★福岡発アジア映画行き★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
                            第6号
                         
  発効日2002年6月4日
                発行部数   64部
                        発行人 Jun Uwo(うを)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
構成
 【1 はじめに】
 【2 第16回 福岡アジア映画祭2002のお知らせ】
 【3 第5回 由布院文化・記録映画祭】
 【4 『A2』 森達也監督 2001年】
 【5 郡谷君のこと】
 【6 映画上映後、森監督とのティーチインで】
 【7 おわりに 参考になりそうなサイト・参考文献など】

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【1 はじめに】
 こんばんは。Junです。
 前回メルマガで紹介した『海に抱かれて』の続きを早く仕上げたいと思って
いながら、最近忙しく、皆様にご迷惑をかけております。ごめんなさい。
 今日のメルマガでは、最近、東京で公開されたの『A2』について書きたい
と思います。5月までは、上映されていたのですが、現在、どこで上映されて
いるかの確認はとれていません。なかなかロードショーとなりにくいタイプの
映画ですので、今回の上映のチャンスを逃すと、観ることは困難になると思わ
れますので、この映画の紹介を優先しました。『海に抱かれて』の続きについ
ては、なるべく早く完成させたいと思います。ご了承くださいますよう、よろ
しくお願いいたします。

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【2 第16回 福岡アジア映画祭2002のお知らせ】
 「第16回福岡アジア映画祭2002」が、2002年7月5(金)〜7(日)と、
13(土)〜14(日)の5日間行われます。
 今年上映されるのは11本。うち7本が日本初公開となる作品です。また、
ティーチイン(上映後の、監督や俳優と観客とのディスカッションの時間)も
7作品も予定されています。
 この映画祭は、ボランティアが運営する映画祭です。なお、7日(日)の
21時からは、パーティが予定されています。ゲストや映画祭のスタッフ、他の
観客との歓談できるチャンスです。
 詳しくは、「福岡アジア映画祭実行委員会」のホームページをご覧下さい。
http://www2.gol.com/users/faff/faff.html
 
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【3 第5回 由布院文化・記録映画祭】

 5月26日に『ゆふいん文化・記録映画祭』を観にいきました。
http://www.d-b.ne.jp/yufuin-c/

 夏に開催される『ゆふいん映画祭』に比べるとやや地味な印象がある映画祭
ですが、ドキュメンタリー映画も、観てみるとなかなか面白いです。
 映画上映後の監督と観客とのディスカッションタイムもたっぷり50分ほど
とられています。また、由布院町の人たちがつくられたお弁当やお菓子なども
非常に安価で食べることができます。昨年の日曜日は、山菜弁当。そして、今
年の日曜のお昼はグリーン・カレーでした。
 映画は、1作品当日券で700円、3作品券(前売)だと1500円でした。とて
もお得な映画祭です。

 僕は、今年、『A2』(森達也監督)の一本だけを観ました。
 現在、東京で上映中です。なかなかロードショーにはなりにくい作品なので、
関東地区にお住まいの方は、ぜひご覧になってくださいね。

 このメルマガを読まれた方で、もし、興味をお持ちの方がいらっしゃいまし
たら、森達也監督が書かれた、『A2』と言う本が出ています。その中に、
シナリオも収められています。

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【4 映画紹介…『A2』】

 『A2』(森達也監督・2001年)

 「地下鉄サリン事件」から数年後、森監督は、信者達の生活している建物に
入って、信者達のドキュメンタリーを撮った。
 信者達を排斥しようとする住民たちと、信者との「奇妙な関係」がそこには
あった。排斥をしようとテント小屋をつくって見張っていた住民達は、信者と
塀ごしに話をすることを重ねる間に、信者達と仲良くなっていくのだ。
 決して、信者達に丸め込まれたわけではない。欲を絶って、出家して生活し
ている信者達と話してみると、予想外に真面目で、ていねいな言葉づかいをす
る青年達で、全然怖くないからであった。
 「脱会したら、俺のところに尋ねてこい」と言う住民たち。

 また、オウムを解散させようと考える右翼団体が、上祐幹部との面会を
しようとするが、警官たちにブロックされて、建物内部に入ることができ
ないシーンも興味深い。

「アレフの信者を強制退去させたって、他のところに住まなければならなく
なる。住民も、自分たちの近くにさえいなきゃいいと思っている。そう言う
のは、幼稚な考えじゃないのか」
 と、けっこう筋の通ったことを言う。

