傾向が強く、文化芸術団体と地域との結び付きは希薄である。地域が芸術家を育て、地域社会で活用したり、地域社会において優れた実演芸術家等を尊敬し、誇りに思うような文化的土壌も十分育っていない。 ○ 実演芸術家等として第一線で活躍できるのは、才能に恵まれ、たゆまぬ努力を続ける限られた人材である。そのような優れた人材が自らの才能を伸ばし、実力を最大限発揮できるような環境を整備することが重要であり、国や地方公共団体、文化芸術団体、芸術系の大学等が連携・協力しながら、我が国の舞台芸術を担う優れた実演芸術家等の育成及び活用を図るための方策を講ずることが喫緊の課題となっている。 (4ページ目) (3)基本的なスタンス ○ 天然資源に乏しく、人材に頼るしかない日本にとって、文化は貴重な資源である。日本には多くの人材がいるのに、天才的な芸術家は育たないのであろうか。そうではなく、日本は、天才を生み出すことはできても、天才を適切に評価し、伸ばしていく環境が十分ではないのである。同時に、享受する観客も自らの価値観に従って鑑賞し評価する習慣は定着していない。海外での活躍や評価を受けて、はじめて日本国内でその価値が広く認識されることも稀ではない。日本人が日本人らしさを、そして日本人の持つ素晴らしさを再発見し、取り戻すことができるよう、芸術家としての才能を見出し、尊敬すべき存在として認知し、適切に伸ばしていく必要がある。同時に、実演芸術家等には、その社会的使命を十分理解し、自らの責任を果たしていくことが求められる。 ○ そのために、今後育成を強化すべき実演芸術家等は、卓越したプロフェッショナルな人材である。優れた才能を見出す目利きにより、多くの競争者の中から国際競争力のある育成対象者を選抜する一方、研修に集中できる諸条件を整備して育成強化策を重点的に打ち出すとともにヾ才能を持つ者がオーディション等を経て出演機会を与えられた場合には、十分に創造に専念し活躍できる環境を整備し、充実していく必要がある。 ○ また、地域において芸術家を育て、地域に根ざした創造活動や教育普及活動の充実を図るため、創造活動の中心となる芸術拠点を強化しつつ、実演芸術家等を地域社会や教育の場において積極的に活用するとともに、人材の育成及び活用を円滑に進めるための環境を整備することが重要である。 O 実演芸術家等の育成及び活用方策を進めるに当たっては、 ・文化芸術団体の自主的・主体的な取組を尊重することを基本とし、国は引き続き諸条件の整備を進める必要がある。 ・同時に、人材育成及び活用の基盤が脆弱で質の向上が求められる分野など、国として積極的に強化すべきものに対しては、支援対象を明確にしつつ、戦略的にメリハリをつけた支援を行う必要がある。 ・方策の実効性を高めるため、分野ごとの特性に即した人材の育成及び活用施策を打ち出す必要がある。 ・また、文化芸術に関する国民の関心を高めるとともに、文化芸術によって地域を活性化したり、地域のアイデンティティを構築していく視点が極めて重要であり、観客を育成し、文化芸術団体と地域との連携・協力を進めていくことが不可欠である。 (5ページ目) ○ 舞台芸術は実演芸術家等のみで成り立っているのではなく、文化の創り手と受け手をつなぐアートマネジメントの役割が必要不可欠である。このような役割を担い、文化芸術を鑑賞者や地域住民、子どもたちにつなげていくアートマネジメント人材等を育成、活用し、舞台芸術の振興を図るため、文化政策部会が平成20年2月1日にとりまとめた「アートマネジメント人材等の育成及び活用について」審議経過報告において示した具体的な方策を、実演芸術家等の育成及び活用方策と併せて推進していく必要がある. (4)今後重視すべき視点 i)各分野に共通する事項 @卓越した実演芸術家等の育成 ○ 第一線で活躍する卓越した人材を育成するため、才能のある人が芸術家を目指しやすい環境の仕組みを整えるとともに、才能を発掘するオーディション等の選抜の仕組みをどのように形成し、選ばれた才能を持つ者にどう活躍の場所を与えるかという観点から、教育機関や文化芸術団体における人材育成、海外での研修などを充実することが重要である。 ○ トップレベルを支える中堅層が着実に仕事をしていける構造を作ることが、結果的にトップレベルを押し上げることにつながる。 ○ 基礎や技術を磨いて個性を出していくためには、舞台などの実際の場で実践しながら資質・能力を高めてい(ことが重要である。 ○ 高い専門性を有する実践的な技術を習得するとともに、広い視野、広い見臥広い分野に関する知識を持って創造していく必要がある。 A実演芸術家等の積極的な活用 ○ 実演芸術家等の活動を公演の実施だけで捉えるのではなく、特に集団創造を必須とする分野については、公演に向けたリハーサル期間を含めた総体として捉え、新たな創作活動を促進する必要がある。 ○ 芸術家個人で活動するという考え方から、地域において芸術拠点となる劇場等を中心として、劇場等と連携した団体として活動するという考え方にシフトしていく必要がある。 ○ 芸術を地域社会で活用するために実演芸術家等を育てる必要があり、公共施設を実演芸術家等の活動に活用するという考え方を明確にすることが重要である。 (6ページ目) ○ 実演芸術家等を教育の場で積極的に活用していくため、実演芸術家等の活動は舞台に立つだけでなく、教授業も重要な役割であるという認識を広げていくことが重要である。 B実演芸術家等の育成及び活用に向けた環境整備 ○ 実演芸術家等がプロになっていくプロセスにおいて、思い切って文化芸術に打ち込むことができる環境を整える必要がある。 ○ 質の高い実演芸術家等が育っていくための環境として、子どもたちが本物の文化芸術に触れ、豊かな人間性を育むことが極めて重要であり、能動的な鑑賞と主体的な表現活動を車の両輪として文化芸術活動の充実を図る必要がある。また、実演芸術家等にならなくても、生きた教養教育として、高等教育において文化芸術に触れる機会の充実が期待される。 ○ プロとして舞台を見せる文化を成熟させるとともに、地域において舞台を見る文化を定着させ、観客を広げていくことで、実演芸術家等の活躍の場が広がり、人材の質の向上につながることが期待される。 ○ 文化芸術国体が地方公共団体や企業、メディア等と提携し、地域と結びついて芸術家のサポーターを持ち、交流していく中で、様々な文化芸術の発展の可能性が生まれてくることが期待される。 ○ 舞台芸術に触れる機会の地域間格差を解消し、全国どこでも優れた舞台芸術に触れることができるような環境の整備を図る必要がある。 ii)分野ごとに特に配慮すべき事項 @音楽分野 ○ 新たなジャンルや、低年齢化している国際的な競争へどのような対応が必要かを検討することが重要である。 ○ 音楽の分野では、質の高い実演芸術家等がいるにもかかわらず、活用される機会が少ない人も多いので、地域において今まで以上に積極的に活用していくことが求められる。 A舞踊分野 ○ 舞踊の分野の人材育成が脆弱であり、お稽古事からステップアップしてプロフェッショナルになる教育の場が乏しい。舞踊の哲学や広く考えさせる教育が行われることが重要であり、舞踊を主要な柱と位置付け、人材育成支援施策を進める必要がある。 (7ページ目) ○ 我が国にはプロの舞踊団体が少なく、恒常的な活動の場となる劇場等も少ない。優れた実演芸術家等の受け皿となる国体の整備と劇場等との連携を強化する必要がある。 B演劇分野 ○ 演劇の分野は、高等教育における育成の場が少なく、劇団での育成も実践に偏りがちなことから、演劇人を総合的に育成していくことが重要である。 ○ 演劇は、各国の文化、言語等と密接に関係しており、音楽、舞踊の分野のような国際的なコンクールなど世界共通の土俵で優れた才能を持つ人材が切瑳琢磨することは困難な点が多い。演劇の分野における人材育成に当たっては、このような演劇の特性に配慮しつつ、日本の演劇界の実情に即した育成方策を進める必要がある。 (8ページ目) 2.実演芸術家等の育成及び活用に向けた具体的な方策 (1)卓越した実演芸術家等の育成 【方策のポイント】 → 卓越した人材の育成に向けたフェローシップ制度の充実を図る。 → 文化芸術団体の自主的な人材育成の取組を支援する。充実・強化が求められる分野においては、人材育成の戦略的支援を強化する。 → 新国立劇場については、我が国における舞台芸術振興の拠点として人材育成の中心的な役割を担うことが求められる。将来的には新国立劇場の抜本的な強化により象徴的な人材育成の殿堂となることが期待される。 → 芸術系の大学における舞踊や演劇の人材育成など、学校教育において優れた才能を持つ専門人材の育成を推進する。 