社会心理学の世界(3)   小此木啓吾先生(3)  ”シゾイド人間”

 

ジソイドとは分裂の事です。心理学用語で分裂気質を指します。対照的な気質に循環気質があります。

では分裂気質の人間の特徴は

1.人と人との関わり合いを好まない

2.内向的で脱俗的

3.人格として自分の一貫性が弱い

しかし小此木先生は人物個人のパーソナリティを云々する訳ではありません。

この分裂性格者特有と見なされていた心理的傾向が現代人に普遍に共有されはじめてきたと事を指摘します。

現代社会に適応するにシゾイド的な適応様式を身につけた現代人をシゾイド人間と呼びます。

シゾイド人間でなければやっていけない面が多くなった社会的傾向こそが分析の対象です。

それでは先生の言うシゾイド人間の特徴は

1.人との深い関わり合いを避けるという事

2.同調的ひきこもり

一見分裂性格者のように孤立したりひねくれたりはしません。適当に社交的ですが情緒的な関わり合いを避けます

3.のみこまれる不安、自分を失う不安を恐れます

例えば人を愛したり親密になると言う事は必然的に自分を相手に食べさせる麺があります。しかしシゾイド人間は

自分を食べさせるくらいなら、相手の事も食べないで隔たっていたいと思います。自分だけは失いたくないわけです。

4.全能感と貪欲さ

本来自己中心的なシゾイド人間は貪欲な全能感を持っています。親密になればお互いエゴの戦いになる。

だから親密にならないように引きこもり距離を保持します。

暖を取るために近寄ろうとしても、お互いのトゲが傷つける“山あらしのジレンマ”は試行錯誤の末に一定の距離を保持する知恵を学びます。

5.一時的、部分的関わりしか持たない

 

前節で紹介したモラトリアム人間はこのシゾイド人間の国家・社会・組織・集団に対する帰属、関わりの面で明らかにされた社会的性格と言う事になります。

ここでも先生はシゾイド人間が良いと悪いとかを問題にするのではありません。

シゾイド人間が蔓延してきた最も大きな原因は大戦時代、イデオロギーや天下国家にアイデンティティを賭け、裏切られた事による反動と見ます。特攻隊のむなしさ、愛国心のむなしさが人間を変えてしまったのです。

現代人はアイデンティティの言葉の裏に潜む虚構・恐ろしさを知ってしまいました。

有る面で先生はシゾイド人間を積極面に捉え、それぞれの局面と相手で“あたかも・・・のように”色々人格を変化させる戦略の適応性を評価します。自我を分裂させると同時に対象をも分裂させる。相手との関係に役割を決める。

愛する人、頼る人、それぞれ対象の良い面だけでつきあう、悪い面が出たら離れてしまう。

ただうまく行っているうちは良いのですが企業とか結婚、どうしても対人的に深く関わらざるを得ない局面があります。そうした際のシゾイド人間の虚弱さ・破綻への警告も忘れません。

さて 前回日本人的気質として阿闍世コンプレックスを紹介しました。

この阿闍世コンプレックス、日本的マゾヒズムを有する日本人が西洋的な個人主義的、合理主義的な生き方を身につけていく過程に於いて、当然かなりのショックが有る訳です。

このショックを克服する手段としてシゾイド人間の適応様式が優れた戦略になります。

個の自立した本来の個人主義とシゾイド人間、表面的には似通っています。

共に合理的、人間関係のルールを守り、相手に干渉する事もありません。

しかし本当のところでシゾイドは甘えも克服されていなし、一体感、同一化の要求を持ちながら飲み込まれる事を恐れて引きこもるような人間です。日本人が個人主義を取り入れようとすると どうしてもシゾイド的にならざるを得ないわけです。本来の個人主義というか自我を確立する事の苦手な阿闍世的日本人が個人主義的世の中を生き抜く術として

シゾイド的生き方を選択します。その国家・企業・組織などと関わりで表象形態がモラトリアム人間です。

現代は機械万能の時代です。シゾイド人間は対人関係を適当にうまくあしらいながら それに飽きが来たら

母親の腕の中でも家族の中でもなく 機械の中に身を隠します。ゲームやロボットの中に引きこもります。

“ロボットを従えたお姫様”機械相手の万能の生活が待っています、操作人間と呼びます。

もともと自己中心的なシゾイド人間は機械相手の全能感にどっぷり浸る事になります。

さて次回はいよいよナルシスト=自己愛人間そして自己愛人間と阿闍世コンプレックスとの関わりを読んでいきます。

                   次回  自己愛人間に続く