 この右翼の人たちは、かつて、ある映画の内容が気に入らないと言って、
映画館のスクリーンをナイフで切った事件を起こした、過激な人たちなので
ある。
 アレフに関するマスコミ報道では、決して、住民と信者が仲良くなったと
言う類の内容の記事は私達の前に出こてない。集団の組織としての立場上、
そのような記事は書けないからである。

 ところが、大げさに言えば、オウム信者達の修行施設が、「地元住民の交流
の場」となっている部分もあるようなのだ。お互いに会話を交わすことが少な
くなった、地元住民たちがオウム排斥を理由として団結し、オウムとの衝突や
対話、葛藤を繰り返していくうちに、「奇妙な交流」が生まれ、オウム信者と
住民達、さらには、住民同士も仲良くなっていく。

 もちろん、住民全体から言えば、こういう人たちは、少数派だ。
 しかし、反対運動を続ける住民たちは、信者達をこわがって、コミュニケー
ションをとらずに、塀の外で、デモをし、シュプレヒコールを行う。それを信
者達の住む建物から森監督がカメラを向けるシーンがある。地域住民も必死な
のだが、滑稽に映る部分も感じられる。

 この映画は、決して、「オウム擁護」の映画ととらえるべきではないだろう。
 これまでのオウムに関する報道を知らない人がいたとして、この作品を観る
なら、「洗脳的」な内容だと思うかもしれない。
 しかし、現在のアレフの信者達は、必ずしも、「悪」であると決めつけるほ
どの凶暴で不気味な集団ではないようだ。信者達の多くは、「サリン事件をも
し自分が命令されたら、やっていただろう」と言う思いと、「サリン事件は、
多くの人に被害を与えた」と言う煩悶の中にあるようだ。
 
 どうして、信者達は出家するのか。オウムの教義も理解できない。なぜ、ア
レフにとどまるのかも理解できない。でも、彼らも、地元住民と同じく、生き
ていかなければならない。
 こう考えるとき、「彼らは理解できないが、彼らの事情もあるのだろう」と
言う想像力が働く。
 異質な集団同士が、同じ世界で生きていくには、「お互いに理解できない
同士であることを容認する」しかないのではないかと僕には思える。

 「『善』と『悪』の二元論ではなくて、その間の「グレーゾーン」を撮り
たかった」と監督は言う。絶対的な「正義」をふりかざすものは、暴力装置へ
と変貌する危険性がある。まるで「合わせ鏡」のように、今の社会に、かつて
の「オウム」の影がちらついているのかもしれない。

映画『A2』の公式サイトはこの下です。
  ↓
http://www.jdox.com/#

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【5 郡谷君のこと】

 僕は、『A2』の本を買って、由布院へ向かう列車の中で読みました。
 映画の脚本を読んでいて、びっくりしました。なんと、大学時代の友人、
郡谷君が出ていたのです。『A2』の本の中でも「郡谷」と実名で書かれてい
ますし、本人の名誉毀損となる内容ではないと思われますので、このメルマガ
でも、本名で書くことにします。

 皆さんは、「オウムの信者が、女性信者を監禁したと言う容疑で逮捕された
事件」を覚えていますか?脱会したいと言う女性信者の腕を縛り、浴槽に顔を
つけて拷問をした容疑で逮捕された事件です。
 所期報道では、彼の顔は、バッチリ映って、全国放送されました。ところが、
翌日、彼の顔にはモザイクがかかっていました。そして、数週間がたった頃で
しょうか。彼は、「容疑不十分」で、不起訴処分になりました。この、容疑者と
された青年が、郡谷君です。

 彼と僕は、法学部の同期でした。
 彼は、目がややつりあがって、あごがとんがった、少しアントニオ猪木風の
いかつい顔つきをしています。でも、温厚で、とても真面目なやつでした。
 法学部では、ほとんどの授業は250人は入る大教室で行われます。彼は、ほと
んど授業をさぼることなく、必ず前から2列目で授業を受けていました。

