お登勢  船山馨  角川書店

 

遠く昭和45年頃毎日新聞に連載、平成13年には沢口靖子主演でテレビドラマ化されたようですね。

これも女房の書棚に有った物に偶々閧��佞韻燭里任垢�△錣�錣�疋⑤疋㌃匹澆泙靴拭�

特徴は まず良質の“歴史小説”である事。

維新の動乱に巻き込まれる徳島本藩(佐幕派)と支藩の稲田家(尊王攘夷派)との争い。

本藩から浅葱メと蔑まれながら倒幕運動に参加した稲田方、王政復古なっての喜びも束の間、中央政府は稲田家中に恩賞どころか北海道開拓を命じます。本藩からの逆恨みによって引き起こされた明治3年の庚午事変(稲田騒動)が口実です。

維新の正義に名を借りた血で血を争う権力闘争とぬぐえぬ階級意識。権力を握った者の横暴。北の果ての開拓荒野・北海道日高での地の底のような絶望的飢餓地獄。

歴史を創る“底辺”e畉麗事でなくしっかりと書かれています。

龍馬や西郷・大久保の創った“歴史”しか知らなかった自分にとってショックでした。

2番目の特徴は 素晴らしい“ロマン小説”である事。

木偶回しの捨て子、ヒロイン“お登勢”は聡明な娘です。故郷を離れ洲本藩士加納家に武家奉公に上がります。血気盛ん些か単細胞の長男睦太郎、美人にして才気煥発、才におぼれ気まぐれ者の娘志津。

16歳のお登勢は たまたま会った志津の情人・稲田藩士・津田貢に思いを寄せます。

“vい人”を守るべく身を捨てて戦うお登勢ですが、この貢と言う男ゥ意識過剰 タにつまらぬ男なのです。維新に失望し、懐疑の暗闇の中でレイプまがいにお登勢と結ばれます。

聡明な女も男だけは見抜けないのかとイライラさせますが、ひたむきなお登勢の献身が貢の目を覚ませます。“君がどんなに大事なかけがいのない人間かという事がはっきり解ったのだ。助けずにおくものか” そして2人は結婚、ゥら勇躍北海道開拓に向かいます。

“やはりお登勢の目に狂いはなかったのだ”と私も吾が事の様に喜んだのですが。

凍結と飢餓の国の生活は又もや貢の心を蝕みます。最後まで貢を守ろうとするお登勢。

虚無と情念の炎にかられた貢そして志津は一気に破滅の道に突き進みます。

3番目の特徴、“動物冒険小説”でもあります。

お登勢は北海道開拓の戦いの中で野生馬の“酋長”・白馬“オテナ”に襲われます。

襲われたお登勢は逆に“オテナ”捕獲を決意、野生馬放牧と駿馬育成の夢に発展します。

幻の如く毅然とした姿を誇る“オテナ”へのお登勢の愛情。“オテナ”の我が妻・我が子に寄せる情愛。やがて“オテナ”達はお登勢に育てられる事になります。お登勢・オテナの襲撃する狼に対する壮絶な戦いが圧巻です。

文庫本の解説で小松伸六≠ェ“「お登勢」は明治維新という強烈なエネルギーを放つ火花にたおれていった敗北メ達の有為転変への作者の鎮魂歌かも知れない”と評されていましたが、ヒロイン“お登勢”を見る限り、敗北メとはとうてい思えません。それは常に命を守る事(貢・オテナそして彼女を狂愛するストーカー・睦太郎に対してさえも)の為にひたすら戦い駆け抜けた聡明で勇気ある女性の物語だからです。何時までも主人公と一緒に居たくて、読み終えるのが惜しまれた小説でした。