i)フェローシップ制度の充実 ○ 卓越した人材の育成に向けて、登竜門となる国際的なコンクールを目指す才能を有する者を対象として、厳格な競争に基づいて選抜を行うフェローシップ制度の創設を検討する必要がある。 ○ 文化庁の新進芸術家海外研修制度については、既にキャリアを有している人材の一層のキャリアアップの機会として機能するとともに、キャリアは十分ではなくても才能を有する人材の裾野を拡大する機能を有しており、第一線で活躍する実演芸術家等を輩出するなど、これまで大きな成果を上げてきている。今後とも両者の機能に留意しつつ、以下の点を踏まえ、制度の更なる充実を図る必要がある。 ・既にキャリアを有している実演芸術家等に対しては、一層の質の向上を図るため、対象人数を絞り、負担額も増額することを検討する必要がある。 ・キャリアは十分ではなくても才能を有する実演芸術家等に対しては、裾野の拡大の観点から、文化交流や相互理解にも資するよう、対象人数の増員を検討する必要がある。 ・各分野のニーズや特性を踏まえ、例えば、キャリアはあっても仕事の少ない人材が対象になりがちな種目は削減し、他方、これまで人数の少ない実演芸術家等を増員するなど、効果的な人数の配分に留意する必要がある。 ・研修期間中に一時帰国は認められないとする条件については、研修員が継続的に研修に従事することを前提として、休日等に研修目的に支障を来さない範囲で帰国することができるようにするなど、条件の緩和を検討する必要がある。 ・研修先で実のある活動を行えるように相談・サポートを充実するため、国際交流基金の海外事務所への情報提供などにより、研修の準備や現地での様々なケアを進めることを検討する必要がある。 (9ページ目) ・日本に帰国した後に研修成果を十分還元できるように、成果を披露する場の確保などを推進する必要がある。 ii)文化芸術団体における人材育成への支援 ○ 文化庁の芸術団体人材育成支援事業については、文化芸術団体の自主的・主体的な取組を尊重した支援を行うとともに、一層の質の向上が求められる分野に対して戦略的な支援を強化するなど、以下の点を踏まえ、事業の更なる充実を図る必要がある。 ・現在は個別団体を対象とした小粒な企画が多いため、各分野の統括団体を中心に、その分野のニーズや特性に応じた人材育成の具体的な指針を明確にした上で申請させるシステムを検討する必要がある。 ・分野によって必要経費や支援が必要な人材の種類も異なるため、ジャンル別の支援体制の整備を検討する必要がある。 .・劇作家育成のための戯曲の公演支援や、専門的な脚本家に乏しいミュージカルの分野における海外の専門家を招へいした脚本家育成の支援など、人材育成の充実・強化が求められる分野における文化芸術団体の優れた取組への支援を充実する必要がある。 iii)新国立劇場に求められる役割と取組 ○ 新国立劇場については、我が国におけるオペラ、バレエ、演劇等の舞台芸術振興の拠点として、実演芸術家等に関すや人材育成の中心的な役割を担うとともに、その優れた人的・物的資源を有効に活用しつつ、芸術系の大学や文化芸術団体等と連携し、新人育成の争ならず、現職者研修においても人材育成への積極的な責献が求められる。 ○ オペラ、バレエ及び演劇の各研修所については、以下の点を踏まえ、人材育成の取組の充実を図ることが求められる。 ・オペラ研修所については、国際的な競争の観点から研修生の高齢化への対応を検討することが求められる。 ・バレエ研修所については、教育内容は大変素晴らしいが、新国立劇場のバレエ団員の育成だけではなく、日本のバレエ全体のものとなるよう工夫することが期待される。また、研修生は17歳からの募集となっているが、15、6歳から始めるなど早期に才能を見つけ伸ばす取組や、研修生のレベルの向上のみならず、舞台芸術全般に視野を広げる必要性などに対応して、研修期間を将来的には2年から3年に伸ばすなどの方途を検討することが求められる。 ・演劇研修所については、様々な分野に対応できる演出家養成コースの設置や、将来的にスタッフコースの併設を検討することが求められる。また、学校における演劇教育を推進するため、夏期に中学生のコースや、学校演劇の指導者、演劇部の顧問の教員を対象としたコースの設置を検討することが求められる。 (10ページ目) ○ また将来的には、新国立劇場の人材育成機能の抜本的な強化を図り、我が国の象徴的な教育機関として、国内外から優れた才能を惹き付け、開花させる、アジアにおける権威ある殿堂となることが期待される。 iv)学校教育における専門人材育成の推進 ○ 音楽の分野において、芸術家の優れた才能を発掘し、低年齢化している国際的な舞台で競争するため、大学において飛び入学や早期卒業を活用した育成を進めることが有益である。また、音楽の分野の高等教育については、伝統的なジャンルに加え、ギター、ジャズなど比較的歴史の新しいジャンルや、サウンドエンジニアのような音自体を良くするジャンルに関しても、人材を育成することが期待される。 ○ 音楽の分野に比べ、大学に舞踊学科や演劇学科が非常に少なく、総合的・体系的に学ぶことが困難になっている。芸術系の大学において、舞踊や演劇の人材育成を進めることが期待される. 他方、演劇、舞踊の分野の高等教育については、大学という枠にとらわれず、優れた才能を集め、実演家の実技トレーニングやマネジメント要素も含めた教育を行うコンセルヴァトワール(フランスの芸術系高等教育機関)のような専門的な教育機関の重要性についても今後検討することが有益である。 ○ 芸術家が、大学において、異なる芸術分野を学ぶことや、一般教養を学ぶことも、技術的な面や研究活動の幅を広げるために重要である。 ○ 優れた才能を早期に発掘し、育成を進めるため、芸術教育の中高一貫教育の推進や、初等中等教育と高等教育との連携の促進に努めることが有益である。 (2)実演芸術家等の積極的な活用 【方策のポイント】 → 技能の高い実演芸術家等が行う意欲的な取組などに対して公演の創作から実施までの一体的な支援を検討する. → 地域において劇場等を中心とした芸術拠点の形成を促進するための支援を充実する. → 優れた舞踊家の受け皿となる舞踊団への支援の充実を検討する。 → 実演芸術家等を活用した文化芸術に関する教育の推進が望まれる。 (11ページ目) i)公演の創作から実施までの一体的な支援 ○ 文化庁の芸術創造活動重点支援事業については、基本的に本番助成に制限されているため、支援を重点化し、技能の高い実演芸術家等が行う意欲的な取組に対して、集団創造を行うための公演に向けたリハーサル期間も含めて助成するなど、創造環境の一層の充実を実現させる重点的な支援システムを検討する必要がある。 ○ 公的な公演助成の仕組みの中に、新しい作品を創造する公演への助成ができれば、その中から作曲委嘱や脚本、振付など新しい作品が生まれてくることが期待される。 ii)劇場等における活動機会の提供 ○ 地域において第一線の実演芸術家等が切瑳琢磨しながら十分活躍できる場を確保し、劇場等を中心として地域に根ざした核となる芸術拠点の形成を促進することが極めて重要であり、優れたものを選抜する競争により、実演芸術家等を擁するような劇場等における特色ある優れた創造活動への支援を充実する必要がある。 ○ 実演家や演出家は劇場等で育つものであり、劇場等がないと演出も振付もできないが・舞踊の分野では劇場専属の芸術団体は稀である。地方公共団体は、劇場専属の舞踊国体を増やすための取組を進めることが重要である。 ○ 公演の質を上げていくため、地方公共団体は公共施設において実演芸術家等に活動の場を積極的に提供することが重要である。 ○ 地方公共団体が公共施設を活用して、オーディションなど若手の活動機会を増やすとともに、優れた実演芸術家等に直接触れ合える機会を進めれば、プロの育成にもつながることが期待される。 iii)実演芸術家等の受け皿の整備 ○ 優れた舞踊家が育ってきているが、日本ではプロとして活躍する場が極端に少なく、優秀な人は海外の舞踊団に採用されることが多い。受け皿となる舞踊団の充実を図るため、国や地方公共団体は円滑な運営のための支援の充実を検討する必要がある。 ○ また、海外で活躍している日本人舞踊家を招へいし、国内で公演を行うなど、日本で活躍する機会を与える必要がある。 ○ そのほか、国際競争力の強化のため、日本の実演芸術家等だけでなく、日本文化を担うアジアの実演芸術家等も対象として招へいすることを検討する必要がある。 (12ページ目) iv)実演芸術家等を活用した文化芸術に関する教育の推進 ○ 学校教育において、コミュニケーションツールとしての演劇や様々な日本語に対する感覚や意識を学ぶため、小中学校から演劇教育を重視し、戯曲の教材等を活用しながら、演劇界でキャリアを持ち、演劇教育に一定の知見を有した人が指導に当たることが期待される。 ○ また、学校教育において、小中学校から舞踊の基礎を取り入れるなどして、腿や腰を強くし、姿勢をよくする体つくりを行うことが期待される。その際、実効性を高めるため、舞踊家が指導に当たることが望まれる。 ○ 文化芸術団体が、その蓄積を生かして教育プログラムを開発し、教育普及事業を推進する取組への支援を検討する必要がある。 (3)実演芸術家等の育成及び活用に向けた環境整備 【方策のポイント】 → 実演芸術家等が思い切って創造活動に打ち込めるような学習環境や労働条件等の処遇の改善を図る。 → 子どもの鑑賞機会の充実、鑑賞者層の開拓等により、国民の文化芸術活動の充実を図る○ i)実演芸術家等の学習環境、処遇の改善等 ○ 舞踊の場合、中学卒業後や高校途中で海外留学することが増えているため、地方公共団体は生徒が継続して教育を受けることが-さきるよう、帰国後の復学等に関する取扱いについで情報提供に努めるなどの支援を行うことが重要である。 ○ 実演芸術家等の処遇については、従来の慣習から一歩踏み込んだ労働条件の整備が必要である。特に公演事業等の実施に際しては、当事者間で事前に協議し、労働条件を明示した上で契約を締結するなど、実演芸術家等が安定して創造活動に打ち込めるようにすることが重要である。 ○ また、若い実演芸術家等の処遇は一般の労働者と比べて低く、芸術も生活基盤の基礎の上に自己表現がなされるものであるので、文化芸術団体における処遇の改善を図ることが重要である。 (13ページ目) ○ 実演芸術家は非日常的な体の使い方をするため、普通の人とは違ったメンテナンスが必要だが、多忙や経済的な理由により後回しになる傾向があるため、身体ケアのサポートを充実していくことが重要である。 ii)国民の文化芸術活動の充実 ○ 子どもの頃から、興味を持って能動的に鑑賞を進めるとともに、プロの芸術家に接するなど実際に文化芸術体験を行う機会を充実することにより、感性の面責はもとより、普段経験していないことや他者の考え方、などに対してキャパシティが広がり、表現も豊かになることが期待される。 ○ 青少年の生きた教養教育として、大学等において、国内外の優れた文化芸術に触れることが有益である。 ○ 分野によっては舞台芸術の観客層が高齢化しており、文化芸術団体や劇場等は、あらゆる世代の人々が舞台芸術に触れられるように鑑賞者層の開拓を進めることが重要である。 iii)地域に根ざした舞台芸術の展開、国民意識の醸成等 ○ 公共施設等において、アウトリーチ活動やワークショップなど、文化芸術を地域社会に提供し、根付かせていくための取組が重要であり、国は支援を充実する必要がある。 ○ 国内外の優れた賞を受賞した作品や新国立劇場の企画公演などをはじめとして、優れた舞台芸術の全国展開を図るため、国は各地域における鑑賞機会を充実するための支援を進める必要がある。 ○ 光の当たりにくい中堅層や脇で支えている芸術家が素晴らしい活動をしていることを広く一般にも伝えていくことが重要である。 (14ページ目) おわりに ○ 以上のとおり、文化政策部会におけるこれまでの審議を整理した。今後、日本人が自ら卓越した実演芸術家等の才能を見出し、尊敬すべき存在として認知し、適切に伸ばしていく必要があると考えた。また、それらの実演芸術家等を育成し、積極的に活用することは、舞台芸術の振興と文化芸術に関する環境の充実により、ゆとりと潤いの実感できる心豊かな国民生活を実現するとともに、産業や経済活動において新たな付加価値を生み出す源泉ともなり、日本の国力を一層高めることにつながると考えた。 ○ 当部会においては、今後、本審議経過報告において示した方策を具体化していくため、既存の施策や制度の運用の改善を図るとともに、新たな仕組みやこれらに必要な支援の在り方などについて、更に検討を進める。 ○ 当部会の審議に対して、文化芸術団体や大学関係者、地方公共団体関係者、現に実演芸術家等として活躍されている皆様をはじめとし、広く国民の皆様から忌怪のない御意見をお寄せいただけることを期待している。