 僕の出身大学では、法学部の学生の3分の1くらいしか授業に出席しません。
法学部に入ってくる人たちの多くは、法学を積極的に学ぼうとしているわけでは
ないと思います。3分の2の人たちは授業に来ません。ごく少数の法曹を目指そ
うとしている人は、授業の進度が遅いので、自分で勉強をするために「さぼる」
のです。
 しかし、大半の人は、バイトに精を出したり、サークル活動を優先したり、
何もやる気が起きなかったりと言う理由で授業に来なくなります。
 残った3分の1の人たちの多くは、公務員を目指していて、だらだらとでも
いいから授業に出席し続けることが、試験に有利にはたらくので来ているよう
です。 

 郡谷君の一番の親友は公務員になりましたし、たぶん、郡谷君も公務員を目
指していたようです。でも、授業が終わると、どのサークルにも入っていなか
った彼は、まっすぐにアパートに帰っていました。
 その頃の僕は煩悶を抱えながらも、とにかく2年間は大学の授業を休まずに
出てみて考えることにしました。でも、法学に興味があるとも思えなかったの
で、ESS(英語会話研究部)の活動の方にシフトを移していきました。
 大学3年の秋ごろからでしょうか。ぱたっと郡谷君の姿を教室で見かけなく
なりました。そして、11月頃、彼は久しぶりに僕達の前に顔を出します。

 「元気しとった?」と声をかけると、
 「実は、お別れのあいさつに来た」と言いました。
 
 「オウムって知ってる?」
 その頃、大学の周りのあちこちで、ひげ面の麻原氏の顔が書いてある白黒の
ポスター(と言っても普通紙で、雨が降ると風化してしまうようなものでした)が
貼ってあるのを見かけました。「日本で最初の解脱者」などと書いてありました。

 彼は、ヨガに倣った修行の様子などを話してくれました。
 「あぐらをかいてぴょんぴょん跳ねれば、体が一瞬浮く。この修行を繰り返すと、
体がずっと浮くようになる」とか、
 「まずは、人から心を読まれるようになる。そして、修行によって、だんだんと
人の心が読めるようになる。尊子は、人の心が読める」
と言ったことを言っていました。

 「どうやって、オウムに入ったの」と尋ねると、
 「ちょっと興味があって、紀伊国屋で本を買って読んだ。それで、自分から
セミナーに参加したんだ」と言っていました。

 「オウムは次の衆議院選挙に出るよ。100議席は確実に取ると思う」
 温和な笑みをたやさずに話すところは変らないのです。しかも、以前の何も
やりたいことが見つからなかった時より、彼は少しだけ、たくましくなっている
ようにもみえました。
 もちろん、話を聞いていた僕や友達数人は、宗教とは一線を画した生活をし
ているのですが、彼の話を冷やかすことなく聞いていました。

 「これから富士の山ろくに修行に行くんだ。大学は辞める。アパートも引き
払って、今日出て行くんだ」と言うので、
 友人の一人が、
 「親はどうするの?」と尋ねました。
 「出家するから親は関係なくなる」
 「退学じゃなくて、休学にした方がいいよ。いつだって戻って来られるから」
と僕が言うと、彼は、
 「でも、ケジメをつけないと…」と答えました。
 「休学だって、立派なケジメだよ」と僕は言いました。彼が休学にしたか退学に
したかよくわかりません。

 その後、半年くらいたって、「彼を見かけた」と友人が言いました。
 熊本の一番の繁華街、下通りの入り口です。熊本城がそばに見える場所で、
彼は、大型テレビを持っていって、ビデオを流しながら、「オウム真理教」に
ついて説明をしていたそうです。
 友人が彼に声をかけると、彼はいつもの柔和な顔で、
 「修行はすばらしかったよ。修行をしている生活なのに、今、月に3000円もも
らえるんだ」と言っていたとのこと。

 彼と僕らの違いは何だったのだろうかと思いました。
 彼は宗教にのめりこみました。僕は法学には興味をもてなかったけれど、ESS
(英語会話研究部)でスピーチやディスカッションをすることにのめりこんだ。
 もともとは、それだけの違いのような気もするのです。250人の法学部の学生に対
して、大教室では、教授がひとり。授業料は同じなのに、文学部や教育学部に比べ
ると、教官とのコミュニケーションはとりにくいのです。法学は、大学レベルでの
勉強では、なかなか、学説や判例に関して、自分独自の見解を構築するのは容易で
はありません。
 そう言う中で、多かれ少なかれ、疎外感を持っている人、何もやりたいことが
見つからない人が、僕の周りには多かったように思います。

 そうした環境の中で、バイトに精を出す人や、だらだらと過ごしている人もいる。
 公務員試験のためと割り切って、授業に出ている人もいる。でも、郡谷君は、
だらだらと過ごすには、真面目過ぎた。だから、何か、充実感を味わえるものが欲
しかったのではないかと思うのです。
 たぶん、宗教にのめりこまない人は、何百回生き直してもオウムに入る可能性は
ないのだろうと思います。(仮に、「生まれ変わり」というものがあるとして。
僕個人は、一生は一度きりしかないと思っています)

でも、郡谷君と僕たちには、断崖と言うほどのものの決定的な差はなかったとも
思えるのです。

 郡谷君が次に、僕らの前に「顔を出した」のは、テレビの画面でのこと。サリン
事件の数年後のこと、「女性信者監禁」の容疑で逮捕された時でした。
 
 あの心やさしい郡谷君が、女性信者の腕を縛り、浴槽に顔をつける
「拷問」をして監禁したなんて…。やはり、オウムに入ってしまうと、人が変って
しまうのかなあと思いました。
 逮捕されて、オウムの人たちが生活しているアパートの階段を降りていく郡谷
君は、青いジージャンを着ていて、顔つきも変らないように見えました。
 郡谷君と僕達の間に、決定的な違いなどないのではないかと、心のどこかで思っ
ていた僕が、初めて、(彼は遠くへ行ってしまった…)と思った瞬間でした。

 ところが、翌日の報道では、彼の顔にモザイクがかけられていました。
 所期報道に誤りがある可能性があるぞと思いました。そして、数週間後だと思い
ますが、「嫌疑不十分で不起訴」となったのです。
 でも、一般の人の大多数は、
 「女性監禁をやったんだろうけど、決定的な証拠がなかったんだろうな」としか
思わなかっただろうと思います。僕は、郡谷君の性格と照らし合わせると、「判断
不能」の状態でした。

 そして、僕は、映画『A2』で、郡谷君に「再会」したのです。

 映画の中の、彼の説明によれば、

  ・女性信者は自殺しようとして、ガラス片で首を切って血を流していた。
  ・郡谷君は、女性信者が自殺しないように、手首を縛った。
  ・女性信者が自殺しようとするので、浴槽に顔をつけることを許した。
  ・彼女は十数秒で苦しくなって、顔をあげた。
  ・「そんなことじゃ、自殺できないことがわかっただろう?自殺なんかする
   もんじゃない」と彼がいうと、女性信者は、「わかりました。もうしません」
   と答えた。
 
 報道とは、全然違うのでびっくりしました。森監督に、彼のことを話してみ
ようと思いました。

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【6 映画上映後、森監督とのティーチインで】
 映画上映後に、森監督に、郡谷君の大学生の時の印象を話しました。
 すると、森監督は次のように答えてくださいました。

 ・彼は、実に温厚で、心やさしく言葉づかいも丁寧な青年だった。
 ・彼が逮捕されたときに、長野県警(ずっと郡谷君との接触があった)の人たち
 は、「お前があんなひどいことするわけがないだろう」と言っていた。

 ・でも、もっと上の組織が、オウムは何をするかわからないから、いろんな事
 件で検挙して、「破防法」や「団体規制法」の適用団体にしようと思っていた
 ので、逮捕してしまった。

 長野県警が、彼はやさしいからそんなことはするはずがないと言っていたという
 エピソードを森監督は、当初、映画の中に収めるつもりだったそうです。
 ところが、彼は、「そんなことしないでください。照れくさいから」と言ったそう
です。監督はそれでも使うつもりでしたが、90時間の取材したテープを2時間17分の
作品に編集する過程で、カットしたのだそうです。

 映画の中で、郡谷君が次のように話すシーンがあります。
「オウムの信者の中には、精神的に問題がある人たち
もいて、そういう人たちが、一般社会では暮らしづらいと言う現実があるんです。
(ひっかいたような傷があるドアを見遣りながら)このように、夜中にドアを毎日叩
くような人は、普通のアパートで、一般の人と一緒には暮らしづらいだろうと思うん
です」
 そして、森監督の話によると、郡谷君が管理しているアパートには、精神的に問題
がある信者が多い。心やさしいからこそ、彼がそこの担当になったようなのです。
 精神を病んでいる人は、オウム施設の中にいなくても、カウンセリングを受けたり、
病院で相談したりする手段があります。しかし、彼の言うこともそれなりの「真実」
だと思います。 

オウムは、かつて「サリン事件」や「坂本弁護士監禁事件」を起こしました。その
ことは、けっして許されるものではありません。
 しかし、「オウム事件以降、日本の社会は、悪い方向へ変質してしまった」と森
監督は言います。
 オウムの人たちは、現在、新たには罪らしいことを起こしているわけではないので
すが、一般の人たちからは、「不気味な集団」と思われ、排斥運動が続けられていま
す。
 でも、排斥をする人たちは、排斥されたオウムの人たちは、別のどこかで生活をし
なければならないと言うことまでの想像力は及ばない。とにかく、自分達の近くから
は、いなくなって欲しいと考えているのだろうと思います。そしてそれは、無理もな
いことだろうと思います。
 しかし、住民たちが自分たちを「善」とし、不気味なアレフの信者達を「悪」と
決めつけて排斥をする時、合わせ鏡のように、住民たちは、攻撃的な集団と化してし
まうと言う現実があります。
 オウム信者達の多くは、脱会する意志はほとんどなさそうです。だから、住民票や、
健康保険証も取れずに、病気になっても十分な診療は受けられないこともあります。
子供は教育を受けられるかどうかわからないと言う条件の中での生活を強いられます。
 そこまでの制裁を受けて当然の集団なのだろうかと言う疑問が、森監督の中には
あったのだろうと思います。

 森監督は、「信者達のほとんどは、謙虚で、やさしい青年達だった。どうして、こ
のような人たちの集団が、かつて『サリン事件』を起こしたのかわからないほどだ」
と言います。
 「たぶん、その答えは容易には出ないでしょう。どうして、第2次世界大戦は起こ
ってしまったのか。どうして、テロに対して報復してしまうのか。原因はきっとある
のでしょうけど、はっきりした理由はつきとめるのは不可能に近いのだと思います。
 しかし、大事なことがあります。それは、他者に対する「想像力」がなくなってい
く時に、集団は暴力的なものに変質してしまうのだろう」ともおっしゃっていました。

 オウム事件以来、日本の社会は、よくない方向に変ってきている。
 「悪」とされるものに対する、、私達の報復的な行動もそのひとつなのだと思い
ます。アメリカのテロ報復に容認をしたり、個人情報保護法の成立や、有事立法の整
備なども、自らを「正義」とし、他者を「悪」とする「二元論」が蔓延し、他者に対
する「想像力」がなくなってきているからなのだと僕も思います。

 最後に、村上春樹さんが言う、『開かれたサーキット』で生活している私たちと
『閉じられたサーキット』の中にいるアレフの信者達は、果たして「共生」できる
のでしょうか。村上氏は、アレフの信者達は、脱会しようとも、共生していこうと
も思っていないと言う趣旨のことを述べています。「出家」は、俗世間との関係を
絶ちきることを意味するのですから、その通りだと思います。しかし、アレフの信者
達も生活をしていくための場所は必要です。それでは、私たちは、そのような団体に
対して、どのような関係をとったらいいのか、距離をもったらいいのか、その点に
ついて、下のリンクにあげている、村上春樹さんの文章は示唆に富むものです。
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【7参考になりそうなサイト】
 村上春樹さんによる、『A2』の寄稿文が「共同」のサイトにあります。
    ↓
 http://www.kyodo.co.jp/kyodonews/2002/aum/

【参考文献】
  1 『A』(森達也・角川文庫 630円)
    警官が職務質問をしようとして、それを断った信者に覆い被さるように
   倒れこみ、信者は頭を打って気絶する。その直後、警官は、「膝をケガした」
   と叫んで、「公務執行妨害」で気絶した信者を逮捕した。「全治3週間」と
   言うウソの診断書を出して、有罪に持っていこうとする警察や検事。警官
   (公安かも)が彼を押し倒した加害者であることは、森監督が撮ったカメラ
   のビデオテープに収められている。しかし、それを第3者に見せると、
   「中立性を損なうことになるし、第3者にテープを渡した時点で、この作品
   そのものの価値がゼロになってしまう」と監督らは恐れた。このままだと
   信者の「冤罪」が成立してしまいそうだ。監督はどういう決断をしたのか…。
   (すみません、思わせぶりなレビューで)

  2 『A2』(森達也・安岡卓治 著 1700円+税)
    完全シナリオも収録。映画が観られない人も、この本があれば大丈夫かも。

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